2019年2月21日木曜日

★ロッキード提案のF-21(F-16ブロック70原型)の詳細はこうなっている



Lockheed Martin Offers India Enhanced F-16 Block 70 Multirole Combat Aircraft Dubbed “F-21” ロッキード・マーティンが改修型F-16ブロック70多用途戦闘機を「F-21」としてインドに提案している




F-21想像図 (Image credit: Lockheed Martin).


「新型」F-21が Aero India 2019航空ショーで注目を集めている



ロッキード・マーティンがインド空軍のRFI情報提供要請に基づき新型戦闘機を初公開した。インドは110機を150億ドルで調達の予定。


F-21との命名だが、IAIのクフィールを米軍が供用した際に使用された呼称である。「Make in India」と「F-35につながるインドの道」と銘打ち、同機はインド国内でタタ・アドバンストシステムズと共同生産するという。


「F-21は外観内部ともに別の機体です」とロッキード・マーティンエアロノーティクスの事業戦略開発担当副社長ヴィヴェク・ラルは述べているが、実態はF-16ブロック70が原型のようだ。F-16Vの一型式で2015年10月に初飛行している。F-16の供用期間を延長する中間時点改修(MLU)と共通仕様改良事業(CCIP)の発展形でインドへの営業はすでに展開されている。


ブロック70改修ではAESAレーダー、民生部品(COTS)を流用したエイビオニクスのサブシステム、AN/APX-126高性能IFF、共用ヘルメット搭載指示システムII、CFT(機体一体型燃料タンク)や大容量高速データバス、さらにLink-16戦域データリンク、スナイパー高性能照準ポッド、その他高性能兵装や精密GPS航法や自動地上追突回避システム(自動GCAS)を採用した。


ブロック70で一番興味を惹かれるのがノースロップ・グラマン製のAPG-83 AESA レーダーで、探知追尾範囲が広がり、20余りの標的を同時に追尾し、高解像度の合成開口レーダー(SAR)地図により全天候下で精密攻撃が可能とし、空対空あるいは空対地モード切り替えで状況認識力が向上し、作戦有効性と残存性が伸びた。また電子防御力が改善されている。APG-83は同社がF-22用に開発したAPG-77、F-35用のAPG-81につながるファミリーの一部で第5世代機のASEAとハードウェア、ソフトウェアとの互換性が生まれた。


APG-83 AESAが「インド向けロッキード・マーティンF-16ブロック70」の広報資料に載っている (Image credit: LM).


ロッキードが公開したアニメーションや図表ではF-21機体右側にIFR(空中給油)装備のプローブがつく。
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From the dorsal section, to a triple launcher to the probe-drogue system, here’s everything that’s different in @LockheedMartin’s F-21 compared to the F-16 Block 70. #AeroIndia2019 https://www.pscp.tv/w/bzz-wDEzMjE2OTk0fDFPZEtyUnZMd01PS1idZqtfrSPZIPulsjzxoGzVhs1_H6fC6Wgk6mj6KhhZKw== …


また注目したいのは曳航式デコイ装備が尾部につくことでF-16ブロック70ではALE-80ATDを主翼下パイロンに搭載しているという。


コックピットも大幅に手を入れている。F-16ブロック70改修では基本型ヴァイパーのコックピットにHUD(ヘッドアップディスプレイ)、大型画面を前方パネルに、高解像カラー映像CPD(足元中央画面)が提示されていた。だが今回の映像を見るとF-21では広角HUDと大画面エイビオニクス画面のみとなり、F-35の仕様に近い。


F-21のグラスコックピット (Screenshot from LM F-21 launch video).F-35のコックピット (Image credit: LM)

F-21はF-16の性能を極限まで引き上げた機体だが、インド空軍にはその他7機種が名乗りを上げており、長期にわたり複雑な過程になったあげく2015年に取り消しになった中型多用途戦闘航空機材(MMRCA)と同様の結果になるかもしれない。この事業ではフランスとの政府間協議でラファール36機の採用に終わった。


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Here’s how the 7 aircraft that have responded to the Indian Air Force’s RFI for 110 fighters are present at #AeroIndia2019. Clockwise from top left:
F/A-18
Rafale
Gripen E
Typhoon
Su-35
MiG-35
F-21/F-16 Block 70

ではロッキード・マーティンF-21がインド空軍に採択される可能性はあるのか。


断言できない。大型調達案件では政治的な動きに左右されやすく、性能よりも価格が前面に出る。さらにインド航空宇宙産業との契約関係は混乱かつ非効率であることが実証済みであり、新旧機材が入り交じる中で多額の契約規模をめぐり選定は長期化しそうで今回の選定が終わりのない契約工程と交渉の連続になる予感がある。これは前回のMMRCAで実証ずみだ。


ただしインド空軍がソ連時代のMiG-21やMiG-27の用途廃止で待ったなしになり数年が経過し、飛行隊規模が内閣が定めた42隊に近づいている。


まず静観し今回はどうなるか見ようではないか。■

速報 ロッキードがインド向けにF-16原型のF-21構想を提示

F-21と言う呼称がどうしてつけられるのかわかりませんが、ブロック70が原型と言われる今回の機体はインド用に特化した仕様のようですね。暑い国で熱い商戦が繰り広げられそうです。

Lockheed Unveils F-21 Fighter, a Beefy F-16 Concept It’s Pitching to India ロッキードがF-21をF-16発展形として提示しインドへの売り込みを図る

  • BY MARCUS WEISGERBERGLOBAL BUSINESS EDITORREAD BIO


ロッキード・マーティンが2月20日航空業界を驚かせた。F-16を改修しインド空軍向け機材をF-21戦闘機として発表したのだ。


同社は同機を「インド空軍を意識して仕上げ」た機材として「インドにF-35への導入となる」ものと宣伝している。

「F-21はインド空軍特有の要求内容を実現しつつインドを世界最大級の戦闘機エコシステムに世界有数の防衛企業とともに組み込む意義があります」とロッキードは声明を発表。


インド航空ショー初日に発表されたF-21は同社が狙うインド空軍114機調達の150億ドル事業の最新提案だ。その他にもボーイングがF/A-18スーパーホーネット、ユーロファイター・タイフーン、ダッソー・ラファール、Saabグリペン、さらにロシアも機材を提示している。ロッキードは当初はF-16発展形を提示していた。


「F-21は当社の第5世代戦闘機F-22およびF-35と共通部品や知見を共有しサプライチェーンも共有できます」と同社はウェブサイトで説明。「F-21とF-16のサプライチェーンのほぼ半分はF-22およびF-35と共通です」


同社はF-21構想はF-16より高性能と主張。


まず米海軍、海兵隊仕様と同様の引き込み式空中給油用プローブが目立つ。標準型F-16はブームにより空中給油を受ける。


さらに大型機体一体型燃料タンクが胴体両型にあり、これはスカンクワークスが2007年から開発に取り組んでいた。


ロッキード公開の機体想像図では大量の兵装搭載能力とスナイパー照準ポッドが見える。コックピットでは大型画面が目立ち、F-35との類似性がわかる。
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ロイター報道では同社はF-21をタタアドバンストシステムズと共同で生産する提案をしている。インド首相ナレンドラ・モディの進めるMake-In-India政策では産業基盤の高度化を目指している。


2017年にロッキードはF-16生産ラインをフォートワースからサウスカロライナに移転しF-35生産ラインを拡張すると発表していた。■

★米側から見たF-3戦闘機開発の意義や背景について

National Interestの編集部はときどき論調とはいささか乖離した見出しを扇状的につけることがあり今回もそうなのですが、タイトルと記事が一致しません。またF-35の役割についても著者は理解が低いようです。ただしF-3についてはわからないことが多く、観測記事の域を脱しませんが、少しずつでも解明されていくといいですね。

Japan's New F-3 Fighter: Why Not Just Buy More F-35s? 日本のめざすF-3戦闘機はF-35追加調達で不要になるのではないか

We have a look at what Tokyo is planning.
February 17, 2019  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Buzz  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarJapan
2019年2月、日本はステルス戦闘機国内開発の方針で注目を集めた。ちょうど100機超のF-35調達を決めたところであった。
防衛省は新型戦闘機F-3調達を中期防衛整備計画(MTDP)に組み入れ今後10年間の調達計画を策定した。
最新のMTDPは日本を取り巻く安全保障環境の悪化で大幅な防衛支出増を盛り込んでいる。
ではF-3はどんな姿になるのか。
防衛省によればF-3は三菱重工製F-2の後継機となる。F-2は米F-16を原型に日本製技術内容を採用した単発軽量戦術戦闘機だ。21世紀に入った時点でF-2は世界最高水準の戦闘機でAESAレーダーを搭載する他、複合材の採用でレーダー断面積も最小に抑えていた。また主翼面積を増やし対艦ミサイル搭載も可能となった。F-2最終号機は2011年にロールオフし2030年代まで供用が予定されている。
ただしF-3の初期構想はF-2とは大きく異なる。二案示されたがともに双発エンジン構造だ。
その理由は以下考えられる。双発機は長距離哨戒活動で効果が高い。また1基が故障しても残るエンジンで出力を十分確保できる。F-15JはF-2より早く供用期間が終わりそうで、新型機はF-2、F-15J共に更新する機材になる。
では単発エンジンのF-35はどういう位置づけなのか。F-2後継機にF-35を導入するのは理にかなうのか。
100機超のF-35導入を日本が考えているのはF-4EJ戦闘機の用途廃止が前提だろう。1970年代製の同機では現代では有益性に疑問が生まれている。またF-35導入で日本の航空戦力は比較的容易に増強でき、新型機登場を待つ必要がない。F-35B導入はF-3では不可能な非整地からの運用を想定してのことだろう。
F-3の機内兵装庫はF-35を凌ぐ大きさになるはずで攻撃能力も向上する。日本には複座仕様のF-2もあるが、F-3でも複座型を開発し戦闘無人機を指揮統制する「母機」にできるのではないか。
F-3は同時に国内航空宇宙産業の設計能力を維持する手段ともなる。F-2をF-16原型で開発する決定が日本国内で物議をかもしたのは技術移転が限定されるためだったが、F-3で防衛省は国内産業界に便宜を提供しようとしている。
自衛隊でF-3は今後の重要機材だ。成長著しい中国空軍力への対抗策として有効である必要があるし、一定数の調達を可能となる経済性も必要だ。輸出の可能性も開けるはずで日本が防衛装備品の輸出制限を緩和した恩恵を受けられる。反対に開発が失敗すれば日本の国産戦闘機設計能力は大打撃を受ける。■
Charlie Gao studied Political and Computer Science at Grinnell College and is a frequent commentator on defense and national security issues.

Image: Wikimedia Commons

2019年2月20日水曜日

★特報 米空軍のF-15X調達は全80機規模と判明(空軍20年度予算要求)

またブルームバーグの特報です。政府筋に強い取材源を持っていますので航空専門サイトよりも情報収集力が強いのでしょうか。80機というのが多いのか少ないのか釈然としませんがボーイングにとっては朗報であることはあきらかで、かねてから主張しているように日本にも参考となる動きです。ロッキードは予防線を張っていますが、予算総額が増えないのであればF-35への影響は必至でしょう。


Air Force Wants Eight Upgraded Boeing Fighters Along With F-35s

米空軍は新型ボーイング戦闘機8機をF-35と並行導入の意向
      
2019年2月19日 18:00 JST


  • 米空軍はF-15Xを五カ年で80機調達する予定
  • ロッキードは同機の性能はF-35に劣ると強調
A U.S. Air Force F-15.
A U.S. Air Force F-15. Photographer: U.S. Air Force
空軍の次年度予算要求でF-15戦闘爆撃機8機をボーイングに新規発注が盛り込まれ、実現すれば2001年以来の調達再開となる事が判明した。高性能のロッキード・マーティンF-35調達は継続する。
2020年度予算から今後五年間で80機のF-15を調達すると空軍内部に詳しい筋が述べた。
ホワイトハウスも要求を支持しているとはいえ一貫して「第5世代」F-35の調達を熱心に求めてきた空軍がここにきてF-15も調達するのはなぜかとの疑問が国会議員から出そうだ。
ボーイングはセントルイスのF-15生産ラインをイスラエル、サウジアラビア、カタール向け受注を受け維持してきた。米国向けF-15Xはカタール向け機材をベースだが空対地、空対空兵装の搭載量が現行F-15よりも、またF-35よりも大きい。
F-35は機内兵装庫があるが開発中の大型兵器極超音速ミサイルは搭載不能だ。F-15XにはF-35の技術面での優位性はなく、ステルス性や高性能センサーやデータ供給機能もない。
空軍は1,763機予定のF-35調達は減らさずF-15X導入を提案するとみられる。昨年引き渡しのF-35合計84機のうち48機が空軍向けだった。
ロッキードは静かに国会議員やF-35こそ優れた選択肢だと議会スタッフに伝えており、「ファクトシート」を昨年12月配布した。その後はF-15に対し上院議員五名が批判を展開し、大統領にボーイング機は「時代遅れ」との書簡を送りつけている。
ボーイングは「十分に生存可能なF-15新型を空軍に妥当な価格で提供する準備がある」と述べており、空軍報道官は大統領が予算要求が発表するまでは言及を避けている。
F-15X調達はペンタゴンのコスト評価室が独立して行った空軍ニーズ調査に源を発する。これがホワイトハウスの予算担当部門の高評価を得て、大量兵装の搭載が可能なすきま機材として認識されたという。
ボーイングは機体単価を80百万ドル程度の固定価格契約で第一期分を2022年納入と提示している。F-35は最新の契約分では単価89百万ドル、2020年に80百万ドルになる見込みだ。
ロッキードの「ファクトシート」ではF-15Xは90百万ドルで、航続距離、加速性能、滞空時間はいずれもF-35に劣るとある。
ロッキードCEOマリリン・ヒューソンは1月に業界アナリスト陣に「ペンタゴン上層部から直接」聞いた内容としてF-35は「各方面から支持を受けており」F-15調達の如何で影響は受けないと語っていた。
ロッキードを強く支持する上院議員ジョン・コーニン、テッド・クルーズ(共にテキサス州選出)はトランプ大統領に書簡を送り、同州で生産中のF-35の予算がF-15X導入で犠牲になることがないよう注意喚起していた。■
— With assistance by Roxana Tiron

★F-15Xから思い起こされるF-4ファントム改修構想とその顛末

歴史は繰り返すのでしょうか。ファントムが異例の長寿となったのはやはり大型機ならではの余裕が理由でしょう。F-15も同様に長寿機になっていますが、折角出てきたF-15XをF-35支持勢力が抹殺する愚行が起こらないよう願うばかりです。

In the 1980s, Israel Developed a 'Heavy Hammer' F-4 Super Phantom: What Happened?1980年代にイスラエルが『大型ハンマー』のF-4スーパーファントム開発に走ったがその結果は?

Some fighter history you may not know.あなたの知らない戦闘機の歴史がある
February 16, 2019  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Buzz Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarIsraelF-35
2018年の報道記事で性能改修型F-15X戦闘機調達をペンタゴンが検討中と判明した。F-15C制空戦闘機の更新用だがF-35ステルス戦闘機支持派にF-15X導入でF-35調達への影響を恐れる向きもある。ただしF-35はF-15C後継機ではなかった。新型機メーカーが既存機種の改修型の出現を警戒するのは今回が初めてでない。
F-4ファントムは複座ジェット戦闘機の野獣といった存在でマッハ2飛行しながらB-17爆撃機を凌ぐ爆弾搭載量を誇った。高性能レーダーを搭載し、空軍、海軍、海兵隊で1960年代に採用され空対空ミサイルで視界外の敵機を排除する構想だった。
だが初の実戦となったヴィエトナム戦で設計不良と不利な状況が浮かび上がった。初期の空対空ミサイルは信頼性が極めて低く、交戦規則では米パイロットは有視界内で確認を最初に求められた。さらにMiG各機に比べファントムの操縦性は劣り、米パイロットは視界内での空戦訓練を十分受けておらず、ファントムには機銃が搭載されていなかった。
設計上の不良は修正されていった。20ミリヴァルカン砲がF-4Eから搭載され、ミサイル技術も大幅改良された。さらにパイロットも空中戦闘操縦理論で訓練を受け、主翼にスラットが追加され速力を犠牲にしたが操縦性が向上した。ヴィエトナムでは150機撃墜で41機被撃墜の3対1のキルレシオだったがその後のイラン-イラク戦争やアラブ-イスラエル戦で実績を上げていき、150機程を撃墜し地対空ミサイル陣地の排除で成果を見せた。
1970年代中頃から米軍ではファントム後継機として第四世代機のF-15イーグル、F-16ファイティング・ファルコン、FA-18ホーネットの導入が始まった。各機とも効率に優れたターボファンエンジン、フライバイワイヤで油圧式制御を排除し、ドップラー・レーダーで低空を飛ぶ敵機への対応力を上げ、機体とエンジンの組み合わせと速力と操縦性のバランスが改良されていた。
ただしこうした新技術はファントムにも改修で搭載された。1980年代にイスラエル航空宇宙工業(IAI)がファントム近代化をクルナス(大型ハンマー)の名称で三段階で企画した。第一段階はレーダー更新、ヘッドアップディスプレイ、コックピット計器の更新、スタンドオフミサイル運用能力の付与だった。だがIAIは国産軽戦闘機ラヴィ(ライオン)でもっと野心的な性能向上を狙っていた。
1980年にIAIはエンジンにブラット&ホイットニーを選定しF-15用のF100ターボファンを小型化しラヴィに搭載しようとした。ここから生まれたPW1120はF100より小型だが推力はほぼ同じ、部品互換性も70%を実現した。
1983年にボーイングとプラット&ホイットニーが「スーパーファントム」構想を発表しPW1120搭載で燃料消費効率を大幅に改良しファントムが50年代から搭載中のJ79ターボジェットより推力を3割増やすとした。ボーイングのスーパーファントムは機体一体型燃料タンクも備え飛行距離は倍増し主翼吊り下げ型燃料タンクより抗力を改善するとした。ただし米空軍は1984年に同構想の予算手当を取り下げた。
その後1986年7月にIAIがラヴィ開発を進める一方でF-4Eファントム336号機をテストベッドとし、J79エンジン1基をPW1120に換装した。おそらくボーイングが支援したと思われるが、その後PW1120双発になり1987年4月に初飛行した。
すべての面でエンジン換装後のファントムの性能はずば抜けており、F-4Eの推力重量比は0.86から1.04に変わった。(1.0以上で90度の垂直上昇が可能となる)スーパーファントムは上昇性能が36パーセント向上し旋回速度は15パーセント早くなった。これでF-15Eと同程度の性能となった。エンジンが軽量化したこと、燃料消費が改善されたことでスーパーファントムは航続距離も伸びた。
もっと驚くべきことはスーパーファントムでスーパークルーズが可能となったことで、アフターバーナーを使わずに音速以上の速度を維持できた。現時点でもスーパークルーズ可能な戦闘機はF-22ラプターのみである。
1987年のパリ航空ショーでベテランパイロットのアディ・ベナヤがスーパーファントムを操縦しスピンからの脱出を見せつけた。ドナルド・フィンクがAviation Weekに「むき出しのパワーで垂直方向の機体操縦とタイトな高G旋回を見せ、旧式F-4とは全く異なる飛行ぶりを見せた」と評している。
スーパーファントムの航空ショーデビューでIAIがPW1120改修に向かい各国で販売するとの予測が出てきた。だが結局スーパーファントムは販売されず、その理由には物議をかもすものがある。
スーパーファントム改修は非常に高額だったとの指摘がある。一機12百万ドルとされ、エイビオニクス改修、機体構造強化、特殊燃料タンクまで一式とされた。当時のイスラエル空軍機材がその段階で耐用年数が残っていたことも考慮すべきだ。
さらに二ヶ月後にラヴィ戦闘機開発が中止となったのは米国からの圧力も原因で第四世代戦闘機で競争相手を作りたくないとの思いもあった。PW1120が他機で採用されないことも調達コストの底上げにつながった。
とはいえ当時の噂ではファントムの原メーカーたるマクダネル-ダグラスの横槍でIAIのスーパーファントムが同社の新型FA-18C/Dホーネットの邪魔になると妨害されたとも言われる。スーパーファントムはFA-18Cホーネット(29百万ドル)と同水準の性能だったともいわれる。その段階でドイツ、ギリシャ、日本、イスラエル、韓国、スペイン、トルコ、英国で数百機のファントムが供用されていた。
マクダネル-ダグラスがPW1120を搭載したスーパーファントムの認証を拒みIAIは価格面で競争力のある同機販売ができなくなったといわれる。この噂は当時広く出回ったものの確認できなかった。
IAFは55機のクルナス-ファントムでエイビオニクス改修を行い、スロットルと操縦桿の一体化、APG-76ドップラーレーダーの搭載、ポパイ対地攻撃ミサイルの搭載が実現した。クルナス-ファントムは2004年に退役したがIAIは同様の改修をトルコ空軍機材に行いターミネーター2020の名称とした。この機材がシリア上空で活躍している。
日本がライセンス生産のF-4EJを2019年に退役させると、残る運用国はギリシア、イラン、韓国、トルコのみとなりすべて改修型機材だが2020年代まで飛行する。だが結局スーパークルーズ可能なファントムは実現しなかった。■
Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.
Image: Wikimedia