クルーズ客船なのか水陸両用強襲輸送艦なのか?よくわからない...GETTY IMAGES
一昔前まで旅客船は兵員輸送船、攻撃輸送船、補助巡洋艦、さらに通商襲撃船となる軍事資産と考えられていた。1950年代から1960年代に揚陸強襲艦が就航すると、客船の軍事的有用性は消滅した。だが長く軍事資産として忘れ去られていた存在の客船が水陸両用攻撃シナリオで役に立つところまで静かに進化してきた。
中国が客船の大量建造を始めた。民生と軍事の融合を掲げる軍部は、巨大な民生用船舶を超大型の安全保障問題に変貌させたいと切望している。
90年代半ばからの旅客クルーズの世界的なルネッサンスにより、客船は、認識されていないとはいえ、軍事的な関連性を新たに持つに至った。過去数十年にわたり、急増する顧客の需要にコスト効率よく応えようとする競争は、巨大で複雑な船を産んだ。高速で堅牢、大量発電が可能なこれらの船舶に搭載されたテクノロジーは、一般が認識するよりずっと幅広い軍事的意義を与えている。
これまでのクルーズ客船は予備兵員輸送船として、フォークランド諸島のような危機時のポイント・ツー・ポイントの兵員輸送程度にしか使えなかった。
だが今日のテクノロジーにより、客船が揚陸攻撃プラットフォームとして機能する可能性が出てきた。クルーズ船技術は、軍事的に適切であるため多くの改造を必要としないところまで進化している。この種の客船は、膨大な兵力を目標に投入できる。中国の将来の客船隊がインド太平洋の各所で戦略的「クーデター」を引き起こす可能性を持つ。
西側諸国がこの事態を自ら招いた。技術の進歩、規制の惰性、想像力の欠如が、急速に進化するデュアルユースプラットフォームの軍事的可能性の理解を制限してきた。西側諸国の長年の運用規範に逆らう中国の意欲を理解しない政策立案者と、最低コストの造船業者を求めるクルーズ業界の欲望が相まり、インド太平洋全域に新たな、そして理解不足のまま揚陸作戦の挑戦が生まれる危険性がある。
クルーズ客船は揚陸強襲揚陸艦になる
現代のクルーズ客船の軍事的意義は、各客船が搭載する救命ボートを利用し、多数を迅速に上陸できる事実にある。
現在のクルーズ客船は、高性能で近代的な救命艇を使用し、1回で最大8000人を上陸させることができる。たとえ後方支援や支援体制が整っていなくても、数千人の兵力を奇襲上陸させれば、太平洋の多くの離島や戦略的に有用な島々の防衛を圧倒する。これらの船があれば、中国は一瞬にして「地上の事実」を変えることができる。
台湾などでさえ、このような攻撃を跳ね返すのに苦労するだろう。中国軍が整備された港湾に足場を築いた瞬間、中国は徴用した民間フェリー船団を使って、宿営地に物資や資源を注ぎ込むだろう。
大人数を上陸させる能力もさることながら、現代のクルーズ船は巨大で速く、沈めるのが難しい。客船1隻あたりの効率を最大限に高めよるクルーズ業界の努力の結果、クルーズ船の排水量は2009年以降2倍以上に増加しており、大型化が横ばいになる兆しはない。2024年、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルのアイコン・オブ・ザ・シーズはフィンランドの造船所を離れる。全長約1,200フィート、総トン数25万トン超の同船はアメリカの最新空母ジェラルド・R・フォードよりも大きく、3隻建造される。
クルーズ船産業は第二次世界大戦後50年にわたり停滞していた。しかし、ここ数十年に、クルーズ船の排水量の爆発的な伸びは、港湾インフラから海事規制まで、あらゆるものを凌駕している。クルーズ船の増加率は指数関数的だ。1939年から1972年の間、87,673トンのRMSクイーン・エリザベスが世界最大の客船だった。1996年に101,353トンのカーニバル・デスティニーに抜かれたものの、両船も巨大なアイコン・オブ・ザ・シーズの半分以下の大きさしかない。
クルーズ船の大型化につれて、救命技術、つまり揚陸攻撃に役立たせる道具も進歩している。RMSクイーン・エリザベスの姉妹船RMSクイーン・メリーが1970年代初頭に就航を終了したが、同船は乗客145人を乗せ、約6ノットで推進できる22隻のオープン救命艇に頼っていた。現在、アイコン・オブ・ザ・シーズには17隻のメガサイズの密閉式救命ボートが搭載され、それぞれ最大450人を9~10ノットで岸まで運ぶ。この救命ボートは搭載速度も速い。それぞれの救命艇は747ジャンボジェット機より多い人を乗せるが、テストでは乗客はわずか5分21秒で乗り込めた。
民間向けの最新型「救命艇」は通常、現行の救命規則が定める最低限の要件を満たしている。しかし、新型の救命艇には十分な柔軟性があり、より速く、より二重用途に適した艇を作ることができる。
軍事的な影響がなくても、救命艇は進化している。クルーズ船の大型化に伴い、港湾インフラは追いつくのに苦労している。大型クルーズ船は桟橋に直接係留できないことが多く、停泊しなければならない。このインフラ不足を克服するため、クルーズ船は救命艇を「テンダーボート」に改造し、乗客を上陸させている。これらの「兼用」テンダーボートは、一般的に、救命艇よりエンジン性能が高く高速だ。ファスマーのSEL-T 15.5救命艇・テンダーのハイブリッド艇は、11ノットで230人を乗船させる。パルフィンガーマリーンの双胴船CTL 57は、220人を比較的スピーディかつ快適に上陸させることができる。
これは氷山の一角にすぎない。実用的で沈没しにくい救命艇を強化するのは簡単で、軍事化も可能だ。速度の向上、生存性の向上、あるいは着水機能の向上は、中国の能力の範囲内だ。
実際、現代の救命艇は、軍用上陸用舟艇の性能に匹敵し、それを凌ぐところまで来ている。アメリカのワスプ級大型強襲揚陸艦は1990年代に就役したが、上陸用舟艇は60年代初頭の遺物だ。
ワスプ級強襲揚陸艦はそれぞれ、最大12隻の中型揚陸艇(LCM-8)または大型LCU1600実用揚陸艇2隻を搭載する。LCU1600は、約11ノットで兵員を岸に押し上げるが最大400人の兵員しか運べない。小型のLCM-8は、約150人の兵員を乗せた場合、最高速度は9ノットしか出せない。
これら旧式の上陸用舟艇は、大型装備を上陸させることができるかもしれないが、中国が必要とするのが、大きな突撃波を1回で上陸させ、適度に整備された港に入れることだけなら、近代的なクルーズ船のテンダーや救命艇の方が、より多くの兵員を目標地点に迅速に運ぶことができる。兵員を最も迅速に上陸させることができるのは、ヘリコプターとエアクッション式のLCAC上陸用舟艇だけだ。
中国は近代的な客船の量産を目指している:
軍事化された客船に備える時間がない。
中国初の国産クルーズ船「アドラ・マジック・シティ」(Ada Modu)(総トン数13万5,500トン)は現在、海上公試中だ。中国は待ってはいない。142,000トンの2隻目のクルーズ船を建造中で、2025年には就航すると観測されている。
西側諸国は皆、中国にクルーズ船を建造してもらおうと列をなすだろう。中国の造船部門への国家補助金を考えれば、中国はクルーズ船建造プロジェクトを、ヨーロッパで建造された同規模の客船の5分の1の価格で引き受けたと言われている。
アドラ・マジック・シティ」は、314人乗りの救命ボートを20隻搭載する。もし中国が同船を軍事利用すると決めれば、6000人以上の兵員を一度に上陸させられる。巡航船は、中国が民間と軍事の有機的な水陸両用能力の多様な宝箱を完全に統合するために必要な、最終的な作戦上の断片の一部を提供する。
中国客船が太平洋に広がっていく可能性が高い今、中国艦隊に新たに加わるこれらの客船の軍事的有用性を認識し、客船の軍事化を制限する行動をとるべき時が来た。今後、水陸両用攻撃演習に使用される中国の民間船舶は、正式な軍用船舶として識別され、国際民間通商から永久に排除すべきだ。
現代のクルーズ船を見過ごすことはできない。こうした現代の攻撃型輸送船は、安全保障に重大かつ過小評価された課題を突きつけている。中国は、軍事的機能を追加したり、搭載されている救命ボートに説明のつかない「改良」を加えたり、あるいは巨大な発電能力を秘密裏に活用しようとすることで、これらの民間船舶を容易に「軍事化」できる。もし中国がこれらの民間資産を攻撃的な軍事能力に向け始めたら、発見した瞬間に公に反撃しなければならない。■
China’s New Cruise Ships Are An Overlooked Amphibious Assault Challenge
Craig HooperSenior Contributor
Jul 20, 2023,03:48pm EDT
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