2014年7月29日火曜日

主張: JSFの信頼度を上げる手段はエンジン選定の見直しだ




Opinion: Missing Shows Points To Bigger JSF Problems

F-35 reliability is about more than Farnborough
Jul 28, 2014 Bill Sweetman | Aviation Week & Space Technology

F-35共用打撃戦闘機は国際航空ショー二つに出展できなくて良かったのではないか。英米の耐空証明認証機関が改めて安全第一の姿勢を示したことが良かった。
  1. 出展できなかったことで問題が明らかになった。どれだけ言葉を弄しても6月23日に発生したファン破砕ほどの深刻な事件が単独事象であるはずがない。事故調査の目的は同様の事象が発生しないように教訓をさぐることにある。今回不良を発生させた部品は他の故障を発生したエンジン部品と同じ企業、同じ工具を使って作成している。

  1. 今回の不良は数か月前に開発室長クリス・ボグデン中将が口にした不満表明の一部だ。「壊れるはずがないと思っていた部品が予想より早く壊れている」とし、この問題を「途方もない規模の改修工事で成果はすぐに得られそうもない」としていた。またJSFの信頼性は「この時点で当然そうなっているべき水準より低く」運用支援費用はこの信頼性問題が解決されないと「うなぎ上り」になると言っていた。

  1. 同機ではエンジン関連の飛行禁止措置が4回あり(このうち2回が今年6月中に発生)、7月15日には制限付き解除となったものの、上院から2011年に下したジェネラルエレクトリックのF136 代替エンジン不採択の見直し勧告が出ている。

  1. おなじみのコンサルタント、ローレン・トンプソンはプラット&ホイットニーも顧客に抱え、フォーブス誌上で上記勧告を一蹴しているが、「このような問題はエンジン開発のリスク低減期によくみられる」とし、F135が競合案を退けて採用されたエンジンだと主張する。事実はX-35とX-32の両試作機が発注された際にペンタゴンはエンジン二形式を開発し、量産型を選考すると確認していた。ただ同案は開発費用の節約のため廃案にされたが、F135の方が安価であるという理由だけではなかった。

  1. P&Wおよびその応援団はエンジン不良の解決に集中すべきであり、第二次エンジン戦争を再発させるべきではない。なぜなら同社及びその支援者が言ってきたことが正しくないとわかってしまうからだ。

  1. P&W関連のブログは2010年に「代替エンジン開発支持派は全機飛行停止の危険性を緩和するため第二エンジン型式が必要だと言っている。これは恐怖をあおる戦術以外の何物でもない。点検技術が向上し、予後状態管理で問題の早期発見につながり飛行運航に影響を与える要素を緩和することが可能だ」としていた。

  1. 予測的手法に4年と数十億ドルの予算を使っても今回の事件を予防できていない。F-35B編隊を大西洋横断飛行させるのは無謀だっただろう。ボグデン中将も必要な道具やソフトウェアは実はまだできていないことを認めている。

  1. F136を葬った一派は競作による節約よりも二形式エンジン採用で総開発費用が高くなり、生産量が減ることで費用が下がる効果が期待できないと指摘していた。ロッキード・マーティンは今後期待される単価の削減(2014年度のフライアウェイ価格145百万ドルが2019年度には97百万ドルになる)の理由は生産量の増加だと主張している。

  1. F136が消えたことでP&Wは生産量が二倍になると期待した。しかしF136消滅後の調達報告書を毎年見ると価格は5ないし15%増えていることがわかる。またどの報告書を見ても生産量が増えることで節約を想定した案件はないことがわかる。
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  1. P&Wに独占供給契約を与えることに何のメリットもない。ボグデン中将も同社との交渉がいつも困難であると不満で、同社のコスト削減の実施には消極的だ。

  1. それでもF136 復活は妥当ではないかもしれない。ジェネラルエレクトリックの技術陣はマジシャンではないし、難易度の高い要求内容への解決策、たとえばF-35Bでは20メガワットの軸出力は挑戦になる。だが、エンジン技術が停滞したままであったことはない。JSFが長い期間就役する前提で、途中でエンジンを更新し、最新の商用機エンジンのコアを利用したF-35A用F-35C用の新型エンジンに変えれば、F135より経済性、性能面で有利になるかもしれない。■



☆☆☆ ATD-Xが開く次世代戦闘開発の可能性 F-3への道のり F-15.F-16も改修へ





ATD-X Emerges Amid Japanese Fighter Choices

Considering a cooperative fighter program, Japan ground-tests its demonstrator
Jul 24, 2014Bradley Perrett | Aviation Week & Space Technology

日本はATD-X実証機心神をロールアウトしたが、並行してロッキード・マーティンF-35の追加購入を検討し、今後四年間のうちに次期戦闘機を国産開発あるいは共同開発にするかを決める。
  1. ATD-Xの開発が開始された2007年時点では当時の最新機種F-16を相当改修したF-2をもとに発展させる考えだったが、防衛装備の輸出に道が開けた今日では方針を変え、生産も日本国内に加え海外での実施も視野に入れている。
  2. ATD-Xの機体サイズはサーブ・グリペンとほぼ同じで、地上テストを実施していると防衛省技術研究本部(TRDI)が発表しており、今年中に初飛行し、2016年まで評価テストが続くという。ステルス性能、機体表皮に組み込んだセンサー、フライ・バイ・ライト制御など各種の技術実証で防衛省は次期戦闘機開発への採用を期待する。
  3. 5月8日撮影の公式写真では同機がメーカー三菱重工業の小牧南製作所のエプロン上にあるのがわかる。機体はすでに昨年中に静止試験を受けている。エンジンは推力11,000ポンドのIHI製 XF5-1エンジン二基だ。
  4. 米国の役割はさして大きくない。TRDIの事業報告書(平成25年度)では米空軍の開発支援の記載がある。そのうち114百万円が日本国外でのテスト用、別に760百万円が内容不詳の米空軍による訓練とされている。日本からATD-Xを国外で飛行させる方針は発表されていない。米国は同機へのステルス技術供与を拒んでおり、日本は2005年に同機レーダーモデルをフランスに送り評価を依頼している。
  5. ATD-Xの役目はレーダー目標となりステルス対抗技術開発を進めることなのだろう。2008年時点ではATD-Xを使いFPS-5レーダー、E-767 AWACS、エアボス赤外線タレットでステルス機探知できるかを検証するとしていた。その後6年が経過してこれ以外のセンサーがリストに加わっていても不思議はない。
  6. レーダー吸収塗料と主翼前縁部が特徴的で、レドーム後部の胴体形状、機体前方の下部分、空気取り入れ口ダクトも注目の的だ。特にダクト部分では素材が剥離してエンジン内部に吸い込まれないことが条件だ。
  7. 空気取り入れ口ダクトは曲線がつけられているが、強烈な電波エネルギーの反射を受けるこの部分は一定の角度から視認できるので、機体が探知される可能性が高い。この解決策としてレーダー遮蔽策として放射状の羽で取り入れ口内の電波エネルギーをかく乱しつつ、空気の流れは乱さない工夫がされている。公表されたレーダー波吸収剤の説明ではこの仕組みが取り入れられていることを示している。
  8. ただし後部のレーダー波反射にはさほど注意がされていないようだ。これはXF5-1エンジンンで排気方向可変ノズル開発が重要視されそのステルス化まで手が回らなかったことを示している。
  9. TBS放送によるとATD-X開発は2000年に始まったが、日本政府が製造と飛行を許可したのは2007年のことで、この年に米国がロッキード・マーティンF-22の提供を拒否している。XF5-1の開発は1995年に開始し、低バイパス比の同エンジンは同じ川崎重工業がP-1哨戒機用に開発したXF7ターボファンと類似している。
  10. ATD-Xの総費用は771億円とされ、エンジン開発は147億円が基本設計、可変排気口制御に134億円、システム統合が70億円だという。技術本部は27億円を機体表面の最適化研究に使い、表皮センサー実用化を探った。製造・飛行テストに393億円をあてているが、昨年の実績額が225億円になっていることから実際にはこの予算を超過している可能性がある。
  11. だとしても英国主導で作った機体とエンジンの実証機(のちにユーロファイター・タイフーンになる)の支出規模の半分以下である。
  12. この次に登場する機体は仮称F-3と呼ばれる。開発開始を2016年ないし17年とし、試作機飛行を2024年から25年、量産開始を2027年とAviation Weekでは2年前に報じている。 (AW&ST Oct. 22, 2012, p. 24).その段階でも米国との共同開発の可能性があるとしたのは、米空軍が次世代の戦術航空機を2030年ごろから配備する計画があったためだ。
  13. 小野寺五典防衛相によれば2018年までに次期戦闘機を国産開発か共同開発かを選択するという。ちょうどその年に米空軍も次期戦闘機調達事業を開始するとしている。大臣発言に関連するのがこの4月に日本が武器三原則を変え共同開発国へ販売を解禁したことである。.
  14. ATD-Xに盛り込んだ技術ではF-3向けには十分といえないものがあり、別のプロジェクトi3戦闘機開発が進行中だ。その技術要素には超音速巡航飛行可能な小型化エンジン、電波遮蔽型コックピット。レドームを通過する電波を制御する新素材、ステルス機目標に対処するためのデータ統合、センサー類と兵装類を協調的に僚機と取り扱う技術などがある。このうちIHIエンジンは推力33,000-lbで、純国産戦闘機開発に有益であり、技術研究本部は概念設計を準備中だ。その他技術も米国はじめ同盟各国に共同開発の中核的技術として提供されるだろう。
  15. ただし次世代機が実用化する前に42機のF-35では不十分であり、F-15JおよびF-15DJ合計201機があるが、このうちレーダー改装と三菱電機製AAM-4B空対空ミサイルへ換装されるのは88機しかない。改修対象から外れた機体が2020年代に更新対象となる。.
  16. そこでロッキード・マーティンがF-35追加発注を若干得る可能性がある。小野寺大臣は機体価格が下がれば追加購入に踏み切るとの考えを示している。時事通信は匿名の防衛関係筋の話として機体価格の推移を防衛省は注意深く見ており、F-4退役を補うF-Xとしての追加購入を検討するという。
  17. 小野寺大臣の真意が購入予定の42機の価格が予想を下回ったら確保済み予算を使い切るため追加発注するのか、生産が佳境に入り価格低下したら日本は予算を増額手当するのかいまいち不明。なお日本はF-35を対外有償軍事援助を使って購入するつもりで、米国向けと同額に管理費を上乗せして支払う。
  18. 尖閣諸島をめぐる中国との緊張が戦闘機部隊を拡充したいとする大臣の考えの背景にある。昨年に大臣はF-15改修対象機数を増やす考えに傾いていた。航空戦のシミュレーションをしたところ改修対象を99機以上にする必要が判明したと発言した国会議員に、大臣は「F-35A投入に加え、F-2改修も検討している」と答弁している。
  19. F-2はF-16を大幅改修したMHI製機体で生産は2011年に終了しており、2035年ごろまでに退役とTBS放送は伝えている。同機はすでに高度の改修を受けており、供用中92機のうち76機がこの対象で、今年度は12機が作業に入る。■



2014年7月28日月曜日

KC-46追加工数の費用を自社負担するボーイングの思惑は何か

上限価格契約方式がうまく作用しているようで、厳しい経済環境の中での国防予算の賢い使い方を示しているようですね。ボーイングにとってもここで自社財源を3億ドルほど出しても今後回収は十分可能であるとみているのでしょうね。従前ではこんな費用も全部国の予算で出していたはずで、今から見れば夢のような予算環境だったのでしょうね。

Boeing Eating KC-46 Overrun

—JOHN A. TIRPAK7/25/2014
​An artist rendering of a KC-46A Pegasus. Boeing illustration.

KC-46A空中給油機のテスト機材で不具合が見つかっているが、米空軍は発生する追加設計や作業の費用は一切負担しないと発表した。

これは7月23日のボーイングCEOジェイムズ・マクナーニから各社経済部への発表で、配線関係不良で272百万ドルの追加費用が必要となったとことを公表したことへの対応。

米空軍は49億ドル固定価格契約の上限を上回るコストはすべてボーイング負担とし、政府はこれ以上の負担はしないと発表。

マクナーニは問題の原因は解明済みとして今年第三四半期の初飛行に向かうとしているが、ボーイングはKC-46を800億ドル規模の高収益事業とし、輸出も想定し最終的に400機受注で生産を数十年間規模で維持できると投資家筋は見ている。■

2014年7月27日日曜日

オーストラリア空軍向けF-35がロールアウト


Australian F-35s rolled out in Texas

By: CRAIG HOYLE
LONDON
Source:
12:18 25 Jul 2014


asset image

Lockheed Martin

オーストラリア向けF-35の最初の2機がロールアウトし、ロッキード・マーティンのフォートワース最終組立施設’テキサス州)で式典が行われた。オーストラリア向け生産は72機以上になり総額116億ドルに上る見込み。


最初の二機は訓練用で燃料システムのチェック後にフライトテストにうつる。今年末にオーストラリア空軍に引き渡され、米空軍ルーク空軍基地(アリゾナ州)に移動する。同基地はステルス機F-35のsh用国際訓練拠点である。
「RAAFパイロットの訓練は米国内で2015年開始され、2018年にフェリー飛行しJSFをオーストラリアへ移す」と米空軍は発表。
最初の作戦用機材が初期作戦能力を獲得するのは2021年で3飛行隊はティンダルとウィリアムタウンの各基地に配備される。訓練飛行隊はウィリアムタウン基地に編成され、全72機が運用可能となるのは2023年の予定。将来は第四飛行隊編成も検討されると100機体制になるとRAAFは見ている。
オーストラリア企業計30社がF-35関連の仕事を確保しており、合計4億ドル相当になるとオーストラリア政府が発表している。■



ブク(SA-11)のメカニズムに根本的な欠陥がある




Buk Missile System Lethal, But Undiscriminating

Jul 23, 2014Bill Sweetman | AWIN First
Finnish army

マレーシア航空MH17便がウクライナ分離派が軍用機と誤って撃墜した証拠が固い中、アルマズ・アンテイ製のブクM-1地対空ミサイルシステムground-based air defense system (GBADS) への関心が高まっている。
ブクM-1(NATO名称SA-11ガッドフライ(あぶ))は最小限の訓練さえ積めば誰でも操作でき、その威力は致命的損傷を与えられるが、その他のGBADSと異なり安全装置はついていない。世界の紛争地域で見られる旧ソ連製GBADS二形式のひとつでもある。
ブクシリーズは1970年代にティホミロフNIIP(現アルマズ・アンティの一部門)が設計し、2K12 クブKub低高度迎撃ミサイルシステム(NATO名称SA-6ゲインフル)の後継装備とされたもの。
クブはエジプトに輸出され、1973年のヨム・キプル戦争(第四次中東戦争)で威力を発揮した。ただし弱点があり、目標一つにしか対応できない。クブ部隊にはレーダー車両1と発射車両4で構成され、セミアクティブレーダーホーミング (SARH) 誘導が可能。レーダー車にはアンテナが二つあり、探査と連続波による追跡用に分かれ、ミサイルは追跡用アンテナが出す照射に沿って誘導されル設計だった。ただし各部隊に照射装置はひとつのみのためいったん発射したミサイルが命中するまで第二波の発射ができなかった。
レバノン戦争(1982年)でイスラエル国防軍の空軍部隊は囮をクブ等GBADSに向け発射し、クブが囮をロックオンしてしまうとそのあとに現れるイスラエル機に対応できず、逆に破壊されている。
そこでブクの設計ではこの問題を克服しようとした。レーダー車両を一新したほか、発射車両それぞれにXバンドマルチモードレーダーを取り付けている。そこでこの車両は運搬・発射・レーダーの機能をもつTelarになった。戦闘機レーダーと同様にTelarのレーダー(NATO呼称ファイヤードーム)は探査、追跡、照射機能があり、120度の円弧内でスキャンが可能だ。
この機能がMH17便事故の悲劇を招いた可能性がある。ファイヤードームレーダーの一番の役割は多数目標を同時に攻撃させることにある。Telarでは単一目標しか処理できない。ソ連はここにバックアップモードを組み入れTelarsに目標捕捉と攻撃を自動的に行わせることにしている。これはレーダー車両が攻撃を受け使用不能になる想定への対応だった。.
この自動モードはTelar操作員が最後の手段として選択する想定で、発射司令車両に乗るもっと訓練を積んだ操作員は想定外だった。ロシア製レーダーにくわしい専門家によれば、自動レーダーモードは射程範囲内の目標を表示し、操作員はそれを見てロックアップし、照射・命中させる。
ただしバックアップモードは安全装置ふたつを経由せずに使えてしまう。ひとつが敵味方識別装置 (IFF) であり、もうひとつが非友好機識別non-cooperative target recognition (NCTR) モードだ。IFFは専用の照会を航空機に問いかけるもので最新の民間航空基準に適合しているはずだ。
レーダー車両には新型のNCTR処理技術が導入されているとブクの設計者が語っている。NCTR技術は秘匿されているが、777のターボファンエンジンとターボプロップ輸送機やSu-25攻撃機は容易に識別できるはずである。
IFF送信機がブクのファイヤードームあるいは車両に搭載されている形跡はない。通常なら必要のない装置である。なぜなら一般交戦規則により目標の所属が確認できている前提でデータをTelarに送っているからだ。その他のGBADSでは識別機能は主捜索レーダーや指揮命令司令所に任せて発射している。ブクはこの点でIFFやNCTR機能を持っていないところが変わっている。
ブクM1と、その後の改良型M2、M2Eは合計14カ国で運用されており、内戦状態の紛争地にも投入されている。2013年1月のイスラエル空爆は明らかに改良型ブクM2Eの撃滅を狙ったものだった。シリアからレバノン内のヒズボラに引き渡されていた。シリアはブクM2E8部隊を保有していると伝えられ、同時にS-125(SA-3ゴア)40隊も運用しているらしい。S-125も移動可能な地対空ミサイルであるがレーダーは発射部隊に配備されていない。
エジプトも50以上のS-125 隊を有しており、一部は改修を受けているほか、ブクM2E取得も交渉中と伝えられている。イエメンにもS-125装備がある。イラクとリビアのGBADSは大部分が破壊されたと分析されている。



2014年7月26日土曜日

中国病院船の内部はこうなっている



Peace Ark: Onboard China’s Hospital Ship

By: Kyle Mizokami
Published: July 23, 2014 10:28 AM
Updated: July 23, 2014 1:35 PM
Chinese hospital ship Peace Ark. Xinhua Photo
Chinese hospital ship Peace Ark. Xinhua Photo
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「和平方舟」船上でーーーー2012年海軍長官レイ・メイバス Ray Mabus の訪中で人民解放軍海軍PLANを2014年のリムパック演習に招待した。中国は今年のリムパックに四隻の艦船を派遣しており、そのうち一隻が病院船「和平方舟」 Peace Arkである。行程4,915マイルを2週間かけパールハーバーに6月24日に到着している。
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USNI Newsはこのたび同艦の医療部門長Sun Tao上級大佐から取材を許された。Taoは北京軍病院の副院長もつとめる胃腸科医で英語も流暢に話すが、取材では通訳者を通じ、質問への回答に集中した。
View of the gangway to Peace Ark. Kyle Mizokami Photo
View of the gangway to Peace Ark. Kyle Mizokami Photo

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和平方舟はタイプ920級の専用病院船であり、同級はいまのところ姉妹艦がない。建造は広州造船所 Guangzhou Shipyard International Company Limited で2008年12月に就役している。

同艦は大型で排水量は1万トン以上、全長583フィートだ。配属は南海艦隊で浙江省舟山Zhoushan,  Zhejiang province。平時は乗員113名で治療室を20確保している。有事には328名に医療専門員100名が加わる。医療部門は任務に応じて変更可能だ。(災害時、戦時、訓練等)

Sun Tao上級大佐は同艦の任務を次のように説明した。「和平方舟は戦闘時の傷病者の救難と処置にあたる」「平時には医療支援を提供するとともに、人道援助任務にもあたる。また医療関係者にとって研究と研修を行う場所にもなる」

Capt. Tao displaying a plastic model of an ear during a tour of Peace Ark. Kyle Mizokami Photo
Senior Capt. Sun Tao displaying a plastic model of an ear during a tour of Peace Ark. Kyle Mizokami Photo


中国は同艦をこれまで数回にわたり人道援助災害救助ミッションに投入している。2009年には中国沿岸島嶼部の人民解放軍部隊向けの医療支援を、2010年にはジブチ、ケニア、タンザニア、セイシェル。バングラデシュで地元住民向けに展開した。翌年はカリブ海、南米を、2013年には台風の被害を受けたフィリピンへ派遣されている。

同艦は患者を三つの方法で収容できる。一つがヘリコプターでZ-9「救急ヘリ」を搭載し、格納庫着艦パッドを備える。あるいは小舟艇やハンガーバスケットで収容できる。患者収容を措置を迅速に行える設計だ。右舷には重症度判定区画があり、患者は治療方法をそこで判定される。次に患者は医療区画へ搬送される。
The bridge of the Peace Ark. Kyle Mizokami Photo
The bridge of the Peace Ark. Kyle Mizokami Photo


手術室は8つあり、一日で大規模手術40例を実施できる。さらに集中治療室に20ペッドあり、一般病棟は300床ある。医療器具の多くは外国製のようで、とくにオランダのフィリップス製が目立つ。

さらに検査診断施設が充実していおり、X線、超音波、CTスキャンがある。さらに病理標本の検査室があり、婦人科診断室は人道援助ミッションで有益に使われているとの説明だった。

幅広い医療行為を提供し、海上で救難した人員向きには体温低下対応のバッグがある。これは一件寝袋のようだが、低体温症との診断が出た際に中国製血液透析装置とともに使われる。この装置は人民解放軍により艦上であるいは災害地で血液浄化に使える世界初のものと喧伝されている。

Senior Capt. Sun Tao in an examination room on the Peace Ark. Kyle Mizokami Photo
Senior Capt. Sun Tao in an operating room on the Peace Ark. Kyle Mizokami Photo

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「内臓移植以外の治療手術なら本艦はなんでもできる」とTao大佐は自慢する。その中には伝統的な漢方処置もあり、一室を古代からの吸角療法、マッサージ、鍼治療用に充てている。

艦内のネットワーク化、通信能力は充実している。医師は患者の様子を遠隔監視でき、机上のワークステーション上で重要データをいつでも知ることができる。艦内から北京や上海の海軍、陸軍病院とビデオ会議もできる。

病院船である同艦の構造は軍艦の基準では作ってない。艦を放棄する事態が発生すれば特別設計の救難艇に担架18あるいは患者24名をそれぞれ収容する。
A sign onboard Peace Ark in Chinese and English. Kyle Mizokami Photo
A sign onboard Peace Ark in Chinese and English. Kyle Mizokami Photo


艦内の表示はほとんど全部が英中の二か国語になっている。艦には防衛装備は搭載されていないようだった。護衛防御用の小火器は搭載され、衛兵はQBZ-95突撃銃を使っていた。

Tao大佐は同艦のリムパックでの役割は三点あるという。第一に医療専門家として他国の同僚との学術的交流があり、第二は海外医療関係者との合同演習、三番目が7月15日より開始された海上演習だ。

リムパック演習で同艦は米沿岸警備隊の指揮下に入り、カナダ、ノルウェー、シンガポール、オーストラリア、フィリピンの各国との演習が予定されている。中国艦隊は8月4日に帰国する。■



新型海軍用レーダーAMDRはAESA方式で電子攻撃も可能


Raytheon Enters New Phase of Next Generation Radar Development

By: Dave Majumdar
Published: July 24, 2014 7:30 AM
Updated: July 24, 2014 7:30 AM
Artist's concept of a DDG-51 Flight III with AMDR. Raytheon Photo
Artist’s concept of a DDG-51 Flight III with AMDR. Raytheon Photo


レイセオンは対空ミサイル防衛レーダー Air and Missile Defense Radar (AMDR) の事前設計審査preliminary design review (PDR) を完了したと発表。AMDRはフライトIIIのアーレ―・バーク級誘導ミサイル駆逐艦に搭載される。

同時に同システムの統合基本審査も完了したと発表し、PDRが完了したことで同社は技術生産開発 engineering and manufacturing development (EMD) 段階へ進む。

「技術開発段階で技術リスクを解決しており、コスト削減策も実施されていることで、当社はAMDRの生産に本格的に取り組むことができ、技術生産両面の開発の完了をめざします」と同社のけヴィン・ペップ Kevin Peppe,副社長(シーパワー装備システムズ事業部)が発表している。

AMDRレーダー開発が完了すれば、2016年度に建造されるバーク級駆逐艦二号艦から装備される。AMDRは全長14フィートあり、艦橋に現行のSPY-1Dレーダーと同様に取り付けられる。ただしAMDRの性能は革命的と言われる。
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AMDRはアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーであり、窒化ガリウム送受信部を使う。海軍はAMDRの出力をSPY-1Dの30倍、電子インプットは約2倍と期待している。窒化ガリウム技術によりレイセオンはバーク級の船体が有する電力発電量と冷却能力を犠牲にせずにAMDRを搭載できるとする。
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またAMDRではデジタルビームを形成することも可能で、これまで以上に正確な追尾が可能だ。さらにそのままで電子攻撃の道も開ける。これは現行の海軍艦艇には未装備の能力だ。

AMDRの有利なところは縮小拡大が自由な設計なので他の艦艇にも搭載できること。モジュラー構成で送受信モジュールを組み合わせてレーダーにすることが可能かつ用途に応じてへんせいできる。しかし、現時点で海軍にはAMDRを他の艦艇に搭載する予定はない。■


2014年7月25日金曜日

マラバール演習:日米印三カ国海軍演習が25日開始されています


Naval Ships From US, India and Japan To Start War Games

Jul. 24, 2014 - 02:19PM   |  
By AGENCE FRANCE-PRESSE  

TOKYO — 米、印、日の三カ国が一週間にわたる海軍演習を開始する。各国間の連携を深め、自己主張を強める中国の軍備増強を横目に見る中での実施だ。
三カ国の艦艇は25日から合同演習を開始する。前日に佐世保海軍基地で式典が行われている。
マラバール演習Malabar Exerciseの名称でこれまでインドと米国間で実施されてきたものだが、海上自衛隊の参加は2007年以来で三度目になる。
演習場所は日本南方海域で領土を巡る緊張が高まっている地域の後方となる。
中国の影響力がアジアで増大する中、米国はアジア重視を強めているが、中国の軍事力増強が地域内各国の神経をいらだたせている。
「インド、日本、米国は戦略的な権益を共有している」と語るのは早稲田大の山本武彦名誉教授だ。「今回の演習の目的は西太平洋からインド洋まで広がる広大な海洋での海軍作戦の運営にある。各国は海洋交易路を確保する必要があり、中国を視野に入れた演習であると言える。」とコメントしている。
またインドは「真珠の首飾り」と通称されているインド洋周囲の港湾各地に中国がアクセスを得ることは重大な脅威になると警戒視していると同教授は指摘する。
演習では日本とインドの連携強化が注目される。安倍首相はデリーを1月に公式訪問し、二国は「更なる強化」を防衛協力で進め、海上演習を定期的に実施することで合意している。
今回の7月演習にはインド海軍は3隻(フリゲート1、駆逐艦1、補給艦1)、人員800名を派遣するとインド海軍はAFPに伝えており、演習の内容は海賊対策、テロ防止、人道支援、ヘリコプター運用を含むという。
米第七艦隊のほか、海上自衛隊は護衛艦2、US-2捜索救難飛行艇1、P-3C哨戒機1を演習に参加させる。
安倍内閣が広範に防衛力を使えるように憲法解釈を正式に変更して中国は非難を強めている。中国の主張は日本が再び軍国主義に走り、第二次大戦の反省を示していないとするもの。
【ご参考】以下海上自衛隊の発表です。
26. 7. 24
海上幕僚監 部
(お知らせ)
日米印共同訓練(マラバール14)について
海上自衛隊は、次により、日米印共同訓練(マラバール14)に参加します。
1 目 的
海上自衛隊の戦術技量の向上及び参加各国各軍との協力強化の促進
2 期 間
平成26年7月24日(木)~7月30日(水)
3 場 所
四国南方から沖縄東方海域
4 訓練統制官
海上自衛隊:第2護衛隊群司令 海将補 岩﨑 英俊
米 海 軍:CTF70 海軍少将 M.C.Montgomery
インド海軍:東部艦隊司令官 海軍少将 A.K.JAIN
5 参加予定規模
海上自衛隊:護衛艦「あしがら」、護衛艦「くらま」、救難飛行艇US-2、哨戒機
P-3C
米 海 軍:航空母艦 GEORGE WASHINGTON、駆逐艦 J.S.MCCAIN 等
インド海軍:フリゲート艦 SHIVALIK、駆逐艦 RANVIJAY、補給艦 SHAKTI
6 主要訓練項目
対潜戦、対水上戦、対空戦、立入検査、捜索・救難訓練 等


アイアンドーム生産増強に米国防予算の支出を認める


Pentagon Supports Emergency $225M for Israel's Iron Dome

Jul. 23, 2014 - 05:54PM   |  
By PAUL McLEARY
A missile is launched by an Iron Dome battery in the southern Israeli city of Ashdod. The Pentagon is seeking additional funding to speed production of components for the anti-missile system.
イスラエル南部アシュドッドで発射されるアイアンドーム迎撃ミサイル。ペンタゴンは追加予算で製造を加速させようとしている。(David Buimovitch / AFP)

WASHINGTON — チャック・ヘイゲル国防長官は有力議員に書簡を送り、追加225百万ドルでアイアンドーム迎撃ミサイル用の部品製造を加速化させることによりイスラエルが十分な備蓄をもち、ハマスがガザから発射しているロケット弾への防御手段を維持できるように求めている。.
最近になりイスラエルから部品の追加要望が入り、ペンタゴンはこの要請を受け入れ、オバマ政権が2015年度国防予算に盛り込んでいた176百万ドル相当のリストの上位に乗せることにしている。
今年春の会期中に修正案として上下院の国防、歳出両委員会はペンタゴンがもとめたアイアンドーム向け351百万ドル予算を倍増するとしていた。下院は6月に法案を通過させたが、上院は未対応。
下院軍事委員会の重鎮アダム・スミス下院議員Rep. Adam Smith(民、ワシントン州)はこの増額要請を支持しており、「イスラエルにとってハマスのロケット攻撃を遮るのはアイアンドームしかない。イスラエルがアイアンドームを有効活用し、一般市民を防衛できるよう保証したい。ヘイゲル長官はじめとする現政権がこの要請を受け入れたことを称賛したい。同僚議員とともに本会議でこの要請が承認されるように努力する」と書状で回答している。
23日午後には上院歳出委員会委員長バーバラ・ミクルスキSen. Barbara Mikulski,(民、メリーランド州)が上院の非戦闘補正支出案にこのミサイル関連支出が含まれていることを確認している。
「法案では225百万ドルを国防総省緊急補正予算としてイスラエル用に確保し、アイアンドームの追加調達を認めている。現在進行中のイスラエルとガザでの危機的状態で数千のロケット弾がイスラエルの各都市向けに発射されており、アイアンドームはロケット弾に対して有効な防御手段と実証済みだ」と書状で述べている。
ヘイゲル長官は議会指導層に対し、「米国産業基盤の維持はアイアンドーム支持と密接に関係している」と書簡で述べており、米イ間合意で米国内で一部生産すると決まってるためとする。
「しかしながらイスラエル側の評価では米国内の生産が本格化するにはまだ二三年かかり、イスラエルの備蓄不足を補えないとしている」
そこでアイアンドーム向け支出増額案に加え、下院軍事委員会は数億ドルをイスラエルのその他ミサイル開発にも支出するよう求めている。130百万ドルをアロー Arrow に、137.9百万ドルをダビデのスリング David’s Sling 向けとなっている。
「2015年度国防予算支出承認法案には600百万ドル以上がイスラエルのミサイル防衛に振り向けられており、米国は10億ドル超をアイアンドームの誕生から今日まで提供している」とスミス議員は述べている。 ■

2014年7月24日木曜日

中国空軍を理解するためのキーワード10


China Flies

JULY 2014
BY REBECCA GRANT
10 things Americans need to know about the People’s Liberation Army Air Force.

今日の中国空軍は冷戦時のソ連空軍の規模、錬度には到達していないが、アジア各国は拡大を続ける中国海軍・空軍との遭遇が増えそうだ。
「中国は南シナ海で高圧的外交をたくみに展開している」と論ずるのはオリアナ・スキラー・マストロ Oriana Skylar Mastro (ジョージタウン大教授、空軍予備役)で、三沙島に駐屯地を設置したのも上層部の直接の指示による意図的な動きだと解説している。
これは中国による防空識別圏設定(2013年)や同年12月の巡洋艦USSカウペンスが中国護衛艦により妨害を受けた事件以前に発生している。
人民解放軍空軍PLAAFおよび小規模の海軍航空隊、陸軍航空隊は急速に変貌を遂げている。米空軍はその実態の把握に懸命である。以下は現時点でのPLAAFに関し知っておくべき10事項である。

1. 日本付近を飛行している
中国機が東シナ海上空に飛行すると日本がすかさず反応する。中国機へのスクランブル回数は2009年の38回から2013年は415回に急増。2013年9月8日にはH-6爆撃機2機が宮古島と沖縄本島の間を飛行している。H-6は旧ソ連のTu-16バジャーが原型だが、大幅改良されており、数百マイル射程の空中発射巡航ミサイルを発射でき水上艦あるいは陸上の固定目標へ有効な攻撃手段となる。日本の防衛省は同上爆撃機の飛行経路を公表する異例の措置に出た。
ハーバート・J・「ホーク」・カーライル大将Gen. Herbert J. "Hawk" Carlisle(太平洋空軍PACAF司令官)は日米安全保障条約を重視し、中国の飛行活動増加に対抗出来るのは米国の存在だとする。先月も航空自衛隊と中国空軍の小競り合いが報道されていたが、今回は危険なほど機体が接近していた。たびかさなる遭遇で東シナ海上空は高リスク空域になっている。
「中国は日米が強力な友好関係と同盟関係で結ばれて両国の共同対処も見ている。そこで両国はこの地域の安全と安定のために脅威に対応していく」とカーライルは今年4月の朝日新聞に述べている。

2. 中国は歓待する 
米空軍参謀総長マーク・ウェルシュ大将 Gen. Mark A. Welsh III,はカーライルおよびジェイムズ・コディ空軍最高級曹長 CMSAF  James A. Cody を伴い2013年末に訪中し、「大変厚遇された」と帰国後語っている。
米空軍訪中団は誘惑攻勢を受け、ウェルシュは「中国空軍参謀総長馬暁天Ma Xiaotianは主人役をいかんなく発揮した」と述べている。中国が米空軍参謀総長を招いた前回は1998年でPLAAF司令官の訪米は1997年以降途絶えている。
その間にPACAF司令官(当時)ポール・ヘスター大将が2007年に訪中し空軍基地二か所を視察している。へスターはSu-27とFB-7全天候超音速中距離戦闘爆撃機を見ている。「まだわかっていない機体がたくさんあり質問の答えも得られていない」とへスターは感想をホノルルアドヴァタイザー紙に述べている。「中国軍の方向性について尋ねたが明確な答えは得られなかった」
カーライル大将(2009年にPLAAF設立60周年式典に参列)も米中関係の絡みで感想を述べている。朝日新聞に対し「中国側との対話で理解が深まる。中国側にもこちらの理解を深める効果がある。今後良い方向に影響力を与える可能性がある」と述べている。
ウェルシュも訪中後に「最大の結果は相互意思疎通ができるとわかったこと。誤解を防ぐための協力で事故を回避できる。軍組織同士の交流は今後の米中関係の柱になると思うし、両国をつなぐ役目があると思う」と述べている。
ただし注意が必要だ。米太平洋司令部との交流が例だ。人民解放軍が太平洋軍に接触するのは中国の関心事に合致する場合あるいは太平洋軍が参考になる教訓を提供できる場合だ、と専門家は指摘。だが中国の地位が向上して外部との接触への態度が変わってきた。現在のPLAはPACOMをどうやって打破するかに関心があるのだという。

3. 他国の空軍関係者を歓待する .
中国空軍は自ら外遊するよりも訪問者を迎えるほうが良いらしい。
各国軍との交流回数は2001年から順次増加していると中国専門家ケネス・アレンは指摘している。アレンは空軍退役将校で中国駐在空軍武官補をつとめており中国空軍の内側に詳しい第一人者とされている。その観点は装備ではなく、人員、組織および訓練に集中している。
活動がさらに活発化している。アレンによるとPLAAF教練大学校に中国以外41か国のパイロットも参加し戦術、戦闘方法などを学ぶコースが開催されているという。参加したのチリ、パキスタン、フィリピン、サウジアラビア、シンガポール、ヴェネズエラ等。
同様にカーライルも「参加各国がそれぞれ中国と二国間関係を有していることに注意が必要だ。通称相手でもあり、経済関係、文化のつながりが多岐にわたっている」と注意を喚起している。

4. 陸上部隊の脇役を務めている。今のところは。.
中国によればPLAAFの部隊規模は398千人で軍全体の17%相当にすぎない。
PLAは「陸軍中心の価値観」を有するとアレンは言う。各国駐在の大使館付き武官は大多数が陸軍将校で情報関係が専門だ。人民解放軍は党の中央軍事委員会(CMC)に隷属する組織であり、国防省の下にあるのではなく、国家の意思で動く組織でもない。CMCの構成は軍人10名と文民一名だが主体は陸軍出身者でこのCMCが軍の近代化を取り仕切っている。
PLAAFが加わったのは比較的新しく2012年で、そのうちひとりが馬参謀長で、もうひとりがまもなく退官する許其亮 Xu Qiliang空軍司令官でCMC副委員長を務めている。
このうち許はCMCの陸軍高官と並ぶ位置に上った最初の空軍関係者で遠慮しないしゃべり方をする戦闘機パイロットでもあり、中国が対衛星攻撃手段はじめ宇宙での支配を強める能力を開発し、宇宙へのアクセスを確保するべきだと主張している。(中国では宇宙開発は陸軍の主管事項) さらに許は紛争が空から宇宙へ拡大するのは「歴史的必然性」だと公言しており、マルクス主義の影響を受けたしゃべり方をしている。
中国軍事組織で最高の地位をほこる場所に空軍関係者2名の座席が確保されたのは中華人民共和国建国以来初めてのこと」と中国ウォッチャーは2012年に寄稿している。「陸軍の60年に及ぶ支配が緩む兆校とみる向きが多い」

5. 実戦経験は浅い
許と馬の二人はPLAAFの空軍力をより遠隔地で共同運用で広げようとしているようだが、最大の障害は中国の戦闘体験の欠如だろう。 「PLAAFが空対空戦をしたのは朝鮮戦争と1958年の台湾海峡危機の二件しかなく、後者に至っては数日しか続かなかった」(アレン).
防空部隊には最近の経験はなく、「一番新しいSAM運用はベトナム機が誤って国境を越えて飛行してきた1987年の事件」だという。

6.  近代戦史を学んでいる
実戦経験の不足を近年の作戦事例を学ぶんで補おうとしている。カーライルも訪中して中国指導層が改善に真剣な姿に気づいている。
「砂漠の嵐作戦を研究しており、旧ユーゴスラビアでの事態の推移、イラクの自由・不朽の自由作戦も研究している」とカーライルは帰国後の取材に答えている。西側諸国の圧倒的な空軍力は中国にとって改善の鍵だ。「研究して合衆国や西側より戦略的に不利だとわかったのではないか」
「実戦経験に乏しいPLAが一層深い分析と研究でこれを補おうとする」大将は米国はじめ各国の戦闘手法だと陸軍大学校が出版したDean Chengの論文(2011年)が解説している。その中で中国側に強い印象を与えたのは高性能技術体系、統合作戦の実施、広範囲な地域を網羅する指揮統制機能、弾薬消費の高さであったという。

7. 世界規模で活動を拡げようとしている
中国が初めて長距離航空作戦の実施に踏み切ったのは2005年のことで、747機に104トンの救援物資を積み込みハリケーンカトリーナの被災者向けにリトルロック空軍基地(アーカンソー州)に届けた際のことである。「異例のことだった」と米空軍ジョセフ・リーハイザー准将が新華社通信に発言している。「歴史家ではないが、中国が米国に救援物資を空輸してきた事例は思いつかない」 
2010年にはSu-27分遣隊がトルコのコンヤ空軍基地に到着し、トルコのF-4と合同訓練を実施している。これは
PLAが派遣部隊を創設する第一歩の動きだとみる向きもある。
2011年にはさらに加速し、2月から3月にかけPLAAFはIl-76部隊を派遣し、リビアから中国国籍市民1,655名をスーダンへ運び、287名が中国本土に戻っている。
国際救難活動への参加はその後増えており、パキスタン洪水にIl-76を4機、、翌月は3機がタイへ派遣されている。.
台風Haiyan(30号)がフィリピンを2013年襲ったが、中国の救援活動は大幅に遅れた。またマレーシア航空MH370 の行方不明事件でも精彩を欠いた活動を展開したにとどまっている。

8. 大家族
PLAAFは組織構成上から内向き志向になっている。人民解放軍には独特の社会力学があり、軍事組織というよりも同居家族の様相を示している。1949年の建国以前に毛沢東の部隊に加わった人々が教育機会を得て、糧食も優先的に与えらえ、その後PLAになった組織内で昇進昇級を重ねてきた。
中国の兵員は同一部隊で職歴を積むのが通例で、強固な人間関係を育てることが多いとアレンは指摘する。
搭乗員も一機ずつに配備され、パイロットも一機種せいぜい二機種を操縦することが多い、とアレンは説明する。中国製航空機は手作りで製作されており、搭乗員、パイロットは各機の装備を裏も表も学ぶことになるという。
驚くべきことに中国パイロットは一度配属されると基地を移動しない。アレンは航空隊司令に相当するものがタキシ―から離陸まで含むフライト業務を詳細に管理しているという。部隊は機種別に編成される。しかし最近のPLAAF組織改編により異機種での訓練機会の道が開けた。一部の部隊では「パイロット自治権」として飛行計画を自ら作り、訓練空域内で「航空戦自由演習」が認められているという。これは進歩のあかしかもしれない。

9. 空中発射型巡航ミサイルを訓練している.
弾道ミサイルは空母キラーといわれるDF-21も含み、第二砲兵部隊 Second Artillery Force に所属し最大限の配慮を受けている。しかしPLAAFも長距離巡航ミサイルを搭載する航空機を有している。
「PLAの接近拒否領域拒絶(A2/AD)戦略への投資の中心は高精度対艦巡航ミサイル (ASCMs) と陸上攻撃巡航ミサイル (LACMs) を大量に生産配備することであると2014年の著作「低視認兵力拡大手段」(著者Dennis M. Gormley, Andrews S. Erickson,Jingdong Yuan)は述べてい
その成否を握るのが空中発射型ミサイル運用の習熟度であり、超音速で低高度飛行するレーダー断面積が小さい巡航ミサイルで敵の防空網や監視体制に揺さぶりをかけることが可能だから、と前掲書は解説している。

10. 長距離・長時間飛行を実施している
ウォールストリートジャーナル紙は2013年11月にPLAAFのパイロットの飛行時間が米国パイロットの飛行時間を上回っていると指摘している。これは一つには米国で予算の強制削減があったからだが、実際に中国パイロットは飛行時間を伸ばしている。問題はその結果中国が何を艇に入れているかだ。
PLAAFによる特異な人材獲得・訓練方法は西側を驚かせてきた。PLAAFは高卒相当の人材を採用し、一部の地方出身者や女性または大卒はパイロット候補から外している。
実践的な訓練は増加している。「海軍航空隊とPLAAFは海上での巡航ミサイル発射訓練を夜間想定含め艦船目標に行っている」と前掲書は述べている。
PLAAFと海軍航空隊はともに拡大拡張していくとの見方が強い。性能面だけでなく、訓練、戦術、組織攻勢さらには価値観での話だ。今後発生する変化が太平洋の均衡にどんな影響を与えるか注意深く観察する必要がある。
「中国の大目標は気づかれないうちに地域内覇権国家になることで既成事実の積み上げを図る」と分析するのは米空軍の戦略立案計画部門のアナリスト、カール・D・レーバーグCarl D. Rehbergである。
中国指導部も自国経済の安定度は国際制度と絡み合っていることを理解しつつある。これは中国指導部には「未知の分野」であるとされ、「中国の歴史上、ここまで国際制度に組み込まれた前例はない」という。
カーライルはPLAの発展を次のように表現している。「これまで行ってきたのは自らのデメリットを正すことで、より良い戦略的な地位に自らをおくことである」と朝日新聞の取材に答えている。「明らかにこの方向に向かっているものの、同時にわれわれも同じ努力をしている」
レベッカ・グラントは空軍力研究の専門家で、研究機関IRIS In-dependent Researchを主宰