エスパー国防長官の削減策が355隻規模の艦隊を必要とする海軍に影響を与えそうだ。
355隻体制の実現は易しい仕事ではない。だが海軍首脳部がこの規模を実現すると約束してから3年たつが行方は一層不明瞭になってきた。
昨年12月には事態はまだ順調に見えた。海軍と海兵隊は共同で初の「統合戦力構造評価」に着手するとの発表があった。トーマス・モドリー海軍長官代行は355隻規模実現を10年以内に達成すべしと目標設定した。だが数週間後に海軍作戦部長に就任したばかりのマイケル・ギルディー海軍大将から異例の発表があり、追加予算数十億ドルが必要とし、政権側が望む戦力増強がいかに常軌を逸しているかを示していた。
ペンタゴンの2021年度予算要求が先月に議会に回されたが、艦艇建造予算は40億ドル減額となり、当初の5か年計画から11隻減っている。造船産業を抱える国会議員はこれに動揺し、一斉に要求案を非難し始めた。
An unarmed Trident II missile launches from the USS Maine (SSBN 741) off the coast of San Diego, California, Feb. 12, 2020.
Navy / Mass Communication Specialist 2nd Class Thomas Gooley
さらに海軍海兵隊戦力評価が出るのが「今春のいつか」に延期された。つまり評価内容は2021年度予算公聴会には間に合わないことになる。結果は2022年度予算編成に参考となりそうだ。「海軍は355隻規模の目標にとらわれつつ、予算削減の中で数勘定の方法論から自由になっていない」とCSISアナリストのマーク・キャンシアンとアダム・サクストンは指摘している。
ドナルド・トランプ政権では政府のあちこちに大変な事態が発生している。海軍では上院承認を受けた長官が不在のままだ。モドリーは2017年に海軍次官の承認を受けたが、11月に長官代行に任命されたのはリチャード・スペンサー前長官がネービーSEAL元隊員の恩赦を望むトランプ大統領の意向に応じず罷免されたためだ。
モドリーの次官としての最大の功績は海軍内部の教育体系の再整備だろう。その手始めが一年前に発表され、海軍の各種学校を「海軍総合大学」に再編し、中将を最高訓練責任者に任命し、民間出身者を「最高学習責任者」とした。後者がジョン・クローガーでリードカレッジ前総長だ。クローガーは1月に海軍の「三大知的課題」として将来の戦力構造の企画、変革に取り組む姿勢、艦艇の調達をあげていた。
モドリーは長官代行となり、毎週のように内部メモを発出し組織運営にあたっている。最初の12月6日付けでは三つの目標を掲げた。海軍の戦力構造、知的作業と倫理、さらにデジタル近代化である。その後追加しているのは予算と日程が想定を超えているUSSフォードについて「可能な限り早期に軍艦として準備させる」とし、太平洋諸国とのかかわりを強化し、海軍教育体系や情報管理に「予算満額」を手当てし、水兵の住宅問題を解決するとしていた。
An F/A-18F Super Hornet flies over the Indo-Pacific region on Jan. 29, 2020.
Navy / Lt. Alex Gramma
モドリーの1月15日付けメモでは355隻(以上)の艦艇整備案で通常の艦艇に加え無人潜水艦も含めるとした。現実の制約条件を見るとこの構想も変更を余儀なくされよう。
制約の一つにマーク・エスパー国防長官がロシアまたは中国との対決への準備に焦点をあてていることがある。モドリーもペンタゴンの将来戦構想で有望な新型兵装の開発に熱心で、次世代戦場通信ネットワークや極超音速ミサイルがある。だが米国の安全保障構想では海軍の役割として世界の海上交通路の守護にこれまで依存しており、同時に自然災害時の人道救難業務でも海軍に期待するところが大きい。だがエスパー長官のめざす大国間戦闘に向けた「無慈悲なまでの優先順位付け」でこうした従来型任務がどこまで削減縮小されるのだろうか。
その答えがまもなくわかりそうだ。海軍が355隻目標を実現するには無人装備まで勘定に入れる必要がある。エスパー長官は355隻構想を支持するとしながら、小型かつ「軽装備」の無人艦艇が今後増えると見ている。だが変化はそこにとどまらない。陸軍長官としてエスパーは250億ドル規模の予算を「夜間法廷」として知られる大胆な見直しで再編成した。これと同じボトムアップ手法をペンタゴンに持ち込み、「これまでで最大の国防改革を目指している」とヘリテージ財団のマッケンジー・イーグレンは見る。
Ships assigned to Destroyer Squadron (DESRON) 23 transit the Pacific Ocean, Jan. 22, 2020.
Navy / Mass Communication Specialist 3rd Class Erick A. Parsons
エスパー体制で精査が始まっており、海軍が2021年度予算要求を公表した翌週にモドリーから急きょ「最低でも400億ドルの予算節減策」を「今後六週間かけて」模索するとの発表が出ている。そのメモでは戦力戦略検討」とモドリー自身が呼び、現行の海軍予算が2,056億ドルの中で400億ドル節減を2022年から2026年にかけ実行するとあるが、艦艇建造にも影響が出そうだし、海軍の任務で重要度が低いあるいは効率が悪い分野が廃止になるかも知れない。
ただし、最終決定は議会にゆだねられる。エスパーやモドリーがめざす海軍建造計画や予算削減を議員がそのまま認めるだろうか。反撥を示すだろうか。 ■
この記事は以下を再構成したものです。
State of the Navy
By Bradley Peniston
defenseone.com/feature/state-of-defense-2020/#navy
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