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ウクライナ支援にのめり込むうちに中国対応をおろそかにしていると西側は大きなつけを払わされる?

 ウクライナ支援の強化を主張する向きは、ウクライナがロシアに勝利することが中国抑止で決定的に重要と主張しているがこれは正しいのだろうか




 共和党のリンジー・グラハム上院議員が最近言ったように、「ウクライナ支援は後戻りできない。ここで負ければ次は台湾だ」とし、同じ考え方が、議会に提出される災害救済法案にウクライナ向け資金を入れようと多くの人々を動かしているのは間違いない。

 だが真実はもっと単純だ: 中国を抑止するためには、米軍と台湾軍で中国の攻撃を完膚なきまで打ち負かせると習近平を納得させるほうががはるかに重要だ。ウクライナを優先し、太平洋における米軍と台湾軍を犠牲にしていることでアメリカの能力を低下させただけではなく、台湾防衛に対するアメリカのコミットメントを北京に疑わせかねない。

 しかし、北京を罰すると脅すだけでは不十分だ。習近平は台湾を自らの功績の中心に据え、中国共産党は、必要であれば武力で台湾を支配下に置くため高いコストを負担することも厭わないようだ。その意欲は、COVID-19の大流行時に他の優先事項を犠牲にしてまで、軍事的近代化に費やした莫大な金額を見ても明らかだ。さらに、戦争が起きた場合に西側制裁から中国経済を守ろうとする北京の明らかな努力にも表れている。その結果、コストの押し付けだけに頼っていては、北京を抑止できないだろう。

 むしろ米国は、否定による抑止、つまり中国指導層、特に習近平に、台湾侵略は失敗する、だから最初から試みない方がいいと納得させるべきである。このような戦略を実行するためには、米国が西太平洋の作戦拠点を分散・強化し、弾薬備蓄を増やし、持続可能な共通作戦画像を開発することなどが急務である。一方、台湾軍は、対艦ミサイル、機動防空ミサイル、対装甲兵器のような、侵攻軍を打ち負かすため必要な非対称防衛の実戦配備を行い、熟練度を示さなければならない。

 こうした構想は、中国軍が台湾海峡に侵入・通過し、台湾に宿営地を確保し、台北や台湾の他の重要な地域を占領・保持する能力を著しく弱めるため、否定による抑止に貢献する。侵攻を成功させるために、中国はこれらすべてのことができなければならない。これらの任務を遂行する中国軍の能力を直接低下させることで、中国が勝利する可能性についての中国指導者の評価に疑念を植え付け、抑止力を強化できる。

 ウクライナへの援助が太平洋で同様の効果をもたらすことはない。仮にウクライナの防衛側がロシアの侵略者を追い出すことができたとしても、(可能性は低いと思われるが)、中国軍の侵略能力を実質的に弱めることはほとんどないだろう。それどころか、北京は、中国軍が台湾をめぐって戦争になったとしても、ウクライナでのロシアの過ちを繰り返さない措置を講じてくるのは間違いない。それはおそらく、中国の海峡越え侵攻の実能力を向上させ、その結果、米軍がウクライナでの観察から得るかもしれない利点を損なうとしても、同じことに対する北京の自信を向上させるだけだろう。また、ウクライナでの出来事は、北京が紛争の初期段階から、もっと攻撃的な戦術をとるかもしれない。

 ウクライナでの出来事はまた、米国の資源をインド太平洋から引き離すことで、中国の軍事的優位性に対する中国指導者の自信を強めるかもしれない。例えば、米国はすでに、台湾の防衛強化に使われる可能性のあった、国家最新鋭地対空ミサイル・システム、パトリオット防空システム、高機動砲兵ロケット・システム、誘導多連装ロケット・システム、ハープーン対艦ミサイル、スティンガー、ジャベリン、ドローンなど、大量の軍事援助をウクライナに送っている。その結果、米国の備蓄の多くが大幅に削減され、米国の防衛産業が代替品の生産に苦労しているにもかかわらず、米国の在庫から台湾に武器を提供する能力が制限されている。一方、バイデン政権は、将来的に両者が必要とする兵器の納入について、ウクライナよりも台湾を優先する気配を見せず、台湾を効果的に防衛するための武装をさらに遅らせている。

 ウクライナへの支援で拡大を推進する勢力にとって、能力は抑止力の方程式の一部に過ぎない。彼らによれば、ウクライナがロシアを打ち負かすのを支援することは、米国がウクライナだけでなく台湾でも全体主義的な侵略に抵抗する意志があることを示す。そうすることで、中国の指導者たちが、米国が台湾での戦いから手を引くことに賭けていたとしても、北京の手を止めることができる。

 しかし、否定による抑止で最も重要なのは能力だ。太平洋における軍事態勢への投資が不足している限り、中国を抑止するために決意を示すことに賭けることは、第三次世界大戦を回避するためハッタリに頼ることに等しい。さらに、中国が現在進めている軍備増強は、台湾シナリオにおける米国の介入に対抗するため最適化されたものであり、これは北京が、われわれが戦うことは避けられないとしても、その可能性は高いと考えていることを強く示唆している。しかし、仮に米国の決意に疑問があるとしても、ウクライナ援助を優先し、太平洋における米軍と台湾軍を犠牲にする現在の戦略は、台湾を守ることが私たちの言うほど優先事項ではないことを北京に示すというよりも、台湾をめぐる戦争を抑止し、勝利するための私たちの決意を中国の指導者に納得させる可能性の方が低いように思われる。

 最後に、ウクライナと台湾は異なり、台湾防衛には米国の軍事援助以上のものが必要となる。台湾防衛には米国の介入が必要であり、これはウクライナで示されたものとまったく異なるレベルのコミットメントだ。ウクライナに援助を送ることで、台湾防衛のために米軍兵士を派遣する意思を北京に納得させられるのかは不明だ。

 ウクライナの勝利が中国の抑止力になるのかという疑念が、アメリカがウクライナを援助することを妨げるものであってはならない。米国は、ロシアによるウクライナ支配を阻止することに関心を持っており、その関心を守るため軍事援助を利用すべきだが、インド太平洋における中国抑止の優先順位と矛盾しない方法にせねばならない。ウクライナ戦争が続く中、ウクライナの結果が決定的なものになると考える欺瞞に陥ってはならない。それよりも、インド太平洋における否定による抑止という最も重要なことに焦点を当てるべきなのだ。■


Prioritizing Ukraine Aid Threatens Deterrence by Denial in the Pacific - 19FortyFive


By

Alexander Velez-Green

Author Expertise 

Alexander Velez-Green is Senior Advisor to the Vice President for National Security and Foreign Policy at The Heritage Foundation. He previously served as National Security Advisor to U.S. Senator Josh Hawley (R-Mo.).


コメント

  1. ぼたんのちから2023年7月27日 8:48

    記事のように、ウクライナ戦争の台湾侵攻に関する影響は、論理的には大きなものであるが、問題は、独裁者がどのように判断するかでなかろうか。
    老いたるスパイが特殊工作を多用した策に溺れ、国を傾けるような愚かな侵略戦争を引き起こしたように、CCP中国の独裁者も、現実を正しく認識し、適切な判断を行う保証はない。むしろ、近年の経済政策の幾つものミスとその手直しを見ると、台湾問題で適切な判断を下せるか甚だ疑問である。
    そこで陰謀論的戦争考察を一つ。
    台湾の独立は、自動的にCCP/PLAの開戦を引き起こすから、台湾がPLANの揚陸艦の相当数を台湾海峡に沈める(これはそれほど困難でない)自信があれば、挑発できる可能性がある。頭に血が上った愚かな独裁者は、ロシアのように国を崩壊させるほどの危機を賭けて戦争に踏み切るかもしれない。
    台中戦争だけでもCCP/PLAにとって容易でないところに、日米が介入すれば、「溺れる犬を叩く」状況になるだろう。中国国内は混乱し、毛を手本とする習は、流血の多い鎮圧に躊躇しない。その手先は、党の軍隊であり、国家の軍でないPLAである。
    このようなことが予想されても、独裁者は、戦争を選択するだろう。これは、陰謀にかかり易い状況とも言える。そして、このような悪意のある陰謀を米国は行わないなどと、まさか考える向きには、米国の歴史を新たな目でもう一度勉強するべきである。
    米国は対テロ戦争の陰謀に嵌まり、戦争に敗北し、国力を大きく落としたが、今度はその陰謀を画策したCCP/PLAが陰謀に嵌まる番となるだろう。

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