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量子センサーがGPSを置き換える可能性
世界の政府機関や企業の研究所では、原子レベルの運動や電場・磁場の変化を検出する技術を改良しようと、研究者がしのぎを削っている。
原子の既知の特性の微細な変化を発見すれば極めて精密で正確な測定が可能になる---これが量子センシング技術である。
様々なアプリケーションに適するが、ナビゲーションに量子センシングを応用することが国防総省が最も関心を寄せている分野である。中国やロシアのような技術的に洗練されたライバルが、米軍が依存するGPS信号を破損したり無効化できるとの認識が広まりつつあるため、米国の戦闘員はGPSが無効化された環境での作戦を想定した訓練を日常的に行っている。
海軍研究所NRLの研究物理学者ロジャー・イーストンRoger Eastonによる研究がGPSの基礎となり、1977年にGPS信号を送信する最初の衛星NTS-2の打ち上げにつながった。今日、NRLの量子光学Quantum Optics部門責任者アダム・ブラックAdam Blackは、GPSに代わるナビゲーション技術である慣性航法に量子センサーを適応させている。
「原子慣性技術を使えば、このようなことが可能となるのは数年先だと考えています」とブラックは言い、量子慣性計測ユニットについて、現在研究所で量子センシングの研究開発に使用されている大型の固定装置よりもはるかに小型化できる可能性があると説明した。
慣性航法は、加速度計、ジャイロスコープ、コンピューター(慣性計測ユニット、IMUと総称される)を用い、外部参照を必要とせずに、移動物体の位置、向き、速度を連続計算する。1960年代から軍用機や兵器の誘導に使われていたこの技術は、1990年代初頭までにGPSに取って代わられた。
GPSよりも破壊の影響を受けにくい量子センサーを使った慣性航法は、GPSと同等かそれ以上の精度で航行できる方法として注目されている。
軍艦、潜水艦、航空機のようなダイナミックな環境で使用できる量子センシングデバイスで最大のハードルの1つは、十分な小型化とエネルギー効率を実現することである。これまでに開発された量子センサーでは小型化すると、精度や正確さも低下する。NRL、陸軍研究所、空軍研究所、そして民間企業の研究者が取り組んでおり、「トレードオフだが、扱いやすい課題」だとブラックは説明する。
加速度計とジャイロスコープを備えた「量子IMUが入った靴箱」を「かなり合理的に想像できる」とブラックは語った。「現時点では、まだそこに到達していない。しかし、それは物理学の範囲内だと思います」。
新しい慣性航法システムの一部として動作する量子IMUは、古典的なIMUと同じ機能を果たすだろう。
NRLのSystems DirectorateのAssociate Director of Researchであるジェラルド・ボーサックGerald Borsuk博士は、小型で高精度の新世代の原子時計(量子センサーにもなるデバイス)は、GPSが使用できない場合の時間測定に使用できると述べた。
「GPSセンサーは、別の情報源による正確な時刻があれば、まだ利用可能」とボーサックは説明する。
原子の共振周波数をモニターして時間を計測する原子時計は、1950年代から使用されている。ブラックは、GPSの耐障害性を向上させる可能性のある耐妨害量子センサーとして、小型の高性能マイクロ波原子時計と、数百テラヘルツの光周波数で時間を測定する小型光原子時計の開発について説明した。
量子センサーの開発は、実世界でのテストのため物理的なプロトタイプを作る必要があるため、長期化することが多い。ブラックによれば、海軍研究所や他の研究グループは、デジタルエンジニアリング(仮想モデリングとシミュレーション)を使い、プロセスのスピードアップを図っているという。
「一例が、量子重力計を艦船に搭載することが目的の、海軍研究局(Office of Naval Research)との最近のプログラムです」と彼は明かした。
海軍研究所のブラックのグループは、精密な艦の運動モデルを利用して、重力計(重力による加速度を測定するセンサー)の原子が、大きくて重い安定化ジンバルなしでどのように振る舞うかを予測する原子物理学レベルのモデルを構築した。
「重力計の誤差要因に関する知識を取り入れ、それを補正する限り、重力計は問題なく機能することが判明した」と報告している。
「我々は進歩を加速させる。量子科学研究所を設立し、成果を産業界に還元し、応用することでリスク低減に力を注いでいきます」。■
Quantum Sensors Have Potential to Replace GPS
7/27/2023
By Jan Tegler
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