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アイオワ級の航空戦艦化は1980年代冷戦時の構想....実現の可能性は閉ざされていない

The Ultimate Warship: A Hybrid Aircraft Carrier-Battleship? 

空母+戦艦のハイブリッドは究極の軍艦になったのか



1980年代初めのレーガン政権は国防事業への予算重点配分をねらっていた。選挙公約に1970年代の「空洞化」を意識し軍再建があった。
その一環で第二次大戦時のアイオワ級戦艦各艦の復帰があり、1982年に工事がアイオワ、ミズーリ、ニュージャージー、ウィスコンシンを対象に主砲16インチ砲、5インチ砲が稼働可能となった。さらにハープーン対艦ミサイル16発、トマホーク対地攻撃巡航ミサイル32発のほかファランクス局地兵装システム(CIWS)4門を新たに搭載した。
ただし四隻が冷戦終結後に退役したのは各艦2千名もの人員が必要なためだった。国防予算縮小が背景にあった。現在は四隻とも記念艦あるいは博物館となっている。だが早期退役でさらに大胆な改修案が実現できなくなった。
1980年11月号の米海軍協会紀要に米海軍大佐(退役)チャールズ・マイヤースが寄稿したのは戦艦艦尾部分の大幅改修で第三砲塔を撤去するという提案だった。
第三砲塔部分はV字形状の飛行甲板とし、V字の底部が艦尾に位置し、Vの左右は前方に伸び航空機発進を実現するとした。昇降機2つでボーイングAV-8ハリヤーII12機を格納庫から運用するとした。
5インチ砲は撤去し、155ミリ榴弾砲の搭載で火力補強をねらった。V字飛行甲板の間のスペースには戦術ミサイルサイロを配備し、320サイロまで搭載可能としトマホーク対地攻撃ミサイル、ASROC対潜ロケットやスタンダード対空ミサイルを混合配備できるとした。これだけの本数はオハイオ級誘導ミサイル潜水艦のトマホーク154本を有に凌ぐ規模だ。
マイヤースはこれを「制海強襲艦」と名付け洋上で敵部隊を迎え撃つ構想で特に当時建造中のソ連海軍キーロフ級原子力巡洋戦艦を想定した。対戦シナリオでは米海軍は重装備キーロフ級が米空母や欧州へ急派する増援部隊輸送を脅かすのを阻止するのが重点だった。
制海強襲艦(IAS)はこのキーロフ級に16インチ砲とハープーンミサイルで立ち向かうはずだった。ハリヤー部隊も加わっただろう。戦力単位として経済的な存在となり、空母を本来任務に集中させる効果も生まれていたはずだ。
IASには別ミッションもあった。海兵隊上陸作戦の支援だ。16インチ砲は6門残っており、155ミリ榴弾砲も加え揚陸作戦前に上陸地点に砲撃を加える。海軍・海兵隊はイオージマ級ヘリコプター揚陸艦、タラワ級強襲揚陸艦に同艦を加え航空機動力で揚陸作戦を支援しただろう。
この構想でIASは航空強襲作戦の拠点となるはずだった。飛行甲板はヘリコプター運用にも投入できた。格納庫は海兵500名を収容できたはずだ。またハリヤーをヘリコプター部隊の援護にあてるほか近接航空支援任務にも当てて海兵隊本隊の上陸まで支えたはずだ。
話題となったもののIAS構想の実現は二回も延期された。国防総省と海軍は戦艦の現役復帰をとにかく早く実現したいとし、改修は最低限ですますこととしたのだ。
飛行甲板とミサイルサイロの搭載は実現しなかった。1980年後半に冷戦終結で予算縮小となり、1992年までに全艦は現役を解かれた。
実現しても制海強襲艦構想では1980年代の米軍活動では運用が難しかっただろう。ペルシア湾、グレナダ、レバノン、中米での各作戦ではIASは「必須」の装備とはいえなかったはずだ。揚陸艦一隻あるいは戦艦一隻で充分な規模だったが双方の中をとった存在では中途半端観が強かったはずだ。
IASはあくまでも大規模戦で真価を発揮する存在だった。キーロフ級を追い詰めその他重装備ソ連艦船を第三次世界大戦で撃破することで、米海兵隊のノルウェー上陸を支援し、海洋戦略の一助として空母部隊に加わりソ連の北極圏内基地を攻撃する。このシナリオではIASのミサイルサイロ320個は「必携」装備だったはずだ。16インチ主砲の斉射とトマホークで対地攻撃をソ連防空施設に与えれば空母部隊には天佑となり、ソ連上空での戦闘を実施していたはずだ。.
現在のアイオワ級戦艦は各地で係留されているが、レーザーやレイルガンといった新技術が実用化となれば再々度の現役復帰もありえない話ではない。たしかに財政状態は厳しいが可能性が全くないわけではない。アイオワ級は何度も復帰してきたが今後も続く話だ。■
Image: Wikimedia

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