2023年8月31日木曜日

イランがF-35をレーダーで捕捉したと発表。だが、レーダーで「見える」ことと「標的にする」ことは全く違う。ステルス神話の誤解に漬け込もうという情報戦にだまされてはいけない

  

 

先週末、イラン当局がペルシャ湾上空を飛行するアメリカのF-35を探知・追跡できたと主張し、注目を集めた。1兆7000億ドルをかけたステルス戦闘機計画は、攻撃的なイランに対して戦略的優位を提供できないという主張がソーシャルメディア上で殺到した。

「この数日間、F-35はペルシャ湾上空を飛行しており、離陸した瞬間から我々のレーダーによって完全に監視されていた」と、イランの当局者の発言を引用したのは、ベイルートに拠点を置くアル・マヤディーン・ニュースであるだ。同ニュースは、イラン、シリア、過激派組織ヒズボラなど権威主義政権に偏っていると批判されることが多い。

この主張は本当だろうか?かなり......真実はありそうだ。しかし、多くの人が思っているような意味合いはない。ステルス戦闘機は特定のレーダー周波数で探知可能であり、それは軍事計画者にとって目新しいことでもなければ、厄介なことでもない。このストーリーは、それ以前の多くのストーリーと同様、ステルス技術に関連する科学よりも、むしろステルスに関する一般的な誤解を利用し、現代の第5世代戦闘機の能力を実際より低く描こうとしている。そして間違いなく、F-35に限ったことではなく、すべての第5世代戦闘機が適切な状況下で探知される可能性がある。

ただし、そのような機体を標的にするのは難しい。

イランの主張を検証する

イラン陸軍防空軍の作戦副司令官であるレザ・カジェ准将が、イランがこの地域でF-35を探知し、潜在的に追跡もしているとの主張を初めて表明した。この主張は、シリア上空でのロシア軍機とホルムズ海峡でのイラン軍機との一連の攻撃的な交戦を受け、米中央軍地域に約12機のF-35が配備されたことを受けたものだ。

カジェ准将によれば、同地域のすべての飛行はイランの防空システムで監視されており、彼が「盗聴システム」と呼ぶものにより強化されている。

ソーシャルメディア上ですぐに目にした反応によれば、多くの人がこの主張に基づいて、イランが地球上で最も先進的な戦闘機のステルス能力を覗き見るコードを解読したと確信していることは明らかだ。

こうした主張は、ステルス戦闘機に関する誤解を利用している。

ステルス戦闘機は、レーダーや赤外線など、各種手段で探知を遅らせたり、時には妨害したりするよう設計されている。つまり、適切な状況下ならば、こうした航空機はしばしば探知可能であるということだ-ステルス戦闘機でも。

しかし、ステルス戦闘機を探知できることと、ステルス戦闘機を効果的に標的にできることには大きな違いがあり、イランからのこれらの主張(およびその後のメディアの記事)は、この重要な違いに関して一般読者の認識不足に依存している。

現代のステルス戦闘機は、「兵器級のロック」が可能な高周波レーダー・アレイ、つまりミサイルを標的に誘導できるレーダー・アレイからの探知を特に遅らせたり、防いだりするように設計されている。低周波レーダーアレイは、この種の精度で兵器を誘導することはできないが、しばしば上空でステルス戦闘機を発見することができる。これは新しいことでも珍しいことでもない。

ステルス戦闘機を探知できることと標的にできることはどこが違うのか

「レーダーゲーム ステルスと航空機の生存性を理解する」レベッカ・グラント著、ミッチェル研究所、2010年

異なるレーダーアレイは、異なる理由で異なる波長と周波数を放射する。ある型のレーダー周波数からの探知を遅らせたり防いだりするのに役立つ設計要素の種類が、必ずしも別のタイプからの探知を防ぐのに役立つとは限らない。

その結果、ステルス戦闘機の設計は、兵器を効果的に誘導できるタイプのレーダー・アレイからの探知を制限することを特に意図している。ステルス戦闘機は、これらの帯域で作動するレーダー・アレイから見えないわけではないが、その目標は、レーダー・リターンを十分に小さくして探知を遅らせ、ステルス戦闘機自身が標的にされることなく標的と交戦するか、あるいは逃げることができるようにすることである。

レーダーは、通常L、S、C、X、Kバンドの電磁エネルギー(レーダー波)を放射することで作動する。各バンドは異なる波長と周波数を使用し、より高い周波数(より小さい波長)のシステムだけが、航空機を正確に狙うために必要な画像の忠実度を提供する。

言い換えれば、ミサイルを標的に誘導し、破壊するのに十分な距離まで接近させることができるのは、特定の種類のレーダーだけである。低周波アレイは、空中のステルス戦闘機を発見できるが、波長が大きいため、ミサイルを搭載した航空機を実際にロックオンするのに十分な正確なデータを提供できないことが多い。

ステルス戦闘機の設計では、SバンドやC、X、Kuバンドの一部を含む、より高い周波数のレーダー・アレイに対してのみ探知を制限し、標的にされるのを防いでいる。これらの戦闘機は、SバンドとCバンドで運用される低周波レーダーバンドで視認できるため、これらのアレイは早期警戒システムとして効果的に活用することができ、ステルス戦闘機がエリア内にいることを防衛部隊に通知し、他の防衛システムが正しい方向を向くことを可能にする。しかし重要なのは、低周波アレイはステルス戦闘機がいる地域にシステムを向ける以上のことはできないということだ。効果的なステルス戦闘機のデザインは、このような先陣を切ったとしても、高周波アレイを使ったターゲティングが難しいことに変わりはない。

実際、ほとんどの航空管制塔はSバンドのレーダーアレイを運用しているため、ステルス戦闘機を発見できることが多い。

一方、ステルス爆撃機は、垂直尾翼のような一般的な戦闘機の設計要素がないため、低周波のレーダーでは探知が極めて難しい。その結果、ステルス戦闘機が自国上空で活動している場合、防空部隊は多くの場合、ステルス戦闘機の存在に気づいてはいるが、照準を合わせることはできない。ステルス爆撃機が頭上にいても、多くの国の防空システムはまったく気づかないかもしれない。

言い換えれば、かなり古い低周波レーダー・アレイを使っても、ステルス戦闘機の飛来を発見することは珍しいことではないが、実際に撃墜するのはまったく別の問題だ。低周波アレイは、戦闘機サイズのターゲットに正確に武器を誘導する能力はない。低周波レーダーは、大まかな方向を指し示し「あっちのどこかにターゲットがいますよ」と言うことしかできない。

ステルス戦闘機には1つ以上のトリックがある

F-35のようなステルス戦闘機がレーダー反射板を付けて飛行するのは、レーダー・リターンに関するデータを貪欲に収集しようとする敵の防空システムがある地域で活動する間、レーダーをより探知しやすくし、実際のレーダー・プロファイルをマスクするためである。ルネバーグ・レンズと呼ばれるこの反射板は、肉眼で発見するのは容易ではないが、レーダー上ではステルス機であっても発見されやすくなる。

Luneburg lenses on an F-35, as shown by the Aviation Geek Club.



言い換えれば、中東で活動するアメリカのF-35は、敵の防空システムがこれらの航空機を探知する方法を見つけ出すのをより困難にするために、特別にこれらのレンズを装着して飛行している可能性は十分にある。

そして、米国が攻撃的なイランやロシア軍への意図的なメッセージとしてこれらの戦闘機を同地域に送り込んだことを考えれば、その存在を宣伝することは意図的な決定である。そのことは、F-35がこの地域に到着する前に、国防総省が配備を公表したことからも明らかだ。

「地域の同盟国パートナー国、そして米海軍と連携して、F-35はホルムズ海峡の監視を支援するため、すでに同地にいるA-10やF-16と連携する」と、空軍中央司令部(AFCENT)のスポークスマン、マイク・アンドリュース大佐は先月の声明で述べていた。

言い換えれば、イランがペルシャ湾上空で活動するF-35を探知できる理由は、ルネバーグレンズから低周波レーダーアレイまで、いくらでもあるということだ。実際、もしできなかったとしたら、いささか不利になる。しかし、ロシアが最新の極超音速ミサイルの定義に関する混乱を利用して、Kh47M2キンジャルが空中発射弾道ミサイル以上の装備だと主張したように、イランも今、同じようにステルスという用語に関する混乱を利用しているのだ。

では、イランは先週ペルシャ湾上空でF-35を探知したのだろうか?その可能性は高い。しかし、それはアメリカの軍事プランナーが汗をかくようなことだろうか?

皆無といってよい。■


Iran claims to detect F-35s over the Persian Gulf. Here's why it could be true | Sandboxx

  • BY ALEX HOLLINGS

  • AUGUST 21, 2023

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2023年8月30日水曜日

中国経済に危機が迫り、世界経済への影響は必至だ

 



米連邦準備制度理事会(FRB)が注意を払うべき 深刻な問題を中国経済は抱えている


19FortyFive


ジェローム・パウエル率いる連邦準備制度理事会(FRB)の気になる特徴は、米国中心になっているかということだ。FRBはデータに依存した金利政策をとる際、世界経済全般や特に中国の経済動向にはほとんど言及しない。世界第2位の経済大国で、最近まで成長の主要な原動力であった中国が深刻な経済危機に陥った今、このことはなおさら驚くべきことである。また、中国がデフレの危機に瀕しているように見え、国際商品価格の著しい軟化を引き起こしていることも驚きである。


中国経済の危機 

中国経済の現在の不調の核心は、習近平国家主席のもとでの一連の重大な経済政策の誤りである。過ちには、信用に煽られた住宅市場や輸出主導の経済成長モデルへの過度の依存が含まれる。また、経済的に悲惨なCOVID許容度ゼロ政策や、投資家の信頼を損ねた重要なハイテク部門への高圧的な締め付けも含まれる。

 また、中国が一人っ子政策の経済的代償で人口減少が拍車をかけていることも問題だ。さらに、トランプ政権とバイデン政権のもとで、米国との経済関係が悪化している。また、米国や欧州の企業が中国のサプライチェーン依存度を下げようと真剣に取り組んでいることも、参考にはならない。

 中国の経済的問題の深さは、中国が住宅産業と輸出産業で経験している困難が浮き彫りにしている。ハーバード大学のケネス・ロゴフの研究によると、住宅分野は中国経済のほぼ30%を占めている。

 一方、IMFの推定によれば、中国の輸出はGDPのほぼ20%を占めている。これは、少なくとも中国経済の半分が深刻な問題を抱えていることを意味している。

 国際決済銀行(BIS)は、過去10年間に中国が住宅・信用市場のバブルを経験し、その規模は1990年代の失われた10年間に日本が経験したバブルに匹敵するものであったと頻繁に指摘している。中国の主要都市では、所得に対する住宅価格がロンドンやニューヨークを上回るようになり、一方、非金融民間部門に対する信用はGDPの100%という驚異的な伸びを示した。こうしたバブルが崩壊の兆しを見せている。

 過去1年間で、カントリーワイドを筆頭に、多くの中国の不動産開発業者が貸し倒れを起こした。一方、住宅価格はこの1年で着実に下落し、住宅着工件数は深刻な低迷に陥っている。地方政府は土地売却の不振で財政難に陥っており、住宅市場は文字通り何百万戸もの空き家を抱えている。 中国の人口が減少している現在、住宅と信用市場の難局を打開するために中国がどのように成長できるかは難しい。

 住宅市場がつまずくと同時に、中国の輸出エンジンも失速しているように見える。最新の経済データによれば、過去1年間で中国の輸出は14%減少した。

 すべては、米国と世界経済が、中国経済の急成長によって経済の減速に対抗する重しを提供するために、これまでのように中国経済をあてにすることができないことを示唆している。確かに、わが国経済が中国に直接さらされる機会は限られているが、中国のアジア・パートナー、オーストラリア、ドイツ、商品輸出国である新興市場経済諸国はそうではない。これらの国々はすべて、中国の貿易と強いつながりがある。

 中国経済の減速がこれらの国に悪影響を及ぼせば、世界経済環境の悪化を通じて、わが国経済も間接的に影響を受けることになる。


インフレへの支援?

しかし、中国経済が現在抱えている問題のプラス面は、世界経済に必要なインフレ緩和をもたらす可能性があることだ。中国の生産者物価が急速に下落し、通貨安が進行しているため、中国の輸出価格の下落が予想される。 さらに重要なことは、中国経済の低迷は、国際商品価格全般、特に原油価格のさらなる軟化につながると予想されることだ。 

 中国経済の大幅な減速は、連邦準備制度理事会(FRB)にとって基本的な問題を提起している。世界第2位の経済大国である中国が、近い将来、世界経済全体にデフレ圧力を輸出しかねない兆候を見せている今、FRBは積極的な利上げ政策を堅持することで、金融政策の行き過ぎを招かないだろうか。■


The Federal Reserve Must Pay Attention: China's Economy Is In Serious Trouble - 19FortyFive

By

Desmond Lachman


About the Author, Desmond Lachman 

Desmond Lachman is a senior fellow at the American Enterprise Institute. He was a deputy director in the International Monetary Fund’s Policy Development and Review Department and the chief emerging market economic strategist at Salomon Smith Barney.


2023年8月29日火曜日

航自F-35が初の海外展開でオーストラリアに到着、日豪の防衛協力強化を示し、8月12日調印の両国協力協定の効果を早速見せつけた

 JAPAN-POLITICS-DEFENCE

An F-35 fighter aircraft of the Japan Air Self-Defense Force takes part in a military review at the Ground Self-Defence Force’s Asaka training ground in Asaka, Saitama prefecture on October 14, 2018. (Photo credit KAZUHIRO NOGI/AFP via Getty Images)

日本のF-35が初の海外訪問でオーストラリアに到着

オーストラリアは日本のF-35の到着を歓迎する一方で、もうひとつのパートナー米国とアメリカ海兵隊V-22の死亡墜落事故を調査する地味な仕事にも取り組んでいる

 本はF-35戦闘機2機を飛ばし、55人をオーストラリアに移動させた。


日本の空軍チームは土曜日にオーストラリア北海岸にあるRAAFティンダル基地に到着し、オーストラリアの "トップエンド "まで6,400キロ(4,000マイル)の旅をした後、火曜日まで滞在する。戦後日本が遠征航空作戦に従事したことは、アメリカを除けば過去に一度もない。日本人パイロットは伝統的に日本発着で活動していた。


オーストラリア戦略政策研究所の防衛専門家であるマルコム・デイヴィスは、電子メールで次のように述べた。「これはADF(オーストラリア国防軍)と日本の自衛隊の緊密な結びつきを強化するものであり、防衛協力関係を強化する手段として共通の能力(つまりF-35A)の機会を提供するものだ。東京とキャンベラは『中国』という懸念を共有しており、抑止戦略の訓練と協力のため共に取り組んでいる」。


デイビスは、遠征航空作戦の重要性にも言及した。「航空自衛隊が遠征航空展開の訓練を行い、RAAFが共通のプラットフォームを使用し外国の同盟航空部隊と協力するだけでなく、航空自衛隊が独自の方法でF-35Aをどのようにサポートするかを経験するのにも役立つ」。


8月14日のリリースでは、日本の航空自衛隊は、4機のF-35A、1機のKC-767、1機のC-130と1機のC-2、およそ160人の人員を含む、より大規模な部隊になると発表していた。本日発表されたオーストラリアの報道発表と航空自衛隊の発表の間に何が変わったのかは不明である。


本日のプレスリリースの中で、オーストラリア国防省の文民部長は、日本側の訪問を「両国関係における重要なマイルストーンであり、相互アクセス協定の下で実施される最初の活動」と、珍しいパブリックコメントを発表した。


グレッグ・モリアーティは、8月12日に発効したばかりの協定について言及した。この協定は昨年1月に両国政府が署名し、F-35の到着はその最初の現れだった。両国が真新しい協定にこれほど早く取り組んだという事実は、両国が急成長する軍事・外交関係の強化にどれほど力を入れているかを示している。

「あと数週間で、オーストラリアはこの訪問に報いるため、6機の空軍F-35Aを2023年の武士道ガーディアン演習で日本に派遣する」とモリアーティ氏は述べた。


モリアーティとオーストラリア空軍のロブ・チップマン空軍主席は、インド太平洋の安全保障における協定の重要性を指摘した。特にF-35Aをどう運用するかについての相互理解を深めることは、日豪両国がインド太平洋の集団安全保障に貢献するために不可欠とした。


この最新の動きは、ジョー・バイデン大統領が 「日韓米の新時代とパートナーシップ」と呼んだ結果を生んだ日本、韓国、米国の首脳によるキャンプ・デービッド会談を受けてのものだ。中国は、日本とのオーストラリア協定やキャンプ・デービッド会議について、太平洋NATOの創設に等しいと批判している。


米海兵隊オスプレイ墜落、3人死亡

オーストラリアは今日、日本とのパートナーシップを称賛しているが、最大の軍事パートナーであるアメリカとも、地味な仕事に取り組んでいる。


墜落事故は、オーストラリア北部ティウィの人里離れたメルビル島で起きた。アメリカ、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、東ティモールの部隊が参加する「プレデターズ・ラン」演習中で、海兵隊員3人が死亡、乗員23人のうち少なくとも5人が入院した。


キャスリーン・ヒックス米国防副長官は本日、遺族に哀悼の意を表明するとともに、今回の事件は、米軍兵士がオーストラリアや日本とともに、「自由で開かれた平和で繁栄するインド太平洋を可能にする安全保障と安定へのコミットメントを集団的に堅持していることを思い起こさせるものだ」と述べた。


オーストラリアン放送協会の報道によると、地元ティウィの指導者たちは、ノーザン・テリトリーとその周辺に多数いる軍人と強い絆で結ばれていると語った。ティウィの長老であるバーナード・ティピロウラは、彼らの魂を休ませるための伝統的な儀式を準備するため、ティウィの人々と協力しているという。


「我々はこのような事態を目の当たりにして非常に悲しく思っている」と彼は語り、「それが失われた人々に申し訳なく思う我々の方法だからだ」と伝統舞踊を披露する予定だと付け加えた。


事故の原因究明は、オーストラリアとアメリカの当局が進めている。


Japanese F-35s make first foreign visit, landing in Australia - Breaking Defense

By   COLIN CLARK

on August 28, 2023 at 12:44 PM


2023年8月28日月曜日

米軍特殊部隊がワグネル戦闘員とシリアで直接戦闘していた。航空兵力の投入でワグネル部隊は壊滅された....

 


米特殊部隊がワグネル傭兵と4時間の激戦を繰り広げていた(2018年シリア)


 2018年2月、アメリカ人特殊部隊約40名、海兵隊員、シリアの同盟軍の小集団は、シリア東部の焼け焦げた天然ガス精製所内で、多勢に無勢で攻撃を受けている状況に気づいた。戦車含むロシアの装甲車数十両が、戦車砲弾、大砲、迫撃砲の雨の中、彼らの陣地に迫る中、米軍は、自分たちが直面している不利を十分に認識しながら、陣地を維持しようと身を潜めた。

 3時間の砲撃の後、ロシア傭兵とシリア傭兵は、厚さ11インチの前面装甲を持つ45トンT-72戦車の後ろから前進し、致命的な打撃を与えようと迫り始めた。AH-64アパッチ・ヘリコプター、AC-130ガンシップ、巨大なB-52爆撃機、F-15Eストライクイーグル、そしてF-22ラプターまでが、連携した破壊のオーケストラで攻撃部隊を蹂躙した。

 45分間、あらゆる米軍機が、傭兵部隊を地面に叩きつけ、死者数百名と何十台もの車両を跡形もなく消し去った。

 アメリカ軍とロシア軍が戦場で交わることになったらどうなるのかと何十年も考えてきた結果、カシャムの戦いは、ロシア政府がこの作戦やその後の失敗について一切知らなかったとしても、決定的な一瞥を与えてくれた。

 アメリカの特殊部隊員やワグネル・グループの傭兵の直接証言を含め、さまざまな公式・非公式の情報源からこの戦いをまとめることで、この信じられないような戦いがどのように展開されたのか、よく理解できるようになった。それは、乗り越えられないと思われる不利な状況に直面した際の勇敢さ、戦闘員同士の兄弟愛、そしておそらく何よりも、連携した航空戦力が戦場にもたらす驚くべき効果の悲惨な物語だ。

編集部注:本記事では、各種情報源から詳細を引用しているが、最も貴重な記事は、戦闘に参加した3人の特殊部隊兵士が語った戦闘の実録だ。ケヴィン・マウラーにより書かれ、2023年5月に『The War Horse』で発表された。「特殊部隊兵士がシリアで繰り広げたロシア傭兵との戦闘の詳細を初めて明かす」と題されたその記事は、こちらの this linkから読むことができる。

 2015年11月、米国はシリアへ派兵を開始した。シリアでは、ロシアに支援された残忍な独裁者と反体制派グループとの間で内戦が勃発し、「イスラム国」(ISIS)として知られるテロリスト集団が勢力を拡大していた。

 シリア政府、特にその指導者バッシャール・アル・アサドは、シリア民間人に対する化学兵器の度重なる使用により、アメリカの作戦の標的となることもあったが、シリアにおけるアメリカのプレゼンスと、シリア民主軍(SDF)と総称される反体制派への支援は、主に対テロ作戦に重点を置いていた。実際、ISISの脅威が増えたため、シリアの紛争当事者は争いを脇に置くことになった。アメリカの支援を受けたSDFグループは主に北東部でISISと戦い、ロシア支援を受けたシリア軍は西で同じことを行った。ユーフラテス川は、ロシア軍とアメリカ軍の間の非公式なデコンフリクトゾーンの役割を果たした。


 

ロシア通常兵力はシリアに展開したが、ロシアはワグネル・グループとして知られる準軍事傭兵部隊にも大きく依存していた。2014年にプーチンのケータリング担当だったエフゲニー・プリゴジンが設立したワグネルは、それ以降、アフリカや中東におけるロシアの対外軍事作戦の一部となり、クレムリンが関与を否定したい戦闘作戦にしばしば投入されていた。

 2023年6月、ウクライナで進行中の戦闘作戦がきっかけで、プリゴジンとロシア軍幹部との間に非常に公然と対立が生、ワグネル軍がモスクワを占領する意図でてロシアに事実上侵攻するという、一種の擬似クーデター未遂事件が発生した。この事件は結局、始まってすぐ終結し、ワグネルとクレムリンの関係は不確かなままだ。しかし、2018年では、ワグネル・グループはロシアの戦闘作戦と対外影響力強化に欠かせない存在だった。

 緊張が高まる中、米ロは当初、2015年10月にシリアにおける航空安全の覚書を順守し、すべての国の飛行士にシリア領空で一般的なプロフェッショナリズムを求め、急増する紛争を解決するためロシアと米国が関与できるデコンフリクト・チャンネルを確立した。 2017年までに24時間ホットラインに発展し、ロシア政府は通信を停止すると繰り返し脅したが、回線はそのまま維持された。

 しかし、シリアで活動するロシア軍とアメリカ軍の間で公然と敵対行為が行われる可能性を鎮めるためのこうした努力にもかかわらず、紛争の現実、そしてシリア軍とロシア軍の両方が見せたむき出しの攻撃性は、この合意がむしろ一方的なものであったことを繰り返し証明した。シリアが一般市民に化学兵器や神経ガスを使用し続けたことは、しばしばロシア支援によって可能になったり、少なくとも難読化されたりして、事態をさらに悪化させた。

 2017年4月4日、シリアの町カーン・シェイクフンで神経ガス攻撃により80人の市民が死亡したと報告された後、ドナルド・トランプ大統領はシリアのアル・シェイラト空軍基地への武力攻撃を命じた。東地中海で駆逐艦USSポーターとUSSロスから合計59発のトマホーク巡航ミサイルが発射され、シリアの防空施設、航空機施設、弾薬貯蔵施設などを一掃した。

 防衛隊とシリア軍がISISを解体すると、両軍は事実上の国境となっていたユーフラテス川を封鎖した。そしてほとんどすぐに、ロシアが支援するシリア軍は非連携の努力を完全に無視し始めた。

 2017年6月18日、シリア軍はユーフラテスに近いタブカのすぐ南にあるSDF支配下の町を攻撃した。アメリカ政府関係者がデコンフリクション・ホットラインを通じロシアと連絡を取ろうとしたところ、シリア空軍のSu-22がこの地域でアメリカ軍が支援するSDF部隊を爆撃し始めた。その結果、マイケル・"モブ"・トレメル中佐が操縦する米海軍F/A-18スーパーホーネットが、AIM-120 AMRAAMレーダー誘導空対空ミサイルでSu-22と交戦し、これを撃墜した。


 


 同様の事件は2017年9月にも起きており、ロシア軍機がSDF部隊とアメリカのアドバイザーがいることがわかっている位置を爆撃した。2度目の事件の後、両国の上級指導者たちは対テロ作戦の対立を解消するために再び会談した。白熱した交渉の中で、ISISと戦うブレット・マクガーク大統領特使は、アメリカはシリアにおける自国の利益や軍隊を守ることを躊躇しないと明言し、ユーフラテス川がロシアやロシアの支援を受けた軍隊にとって渡ってはいけない地点だと強調した。

 11月、アメリカとロシアの当局者は、ロシアが支援するシリア軍を川の西側に、アメリカが支援するSDFを東に配置することで正式に合意した。

 しかし、ロシアが中途半端な約束しかしていないことはすぐに明らかになった。米軍連合軍は、ロシア軍機とシリア軍機の両方がユーフラテス川を1日に6~8回通過していると報告し続けた。実際、ロシア軍の全飛行回数の推定10%が、ユーフラテス川国境を尊重する合意に違反していた。

 11月15日、ユーフラテス川の東を飛行していた米空軍のA-10戦闘機2機が、ロシアのSu-24フェンサーと衝突しかけた。その2日後、ロシアのSu-30フランカーが一線を越え、別の威嚇行動でA-10の真下を通過した。

 同じ日、2機のアメリカ軍F-22ラプターが、川の反対側で活動するロシア軍Su-24を迎撃した。ロシア機は、地上のSDF部隊の上空を模擬爆撃しながら通過するのを20分間シャドーイングし、航空優勢戦闘機を挑発して発砲させようとしたようだ。アメリカ政府関係者はラプターパイロットはロシア機に発砲する法的権利はあったが、エスカレートを防ぐために自制心を示したと述べた。

 「ロシアパイロットが意図的に我々を試しているのか、あるいは我々をおびき寄せて反応させているのか、それとも単なるミスなのか、我々のパイロットが見極めるのがますます難しくなっている」と司令部スポークスマンのダミアン・ピッカート中佐は語った。「最大の懸念は、ロシア機がわが国の空軍や地上軍への脅威とみなされ、撃墜される可能性があることだ」。

 今にして思えば、ロシア軍とシリア軍が、米軍がユーフラテス川東側の地域をどれだけ積極的に防衛するかを見極めようとしていたのは明らかだ。特に、アサド政権はSDFの支配地域内にある油田とガス田の支配権を欲して、ワグネル・グループに捕獲施設の生産収益の25%を提供するとまで言っていた。



 日量450トン以上のガスを処理できることから、シリアで最も重要な施設のひとつと広くみなされているコノコ天然ガス精製所の占領を計画し、ワグネル、そしてロシア政府が目をつけていたのは、おそらくその25%であった。2017年9月に米軍の支援を受けたSDF軍が占領した同施設は、ユーフラテス川東側、SDF支配地域内にあり、デルタフォース、特殊部隊、陸軍レンジャー出身の少数精鋭の米軍特殊作戦顧問団の本拠地だった。

 「我々は石油精製所を制圧しようとしたが、ヤンキーがそこを押さえていた」と、ワグネル・グループ傭兵が戦闘後に流出した音声記録で説明している。

 広大な施設内にアメリカ軍の小さな前哨基地があることはよく知られていたが、ワグネルグループの傭兵を中心に構成された部隊は、少数の親アサド派部隊の支援を受けながら、工場から1マイル(約1.6キロ)余りの地点で編成を開始した。午後3時までに、部隊は500人以上、装甲兵員輸送車、T-55戦車、T-72戦車、さらにワグネル部隊が直接射撃に使うため地面に水平に向けたZU-23対空砲少なくとも1挺含む27輌に膨れ上がった。

 20マイル先の作戦支援地に配置されたアメリカ軍は、ロシア軍とシリア軍の集結を注意深く見守り、カタールのアル・ウデイド空軍基地にある米軍航空作戦センターと国防総省に状況を伝えた。ロシア軍が2年後のウクライナ侵攻の前に活用したのと同じ手法で、集結したロシア軍は訓練を装い意図を隠そうとした。このようなロシアの常套手段を熟知していたため、現地の作戦担当者は戦いに巻き込まれつつあるのを確信した。

 ロシアのドクトリンでは、訓練に見せかけたことを要所要所でやることになっている。午後10時頃、ロシアの傭兵部隊は策略をやめて発砲した。


大混乱


突然の砲撃と迫撃砲の波がコノコ工場施設内のアメリカ軍分遣隊に降り注ぎ、30人の部隊全員が装甲トラックと急いで掘った土塁の後ろに身を隠すために急行する中、1機のMQ-9リーパー・ドローンが頭上を旋回した。戦闘が続く中、リーパーは頭上からAGM-114ヘルファイアミサイルの一斉射撃を行い、砲兵システムを1基破壊したが、雪崩のように押し寄せる兵器を遅らせることはできなかった。ミサイルが尽きても、リーパーは上空を旋回し続け、戦闘のビデオ映像を送信した。

 「おい、みんな、下の連中が攻撃されてるぞ」QRFチームのグリーンベレーの一人、チョーンシーがチームリーダーのアンドリューに呼びかけた。「行って対応しなければ」。

 アンドリューは初の戦闘配備の特殊部隊のチームリーダーだったが、ためらわなかった。二人と残りの10人のチームは、すでに戦闘装備を満載した装甲トラック5台に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。彼らには少数の非装甲のSDFトラックと部隊が同行した。

 暗闇の中、暗視ゴーグルでクレーターだらけの車道を走行するチームは、接近を隠すことと、急ぎ接近する必要性とのバランスに苦心した。

 「暗闇の中で移動して、突然、土手を乗り上げスピードを落とし、別の土手を蛇行して通り抜け、また動き出すといった具体でした」と、ジョシュというQRFチームのもう一人のグリーンベレーは振り返った。

 グリーンベレーと海兵隊員が精油所に駆けつけるとき、彼らが提供できるのは肉体と弾薬だけだと十分承知していたことを認識することが重要だ。追加支援がなければ、彼らは進んでアメリカ人の血の海に飛び込み、自分たちの命を犠牲にしてでも戦友を助けようとした。

 「これから起こることを受け入れました」とジョシュは回想した。無線から聞こえた情報に、「仲間のために行かなければ と思ったんだ」。

 ロシア主導の部隊は地獄を解き放ち、50ポンド戦車弾、砲弾、迫撃砲が小火器のシンフォニーに衝撃的な打撃を加え、煙と榴散弾で空気を満たした。戦車装甲を貫通する武器がないため、米軍にできることは何もなかった。地球上で最も高度な訓練を受けた特殊作戦部隊でさえ、小火器で戦車隊を撃退することはできない。


戦場で最も賢い男


爆発音が前方の暗闇を引き裂くと、SDF兵士でいっぱいの急ぎ足のQRF車列の先頭のトラックが停車し、向きを変え走り去った。ロシアのスズメバチの巣に突っ込む気などSDF兵士にはさらさらなかったのだ。

 「戦場でいちばん賢い男だった」とチャウンシーは後に振り返った。すぐに、QRFチームに同行するSDF部隊もそれに続いた。

 絶え間なく続くと思われた砲撃の後、ロシア軍砲撃が小康状態になり、QRFチームは工場に到達する機会を得た。アンドリューは中にいる特殊工作員に連絡を取り、彼らが来ることを知らせた。防衛隊は赤外線レーザーを使い、QRFをアメリカ軍の周辺に誘導した。

アンドリューは、アメリカ軍とSDF兵士たちが、ロシア軍と対峙する土の堤防の上に防御態勢をとり、その隙間に砲弾のクレーターが散乱しているのを見た。「こっちはトラックの後ろに隠れて大砲を食らっているだけだ」と、現場指揮官はアンドリューに言った。

 一方、アメリカ政府関係者は、デコンフリクション・ラインを通じロシア代表と必死に連絡を取ろうとした。やっとの思いで電話をつないだが、ロシアは、ワグネル・グループが自軍の一部だと認めようとしなかった。

 しかし、興味深いことに、アメリカ政府関係者がロシア側と連絡を取ると、ワグネル軍に搭載されていた移動式地対空ミサイル・システムの電源が落とされたという。

 コノコ工場に戻ったアンドリューは、状況を把握した。アメリカの特殊部隊隊員、海兵隊、そして勇敢にも残って戦おうとするSDFの総勢は50人足らず、車両は6台で、500人以上の兵員、20数台の装甲車、そして一握りの戦車からなる敵軍に立ち向かっていた。控えめに言っても、非常に不利な状況だった。

 兵士たちの武装は機関銃と小火器だけだったが、QRFチームが持ち込んだ5台の装甲トラックは、赤外線光学装置付きのリモコン式50口径砲塔を装備していた。ZU-23対空システムは堤防に砲撃を開始し、1秒間に33発以上の大量の23ミリ弾を放ちながら掃射した。 

 「おい、このために給料をもらっているんだぞ」と、チョーシーはトラックの内部無線から他のグリーンベレーにアナウンスしたのを覚えている。「みんな、警戒して、意識して、目を見開いていてくれ。何か見えたら、距離、方角、何が見えたかを教えてくれ。そうすれば、その場で判断して、忙しくなるだろう」。


米軍の逆襲


徒歩で前進するワグネル部隊が、遠隔操作の50口径の光学系で見えるようになり、ジョシュが発砲を呼びかけた。もう一人のグリーンベレーが銃のコントローラーを操作して引き金を引いたが、何も起こらなかった。もう一度引き金を引いたが、やはり何も起こらなかった。ジョシュは安全装置が作動したままであることに気づき、素早く安全装置を解除した。前進してくる傭兵たちの白いシルエットが、大きな弾丸の衝撃でばらばらに砕け散るのを、ジョシュはサーマルカメラ越しに、目撃した。

 それは確かにロシア人の注意を引いた。ジョシュが回想するように、すべてのロシア兵とシリア兵が一斉に応戦し、地平線全体が光り輝いたように見えた。しかし、彼らの射撃は統制が取れておらず、ずさんだった。一方、米軍特殊部隊側はそうではなかった。

 ほぼ即座に、装甲トラックの50口径はリズムよく発砲し、銃身を冷やすために一時停止するのを同期させ、常に安定した弾丸の流れが放たれるようにした。その精度と射撃量の組み合わせは、前進する部隊に身を隠す以外の選択肢を与えなかった。

 「私たちは彼らよりずっと正確なんだ。金属に当たって火花が散るのが見えた。いい効果が出ているのがわかるし、要員を殺しているのもわかる」。

 ジョシュの50口径が底をつくと、彼は装甲車という比較的安全な場所を離れ武器を装填するしかなかった。彼は車両から降りると、遠距離焦点に設定された暗視ゴーグルで100発ベルトをつなごうと奮闘し始めた。作業中、砲弾が近くに着弾し、彼はトラックに叩きつけられた。イライラした彼はNVGを跳ね上げ、視界を確保するために赤いヘッドランプを点灯させた。

 しかし、彼が最後のベルトを積み込んだ直後、ZU-23特有のチョップ・チョップ・チョップという音が遠くから響き渡り、23ミリのトレーサー弾が彼の真上を切り裂いた。ジョシュはすぐに自分のミスに気づいた。

「バカ野郎」と彼は思った。「ヘッドランプを点けていたのに。ハッタリをかまされたんだ。ライトを点けちゃったんだ」。

 暗視装置と正確な射撃のおかげで、一瞬、米軍が優位に思えたが、その瞬間は長くは続かなかった。チャウンシーがワグネル軍との相対的な位置関係を地図に描いていると、無線が割り込んできた。

 「おい、でかい車両を見つけたぞ」別の特殊作戦部隊隊員が無線を通じ言ってきた。チャウンシーが聞くまでもなかった。それが戦車で前進していることを意味していることを知っていたからだ。


ここで終わりか...


彼らの位置からは、水平線上に10両のロシア軍戦車が、砲火の中を前進しているのが見えた。チャウンシーは、旧式ロシア戦車だと50口径直射砲に耐えられないかもしれないが、新しい戦車なら別だと知っていた。しかし、5発の弾丸が戦車の装甲を跳ね返す音が響いた。驚くことではないが、彼らの最大の武器でも戦車の前進を止められなかったことが、士気を低下させた。

 「おい、航空機はどうした?」チャウンシーは無線でアンドリューに呼びかけたが、誰も見当がつかなかった。F-15Eストライク・イーグルの巨大なレーダー・リターンやMQ-9リーパーが、もし撃墜できば、魅力的な標的となり、ひいてはロシアのプロパガンダの勝利になりかねない懸念から、司令部が航空支援のスクランブル発進を遅らせざるを得なかったことを、彼らは知る由もなかった。

 チャウンシーは再度状況を確認した。戦車は現在2,000メートル以内に迫っており、よく訓練された戦車乗組員にとっては至近距離である。背後には、装甲車に積まれた兵士や徒歩の兵士など、約500人の武装兵士がガスプラントを制圧し、中の人間を皆殺しにする機会をうかがっていた。戦車の前進を遅らせることができる武器がひとつもなければ、死は、いや、捕虜になる可能性さえも、目前に迫っていた。しかし、チャウンシーはまた、賭け金が天然ガス施設より高いことも知っていた。

 プラントを占領すれば、ワグネルはユーフラテス川の東側に足がかりを得ることになり、それを活用してSDF支配地域へ進攻を続けることができる。さらに、この数時間でプラントの防衛力を高めたのと同じ要因が、ロシア軍とシリア軍からの奪還を極めて困難にする。

 断固たる決意で、彼は無線でこう呼びかけた。

 誰もその命令に疑問は持たなかったが、ジョシュは頭の中で、ほぼ確実な死を意味することを認識していた。


ワグネルとの戦いの流れを変える


ジョシュは『The War Horse』にこう語った。「戻っれない可能性と和解しなければならなかったが、仲間を守り、なすべきことをすると思えば飲み込みやすかった」。

 チームは砲撃を続け、ワグネル部隊を後方に追いやった。しかし、1,000メートル台以上まで迫ってきた戦車の前進を止めることはできなかった。戦車は125ミリ砲弾を発射したが、奇跡的に車両を外し続けた。

 しかし、アメリカ軍にとって絶望的と思われたその時、最も近くにいた戦車が閃光を放ち、火球に包まれて隊列を止めた。

 頭上からジェネラル・エレクトリック製T700エンジンの独特のブザー音が鳴り響く中、西側にいた別の戦車もそれに続いた。AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターのペアが近くの堤防後ろから現れ、M230チェーンガンで前進するロシア軍陣地に30ミリ砲火を放った。

 「ヘリが飛んできて、みんなを殴り始めた」と、あるワグネル傭兵は流出した音声記録で回想している。

 特殊工作員たちは50口径でもう一度発砲し、戦車にトレーサー弾でアパッチに標的を照射した。流れが変わり始めると、アンドリューの無線が鳴り響いた。

 「おい、爆撃機が来るぞ」。しかし、アンドリューの安堵はすぐ打ち消された。

衝撃的なアナウンスだった。アンドリューと彼のチームは、執拗な砲撃、迫撃砲、戦車の砲撃に何時間も耐えてきた。高高度を飛行する爆撃機はおろか、戦車を止めることもできず、彼らを支援するアパッチ・ガンシップでさえ、ロシア軍機を止めることはできなかった。

 しかし、ロシア爆撃機は来なかった。そのころには、アメリカのF-15EストライクイーグルとF-22ラプターが陣地に迫っていた。ロシア政府が認めようとしない戦闘で、ロシアの爆撃機を撃墜しようと躍起になっていたのだ。やがて、頭上の暗い空に爆撃機が現れたが、それはアメリカのB-52だった。側面からぶら下がる巨大な105ミリ榴弾砲を含むさまざまな武器で武装したAC-130ガンシップも現れた。

 その後、アメリカの航空戦力が戦場に殺到し、破壊の乱舞となった。米軍機はわずか45分でロシア軍を蹂躙し、数百人が死亡、生存者は命からがら逃げ出した。

 「生き残ったのは戦車1両とBRDM(装甲偵察車)1台だけだった」と、あるワグネル傭兵は流出した音声記録の中で説明している。「他のBRDMや戦車は戦闘開始数分ですぐにすべて破壊された」。

 戦闘が終わりに近づくと、特殊作戦チームは状況を把握した。SDF兵士1人が軽傷を負い、打撲傷を除けば、アメリカ人は1人も負傷していなかった。彼らは暗視ゴーグルで、ワグネル・グループの傭兵とシリア兵が死者を集めるために戻ってくるのを見守った。正確な死者数については、55人から300人まで様々な議論がある。

 「簡潔に言うと、我々はケツを蹴飛ばされた。ある隊は200人を失い、別の隊は10人を失った...3番目の隊については知らないが、そこもかなりひどい目にあった。だから、3つの隊が打撃を受けたんだ」とワグネル傭兵が言っているのが、流出した録音から聞き取れる。

 音声記録によると、ワグネル・グループの部隊は、アメリカ軍の陣地までわずか300メートルまで接近できたが、空軍の猛攻で進軍を止められたという。ロシア政府は、この不運な作戦への関与をいまだに否定している。■



How US Special Forces took on Wagner Group mercenaries in an intense 4-hour battle | Sandboxx


  • BY ALEX HOLLINGS

  • AUGUST 16, 2023

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