航空宇宙テーマなのになぜ金融問題なのか。読者の中に訝しく思われる向きがあるかもしれません。要は巨大になった中国の動向に世界が振り回されており、中国経済が破たんするような事態(これを望む勢力もあるわけですが)が本当に来るのか。安全保障上にどんな影響が出る(出ない)のかが関心の的だからです。金融経済政策を司るエリート層が導入中の各種政策手段を以下エッセイでは好意的に受け止めていますが、その結果がいつ、どう出てくるかで巨大な軍事力整備の動向も変わってくると思います。そろそろ中国単独での経済金融動向=地政学専門のターミナル5を増設すべきでしょうか。読者の皆さんのご意見を頂戴したいと思います。
The Next Global Financial Crisis: A Chinese Sovereign Debt Default? 次の世界金融危機で中国の公的債務はデフォルトになるのか
May 28, 2017
- ムーディズが中国国債を格下げし金融市場と政府中枢に波紋が広がっている。ただし格付け変更の例にもれずリスク要因の今後を占うより遅れて現状を追認する指標の観がある。中国には深刻な赤字問題があるが、近年の政策方向から中国の公的債務リスクは軽減しそうだが他の部門で高まりそうだ。
- 中国の債務問題でよく引用される指標が広義のマネーサプライ(M2、現金と銀行預金の合計)で、中国ではGDP比率(2016年末で208パーセント)が世界有数の水準になっている。国際比較では中国のM2/GDP比率は170パーセントとなるべきところが70ポイント高い。セクター別の借り入れ比率を見ると政府、家計両部門がとくに高いわけでない。だが金融除く企業部門の借入総額はGDPの170パーセントに達しており、世界最高水準だ。
- 中国で借入比率が全般的に高い背景には要因が三つある。
- まず、銀行中心の中国の金融では銀行預金と貸出しがほぼ全ての業務形態だ。米国では金融市場が発達しており、M2のGDP比率が80パーセントにしかなっていない。だが日本では銀行が中心で240パーセントになっている。
- 二番目に中国の貯蓄比率は異例なほど高いGDPの50パーセント以上の状態が数十年続いている。貯蓄の多くは銀行預金。
- 三番目に中国の通貨政策を加速する仕組みがある。マネーサプライは好況時に拡大し経済活動の活況を円滑化するが、不況時でも拡大させ経済、市場を安定化させる。
- 中国は大規模な金融危機を経験していないが、金融市場にリスクや不効率な要因が多々残っている。この原因は主に二つあり、高度経済成長が続いたことと銀行業界、国営企業への政府保証だ。例えばアジア金融危機で不良債権が30-40パーセントまで増えたが、銀行預金の保証があったため銀行破たんは出なかった。
- もちろんこの手法は永遠に続けられない。GDP成長率は2010年と2016年の比較で4ポイント近く低下した。ここから深刻な問題が生まれているのが企業のキャッシュフローとバランスシートで、ゾンビ企業が続々と生まれている。また中国経済は国際決済銀行が「三重のリスク」と呼ぶ負債比率上昇、生産性低下、政策選択幅の減少に直面しており、金融リスクが上昇すると政府の保証効果は減少する。
- ここ数年で金融リスクが各所に波及する兆候が見られ、株式市場から金融仲介業(シャドーバンキング)へ、債権取引から不動産へ、デジタル金融から外国為替市場へ移っている。投資流動性が高すぎる一方で投資対象が少なすぎる。
- M2のGDP比率が長く高止まりしているが、中国の預金者はこれまでは安全な銀行貯蓄に満足していた。だが二年前に狭義のマネーサプライ(M1つまり流通中の現金)がM2を上回る事態が突如発生し、以後両者の差が広がっている。預金金利の低さに我慢できない預金者が投資に走る様子がうかがえる。しかし投資機会は限られ、新規流入資金がバブルを形成して望ましくない整理統合が生まれる。
- 2016年末から中国は全般的金融リスクの危険度を発表しはじめ、政策パッケージで対応中だ。
- ただし政府の包括的保証きな問題が大きな問題そのものだ。金融商品の焦げ付きとゾンビ企業の倒産が最近始まっているが金融安定のため必要だ。財務省は地方政府の借り入れに明確な方針を最近設定している。また地方政府の短期銀行借り入れを政府発行長期債券にスワップする仕組みも導入し、バランスシート上で満期日が合わなくなる問題を軽減しようとしている。
- 2015年初頭に中央銀行が預金保険制度を商業銀行に導入した。2016年に債務株式スワップを導入し、政府が企業部門の債務軽減に本腰を入れ始めた。2017年に入り、金融規制当局が透明性の低いシャドウーバンキング部門を中心に金融部門から資金引き上げを開始した。当局は国営企業改革に手を付けるはずで、国営企業の日常業務を阻害せず投資利益にメスを入れることになろう。
- 債務問題解決で中国政府は正しい方向に向かっているようだ。
- もちろんムーディーズが指摘しているように、この段階で各改革策の成功を宣告するのは時期尚早である。中国が金融危機を回避できる保証もない。たとえば預金保険制度の導入で銀行破たんが増えても国債含むその他の金融危機の発生の可能性は下がる。そもそも倒産や破たんは回避できない。リスクのプレッシャーを軽減し、全般的な金融安定度を維持する方法である。とはいえ政府借り入れがGDP50%相当の中国には近い将来の国債不安を緩和する余地あり、とくに莫大な国有財産、比較的閉鎖的な資本勘定を考慮する必要がある。
- ムーディーズ格下げはその意味で今後のリスクを占うかわりにこれまでの問題へ警戒の目を向けさせる効果を生む。■
Yiping Huang is Professor of Economics at the National School of Development, Director of the Institute of Digital Finance, Peking University and Visiting Professor in the Crawford School of Public Policy at The Australian National University.
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毎日楽しく拝見させて頂いております。興味深い記事をありがとうございます。
返信削除他サイトの記事を含む、経済記事の翻訳は、正直言って良く理解できておりません。
可能か否かという点は度外視しますが、(国が本来持つ)国力に対する借金との対比について、現在の状況、加えて、今後あとどれ程借金が可能であるのかといった指標で表せると面白いと思います。
それも日本、米国、中国を比較する形でできると、国力に占める軍事力の割合、今後の余力が見えて面白いのではないかと思います。
御ブログのスタイルとは違うと思いますが、意見を述べさせて頂きました。
今後ともどうぞ宜しくお願い致します。