2021年10月16日土曜日

注目のニュース 米海軍がイスラエル海軍に接近。イランをにらんだ共同連携の強化以外にイスラエルのミサイル技術が目当てでは

 



スラエルを先週訪問した米海軍第五艦隊司令官ブラッド・クーパー中将が米イ両国海軍の共同作戦の詳細の一部を明らかにした。


クーパー中将はイスラエル国防相ベニー・ガンツ、IDF参謀総長アヴィヴ・コハヴィ中将、イスラエル海軍司令デイヴィッド・サアル・サラマ中将他イスラエル海軍高官と会談した。


会談で中心になったのは湾岸地方や紅海でのイランによる脅威の高まりに対応する両国間調整だったと軍事筋が述べている。両国海軍は共同行動をイラン脅威に対し展開する構想を温めているとされ、イランの有人無人高速襲撃艇への対応もそのひとつだが、詳細は漏れ伝わってこない。


イスラエル筋からは会談の結果として「オープンチャンネル」が米イスラエル両国の海軍部隊間で開設され、共同作戦の実をあげるという。


「調整作業は日常レベルで必要となって来た。常時事件が発生しているためだ」とエイモス・ジリード退役少将が解説している。同少将はイスラエル国防軍で軍事情報調査部門の長も務めた。


今回の第五艦隊司令官訪問はイスラエルがこれまでの米欧州軍(EUCOM)から米中央軍(CETCOM)へ管轄が変わった事への対応でもあり、イスラエル海軍の海軍作戦部長ダニエル・ハガリ少将によれば、CENTCOMへの移行は「イスラエル海軍活動へ大きな影響を及ぼし、海洋ドメインでの責任分野を広げている」という。


クーパー中将の訪問と時をあわせ、イスラエル海軍と第五艦隊の新しい二国間協力としてUSSオケインがハイファ港に寄港した。


USS オケインが10月にハイファに寄港した (Port of Haifa)



米海軍報道部は今回の会談について以前発表以上の詳細は明らかにしていない。


注目されるイスラエル製装備品


イスラエル海軍はここにきてイスラエル国防費でのウェイトが増えている。ドイツからサール6型海防艦やドルフィン2高性能潜水艦を調達している。


このうち潜水艦は極秘扱いだが、サール6海防艦に搭載の装備品について詳細の一部が明らかになっている。合同防空装備としてバラク-8およびC-ドーム(アイアンドームの海軍仕様)が搭載されている。「両装備を発射するシナリオもある」とイスラエル海軍筋が述べている。


サール6海防艦 Middle East Online


サール6海防艦はイスラエルのEEZ防衛を主眼に導入されている。EEZは地中海にあり、大規模なガス埋蔵量が確認されており、レバノンのヒズボラ勢力の格好の標的になるとされる。だが、紅海やアラビア海ではイラン支援を受けた貨物船襲撃事件が7月にあり、高性能の威力を誇る同海防艦を展開する可能性もある。


バラク-8はイスラエル航空宇宙工業(IAI)が製造し、航空機、ヘリコプター、無人機、シースキミングミサイルを標的とする。フェイズドアレイレーダーを搭載し、二方向データリンクで指揮統制機能を柔軟に実行する。


IAIは同装備を搭載した艦艇間の「相互接続性」を強調する。バラク-8の射程は現在43マイルだが、同社は拡大射程版を開発中で93マイルをめざす。サール6に垂直発射管が6本あり、各8発のミサイルを運用すると消息筋が述べている。


これに対しC-ドーム防御装備はラファエルの製品で陸上仕様のアイアンドーム同様に迅速な連続発射で飽和攻撃に対応する。発射装置は甲板下に搭載される。


C-ドームは艦の監視レーダーを利用し、専用の火器管制レーダーは不要だ。ラファエルによれば迎撃ミサイルは保守管理が不要で、密閉キャニスターに格納し、垂直発射装置で迎撃ミサイル8発を運用できる。■


Israel, US Navies Set Up New Coordination Efforts On Iran: Sources

By   ARIE EGOZI

https://breakingdefense.com/2021/10/israel-us-navies-set-up-new-coordination-efforts-on-iran-sources/?_ga=2.24005946.166066542.1633946828-1925073808.1616110789

防衛予算GDP1%キャップを廃止し日本の防衛体制はこうなる。ホームズ教授の提示する新しい日本の防衛の姿。NATO加盟国にはGDP2%の支出が求められているが....

 

 

 

イターがティム・ケリーおよびジュミン・パークの解説を記事にしており、それによると日本で政権を握る自民党が防衛費を現行のGDP1%相当から2%に増額する案を練っているとある。実現すれば、1,000億ドル相当になる。第二次大戦後の日本は非公式に防衛費上限を設けることで日本が再び軍事大国になるとの周辺国の懸念をおさえてきた。

 

戦後直後には上限に意味があった。まだ戦時中の記憶が生々しかったからだ。だが、今日の日本は実績で悪名を償った。さらに中国の台頭で領土保全や天然資源の帰属が危うくなっており、中国は既存体制の変更を狙いながら、日本の軍事力整備をけん制している。

 

そこで自民党内に大胆な動きが出てきたのは、従来の平和主義へ大きな抵抗となる。日本は海洋大国となる素質があり、自民党は公約としてこの実現を主張している。また自衛隊(JSDF)強化への世論支持を図っている。

 

米国との長きにわたる安全保障面の同盟関係のバランスを再調整すれば同盟各国や域内に健全な結果を生む。日本は中国と力のバランスも図ろうとするだろう。

 

防衛費1,000億ドルの日本軍事力はどんな姿になるか

 

自民党構想が現実となれば日本は巨額予算をどう使うだろうか。まず、既存部隊向けに調達装備品を追加するはずで、ステルス戦闘機や水上艦艇が対象だ。筆者としては日本に戦略を意識した動きを期待したい。政界トップはまず域内や世界で果たすべき日本の役割を考え、その実現につながる戦力整備を目指すべきだ。

 

その結果生まれる戦力は現行の自衛隊を拡大した姿とは大きく異なるはずだ。まず、日本や同盟国の戦略に呼応した形で領土、水路、空域へのアクセスを守る、あるいは否定する戦力となる。新編成の自衛隊はこの任務をどう実現するだろうか。以下の原則を守る必要がある。

 

1,000億ドル予算の自衛隊に必要な原則4点とは

 

まず、日本部隊は機動性、適応力を発揮し、島しょ間を移動したり、尖閣諸島・琉球諸島のような地点を防備する能力が求められる。自衛隊の人員・装備品は問題地点へ急派され、中国の攻撃に耐えこれを死守する。軽武装部隊輸送手段が必要だ。戦術防衛策が最強の戦闘形態になる。

 

日本の防衛方針では島しょ部を侵攻勢力に占拠されたのちに奪回するシナリオが主流だ。敗北主義ではいけない。日本は地理的優位性を生かし、領土を保持する部隊を配備すべきだ。

 

二番目に、自衛隊増強は米海軍が「分散型」部隊と呼ぶ流れに呼応すべきだ。部隊を広範な地域に分散配備することを意味する。分散作戦の裏にある考えは単刀直入だ。中国の航空兵力やミサイル部隊は本国から第一列島線まで十分に到達できる。人民解放軍は緒戦で戦闘効果を上げるだろう。これに対し同盟国側には装備品の数が足りず、しかも高価な装備となっている。ひとつでも喪失すれば、総合戦力が失われる。

 

だが、そもそも大部隊を細かく小規模に再編成すれば、装備品の集中度を減らせる。艦艇一隻や航空機一機を喪失しても全体戦力に影響は少ない。これが現在の作戦戦略構想だ。日本も小さく、安く、さらに適応力豊かに考えていく必要がある。

 

三番目に、日本の戦略立案部門は日本周辺の水域・空域のアクセス制限を基本に考えるべきだ。自衛隊はPLAの封じ込めを実施する一助となり、中国の侵攻部隊を第一列島線に止めることで、同盟国側の作戦実施を必要以上に複雑にするのを避けられる。そうなると、第一列島線で敵の航行・飛行への攻撃手段がカギを握る。島しょ上で分散する部隊の防衛力が優れれば良い結果を生む。有人無人の潜水艦、航空機、哨戒艇がその他合同部隊と連携し効果を発揮し、島しょ部に残る海兵隊部隊がPLAにミサイルを発射する。各部隊はこうして西太平洋や日本本土へのアクセスを阻止できる。再び、小さく考えるべきだ。

 

そして四番目に、予算が潤沢となっても自衛隊には回復力が必要だ。分散作戦がここで威力を発揮する。また基地のインフラも列島線上で大きく変化する。PLAロケット軍や空軍部隊が横須賀、佐世保、嘉手納といった主要基地を攻撃するのが開戦直後の状況となる。同盟軍は基地の防御力を引き上げつつ、機能を分散させる対策も迫られる。基地機能の一部を地下化するとか、あるいは対空対ミサイル防衛体制を強化する必要もある。第二陣となる基地群の整備も必要だ。被害が深刻な場合に前線基地の装備、機能を一時的に展開する先とする。

 

そうなると日本の防衛費増大は必ずしも派手さをかもしださなくてもよいことになる。航空基地や建屋のひとつひとつもイージス駆逐艦果ては空母と同様に重要となる。日本政府は国力の象徴を目立たせるだけの装備品調達の道は選ぶべきではない。

 

第一列島線へのアクセスを制することで日本の国土は防衛でき、中国に抑止効果をあたえつつ、必要なら中国を敗退させる。日本政府はノーススター戦略、つまり目指すべき姿を明確にしこの実現を目指しつつ、適正な予算手当と調達を進めるべきだ。

 

急ぐべきだ。■

 

DR. JAMES HOLMES: THE NAVAL DIPLOMAT

What Should A $100 Billion Japanese Military Look Like?

ByJames Holmes

 

James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and a Nonresident Fellow at the Brute Krulak Center for Innovation & Future Warfighting, Marine Corps University. The views voiced here are his alone.


 

2021年10月15日金曜日

Su-57の戦力化は早くて2027年。遅延はプーチン流の強権的経営体制が原因だった。実はロシアの経済規模はオーストラリア並みで。ロシア航空宇宙産業は低迷するのか。

 

 

クレムリンがSu-57に期待するのは宣伝効果だ。

 

 

西側分析ではロシアの第五世代ステルス戦闘機スホイSu-57が作戦投入可能となるのは2027年以降としている。事業の遅れ、コスト超過、研究開発上の問題が同機事業につきまとっている。

 

驚くべき理由はない。もともとSu-57は実行可能な事業ではなかった。

 

2006年当時、ウラジミール・プーチン大統領がロシア航空企業各社を単一国営持ち株会社に統合した。これが合同航空機製造会社(UAC)だ。

 

その後UACは20社以上あった航空企業を4つの事業体に整理統合した。戦闘軍用機一社、軍用輸送機一社、民生機一社、航空部品一社だ。

 

この過程で国営企業多数が株式会社に改編されたが、株式の9割は国が握る。

 

このように垂直統合で中央統制を強めた改編だが、UACは傘下企業にある程度の自主性を認めた。MiGとスホイはそれぞれ役員会を残している。

 

ただし、一部例外を除き、各社の取締役は異論をさしはさめない。それどころか、UAC傘下各社は14名で構成する取締役会の決定下にあり、役員大部分はプーチンの腹心である。産業界で高い知見を有するのはごく少数にとどまる。

 

ロシアメディアが仰々しい報道をすることがあるものの、UACは死に体といってよい。UACは1980年代末から1990年代初頭の機体の生産再開ははたしたものの、技術革新の取り込みでは無能をさらけ出している。

 

 

その大きな理由としてUAC役員会には入念に選んだイエスマンが多数で、新規事業や戦略の話題には前向きとはいえ、厳しい決断には及び腰であることがある。その意味で、UACがここ10年にわたり大風呂敷をひろげたものの実現した案件は皆無に近いというのは当然といえる。

 

Su-57ではどうか。UAC大きな失敗は戦闘航空機事業部を海外投資家に非公開としたことである。初代コンソーシアム統帥は元国防副大臣で後に首相になったセルゲイ・イワノフで2006年に、ロシアは「独力でこの分野を育てる」と主張していた。

 

UACの柔軟性欠如にウクライナ侵攻後の西側制裁措置でロシア経済が大幅に衰退したことも加わり、Su-57が事業として成立しなくなった。

 

国の規模人口は大きくてもGDPがオーストラリア並みでは超大国を演じることはできないし、シリア内戦から抜け出せず、ステルス戦闘機の国内開発もままならない。

 

同事業の最後の頼みはインドの財政支援でSu-57をSu-30MKI並みのステルス攻撃戦闘機に発展させる構想だった。だが、プーチン流の経営構造のため連携効果が実現に至らなかった。

 

そうなると、クレムリンガSu-57に期待するのはロッキードのF-22ラプターに匹敵する機体との宣伝工作で注目を浴びることが中心となる。だが、ビジネスセンスも兼ね備えたインド空軍はこの言葉に踊らされず、資金提供をもちかけなかった。

 

ここにSu-57の進展がない理由がある。■

 

 

Doomed To Fail? Russia’s Stealth Su-57 Isn’t Going Anywhere Soon

by WarIsBoring

October 13, 2021  Topic: Su-57  Region: Eurasia  Blog Brand: The Reboot  Tags: RussiaMilitaryTechnologySu-57Stealth

 

 

Image: A Sukhoi Su-57 jet fighter performs during the MAKS 2021 air show in Zhukovsky, outside Moscow, Russia, July 25, 2021. REUTERS/Tatyana Makeye


プーチンも習近平も社会主義の頭で資本主義の真似事をしてきたため、ここにきて経済のダイナミズムについてこれなくなっています。また、旧体制のまま異論を認めない、取り込めない体質のため意思決定が裏目に出ているのでしょう。こんなことを言うとヒントになり、中ロが急に力をつけては困りますが、どうせ両国の権力構造では自由な体制を作るのは不可能なので心配しなくてもいいと思います。

 

たいげい級二番艦はくげいの進水式に海外が日本国内より高い関心を示す。海上自衛隊潜水艦(現役)は22隻になった。

 

はくげい進水式。2021年10月14日 (Japanese MOD photo)

 

 

本がリチウムイオン電池を採用した新型通常型潜水艦の2号艦を初号艦進水式のちょうど一年後に進水させた。

新型艦ははくげいと命名され、川崎重工業の神戸造船所で10月14日に進水式を挙行した。同艦は最終建造段階にあり海上公試ののち海上自衛隊に2023年3月に引き渡される。

はくげいはたいげい級潜水艦の二号艦で、排水量3,000トンのディーゼル電気推進式攻撃型潜水艦で、29SS級とこれまで呼ばれており、一号艦たいげいは三菱重工神戸で2020年10月進水ずみで今年7月に公試を開始した。同艦が2022年3月に就役すると、海上自衛隊の22隻目の現役潜水艦となる。

2010年の防衛大綱でそれまでの16隻体制の強化が決めたのは、日本が中国の軍事力整備を警戒視していることのあらわれだ。

そうりゅう級最終建造分の二隻、たいげいと合わせ、はくげいにもリチウムイオン電池が搭載されている。リチウムイオン電池技術の実用化に向け、日本は大規模な研究開発を2000年代初頭から展開していた。リチウムイオン電池は保守管理が簡単な一方で潜航中に高速を長時間維持できる点で鉛電池より優れる。現時点でリチウムイオン電池を潜水艦に応用しているのは日本だけだ。

日本の潜水艦部隊は旧型おやしお級8隻、そうりゅう級12隻とたいげい級2隻の構成となる。たいげい級は三号艦の建造も始まっており、さらに二隻分の建造予算も承認ずみで、令和4年度予算要求で一隻追加分として602.3百万ドルが計上されている。

 

たいげい級の外観はそうりゅう級と大差ないが、艦内は全く別だ。まず、たいげい級ではAIP装備のかわりにリチウムイオン電池を搭載した。

 

つぎに、ソナー及び戦闘指揮システムが改良されている。また音響吸収材、浮き張り式床の採用でステルス性が高まっている。防御面では魚雷対抗装置(TCM)が搭載され、おとりを放出し敵魚雷の命中を逃れる。

 

たいげい級の基本性能

基準排水量約 3000 トン

全長84メートル

全幅9.1メートル

乗員70名

推進方式ディーゼル電気推進(リチウムイオン電池搭載)

 

Japan launches second Taigei-class submarine, 'Hakugei'

By Mike Yeo

 Oct 15, 03:07 AM

 

Kawasaki Launches 'Hakugei' - Second Taigei-class Submarine for the JMSDF

Xavier Vavasseur  14 Oct 2021

 

 


 

2021年10月14日木曜日

ソ連ワルシャワ同盟側の西欧侵攻計画が明らかになった。核兵器先制攻撃で電撃戦を展開し、破壊された欧州を占領する非現実的な内容だった。実施されなかったのが幸いな内容。

 

 

二次大戦は人類史上で最大の被害を生んだ戦争となり、控えめな試算でも世界人口の3パーセントが死亡したとされる。

 

だが第二次大戦は次の大国間衝突の種子をまいただけともいえる。ソ連が中東欧に鉄のカーテンを下ろし、米国は西欧で同盟関係を構築した。

 

その後45年にわたり、米ソの軍関係者はNATO-ワルシャワ条約間の戦闘計画を練ることになった。ソ連の数的優位性をどうしたら覆せるか、しかも初期段階で核兵器の投入をせずに。

 

米国では核兵器の役割を減らすと公約して政権の座につく大統領が連続したが、結局レーガン政権が生まれるまで公約は実現できなかった。精密誘導兵器の登場で初めて米国がソ連軍を打破できる時代が到来したのだ。

 

ソ連の戦闘計画も米国同様に機密扱いのままだが、学界では旧ワルシャワ条約加盟国が公開した資料からソ連軍がどんな戦闘を展開したかがわかるようになった。

 

それによれば、スターリン存命中および1950年代を通しワルシャワ条約軍は西側侵攻からの防衛を主にしていた。当時の米国が核兵器の圧倒的優位性を保持していたため、核兵器使用を全く考慮しない戦争計画だった。

 

スターリン死去をうけ1960年代に入り、ソ連は全く別の戦争計画を立案した。攻撃的性格となり電撃戦型の強襲によりワルシャワ条約軍が西欧の大部分を数日間で占領するものだった。核兵器も遠慮なく投入し、ワルシャワ条約軍の通常兵力の鉄壁な優位性を活用する前提だった。

 

ソ連の戦闘立案部門は米国および同盟側が初期段階で核兵器の大量投入に踏み切ると想定していた。このため、ソ連及びワルシャワ同盟加盟国の領土を守るためにも核先制攻撃を想定した。

 

にもかかわらず、ソ連の対西欧戦略では核兵器に中心的役割を想定した。北方戦線だけでも核兵器189発をミサイル177本、爆弾12発で5キロトンから500キロトンにわたり投入する想定だった。さらに中欧南欧の各地でも核兵器を投入する計画だった。

 

さらに多数の核兵器を西欧主要都市の破壊に使う予定で、ハンブルグ、ボン、ミュンヘン、ハノーバー、ロッテルダム、ユトレヒト、アムステルダム、アントワープ、ブリュッセルが標的だった。

 

コペンハーゲンには二発で十分で、デンマーク全土にも5発を想定した。イタリア諸都市も標的となっていた。

 

オーストリアは中立国だったにもかかわらず、ソ連はウィーンに500キロトン核兵器を投下する想定としていた。

 

主要都市や人口稠密地帯の破壊以外でもソ連は戦術核兵器を惜しげなく投入しNATO軍事施設を攻撃する想定だった。米議会調査局によれば、「ソ連は600か所の基地を戦術核攻撃する」計画だった。ソ連崩壊の際でも戦術核20千発が貯蔵されており、当初より相当増えていた。

 

ソ連ーハンガリー合同シナリオが発掘されているが、ワルシャワ同盟側は西側標的に開戦後数日で合計7.5メガトンの核兵器を投入するとある。

 

米国やNATO側の想定も似たようなものだった。英国の核抑止効果研究部会の推定では英国は開戦となればソ連に40発の核爆弾を投下する想定だったという。

 

米国ではさらに大規模な攻撃を想定し、単独統合作戦想定(SIOP)として1960年から立案を進めていた。SIOPは今日でも極秘扱いだが、初期のSIOP内容が機密解除となっている。それによると「核先制攻撃でソ連、中国はじめアジアヨーロッパの1060か所の標的に3,200発を投入する」想定とある。ここでは米国は対戦相手かを問わず共産圏すべて攻撃する想定だった。このため中国も攻撃対象となっていた。

 

ソ連の戦闘方針で西側と異なるのはソ連にとって核兵器は戦闘手段の一つにすぎず、決定的な兵器とは理解されていなかったことだ。だが米国はじめ西側では核兵器の大量投入は戦闘が継続して初めて考慮すべき要素だった。

 

旧ワルシャワ同盟国で見つかった文書を見るとソ連は核兵器で戦闘の行方を決するつもりだったとわかる。敵軍を打破し、領土を占領する古典的な方法論で戦闘結果を決定的にする想定だった。

 

チェコ学者ペートル・ルナックの説明では「米国の大量報復方針と対照的にソ連圏は核兵器だけでなく、通常兵器も投入し通常戦力の優位性を発揮する想定だった。ソ連の戦略計画は古典的な敵地占領により勝利を収める想定だった」とある。

 

「核兵器で戦闘の進展が変わっても戦闘全体の様相は影響を受けないとチェコスロバキアや当時のソ連軍司令部はみていた。核兵器投入で戦闘は短縮化されるというのが東側の理屈だったが、大規模攻撃で決定的な優位性を確保すべく奇襲性を重視した」

 

核兵器を躊躇なく使うことでソ連、ワルシャワ同盟軍は大規模電撃戦を展開し西欧の大部分の占拠を狙った。目標はNATO前線を寸断し、「迅速に敵防衛線の奥深くに侵入する」事だたった。開戦当初の成果を迅速に達成するためにも、ソ連は兵力差を5対1ないし6対1で優位にする目標を立てた。

 

作戦目標は戦線で異なっていた。核攻撃後にチェコスロバキア陸軍はNATO前線を突破し、ニュルンベルグ、スツットガルト、ミュンヘンを占領する予定だった。開戦後9日でチェコスロバキアリグンはソ連の支援も受けながら、南仏リヨンを占領する想定だった。その後、ソ連の増援部隊がピレーネ山脈を越えるとあった。

 

同時にポーランド軍はソ連軍と北欧の大部分を占領する。とくに西ドイツ、デンマーク、オランダ、ベルギーへの侵攻を想定したのは、米国英国カナダの増援部隊の上陸を阻止する目的があったためだ。そのためデンマーク占領を開戦一週間以内に設定し、二週間以内に大西洋岸に到達するのが目標となった。

 

想定はかなり欲張ったもので、軍事専門家の間にはここまで迅速な侵攻を展開する装甲車両はワルシャワ同盟軍が保有していなかったと断言するものもある。

 

ルナックは戦争計画を「おとぎ話」と突き放す。目標が野心的過ぎること以外に計画が非現実的だったのはソ連とワルシャワ同盟軍が核兵器で破壊され相当の放射能が残る国土で戦う想定になっていたためだ。ルーナックは「ソ連は地上部隊を送り込み戦闘させると真剣に想定していたが放射能により部隊は数日で全滅していただろう」

 

こうした自殺行為を各部隊が受け入れたかは疑問だ。共産主義あるいはワルシャワ同盟への献身ぶりとは別に、戦闘舞台となり占領対象となる地の経済軍事機能は破壊されており、破壊され無益な場所になっていたはずだ。

 

そのため核攻撃を受けた各国はもはやソ連側に脅威とならない。さらにこうした土地を占領しても経済上で何ら利益がなかったはずだ。居住に適さない状況が当面続くだけだっただろう。

 

ドワイト・アイゼンハワーが核兵器もその他兵器同様に普通に使用できると信じていたとの誤解があるが、本人は原子力時代の到来とともに核戦争に勝者はないと確信するに至っていた。国家安全保障会議の席上でアイゼンハワーは「核戦争に勝者はない。破壊のあげく、原始時代に戻ってしまう」と発言していた。大統領退任までに本人は暗たんな気分となり、戦争勃発となれば「外で誰彼なく撃ち殺し、最後に自分を撃つのと同じだ」とまで言い出す始末だった。

 

ソ連が立案していたのは文字通りそういうことだった。■

 

Russia Had a Cold War Master Plan To Annihilate NATO

by Zachary Keck

October 12, 2021  

https://nationalinterest.org/blog/reboot/russia-had-cold-war-master-plan-annihilate-nato-194884?page=0%2C1

 

This article first appeared in July 2015.

Image: Wikimedia Commons


2021年10月13日水曜日

新型バンカーバスター爆弾GBU-72/B登場。全天候対応となり、威力も高い新型爆弾が北朝鮮やイランに投下される日が来るのだろうか。

 GBU-72/Bは改良型全天候対応バンカーバスター爆弾で米空軍で供用中の2千ポンド型と3万ポンド型の中間に位置する。

USAF

 

 

空軍は新型5,000ポンド級バンカーバスター爆弾となるGBU-72/Bの連続テストを成功裏に実施した。F-15Eストライクイーグルからの投下もフロリダのエグリン空軍基地そばで行った。

 

従来は高性能5,000ポンド弾あるいは高性能5,000ポンド貫通弾と呼ばれていたものだが、空軍はそっけなくテスト結果だけ発表している。飛行テストに先立ち地上テストが展開され、炸裂力他の効果測定が行われた。エグリンの第96試験飛行団によれば同基地史上で最大規模の爆弾だという。

 

USAF

5,000ポンド級 GBU-72/B バンカーバスター爆弾がさく裂するとこうなる.

 

外観上はGBU-72/Bは2,000ポンド級のGBU-31/B共用直接攻撃弾(JDAM)精密誘導弾をやや拡大してバンカーバスター弾頭のBLU-109/Bまたは改良型BLU-137/Bを装着したように見える。後者は高性能2000ポンド弾頭(A2K)として知られ、今回の5,000ポンド版ではGBU-31/Bの尾部を流用しており、GPS補正の慣性後方システム(INS)誘導パッケージをつけている。

 

外観で新型がGBU-31/Bともっとも異なるのは長く伸びたフィン(ストレーキ)が本体底部の左右についていることだ。GBU-31/BシリーズのJDAMのストレーキは本体中央部についている。

 

USAF

GBU-72/B バンカーバスター爆弾のモックアップ。

 

USAF

GBU-31/Bs にバンカーバスター弾頭を装着している

 

空軍ではGBU-72開発にはモデリング、シミュレーションを多用したのに加え、威力をさらに高める検討を加えたと説明。「モデリング、シミュレーションを使う設計では初期型がすでに量産型の例となること」とGBU-72事業主管のジェイムズ・クリトンが述べている。「これにより運用テストも早期に開始でき、設計効果を確認し、早期に改良が可能となった」

 

「GBU-72開発では強化され深く掘られた標的の撃破が課題で、かつ戦闘機場爆撃機での運用を想定した」と空軍の公式発表にある。「GBU-28等既存装備品に比べ、威力は相当大きくなった」

 

GBU-28/Bは5,000ポンド精密誘導バンカーバスターでレーザー誘導方式を採用し、空軍では1991年から供用開始している。湾岸戦争宙にBLU-109/Bではイラクの深度標的に到達できないとの懸念があった。いそぎGBU-28/BでBLU-113/B弾頭がつけられた。

 

その後GBU-28/BがNATOによるセルビア空爆で米軍が1999年に使い、アフガニスタンやイラクで2002年、2003年それぞれ投下された。米政府はその後同装備をイスラエルと南朝鮮に輸出している。

USAF

F-15E がGBU-28/B バンカーバスター爆弾を投下した。

 

弾頭にBLU-122/Bを付けた現行のGBU-28/Bの正確な性能については極秘扱いとなっているが、初期設計では地表下150フィートまで、さらに強化コンクリート15フィートを貫徹する能力があるといわれていた。GBU-72/Bはこれを上回る威力がある。

DOD VIA GLOBALSECURITY.ORG

BLU-109/Bバンカーバスター弾頭を付けたGBU-31/B、GBU9-28B、GBU-57/B大型貫通爆弾の性能を比較した図。

 

現時点でGBU-28/Bは通常弾頭のバンカーバスターとしては先に述べたGBU-31/Bと30,000ポンド級のGBU-57/B大型貫通爆弾(MOP)の中間に位置する装備となっている。空軍が保有するMOPの数はわずかで、B-2スピリットが唯一同装備の運用が可能な機材だ。核弾頭付き投下爆弾でバンカーバスター機能があるのはB61-11、B83-1があるが、通常の作戦には投入せず、しかも精密誘導方式でもない。

USAF CAPTURE

GBU-57/B MOPを投下するB-2

 

そのためGBU-72/Bのバンカーバスター機能向上でGBU-31/Bで対応不能だがMOPの投入までは必要がない標的への攻撃が期待される。将来の戦役では深部構築された標的が不足する事態は考えにくいのであり、イランや北朝鮮がまず想定されるが、投入手段で選択の幅が広がり現地で重宝されるはずだ。

 

さらに、GBU-72/BでJDAMの GPS/INS 誘導方式を採用していることで米空軍は全天候下での作戦実行が可能となる。GBU-28/Bのレーザー誘導では雲や霧など天候条件に精度が左右されかねない。GBU-72/Bでは発射機体が標的から離れた地点で投下できることが機体の生存性を高める。GPS/INS誘導方式でGBU-72/Bは固定目標の実に対応することになるが、地下深くに構築された強固な施設はどう見ても移動目標ではないだろう。

 

付け加えれば、近年の米軍の対ISIS作戦で2,000ポンド級バンカーバスター爆弾が強化標的とは言えない対象に日常的にイラクで投入されている。トンネル網や地上建屋も標的にしている。とくに後者にバンカーバスターが党かされ、遅延爆発させることで付近の建物内の住民への付随被害を押さえる効果がある。

 

GBU-28/Bに続き、イスラエルや南朝鮮といった米同盟国友邦国がGBU-72/Bの取得にも関心を示すだろう。サウジアラビア、アラブ首長国連邦も将来のイラン強化標的の攻撃を想定し同装備品を紹介されるだろう。

 

現時点では米空軍は追加テストフライトなどGBU-72/Bの運用テストは2022年まで続くとしている。本日の発表で空軍が最新のバンカーバスター爆弾の実用化に大きく近づいていることが明らかになった。■

 

 

The Air Force's New 5,000-Pound Bunker Buster Bomb Breaks Cover

BY JOSEPH TREVITHICK OCTOBER 12, 2021