スキップしてメイン コンテンツに移動

選挙予測は信用できない― 大統領選の予測の根拠となるデータはそもそもない(Politico)

 People gather in Times Square, New York, to see presidential election returns.

Election forecasts may create a false sense of security among some citizens about the odds of their side winning, which ultimately causes them not to vote because they feel it’s not necessary. | Eduardo Munoz Alvarez/AFP via Getty Images



選挙予測は、有権者に、支持する候補が当選する可能性について誤った安心感を抱かせる可能性があり、投票の必要がないと感じて投票に行かない結果を招くかもしれない


ョー・バイデンの大統領選出馬が危ぶまれ、世論調査ではドナルド・トランプに大差をつけられていることが明らかになっていたにもかかわらず、選挙予測サイト538では依然としてバイデンが当選する可能性が高いと予測していた。それは奇妙なモデリング仮定に基づく結論であり、サイトの創設者であるネイト・シルバーは538モデルを「明らかに壊れている」と宣言し、同サイトの新しい責任者は、カマラ・ハリスの立候補に伴いモデルの調整を認めるに至った。

 このエピソードは、ライバルの予測者同士の小競り合いというだけでなく、注目に値する。なぜなら、こうした予測にまったく価値がないことを明らかにしたからだ。

 筆者は政治学者であり、予測のような機械学習法を政治問題に応用している。大統領選の予測にこれらのモデルが有効かどうかを知るには、データが十分ではない。さらに、入手可能なデータは、これらのモデルが投票率低下という悪影響を及ぼす可能性を示唆している。


 世論調査のデータを集約し、各候補者の当選確率を推定する統計モデルへの人気が高まっている。その支持者たちは、11月に何が起こるかを偏りのない予測で示し、口先だけの政治評論家による場当たり的な予測に対する解毒剤になると主張している。もちろん、誰が当選するのかは誰もが知りたいところだ。

 しかし、実際には、予測者の主張するほど正確ではなく、専門家による憶測がはるかに多い。

 選挙予測は政治学において長い歴史があるが、2008年と2012年の選挙におけるシルバーによる正確な予測により、選挙予測が政治の主流となった。現在では、ニュース機関が確率的な予測を提供しており、それらのモデルを使用して、候補者が獲得する選挙人団の票数と当選の確率を予測している。

 こうした確率計算は信頼できるだろうか? 現時点では、わからない。 ペンシルベニア大学のディーン・ノックス教授とダートマス大学のショーン・ウェストウッドと筆者が共同執筆した新しい論文では、予測者に非常に有利な仮定を置いても、答えを数十年、数世紀、あるいは数千年先まで知ることができないことを示している。

 その理由を理解するため、予測評価の方法である「キャリブレーション」について考えてみよう。ある出来事が起こる確率の推定値が、その出来事が実際に起こる頻度と一致している場合、その予測はキャリブレーションされているとみなされる。つまり、あるモデルがハリス候補の当選確率を59パーセントと予測した場合、キャリブレーションされたモデルでは、100回の大統領選挙のうち59回は彼女(または他の候補者)が勝利すると予測することになる。

 筆者たちの論文では、最良のシナリオにおいても、ある予測が別の予測よりもキャリブレーションが優れているかどうかを判断するには28年から2,588年かかることを示している。モデルが予測した候補者が実際に当選したかどうかという正確性に焦点を当てても、必要な時間を短縮することはできない。州レベルの結果に焦点を当てても、結果は高度に相関しているため、あまり役には立たない。 

 また、最良のケースを想定した場合でも、あるモデルが別のモデルよりも州レベルで優れているかどうかを判断するには、少なくとも56年かかる。場合によっては、4,000回以上の選挙に相当する期間が必要になる。


 大統領選挙の予測評価にこれほど長い時間がかかる理由は明白だ。大統領選挙は4年に1度しか行われないからだ。現在は米国史上60回目の大統領選挙を迎えている。

 大統領選挙の予測に利用できる情報を、株価予測、天気予報、オンライン広告のターゲット設定に利用される情報量と比較してみよう。これらの状況では、予測者は通常、ほぼ連続的に収集された数百万件の観測値を使用する。この違いを考慮すれば、他の状況における予測者が、より優れたパフォーマンスを発揮するモデルを簡単に特定できることは驚くことではない。

 結果データの不足により、選挙予測者は統計モデルの構築方法について経験則に基づく推測をしなければならない。

 世論調査情報を予測者がどのように使用しているかを考えてみよう。彼らはしばしば世論調査結果の移動平均を算出する。この平均を算出するため、予測者は世論調査会社に重み付けを行い、発生しそうな世論調査の誤差の種類について仮定を立て、さらに、その誤差が州間でどのように相関しているかについても仮定を立てる。あるいは、予測者が「ファンダメンタルズ」をどのように使用しているかを考えてみよう。ファンダメンタルズとは、経済状況、現在ホワイトハウスにいる政党、大統領の支持率などの要因だ。予測者は、モデルにどの要因を含めるか、また、モデルに適合させるためにどの大統領選挙が関連しているかを決定しなければならない。

 結果データが不足しているため、これらの仮定は、予測者が妥当であると考えるものに基づいて行われる。つまり、過去のデータに基づくか、あるいは今回の選挙で一見役に立ちそうな予測を生み出すものに基づくか、どちらかである。いずれにしても、これらは予測者が行う選択である。


 統計モデルは、予測者がこれらの仮定について明確にできる機会を提供する。一方、専門家による仮定は、明示されないか、または判断が難しいものとなる。しかし、仮定が較正や正確性にどのような影響を与えるかを評価するデータがなければ、一般市民は、ある予測者のモデリングの決定が他の予測者のモデリングの決定より優れているかどうかを知ることは不可能だ。

 確率論的予測が正確であるという証拠はないが、予測が混乱を招き、有権者が投票所に行かなくなる可能性がある確かな証拠がある。

ニューヨーク大学のソロモン・メッシングとペンシルベニア大学のイプタハ・レルケス、そしてウェストウッドによる大規模な調査実験では、予測がアメリカ国民を深く混乱させていることが示されている。

 彼らの実験では、モデル予測(例えば、勝利の確率が58パーセント、あるいは100分の58の確率)を目にすると、誤って候補者が58パーセントの得票率で当選すると考えることが分かった。実際、彼らは「候補者の当選確率を投票率と同一と推定する人が3分の1以上おり、両方のタイプの予測を見た後では、平均して人々は当選確率よりも投票率に近い確率を推定している」と書いている。

 また、こうした選挙予測は、一部の有権者に「自分たちの側が勝つ可能性が高い」という誤った安心感を抱かせる可能性もある。その結果、有権者は「投票の必要はない」と感じ、最終的に投票に行かなくなる。

 ウェストウッド、メッシング、レルケスは2回目の実験で、架空の選挙への参加を決める際に人々がどのような情報を利用するかを特定した。彼らは、参加者に確率で情報を提供した場合、参加者は非常に反応的になることを発見した。そして、自分たちの側が勝つ可能性が高いと示されると、投票に行く可能性は低くなることが分かった。しかし、同じ情報を得票率で示すと、参加率にはほとんど違いが見られなかった。


結論: 確率的な予測はしばしば誤解を招き、有権者が投票に行かなくなる可能性がある。

 

それでも、こうした予測が大統領選挙の結果を予測する最善の方法になる可能性は残されている。しかし、現時点では、こうしたモデルが特に正確であるかどうかはわからない。また、候補者が当選する確率のわずかな変動が、モデル化のエラーや無意味なランダムな変動以外の何かを表しているかどうかは、まったくわからない。■


ジャスティン・グリマーは、スタンフォード大学政治学部モリス・M・ドイル公共政策教授およびフーバー研究所上級研究員。


Don’t Trust the Election Forecasts

The data doesn’t support the obsession with presidential prognostications.


https://www.politico.com/news/magazine/2024/09/03/election-forecasts-data-00176905


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...