2021年1月31日日曜日

米議会調査局報告書に見る南シナ海、東シナ海での米国国益の視点。こうした調査活動が米議会での審議のもとにあることに注意。翻って日本の国会議員はなにをもとに議論しているのでしょうか。

 米議会は精緻な言葉が展開される世界ですね。プロの調査部門から出てくる各種報告にもれなく目を通す議員が集まり、知的な議論が繰り広げられているようで、門限時間を超えた飲食に目くじらをたてる、言った言わないの押し問答を続ける某国議会と雲泥の差があります。議員が勉強したところで限界があるので、専門領域はプロの調査部門に任せるほうが効果的なはず。党派に影響を受けないプロの調査部門が国会にも必要と思います。US Naval Institute Newsからの記事です。



 

2021年1月28日、議会調査局が「南東シナ海における米中戦略競合状態及び議会の課題に関する報告書」を発表した。

以下報告書からの抜粋。

 

国際安全保障面で大国間競合状態の再来とされる中で、南シナ海 (SCS)が米中両国の戦略競合の舞台になっている。SCSでの両国の競合状態からトランプ政権は中国へ対決姿勢を強め、インド太平洋地域を自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の状態にするとした。

 

近年の中国のSCSでの行動としては、広範囲に人工島を構築し実効支配するスプラトリー諸島で海軍力によりフィリピン、ヴィエトナム含む近隣諸国に対し自国主張を強硬に主張する動きがあり、SCSが戦略、政治、経済各面で米国ならびに同盟友邦各国にとって重要な海域なため、中国がSCSで実効支配を確立する懸念をもって米国は注視している。中国海洋部隊が東シナ海 (ECS) で日本統治下にある尖閣諸島で展開中の行動にも米国は懸念を持って観察している。中国がSCS、ECSとあわせ黄海の近隣海域を支配すれば、インド太平洋地区ほか各所で米国の戦略・政治・経済各面の権益が損なわれかねない。

 

SCS、ECS双方での米中戦略競合で、米国の目標は次のとおり。条約国の日本、フィリピンを含み西太平洋における米国による安全保障の意思を完遂すること、同盟国・協力国を巻き込んだ米主導による西太平洋の安全保証の枠組みを維持強化すること、域内で力の均衡を同盟国・協力国を含み米国に有利な状態を維持すること、紛争の平和的解決原則を守り、国際問題での『力による解決』の応用へ抵抗すること、航行の自由原則を守ること、中国が東アジアで覇権国の座につくのを阻止すること、広義の米安全保障の一環として以上の各目標を希求し、中国と戦略的に対抗しつつ両国関係を制御することがある。

 

SCSおよびECSを舞台とする米中戦略競合状態での米国の個別目標として以下があるがこれに限定されるものではない。SCSではこれ以上の基地構築を進めさせず、SCS実効支配拠点へこれ以上の人員、装備、補給品搬入を断念させること、SCSスカボロ礁での人工島構築あるいは基地構築を断念させること、SCS内で陸塁を中心とする直線的な中国の領有権主張を撤回させること、SCSに防空識別圏(ADIZ)を設定させないこと、ECSにおいては尖閣諸島での中国海洋武力を削減あるいは撤退させること、フィリピンの実効支配下にあるスプラトリー諸島拠点への圧力をかける行動を中止させ、フィリピン漁民にスカボロ礁あるいはスプラトリー諸島での操業を容易にさせること、米国や西側の海洋交通の自由原則を採用させ、2016年のSCSをめぐるフィリピン対中国の仲裁裁判所裁定を受け入れさせ遵守させることがある。

 

米議会の課題は以下の通り。バイデン政権のSCSならびにECSにおける対中競合戦略がトランプ政権の方向性と異なるのか、バイデン政権の採択する戦略が妥当かつ正しい裏付けがとれているのか、また議会として戦略、実施用の資源のいずれかあるいは双方を承認、棄却、修正すべきか、である。

 

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Report on US-China Competition in East, South China Sea - USNI News

January 29, 2021 9:26 AM


T・ロウズヴェルト空母打撃群を模擬攻撃していたPLA爆撃機。台湾、南シナ海をめぐり、米中間で動きが活発になっている。

 



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  • 米空母打撃群が先週土曜日から南シナ海入りしている。 
  • 同日に戦闘機、爆撃機含む中国軍用機多数が台湾付近を飛行した。
  • 中国機は移動中の米空母に対し模擬攻撃行動をとったとするフィナンシャル・タイムズ記事を米軍が認めた。

国爆撃機部隊が南シナ海の米空母を模擬攻撃したとのフィナンシャル・タイムズの記事内容を米軍が1月29日に認めた。


セオドア・ロウズヴェルト空母打撃群が1月23日に南シナ海へ移動したが、中国軍はH-6Kを8機、J-16戦闘機4機、Y-8対潜哨戒機1機を台湾海峡から南下させた。


米空母打撃群はバシー海峡経由で南シナ海に移動中で、中国軍機は台湾の防空識別圏を横切り飛行した。


翌日になり身元不詳の中国国内の軍事専門家が国営環球時報に中国軍機は「米空母へのPLA戦闘能力を増強する」目的の演習で、爆撃機編隊が米艦隊への飽和攻撃を模擬実施したと明らかにした。


A Chinese Air Force H-6K bomber

A Chinese Air Force H-6K bomber Xinhua/Guo Wei via Getty Images


これに対し、1月29日、フィナンシャル・タイムズが米情報機関に近い筋の話として中国機がセオドア・ロウズヴェルト空母打撃群を模擬攻撃したと伝えた。中国爆撃機パイロットが攻撃命令を受領し、対艦ミサイル発射をシミュレートする様子を傍受したという。


インド太平洋軍報道官マイク・カフカ大佐はメールで「セオドア・ロウズヴェルト空母打撃群は人民解放軍海軍(PLAN) ・空軍(PLAAF) の行動を逐一傍受しており、中国機から米海軍艦船、乗組員に危害は生じていない」と当誌に回答してきた。


別の国防筋によれば中国機は米海軍部隊から250マイル以上距離を保ち、H-6K搭載のYJ-12対艦巡航ミサイルの射程外だ。ただ、模擬攻撃は実際に実行されたと同筋は述べている。


INDOPACOM発表でカフカ大佐は「今回の事態は攻撃的かつ平和安定を損ないかねない一連のPLAによる行動の一環」と述べた。


同報道官は「PLAが軍事力を使い、国際海路や空域で自由を脅かし自国の意図をゴリ押しする傾向が背景にあり、隣接国や領土をめぐり同国と対立する国が困っている」とし、「米国は国際法の許す範囲で飛行、航行、作戦活動を続け、各地でのプレゼンスを通じ決意を示していく」とした。


米海軍は1月24日発表でセオドア・ロウズヴェルト空母打撃群は第7艦隊担当区域で海上安全保障作戦に通常の形で展開中とした。


中国は米軍が南シナ海に姿を定期的に現すことに反対しているが、自国は同海域で長年にわたり作戦を展開している。


「米国が頻繁に軍艦航空機を送り武力を誇示すると南シナ海域内の平和安定に悪影響が生まれる」と中国外務省報道官趙立堅Zhao Lijianが1月25日の報道会見で述べた。


今回の南シナ海での事態は新生バイデン政権が中国、中国の軍事力拡大にどう対処するかが問われる中で発生した。


新政権は中国と台湾問題をめぐり早速ジャブの応酬をした。米国務省が台湾へ軍事経済外交の各面で圧力をかける中国の動きを先に批判した。すると同日の報道会見で趙報道官は「部隊を派遣し『台湾独立』の動きに誤った信号を送り中米関係ならびに台湾海峡の平和安定を傷つけるのは自制すべきだ」と米国に求めてきた。


一方、中国国防省報道官呉謙Wu Qianは1月28日、台湾付近の中国軍の活動は必要とし、台湾が中国からの独立を求めれば戦争になるとまで発言した。


バイデン政権初の国防総省報道会見でジョン・カービー報道官はあらためて米国が台湾防衛を支援する姿勢を確認したが、緊張から「対立にエスカレートさせてはいけない」と述べた。■


この記事は以下を再構成したものです。



Chinese bombers simulated an attack on a US Navy aircraft carrier in the South China Sea

Ryan Pickrell 


2021年1月30日土曜日

ドイツ空軍の戦力減退:予算不足>整備できず>訓練不足にくわえ、パイロットが空軍を去る事態、ドイツはこの悪循環を断ち切れるか

 

イツ空軍パイロットがNATO基準の訓練時間を計上できていない。

 

訓練方法に問題があるわけではない。問題はドイツ空軍に飛行可能機材が足りないことだ。とドイツ空軍参謀長インゴ・ゲルハルト中将が述べている。▼「空軍パイロット半数近くでNATO基準の180時間を昨年達成できていないのは、整備問題で機材が運用できなかったため」と英デイリー・テレグラフが伝えている。▼空軍パイロット875名で飛行時間基準に達したのは512名とドイツ政府官報にある。

 

 

「ドイツ空軍はどん底状態」「機材は交換部品がないため飛行できない、あるいは整備が終わらず地上に残っている」とドイツ空軍参謀長インゴ・ゲルハルト中将が述べている。

 

第二次大戦中に恐れられ、冷戦中に敬意を集めたドイツ軍がここ数年は予算不足のため、かろうじて機能する組織になっている。▼2018年夏にドイツのユーロファイター128機中で部品不足が原因で飛行可能だったのはわずか10機だった。▼2019年2月は39機になり、トーネード戦闘機93機は26機しか戦闘あるいは訓練に投入できなかった、とテレグラフは伝えている。▼今度はパイロットが軍を去り、支障を生じる事態が危惧されている。▼この5年間で11名が去ったが、昨年上半期だけでパイロット6名が退職している。

 

冷戦終結でソ連の脅威が消えてドイツ軍事力は減衰している。▼喫緊の問題は国防支出で、NATO目標のGDP2%に対し、1.3%にとどまっている。▼ただし、欧州内NATO加盟国で目標を達成している国は少数だ。

▼2018年にドイツ海軍潜水艦で出動可能な艦が皆無となり、新型ヘリコプターや輸送機で飛行不能事態が生まれ、装甲車両が稼働できなくなった。▼ロシアがバルト海諸国に侵攻しても、ドイツは一個旅団の派遣準備にさえ一ヶ月かかるとの米調査結果もある。

 

といってドイツがパイロット訓練不足を甘受していいわけではない。▼米国、イスラエルの第二次大戦後の成功はすべて訓練を十分受けた搭乗員が要因だ。▼ロシア軍パイロットは訓練時間が西側より長くなっているとの分析もある。▼ドイツ軍パイロットの訓練内容がこのままの状況ではNATOはロシアへの優位性を失いかねない。

 

訓練不足がナチ時代のドイツ空軍崩壊につながったのは皮肉な事実だ。▼1939年のドイツ空軍パイロットは実戦前に200時間飛行しており、各国より長い訓練を受けていた。▼これによりドイツは大きな撃墜成果を上げた。▼1944年に燃料不足で訓練に支障が出ると、損害が多大になり、ドイツは50-100時間程度の訓練でパイロットを送り出した。▼これに対し、英米軍では300時間以上を訓練にあてていた。▼その結果、悪循環となり、パイロット不足でルフトバッフェは未熟パイロットを動員し、すぐ撃墜されてしまい、更に多くの新米パイロットが戦場に送られた。

 

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Why Pilots are Quitting the German Air Force

January 28, 2021  Topic: Security  Region: Europe  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarStealth

by Michael Peck

Michael Peck is a contributing writer for the National Interest. He can be found on Twitter and Facebook. This article first appeared last year.

Image: Reuters.


 

2021年1月29日金曜日

第6世代戦闘機はもう飛んでいる。早期実現させたデジタルエンジニアリングは装備品開発のパラダイムシフトを引き起こす....デジタル化を進めたローパー博士の強い信念。

 アメリカはデジタル設計で新型装備品をかつてないスピードで完成させている。

https://www.reutersconnect.com/all?id=tag%3Areuters.com%2C2020%3Anewsml_RC2DUG9YN9MU&share=true

 

世代第6世代戦闘機が飛行開始している。一体どうやってこんなに早く機体が完成したのだろうか。

 

また新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)が予想より早く供用開始できるのはなぜか。更にペンタゴンは新型の次世代迎撃ミサイル(NGI)を2020年代末に運用開始する計画だ。驚くべき早さの進展はすべてデジタルエンジニアリングの成果だ。

 

加速するデジタルエンジニアリング技術ではコンピュータシミュレーションと高性能アルゴリズムを駆使し実物と性能仕様を複製する。

 

政権交代で空軍を去る直前に調達トップのウィリアム・ローパーはデジタルエンジニアリングの「三位一体」に触れ、大規模装備開発でどんな違いが現れているか説明してくれた。例として第6世代ステルス戦闘機や新型陸上配備戦略抑止手段をあげた。デジタルエンジニアリング技術は正確かつ効果が高く、技術陣兵装開発部門は現物を使わず、あるいはテスト用試作モデルの政策に何年も費やさずに選択肢を逐一検討できる。

 

 

ローパーは「デジタル三位一体」について「新しいデジタル調達の実際』と題した文章でソフトウェア開発、コンピュータモデリング、共通技術標準の3つで構成すると解説している。

 

「『デジタル三位一体』のデジタルエンジニアリングおよび管理、アジャイルソフトウェア、オープンアーキテクチャがこれからやってくる次の大きなパラダイムシフトだ。単に優秀な装備を実現するのではなく、より良いシステムを構築する。これまでより早い設計、一気通貫の製造、アップグレードを簡単に行う。早くして悪いことはなにもない」

 

コンピュータモデリングで細部に至る評価を行い、実戦の各種状況を想定し、各種条件を変えつつ装備品の設計を検討できるというのは驚くべきことだ。

 

「デジタルエンジニアリングにより、利用者はデータの出どころを一つに絞ってアクセスできます。究極の透明性が開発中システムに生まれるわけです。NGIの例では開発工程が早まり、問題点やリスクをすばやく早くできました」とレイセオン・ミサイル&ディフェンスのメリッサ・モリソン−エリス部長がNational Interestに語っていた。

 

GBSDの開発元ノースロップ・グラマンはレイセオンと共同でNGIをミサイル防衛庁(MDA)に提示し、デジタルエンジニアリングを多用し、新型ICBMの製造、試験、改良に成功し、NGIでも同じ方法を採用した。

 

「MDAからは産業界にはミサイルは現実になってこそ意味がある、技術の裏付けの取れた性能を実現してほしいとの要望が伝えられました。エンジニアリングソフトウェアを使い、デザインサイクルを加速しました」とノースロップ・グラマン副社長(NGI担当)のテリー・フィーハンも述べている。

 

「デジタル調達でデジタルライフサイクルが実体のライフサイクル並になると、はるかに現実に近くなってくる。eシステムを構築し、『プリント』して検討する日が来るだろう」(ローパー)

 

この戦略が重要となる例は新型迎撃ミサイルNGIで、MDAが開発企業二社に契約交付すれば、数週間で次の段階に入れる。MDAは増大する新世代ICBMの迎撃性能の実現を急いでおり、この意味は重大だ。敵陣営は核兵器運搬手段を単に数の上で増強するにとどまらず、ミサイル誘導方式を大改良し、信頼性、標的捕捉能力、おとり装備の導入、対抗手段の採用で迎撃ミサイルを無効にしてくるはずで、NGIは大きな課題をかかえている。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

How America's New Sixth-Generation Stealth Fighter Was Born

January 28, 2021  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryNGIGBSDICBMU.S. MilitaryStealth

by Kris Osborn

 

Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics & Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Masters Degree in Comparative Literature from Columbia University.

 


ソウルが「火の海」になる? DMZ沿いに北朝鮮が展開する大口径火砲コクソンの脅威はどこまで真実なのか。

韓国の現政権はことあるごとに北に媚を売っており、あたかも統一のためなら北にすり寄っても構わないと考えているようです。同様に国内の左翼陣営も親北の姿勢を隠そうともしていませんが、北朝鮮は罵詈雑言で韓国を見下しており、韓国など眼中に無いような態度です。万一有事となれば躊躇なく砲門を開くのではないでしょうか。そのときに左翼陣営は自らの過ちに気づくでしょうが、時遅しでしょうね。

都市ソウルの都市計画は他と全く違う。市東部は北朝鮮国境から30マイルと離れておらず、火砲数百門の射程内だ。北朝鮮はソウルを「火の海」にすると脅かしている。このため都市計画では23平方キロに及ぶ退避壕を念の為市内に構築している。

 

北朝鮮は弾道ミサイル開発で核弾頭を搭載するとの観測もあるが、高性能砲弾や化学弾が人口1千万人とニューヨーク市を上回る韓国首都に降り注ぐ光景を想像するだけで背筋が寒くなる。

 

ただし、DMZの反対側からソウルまで届く射程の火砲はごく一部のみだ。その装備が500門を揃えた170ミリ自走砲コクサンで、性能は実戦で実証されており、ロケット推進弾を発射すれば射程は37マイルに伸びる。

 

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コクサンは20世紀前半の長距離砲への回帰といえる装備で、戦線後方の防御陣地や弾薬集積地、司令部、補給上の急所など高価値標的の打撃が任務だ。1950年代に大型砲の半自力走行車両搭載が増え、戦術核兵器を発射するものも現れた。だが米軍の175ミリM107、203ミリM110は用途廃止された。空爆、戦術ミサイルで同じ効果を上げるようになったほか、155ミリ砲でも発射弾の性能向上があったためだ。

 

だが朝鮮半島の地理条件と軍事境界線の整備された環境は火砲の使用に有利となっている。朝鮮戦争でも米軍の移動式火砲が北朝鮮軍、中国軍の人海戦術を撃退する効果を示した。さらに北朝鮮軍は航空支援に期待できる状態ではなく、精密誘導兵器も頼りにならない状況にある。

 

北朝鮮装備品の出自には謎が多い。M1978コクサンも制式名称ではなく、1978年に西側が初めて同装備を目視してこの名称がついた。北朝鮮装備品は多くがソ連の原設計だが、ソ連は170ミリ砲を開発していない。コクサンは第二次大戦中の日本軍の沿岸砲あるいはドイツ製K18装備が原型かもしれない。

 

M1978は中国製59型戦車の車台に搭載するが、方の装填を行う兵員には遮蔽物がない。これは米M107やM110でも同じだった。M1978には車内に砲弾を持たず、軽装甲の弾薬車あるいは事前集積地がないと発射を続けられない。当然ながら、北朝鮮は境界線沿いに構築した硬化火砲陣地の利用をしてくるはずだ。多くは山腹に掘ったトンネルで、一部には居住部分をそなえたものもある。

 

コクサンは実戦で洗礼を受けている。1987年に北朝鮮はイランに同装備を売却し、当時イランはイラクと戦闘中だった。テヘランの軍事パレードにも登場した。

 

イランはアルフォー半島の占領に1986年成功した。同地はクウェイトの油田地帯に隣接し、クウェイトは当時はイラクの同盟国だった(中東の同盟関係はすぐ変化する)のでクウェイト油田地帯の砲撃にコクサンが投入された。1988年にイラク軍が化学兵器も投入し奇襲攻撃を断食月中に実施し、イラン陣地を占拠した。コクサン数門を捕獲し、米国関係者も視察した。

 

ほぼ同時期に北朝鮮はM1989をコクサン改良型として運用開始し、車台の延長で安定度を増し、4名の搭乗スペースもついた。随行車両にさらに装填手4名が乗る。M1989は車内に12発の砲弾を運ぶ。これによりM1989は最初の一分で3-4発を連続発射し、その後は毎分一発の通常発射になる。

 

ソウルは「火の海」になるのか

 

2012年にノーチラス研究所からの詳細な研究発表では、コクサンや240ミリ連装ロケット砲の脅威が誇張気味と主張した。最近でもNational Interestのカイル・ミゾカミも同様の主張を展開している。

 

まず、長距離砲コクサンといえどもソウル北西部を射程に入れるにはDMZに沿いごく狭い範囲に展開する必要があり、すぐに空爆や地上からの攻撃の標的になる。

 

戦例ではシリアのアレッポ、チェチェンのグロズニーの砲撃は数ヶ月かかっており、第二次朝鮮戦争がそれを数週間にまで短縮する可能性はある。さらに北朝鮮軍が民間人を集中攻撃し、軍事目標を後回しにするだろうか。またソウルに中国国民も居住しており、犠牲となれば中国が黙っていないだろう。

 

とはいえ、検討すべき点もある。まず、ソウルの人口はアレッポやグローズニーの数倍の規模があるので、死傷者も数倍に登るだろう。韓国人口のほぼ半分の24百万人が首都圏に暮らす。砲撃による死傷者は大部分が退避壕に隠れる余裕もないままで発生する。そのため実際の死傷者が多くなる場合もある。ノーチラス報告書では死亡を最大29千人と試算し、市街地は壊滅するとある。それ以外にパニックで何十万人が避難しようと道路にあふれ、一帯が混乱を極めるのは朝鮮戦争で経験済みだ。

 

北朝鮮火砲が化学砲弾を発射すれば混乱の規模は更に拡大する。コクサンで化学砲弾運用は想定されているものの確認できていない。最後に韓国と米国が過剰なまで装備を北朝鮮の戦略野砲部隊に振り向ければ、野砲部隊は真価を発揮したことになる。

 

大型砲が国境ぞいに配備されているのは南北朝鮮で戦闘が始まれば、韓国民間人に多大な犠牲が発生することを意味している。一旦民間人に照準をあわせれば、コクサンが大損害を発生させる冷徹な事態になる。

北朝鮮は反攻に耐え抜くと豪語している。ただし都市部を狙えば、北朝鮮体制が崩壊に向かうのは確実で、北朝鮮が事実関係を理解していることを祈るばかりである。

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

North Korea’s Artillery Guns are Nearly as Threatening as Its Nuclear Weapons

January 27, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWarWeaponsGunsNorth KoreaKim Jong-un

by Sebastien Roblin

 

Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring. This piece was originally featured in October 2017 and is being republished due to reader's interest.

Image: Reuters


 

2021年1月28日木曜日

米軍は真剣だ。中国ミサイル攻撃で既存基地被害を想定し、アジャイル前方展開で未開地の臨時航空基地から高性能機材を運用し、移動し続ける構想。2月のコープノース演習で実証する。

 

国との開戦が限定戦となっても主要航空基地の滑走路が使用不能となる恐れがあり、米軍に真剣な課題になっている。グアムのアンダーセン空軍基地は中国弾道ミサイルの射程に入っており脆弱性は否めない。そこで空軍は前方基地としてウェーキ島やテニアン島の利用を検討している。そのアンダーセン基地の北西滑走路はジャングルに囲まれ過酷な環境のままだが、ここから戦闘機を運用させようというのが多国籍演習となるコープノース航空戦力演習でグアムを主舞台とする。

 

Air Force Magazineのブライアン・エバースティンがアンダーセンの北西飛行場でエイルソン空軍基地のF-35、三沢航空基地からのF-16を運用すると他に先駆け報じた。同地ではC-130、ヘリコプターの運用はあったが、最近延長工事のため航空機運用は行っていなかった。もともと頑丈な作りでなく、インフラに依存しがちな戦闘機を同地で運用するのはUSAFでも前例のない試みとなる。

 

GOOGLE EARTH

2018年9月当時の画像では北西飛行場の東滑走路が整備作業を受けているのがわかる。

 

コープノース演習に未整備飛行場の運用を含めたのはペンタゴンがすすめるアジャイル戦闘展開戦術構想を磨く意味もあり、敵の裏をかく形で少数機材を過酷環境や地上支援体制が限られる地点から運用する狙いがある。構想の実効性を高めるべく、地上支援部隊は最小限人員とし、最小限の機能だけの不完全飛行基地を確保し、移動を繰り返しながら敵の攻撃防衛案を混乱させる。またアジャイル戦闘展開部隊の生存性も高まる。

 

演習は2月開始で、現地では全長8千フィートの滑走路に手を入れており、緊急拘束装置の設置を目指す。これは緊急時に滑走路だけでは静止できない機体を安全に回収するための追加装備だ。

USAF

大規模なアンダーセンAFBの全体像

 

北西飛行場はその他部隊も利用しており、THAAD部隊もそのひとつで同島を弾道ミサイル攻撃から守っている他、衛星通信施設もある。滑走路の東端に小さな建屋が2つあるのを除くと、通常の基地にあるような建築物は見当たらない。滑走路は濃いジャングルに囲まれており、この環境でハイエンド機材を運用するのは冒険的でもある。

 

USAF

2000年代はじめの北西飛行場は再整備前の姿を示していた。

 

コープノースでF-15C/Dヴァイパー部隊とF−35ライトニングII部隊が同地に着陸し、燃料補給し、兵装を再搭載し、離陸するが、あたかも遠隔地での戦闘任務の想定となる。設備が整った基地でさえ、ハイテンポ運用に困難となる。遠隔地で通信交信もなく、支援車両もない状態で高性能機材を運用するのだから難易度はさらに高い。例えば燃料搬送でMC-130特殊作戦支援機が投入されるはずだ。現地の野生動物対応が必要となる場合もあろう。

 

USAF

MC-130が前方兵装燃料補給拠点 (FARP) となり、F-35Aを支援する。この訓練は近年増加しており、今回は統合運用としてテストされる。

 

演習から補給活動の知見が大量に得られるはずで、整理した上で今後の前方基地展開に応用されるはずだ。

 

コープノース演習が実際に始まれば、現地の動きを逐一お伝えしたい。■

 

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

F-35s And F-16s Set To Operate From Austere Jungle Airfield During Major Exercise On Guam

BY TYLER ROGOWAY JANUARY 27, 2021