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米軍特殊部隊がワグネル戦闘員とシリアで直接戦闘していた。航空兵力の投入でワグネル部隊は壊滅された....

 


米特殊部隊がワグネル傭兵と4時間の激戦を繰り広げていた(2018年シリア)


 2018年2月、アメリカ人特殊部隊約40名、海兵隊員、シリアの同盟軍の小集団は、シリア東部の焼け焦げた天然ガス精製所内で、多勢に無勢で攻撃を受けている状況に気づいた。戦車含むロシアの装甲車数十両が、戦車砲弾、大砲、迫撃砲の雨の中、彼らの陣地に迫る中、米軍は、自分たちが直面している不利を十分に認識しながら、陣地を維持しようと身を潜めた。

 3時間の砲撃の後、ロシア傭兵とシリア傭兵は、厚さ11インチの前面装甲を持つ45トンT-72戦車の後ろから前進し、致命的な打撃を与えようと迫り始めた。AH-64アパッチ・ヘリコプター、AC-130ガンシップ、巨大なB-52爆撃機、F-15Eストライクイーグル、そしてF-22ラプターまでが、連携した破壊のオーケストラで攻撃部隊を蹂躙した。

 45分間、あらゆる米軍機が、傭兵部隊を地面に叩きつけ、死者数百名と何十台もの車両を跡形もなく消し去った。

 アメリカ軍とロシア軍が戦場で交わることになったらどうなるのかと何十年も考えてきた結果、カシャムの戦いは、ロシア政府がこの作戦やその後の失敗について一切知らなかったとしても、決定的な一瞥を与えてくれた。

 アメリカの特殊部隊員やワグネル・グループの傭兵の直接証言を含め、さまざまな公式・非公式の情報源からこの戦いをまとめることで、この信じられないような戦いがどのように展開されたのか、よく理解できるようになった。それは、乗り越えられないと思われる不利な状況に直面した際の勇敢さ、戦闘員同士の兄弟愛、そしておそらく何よりも、連携した航空戦力が戦場にもたらす驚くべき効果の悲惨な物語だ。

編集部注:本記事では、各種情報源から詳細を引用しているが、最も貴重な記事は、戦闘に参加した3人の特殊部隊兵士が語った戦闘の実録だ。ケヴィン・マウラーにより書かれ、2023年5月に『The War Horse』で発表された。「特殊部隊兵士がシリアで繰り広げたロシア傭兵との戦闘の詳細を初めて明かす」と題されたその記事は、こちらの this linkから読むことができる。

 2015年11月、米国はシリアへ派兵を開始した。シリアでは、ロシアに支援された残忍な独裁者と反体制派グループとの間で内戦が勃発し、「イスラム国」(ISIS)として知られるテロリスト集団が勢力を拡大していた。

 シリア政府、特にその指導者バッシャール・アル・アサドは、シリア民間人に対する化学兵器の度重なる使用により、アメリカの作戦の標的となることもあったが、シリアにおけるアメリカのプレゼンスと、シリア民主軍(SDF)と総称される反体制派への支援は、主に対テロ作戦に重点を置いていた。実際、ISISの脅威が増えたため、シリアの紛争当事者は争いを脇に置くことになった。アメリカの支援を受けたSDFグループは主に北東部でISISと戦い、ロシア支援を受けたシリア軍は西で同じことを行った。ユーフラテス川は、ロシア軍とアメリカ軍の間の非公式なデコンフリクトゾーンの役割を果たした。


 

ロシア通常兵力はシリアに展開したが、ロシアはワグネル・グループとして知られる準軍事傭兵部隊にも大きく依存していた。2014年にプーチンのケータリング担当だったエフゲニー・プリゴジンが設立したワグネルは、それ以降、アフリカや中東におけるロシアの対外軍事作戦の一部となり、クレムリンが関与を否定したい戦闘作戦にしばしば投入されていた。

 2023年6月、ウクライナで進行中の戦闘作戦がきっかけで、プリゴジンとロシア軍幹部との間に非常に公然と対立が生、ワグネル軍がモスクワを占領する意図でてロシアに事実上侵攻するという、一種の擬似クーデター未遂事件が発生した。この事件は結局、始まってすぐ終結し、ワグネルとクレムリンの関係は不確かなままだ。しかし、2018年では、ワグネル・グループはロシアの戦闘作戦と対外影響力強化に欠かせない存在だった。

 緊張が高まる中、米ロは当初、2015年10月にシリアにおける航空安全の覚書を順守し、すべての国の飛行士にシリア領空で一般的なプロフェッショナリズムを求め、急増する紛争を解決するためロシアと米国が関与できるデコンフリクト・チャンネルを確立した。 2017年までに24時間ホットラインに発展し、ロシア政府は通信を停止すると繰り返し脅したが、回線はそのまま維持された。

 しかし、シリアで活動するロシア軍とアメリカ軍の間で公然と敵対行為が行われる可能性を鎮めるためのこうした努力にもかかわらず、紛争の現実、そしてシリア軍とロシア軍の両方が見せたむき出しの攻撃性は、この合意がむしろ一方的なものであったことを繰り返し証明した。シリアが一般市民に化学兵器や神経ガスを使用し続けたことは、しばしばロシア支援によって可能になったり、少なくとも難読化されたりして、事態をさらに悪化させた。

 2017年4月4日、シリアの町カーン・シェイクフンで神経ガス攻撃により80人の市民が死亡したと報告された後、ドナルド・トランプ大統領はシリアのアル・シェイラト空軍基地への武力攻撃を命じた。東地中海で駆逐艦USSポーターとUSSロスから合計59発のトマホーク巡航ミサイルが発射され、シリアの防空施設、航空機施設、弾薬貯蔵施設などを一掃した。

 防衛隊とシリア軍がISISを解体すると、両軍は事実上の国境となっていたユーフラテス川を封鎖した。そしてほとんどすぐに、ロシアが支援するシリア軍は非連携の努力を完全に無視し始めた。

 2017年6月18日、シリア軍はユーフラテスに近いタブカのすぐ南にあるSDF支配下の町を攻撃した。アメリカ政府関係者がデコンフリクション・ホットラインを通じロシアと連絡を取ろうとしたところ、シリア空軍のSu-22がこの地域でアメリカ軍が支援するSDF部隊を爆撃し始めた。その結果、マイケル・"モブ"・トレメル中佐が操縦する米海軍F/A-18スーパーホーネットが、AIM-120 AMRAAMレーダー誘導空対空ミサイルでSu-22と交戦し、これを撃墜した。


 


 同様の事件は2017年9月にも起きており、ロシア軍機がSDF部隊とアメリカのアドバイザーがいることがわかっている位置を爆撃した。2度目の事件の後、両国の上級指導者たちは対テロ作戦の対立を解消するために再び会談した。白熱した交渉の中で、ISISと戦うブレット・マクガーク大統領特使は、アメリカはシリアにおける自国の利益や軍隊を守ることを躊躇しないと明言し、ユーフラテス川がロシアやロシアの支援を受けた軍隊にとって渡ってはいけない地点だと強調した。

 11月、アメリカとロシアの当局者は、ロシアが支援するシリア軍を川の西側に、アメリカが支援するSDFを東に配置することで正式に合意した。

 しかし、ロシアが中途半端な約束しかしていないことはすぐに明らかになった。米軍連合軍は、ロシア軍機とシリア軍機の両方がユーフラテス川を1日に6~8回通過していると報告し続けた。実際、ロシア軍の全飛行回数の推定10%が、ユーフラテス川国境を尊重する合意に違反していた。

 11月15日、ユーフラテス川の東を飛行していた米空軍のA-10戦闘機2機が、ロシアのSu-24フェンサーと衝突しかけた。その2日後、ロシアのSu-30フランカーが一線を越え、別の威嚇行動でA-10の真下を通過した。

 同じ日、2機のアメリカ軍F-22ラプターが、川の反対側で活動するロシア軍Su-24を迎撃した。ロシア機は、地上のSDF部隊の上空を模擬爆撃しながら通過するのを20分間シャドーイングし、航空優勢戦闘機を挑発して発砲させようとしたようだ。アメリカ政府関係者はラプターパイロットはロシア機に発砲する法的権利はあったが、エスカレートを防ぐために自制心を示したと述べた。

 「ロシアパイロットが意図的に我々を試しているのか、あるいは我々をおびき寄せて反応させているのか、それとも単なるミスなのか、我々のパイロットが見極めるのがますます難しくなっている」と司令部スポークスマンのダミアン・ピッカート中佐は語った。「最大の懸念は、ロシア機がわが国の空軍や地上軍への脅威とみなされ、撃墜される可能性があることだ」。

 今にして思えば、ロシア軍とシリア軍が、米軍がユーフラテス川東側の地域をどれだけ積極的に防衛するかを見極めようとしていたのは明らかだ。特に、アサド政権はSDFの支配地域内にある油田とガス田の支配権を欲して、ワグネル・グループに捕獲施設の生産収益の25%を提供するとまで言っていた。



 日量450トン以上のガスを処理できることから、シリアで最も重要な施設のひとつと広くみなされているコノコ天然ガス精製所の占領を計画し、ワグネル、そしてロシア政府が目をつけていたのは、おそらくその25%であった。2017年9月に米軍の支援を受けたSDF軍が占領した同施設は、ユーフラテス川東側、SDF支配地域内にあり、デルタフォース、特殊部隊、陸軍レンジャー出身の少数精鋭の米軍特殊作戦顧問団の本拠地だった。

 「我々は石油精製所を制圧しようとしたが、ヤンキーがそこを押さえていた」と、ワグネル・グループ傭兵が戦闘後に流出した音声記録で説明している。

 広大な施設内にアメリカ軍の小さな前哨基地があることはよく知られていたが、ワグネルグループの傭兵を中心に構成された部隊は、少数の親アサド派部隊の支援を受けながら、工場から1マイル(約1.6キロ)余りの地点で編成を開始した。午後3時までに、部隊は500人以上、装甲兵員輸送車、T-55戦車、T-72戦車、さらにワグネル部隊が直接射撃に使うため地面に水平に向けたZU-23対空砲少なくとも1挺含む27輌に膨れ上がった。

 20マイル先の作戦支援地に配置されたアメリカ軍は、ロシア軍とシリア軍の集結を注意深く見守り、カタールのアル・ウデイド空軍基地にある米軍航空作戦センターと国防総省に状況を伝えた。ロシア軍が2年後のウクライナ侵攻の前に活用したのと同じ手法で、集結したロシア軍は訓練を装い意図を隠そうとした。このようなロシアの常套手段を熟知していたため、現地の作戦担当者は戦いに巻き込まれつつあるのを確信した。

 ロシアのドクトリンでは、訓練に見せかけたことを要所要所でやることになっている。午後10時頃、ロシアの傭兵部隊は策略をやめて発砲した。


大混乱


突然の砲撃と迫撃砲の波がコノコ工場施設内のアメリカ軍分遣隊に降り注ぎ、30人の部隊全員が装甲トラックと急いで掘った土塁の後ろに身を隠すために急行する中、1機のMQ-9リーパー・ドローンが頭上を旋回した。戦闘が続く中、リーパーは頭上からAGM-114ヘルファイアミサイルの一斉射撃を行い、砲兵システムを1基破壊したが、雪崩のように押し寄せる兵器を遅らせることはできなかった。ミサイルが尽きても、リーパーは上空を旋回し続け、戦闘のビデオ映像を送信した。

 「おい、みんな、下の連中が攻撃されてるぞ」QRFチームのグリーンベレーの一人、チョーンシーがチームリーダーのアンドリューに呼びかけた。「行って対応しなければ」。

 アンドリューは初の戦闘配備の特殊部隊のチームリーダーだったが、ためらわなかった。二人と残りの10人のチームは、すでに戦闘装備を満載した装甲トラック5台に乗り込み、アクセルを踏み込んだ。彼らには少数の非装甲のSDFトラックと部隊が同行した。

 暗闇の中、暗視ゴーグルでクレーターだらけの車道を走行するチームは、接近を隠すことと、急ぎ接近する必要性とのバランスに苦心した。

 「暗闇の中で移動して、突然、土手を乗り上げスピードを落とし、別の土手を蛇行して通り抜け、また動き出すといった具体でした」と、ジョシュというQRFチームのもう一人のグリーンベレーは振り返った。

 グリーンベレーと海兵隊員が精油所に駆けつけるとき、彼らが提供できるのは肉体と弾薬だけだと十分承知していたことを認識することが重要だ。追加支援がなければ、彼らは進んでアメリカ人の血の海に飛び込み、自分たちの命を犠牲にしてでも戦友を助けようとした。

 「これから起こることを受け入れました」とジョシュは回想した。無線から聞こえた情報に、「仲間のために行かなければ と思ったんだ」。

 ロシア主導の部隊は地獄を解き放ち、50ポンド戦車弾、砲弾、迫撃砲が小火器のシンフォニーに衝撃的な打撃を加え、煙と榴散弾で空気を満たした。戦車装甲を貫通する武器がないため、米軍にできることは何もなかった。地球上で最も高度な訓練を受けた特殊作戦部隊でさえ、小火器で戦車隊を撃退することはできない。


戦場で最も賢い男


爆発音が前方の暗闇を引き裂くと、SDF兵士でいっぱいの急ぎ足のQRF車列の先頭のトラックが停車し、向きを変え走り去った。ロシアのスズメバチの巣に突っ込む気などSDF兵士にはさらさらなかったのだ。

 「戦場でいちばん賢い男だった」とチャウンシーは後に振り返った。すぐに、QRFチームに同行するSDF部隊もそれに続いた。

 絶え間なく続くと思われた砲撃の後、ロシア軍砲撃が小康状態になり、QRFチームは工場に到達する機会を得た。アンドリューは中にいる特殊工作員に連絡を取り、彼らが来ることを知らせた。防衛隊は赤外線レーザーを使い、QRFをアメリカ軍の周辺に誘導した。

アンドリューは、アメリカ軍とSDF兵士たちが、ロシア軍と対峙する土の堤防の上に防御態勢をとり、その隙間に砲弾のクレーターが散乱しているのを見た。「こっちはトラックの後ろに隠れて大砲を食らっているだけだ」と、現場指揮官はアンドリューに言った。

 一方、アメリカ政府関係者は、デコンフリクション・ラインを通じロシア代表と必死に連絡を取ろうとした。やっとの思いで電話をつないだが、ロシアは、ワグネル・グループが自軍の一部だと認めようとしなかった。

 しかし、興味深いことに、アメリカ政府関係者がロシア側と連絡を取ると、ワグネル軍に搭載されていた移動式地対空ミサイル・システムの電源が落とされたという。

 コノコ工場に戻ったアンドリューは、状況を把握した。アメリカの特殊部隊隊員、海兵隊、そして勇敢にも残って戦おうとするSDFの総勢は50人足らず、車両は6台で、500人以上の兵員、20数台の装甲車、そして一握りの戦車からなる敵軍に立ち向かっていた。控えめに言っても、非常に不利な状況だった。

 兵士たちの武装は機関銃と小火器だけだったが、QRFチームが持ち込んだ5台の装甲トラックは、赤外線光学装置付きのリモコン式50口径砲塔を装備していた。ZU-23対空システムは堤防に砲撃を開始し、1秒間に33発以上の大量の23ミリ弾を放ちながら掃射した。 

 「おい、このために給料をもらっているんだぞ」と、チョーシーはトラックの内部無線から他のグリーンベレーにアナウンスしたのを覚えている。「みんな、警戒して、意識して、目を見開いていてくれ。何か見えたら、距離、方角、何が見えたかを教えてくれ。そうすれば、その場で判断して、忙しくなるだろう」。


米軍の逆襲


徒歩で前進するワグネル部隊が、遠隔操作の50口径の光学系で見えるようになり、ジョシュが発砲を呼びかけた。もう一人のグリーンベレーが銃のコントローラーを操作して引き金を引いたが、何も起こらなかった。もう一度引き金を引いたが、やはり何も起こらなかった。ジョシュは安全装置が作動したままであることに気づき、素早く安全装置を解除した。前進してくる傭兵たちの白いシルエットが、大きな弾丸の衝撃でばらばらに砕け散るのを、ジョシュはサーマルカメラ越しに、目撃した。

 それは確かにロシア人の注意を引いた。ジョシュが回想するように、すべてのロシア兵とシリア兵が一斉に応戦し、地平線全体が光り輝いたように見えた。しかし、彼らの射撃は統制が取れておらず、ずさんだった。一方、米軍特殊部隊側はそうではなかった。

 ほぼ即座に、装甲トラックの50口径はリズムよく発砲し、銃身を冷やすために一時停止するのを同期させ、常に安定した弾丸の流れが放たれるようにした。その精度と射撃量の組み合わせは、前進する部隊に身を隠す以外の選択肢を与えなかった。

 「私たちは彼らよりずっと正確なんだ。金属に当たって火花が散るのが見えた。いい効果が出ているのがわかるし、要員を殺しているのもわかる」。

 ジョシュの50口径が底をつくと、彼は装甲車という比較的安全な場所を離れ武器を装填するしかなかった。彼は車両から降りると、遠距離焦点に設定された暗視ゴーグルで100発ベルトをつなごうと奮闘し始めた。作業中、砲弾が近くに着弾し、彼はトラックに叩きつけられた。イライラした彼はNVGを跳ね上げ、視界を確保するために赤いヘッドランプを点灯させた。

 しかし、彼が最後のベルトを積み込んだ直後、ZU-23特有のチョップ・チョップ・チョップという音が遠くから響き渡り、23ミリのトレーサー弾が彼の真上を切り裂いた。ジョシュはすぐに自分のミスに気づいた。

「バカ野郎」と彼は思った。「ヘッドランプを点けていたのに。ハッタリをかまされたんだ。ライトを点けちゃったんだ」。

 暗視装置と正確な射撃のおかげで、一瞬、米軍が優位に思えたが、その瞬間は長くは続かなかった。チャウンシーがワグネル軍との相対的な位置関係を地図に描いていると、無線が割り込んできた。

 「おい、でかい車両を見つけたぞ」別の特殊作戦部隊隊員が無線を通じ言ってきた。チャウンシーが聞くまでもなかった。それが戦車で前進していることを意味していることを知っていたからだ。


ここで終わりか...


彼らの位置からは、水平線上に10両のロシア軍戦車が、砲火の中を前進しているのが見えた。チャウンシーは、旧式ロシア戦車だと50口径直射砲に耐えられないかもしれないが、新しい戦車なら別だと知っていた。しかし、5発の弾丸が戦車の装甲を跳ね返す音が響いた。驚くことではないが、彼らの最大の武器でも戦車の前進を止められなかったことが、士気を低下させた。

 「おい、航空機はどうした?」チャウンシーは無線でアンドリューに呼びかけたが、誰も見当がつかなかった。F-15Eストライク・イーグルの巨大なレーダー・リターンやMQ-9リーパーが、もし撃墜できば、魅力的な標的となり、ひいてはロシアのプロパガンダの勝利になりかねない懸念から、司令部が航空支援のスクランブル発進を遅らせざるを得なかったことを、彼らは知る由もなかった。

 チャウンシーは再度状況を確認した。戦車は現在2,000メートル以内に迫っており、よく訓練された戦車乗組員にとっては至近距離である。背後には、装甲車に積まれた兵士や徒歩の兵士など、約500人の武装兵士がガスプラントを制圧し、中の人間を皆殺しにする機会をうかがっていた。戦車の前進を遅らせることができる武器がひとつもなければ、死は、いや、捕虜になる可能性さえも、目前に迫っていた。しかし、チャウンシーはまた、賭け金が天然ガス施設より高いことも知っていた。

 プラントを占領すれば、ワグネルはユーフラテス川の東側に足がかりを得ることになり、それを活用してSDF支配地域へ進攻を続けることができる。さらに、この数時間でプラントの防衛力を高めたのと同じ要因が、ロシア軍とシリア軍からの奪還を極めて困難にする。

 断固たる決意で、彼は無線でこう呼びかけた。

 誰もその命令に疑問は持たなかったが、ジョシュは頭の中で、ほぼ確実な死を意味することを認識していた。


ワグネルとの戦いの流れを変える


ジョシュは『The War Horse』にこう語った。「戻っれない可能性と和解しなければならなかったが、仲間を守り、なすべきことをすると思えば飲み込みやすかった」。

 チームは砲撃を続け、ワグネル部隊を後方に追いやった。しかし、1,000メートル台以上まで迫ってきた戦車の前進を止めることはできなかった。戦車は125ミリ砲弾を発射したが、奇跡的に車両を外し続けた。

 しかし、アメリカ軍にとって絶望的と思われたその時、最も近くにいた戦車が閃光を放ち、火球に包まれて隊列を止めた。

 頭上からジェネラル・エレクトリック製T700エンジンの独特のブザー音が鳴り響く中、西側にいた別の戦車もそれに続いた。AH-64アパッチ攻撃ヘリコプターのペアが近くの堤防後ろから現れ、M230チェーンガンで前進するロシア軍陣地に30ミリ砲火を放った。

 「ヘリが飛んできて、みんなを殴り始めた」と、あるワグネル傭兵は流出した音声記録で回想している。

 特殊工作員たちは50口径でもう一度発砲し、戦車にトレーサー弾でアパッチに標的を照射した。流れが変わり始めると、アンドリューの無線が鳴り響いた。

 「おい、爆撃機が来るぞ」。しかし、アンドリューの安堵はすぐ打ち消された。

衝撃的なアナウンスだった。アンドリューと彼のチームは、執拗な砲撃、迫撃砲、戦車の砲撃に何時間も耐えてきた。高高度を飛行する爆撃機はおろか、戦車を止めることもできず、彼らを支援するアパッチ・ガンシップでさえ、ロシア軍機を止めることはできなかった。

 しかし、ロシア爆撃機は来なかった。そのころには、アメリカのF-15EストライクイーグルとF-22ラプターが陣地に迫っていた。ロシア政府が認めようとしない戦闘で、ロシアの爆撃機を撃墜しようと躍起になっていたのだ。やがて、頭上の暗い空に爆撃機が現れたが、それはアメリカのB-52だった。側面からぶら下がる巨大な105ミリ榴弾砲を含むさまざまな武器で武装したAC-130ガンシップも現れた。

 その後、アメリカの航空戦力が戦場に殺到し、破壊の乱舞となった。米軍機はわずか45分でロシア軍を蹂躙し、数百人が死亡、生存者は命からがら逃げ出した。

 「生き残ったのは戦車1両とBRDM(装甲偵察車)1台だけだった」と、あるワグネル傭兵は流出した音声記録の中で説明している。「他のBRDMや戦車は戦闘開始数分ですぐにすべて破壊された」。

 戦闘が終わりに近づくと、特殊作戦チームは状況を把握した。SDF兵士1人が軽傷を負い、打撲傷を除けば、アメリカ人は1人も負傷していなかった。彼らは暗視ゴーグルで、ワグネル・グループの傭兵とシリア兵が死者を集めるために戻ってくるのを見守った。正確な死者数については、55人から300人まで様々な議論がある。

 「簡潔に言うと、我々はケツを蹴飛ばされた。ある隊は200人を失い、別の隊は10人を失った...3番目の隊については知らないが、そこもかなりひどい目にあった。だから、3つの隊が打撃を受けたんだ」とワグネル傭兵が言っているのが、流出した録音から聞き取れる。

 音声記録によると、ワグネル・グループの部隊は、アメリカ軍の陣地までわずか300メートルまで接近できたが、空軍の猛攻で進軍を止められたという。ロシア政府は、この不運な作戦への関与をいまだに否定している。■



How US Special Forces took on Wagner Group mercenaries in an intense 4-hour battle | Sandboxx


  • BY ALEX HOLLINGS

  • AUGUST 16, 2023

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