米軍で画期的な戦力がそろうまでの「つなぎ」として既存装備品をどこまで独創的に活用するかが問われています。それが分散戦力構想であり、輸送機を攻撃任務に使うラピッドドラゴンであり、空母で運用すればさらに「距離の横暴」を克服できるという発想ですね。いつまでたっても抑止力の概念を理解できない向きはこうした米国の動きを好戦主義の表れと勘違いの非難をするのでしょうね。Sandboxxのホリングス氏による興味深い記事をご紹介しましょう。
中国を打ち負かすには、C-130を空母に戻す必要がある
中国との軍事衝突の抑止をめざし、各種の新規システムやプラットフォームが実用化に向け動き出しているが、米国の戦略的優位性を維持するためには短期的な抑止力が必要だ。1960年代からある知名度が低いC-130プログラムと、空軍研究本部から出てきた近代的な取り組みを組み合わせれば、まさにそれが実現する。
構想では、米海軍の空母から運用されるC-130輸送機の後部から、パレット発射装置により数十発の低探知性の巡航ミサイルを発射する。
フランク・ケンドール空軍長官は、アメリカが大国間競争から中東での非対称紛争へと移行したことにより発生した、数十年分相当の技術的、運用上の萎縮を元に戻すことをねらい、アメリカ空軍と宇宙軍の抜本的な見直しを発表する予定だ。ケンドールをはじめとする両軍の上級指導者は、部隊構成、配備ローテーション、兵器やプラットフォームの購入、さらには任務遂行能力を有する要員の訓練まで再編成する予定である。その目的は、米国の航空戦力が戦争に勝つ必要がまったくないほどの強力で不吉な抑止力として、敵に位置づけることである。
堂々とした存在感だけで敵対するものを抑止することができるのだ。しかし、そこに至るまでには大規模な事業が必要であり、その理由を説明することは、頻繁にコメントを寄せる少なくとも2つの異なるグループを怒らせるに違いない。
アメリカの国防費が肥大化し、無駄が多いと考える人たちは、アメリカの国防予算のドル額が(インフレのおかげで)増え続けているにもかかわらず、今日のアメリカの国防費は、国内総生産(GDP)比率で、冷戦時の大部分よりも少ないと説明すれば、憤慨するはずだ。実際、もしアメリカの国防費が1960年代の最盛期と同じ割合ならば、2023年の国防予算は2兆5,000億ドル超だったはずだ。
冷戦時代と同じような地政学的環境での抑止力にはお金がかかる。だから、21世紀の対中軍拡競争の結果が、ソ連に対する軍拡競争の平和的な終結と同じであることを望むのであれば、国民は、プログラムが発表されたり、さらに悪いことに頓挫や遅延に見舞われても、集団的なステッカーショックを乗り越える必要がある。
同じコメントをしている人たちは、アメリカの国防予算はすでに以下の10カ国、あるいは20カ国の合計よりも大きい、と主張するだろう。真実は、そのような数字は自己申告であり、透明性や監視が制度的に欠如している国では、軍事費の真実を語らない傾向があるのだ。直近の専門家による評価では、中国の実際の軍事費は年間7000億ドル以上とされている。
さらに、筆者が支出増が必要になるのは、現在の軍隊が次の戦争ではなく、最後に戦った戦争で勝てる想定で編成されていると説明するとアメリカが潜在的な敵対国に打ち勝つことができないかもしれないという考えそのものに、個人的に深い不快感を抱くアメリカ的例外主義を行使する向きは怒るだろう。現在のアメリカ軍は、太平洋戦線で中国に戦闘機対戦闘機、ミサイル対ミサイル、艦船対艦船で対抗できない。アメリカの広大な軍事機構は膨大だが、多くの点で、重大な防衛義務を果たさないまま、ひとつの紛争にすべてを割り当てることはできない。ウクライナ、紅海、ガザなど、ここ数カ月で見られたように、紛争が勃発するのは、資源が手薄になるまで待ってはくれない。
つまり、太平洋における戦闘の前提は、米軍全体対中国軍全体......ではなく、アメリカが戦域に送ることができる資産と戦力対中国軍全体ということになる。
中国が10年にわたり、世界各地の紛争におけるアメリカの戦闘戦術をつぶさに観察し、観察されたアメリカの能力に匹敵するのではなく、むしろ特定された弱点を利用することを目的とした兵器システムを開発してきたことで、こうした課題は悪化の一途をたどっている。戦争の基本的な真理のひとつとして、軍事能力を設計、開発、構築するよりも、損傷、破壊、劣化させる方がはるかに安上がりだということがある。中国は何年もかけて、アメリカの鎧兜に目を通し、弱点を探し、その弱点を直接狙う戦略や兵器システムを考案してきた。
これは筆者だけの評価ではない: 今日、国防総省内では、まさにこのような意見を唱える国防当局者の大合唱が起こっている。空軍がここ数十年で最大の大改革を迫られているのは、まさにこのためなのだ。
「習近平は軍部に対し、2027年までに台湾侵略の準備を整えろと言っている」とフランク・ケンドールは1月のインタビューで語った。「中国は思考力があり、十分な資源を持つ敵対国だ。彼らは今、私たちが言おうとしていることを考え、それをどのように打ち破るかを考えている。だからこそ、我々は再最適化を図らなければならない。我々はレースの真っ只中にいる。ただ勝てばいいというわけではない。先手を取るために実際に行動しなければならないのだ」。
数十年にわたる技術的停滞と、寛容な環境での戦闘作戦を経て、アメリカの航空戦力の近代化を目指した取り組みが進行中である。新型ステルス制空戦闘機、新型ステルス爆撃機、そして「協働戦闘機」と呼ばれるAI搭載の各種ドローンは、いずれも活発に開発が進められており、2030年代には実用化されるとの予測がある。しかし、最も楽観的なスケジュール(と予算予測)でも、これらのプラットフォームが実用化されるのは、おそらく今後10年の半ばになると想定されている。そのため、空軍の現状と、空軍の計画担当者が必要と考える現状との間には、10年以上のギャップがあることになる。
繰り返しになるが、対処すべき欠点を指摘することと、アメリカの戦闘能力や戦闘能力を否定することは違うと理解することが重要だ。もし今日、戦争が勃発したら、アメリカの軍人はこれまで通り、戦い、適応し、勝つ方法を見つけるだろう。しかし、そのような血なまぐさい紛争に勝利しても、勝利の実感はないだろう。例えば、戦略国際問題研究所が実施した戦争ゲームによれば、中国が台湾侵攻した場合、アメリカの勝利はほぼ確実である...しかし、最良の結果でも、少なくとも1隻、場合によっては2隻の数十億ドルの空母、数千名の軍人の命、長距離ミサイルによって滑走路で失われた航空機多数が犠牲になる。
簡単に勝利できる戦争でさえ、血で血を洗う茶番であり、私たちは必要な場合にのみ容認すべきである。ならば、最善の結果は、そのような戦争が勃発しないよう抑止することである。完璧な世界であれば、外交だけでそれを実現できるだろう......しかし、外交は往々にして、広く迫り来る軍事的な影を投げかけて初めて効果を発揮するものなのだ。
(国防総省の資産を使ってアレックス・ホリングスが作成したグラフィック)
ミッチェル・インスティチュートが最近実施した、CCAまたはAI対応ドローンとも呼ばれる協働型戦闘機の戦略的・戦術的利用の可能性を評価する戦争ゲームでは、3つの「ブルーフォース」(アメリカ側)チームすべてが、低~中コストのCCAドローンを大量使用し、中国の対アクセス/エリア拒否戦略の最も鋭い部分を鈍らせた。
チームが採用したコンセプトと方法論はすべて、無人機をさまざまな機能で使用し、滑走路が不要のロケット推進発射や大型爆撃機からの展開など、さまざまな方法での発射を想定していた。このコンセプトは、長距離巡航ミサイルや弾道ミサイルを使って現地の滑走路を一掃し、アメリカの航空母艦を寄せ付けないという中国の戦略を相殺する意図だ。アメリカの航空機は、より離れた基地からの運用を余儀なくされ、カバーすべき距離が長くなり、出撃率が相当低下するため、防空は単純となる。
この航空戦力の大量投入戦略はまったく健全に思えるが、それは2030年の紛争というアイデアと、現在からその時までの間の防衛予算が前提であり、それだけの予算があれば、高度AIを搭載した無人偵察機や第6世代戦闘機部隊を迅速に獲得することができる。
CCAレンダー(ボーイング)
では、もし米国が2030年までにこれらすべてを実戦配備できない場合は、このような紛争は何を意味するのだろうか?
中国が米軍の戦闘作戦のやり方を注意深く観察し、そうした標準的なやり方を正確に緩和することを目的とした武器、システム、戦術を開発しているとすれば、中国との衝突を抑止するには、米軍が今日、すでに利用可能な武器やプラットフォームを使い、実証済みの技術に依存しながらも、驚くような新しい方法で迅速に適応する能力を実証する必要がある。
そのような可能性のひとつは、以前にも取り上げたことがあるが、重装備のステルス爆撃機B-21レイダーに長距離レーダー誘導空対空ミサイルを搭載することで、近代的な戦闘機と爆撃機の境界線を曖昧にすることである。B-21は、中国との紛争において重要な役割を果たすだろう。 中国沿岸に十分接近し、高度な情報・監視・偵察(ISR)スイートを活用し、長距離対艦ミサイル発射基地を発見・特定し、後続のB-21が破壊し、空母打撃群が中国沿岸に接近する道を開く。レイダーにある程度の空対空能力を追加すれば、さらに強力な脅威となり、自己防衛だけでなくステルス・ネットワーク化されたミサイル・トラックとしての役割を果たすことができる。
しかし、B-21でさえも、現在および近い将来の抑止力として頼るには遠すぎる。中国をうまく抑止するためには、既存装備品を使い創造的になる必要がある。
だからこそ、ついに伝説のC-130ハーキュリーズがアメリカのフラットトップのデッキに戻ってくる時が来たのかもしれない。
ハーキュリーズが海に飛び立ったとき
James Flatley III lands a KC-130 Hercules aboard the USS Forrestal. (U.S. Navy photo)
1963年、米海軍は、当時使用されていたC-1トレーダーのような「空母艦載機輸送」(COD)機より大型の貨物機による空母補給の可能性を探ろうとしていた。そこで幅広い能力を持つC-130と海軍のF-4パイロット、ジェームズ・フラットレー3世中尉(当時) then-Lt. James Flatley IIIに注目した。
筆者は数年前、今は引退したフラットレー提督とこの信じられないような演習について話す機会に恵まれた。同演習がクレイジーに聞こえるなら、本人にとってもクレイジーに聞こえたことを知るべきだ: 海兵隊のKC-130Fを改造しボストン沖500マイルのUSSフォレスタルの飛行甲板に着艦させる任務だと最初に聞いたたとき、海軍作戦部長が冗談を言っていると思ったという。
彼のKC-130は、空母着艦を試みた史上最大かつ最重量の航空機となったが、着艦用のテールフックはついていなかった。地上クルーは機体側面に "Look ma, no tail hook "とペイントしたほどだ。機体に加えられた唯一の改造は、翼下の給油ポッドを取り外し、小型のノーズ・ランディング・ギアと横滑り防止ブレーキ・システムを取り付けたことだけだった。改造は安全性を向上のためだった。
1963年10月3日、フラットレーと副操縦士、フライトエンジニア、ロッキードのテストパイロットは、40ノットの向かい風を受けながら、初の空母着艦を試みるため出発した。空母に乗っていたロッキード主任技師によると、フォレスタルの艦首が、大西洋の荒波で、少なくとも30フィート上下にピッチングするのを見ており、フラットレーの着陸をより緊張したものにしたという。
James Flatley III takes off in his KC-130 Hercules from the USS Forrestal. (U.S. Navy photo)
しかし、そのような状況にもかかわらず、フラットレーは巨大な貨物機をフォレスタルの飛行甲板に正確に降下させ、空母の管制塔を翼の先端で15フィート弱の誤差で外した。そこからフラットレーは、21回以上も空母着艦を行い、さらに21回、85,000ポンドから121,000ポンドまでの総重量でアシストなしで発艦を行った。一度コツをつかむと、フラットリーは1,000フィートの空母に満載のC-130を着陸させ、わずか460フィートで完全停止させた。同じ重量での発艦に必要な距離はわずか745フィートだった。
ロッキードのテッド・リマーが後に回想しているように、これらの飛行のいくつかで、フラットレーはC-130を短距離で着艦させ、停止したところから再び発艦さえやってのけた。すべてハーキュリーズの自力によるものだった。
結局のところ、フラットレーの成功は、25,000ポンドもの大きなペイロードを2,500マイルも離れた空母まで運ぶことが可能であることを海軍に認めさせ、航空機部品、軍需品、その他空母が戦闘にとどまるために必要なあらゆるものを運ぶことができる、完全に実現可能な重量物運搬用COD機となった。とはいえ、この作戦は、小型の専用機に頼るよりもはるかに危険であり、また当時は、航行中の空母に大型のペイロードを運搬する差し迫った必要性もなかった。そのため、海軍は学んだことをそのままポケットにしまい込んでしまったのだ。
James Flatley’s KC-130 aboard the USS Forrestal. (U.S. Navy photo)
この話は公式にはここで終わっている。しかし、筆者が提督とフォレスタルにハーキュリーズを着艦させたときの話をしたとき、提督はもうひとつ興味深い背景を付け加えてくれた。筆者の考えでは、C-130のCOD訓練は、CIAと海軍が空母からU-2を飛ばそうとしてきた努力に似ている。しかし提督は、この能力は単に海軍が実験的に開発したもので、埃をかぶったまま棚に放置されているようなものではない、とかなり強気だった。
特に太平洋戦争が勃発した場合、ハーキュリーズが艦載機任務に復帰する正当な理由があるかもしれない。
提督は、ニミッツやフォード級のような、より近代的なスーパー空母でC-130運用がより容易になると強調した。実際、必要であれば、これらの空母は複数のC-130を支援できるだろう、と彼は述べた。
Rapid Dragon render (AFRL)
C-130でラピッド・ドラゴンを展開せよ
中国の裏庭で中国と戦争をするには、米国が中国のA2/AD戦略の骨格となる対空・対艦能力を低下させるため大量の航空戦力が必要だ。最近の戦争ゲームでは、紛争が勃発するまでに十分な数のCCA機が存在する仮定に基づき、低・中コストのCCA機がこうした目的に使用された。しかし、このような新しいプラットフォームが登場する前に紛争が勃発したら、すでに生産中の兵器を使って同様の能力を発揮できるシステムがすでにテスト中である。
それが「ラピッド・ドラゴン」プログラムだ。
空軍研究本部のラピッド・ドラゴン・プログラムは、簡単に言えば、パレット化したミサイル発射システムで、C-130やC-17がスタンドオフ・レンジから大量の低被探知性巡航ミサイルを発射できるようにするものだ。C-130では1パレットあたり6発、C-17では1パレットあたり9発のミサイルを積むモジュール式のパレット化弾薬システムが想定されている。パレットは、AGM-158 Joint Air to Surface Stand-off Missile (JASSM)を搭載するために設計されたが、より射程の長いJASMM-ERやAGM-158C Long Range Anti-Ship Missileも配備できるのは当然である。
パレットは空中投下貨物と同じように機体後部から繰り出される。一旦展開されると、パラシュートが開きパレットを安定させ、搭載された制御システムがミサイルを発射し、1,100ポンドの炸裂弾頭を陸上または海上の標的に投下し、500マイル以上(潜在的には600マイル以上)のトレッキングを開始する。
(AFRL graphic)
ラピッド・ドラゴンのテストに使用された空軍の最新型C-130Jは、最大6パレットまで搭載可能だが、ミサイルの重量が1発2,250ポンド(約3.5kg)以上あるため、C-130Jは2パレット、それぞれ6発のミサイルを搭載し、合計12発のミサイルを搭載するのが限界だろう(大型のC-130J-30であれば、1回の出撃で3パレット、合計18発のミサイルを搭載することが可能だろう)。
C-130Jの推定航続距離は、同程度のペイロードだと約2071マイルであり、戦闘半径は約1000マイルとなる。JASSM-ERの最大射程は500~650マイルと報告されており、これを考慮すると、現在のC-130は空中給油なしで1,500マイル以上離れた目標を攻撃できることになる。
中国は、台湾とフィリピン一部を含む「第一列島」全体で米軍の滑走路の攻撃を目標としているため、ラピッド・ドラゴンで中国の海岸線防衛を危険にさらすには、この程度の射程距離の延長では不十分かもしれない。(ただし、LRASMで武装した場合は、貴重なシップハンターになる可能性はある)。とはいえ、C-130が中国のDF-ZF極超音速対艦ミサイルの到達距離1,000マイルのすぐ外側を航行する空母に着艦すれば、素早く燃料を補給し、弾薬を配備して撤収することができる。重要なのは、これでも中国の長距離対艦弾道ミサイルの一部が射程に入るということだ。しかし、この距離では、命中させるために必要なキルチェーンは極めて強固なものでなければならず、空母打撃群には弾道ミサイルを迎撃する能力は十二分にある。
Chinese air and anti-ship defense ranges. (Congressional Budget Office)
これらの攻撃をB-21レイダーによるISRや爆撃作戦、また交戦範囲外で作戦行動しているB-52爆撃機によるADM-160ミニチュア空中発射デコイの一斉射撃と連携させれば、C-130のラピッド・ドラゴン・パレットは、低コストで効果の高い手段となり中国の防衛を圧倒する能力が実現する。
しかし、最新のC-130Jは、従来の仕様よりも重く、より強力であるため、空母の甲板から運用できる確実性は低くなっていることを理解することが重要だが、フラットレー提督は運用できると確信しているようだった。
この方法は万能策ではないし、紛争は血なまぐさく残忍なものになるだろう。この能力を実証する真の価値は、必ずしも戦争で中国に対抗することではなく、より強固で技術的に進んだ手段が出現するまでの間、中国の侵略に対する抑止力の代用として利用することだろう。
簡単に言えば、太平洋で空母からC-130を運用すれば、中国の既存の戦闘計算のバランスを崩すだけの十分な脅威となる。それだけで台湾侵攻のスケジュールを遅らせるのには十分であり、アメリカの新たな能力が発揮されるまでに効果を十分に発揮するはずだ。■
Beating China could mean bringing the C-130 back to aircraft carriers | Sandboxx
BY ALEX HOLLINGS
FEBRUARY 9, 2024
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。