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戦略爆撃機の復興、注目を集める大型機材の動向は

戦略爆撃機というかサイズに余裕がある機材はステルス性能でも有利です。さらに近い将来には戦闘機と爆撃機の境が消え、多数の無人機を統制氏運用しながら敵戦闘機を遠距離から排除する戦闘航空機に進化するというのが当方の予見なのですが、どうなりますかね。


戦略爆撃機の復興
米中露三カ国が爆撃機の効用を再認識

ェリー・スカッツの著書Bombersの最後にこんな表記があった。「爆撃機の将来は明るくない...」
 それは同書が出た1991年には正しい表現だった。冷戦終結が視野に入り戦略爆撃機は削減の一途だった。米議会はB-2ステルス爆撃機の生産を当初の132機から20機に削減し、その10年近く前に英国は最後のヴァルカン戦略爆撃機を退役させていた。
 防空体制の向上の前に低速のB-52と超音速機のB-1ランサーやTu-160はともに生存のチャンスは減る一方で、調達・維持費用は高止まりだった。将来は第4世代多任務機のF-15Eのように機敏さと柔軟さを兼ね備えた機体で精密兵器多数を搭載するのが主流になると見られていた。
 だが2020年に入り、戦略爆撃機が一大カムバックを遂げている。米空軍はB-21レイダーステルス爆撃機を100機超調達すべく生産開始する。66機残るB-52は改修し2040年代まで供用する。
 ロシアも冷戦時の機体を改修し、これまでになく頻繁に長距離パトロール飛行を行っている。中国は古参兵のH-6の新型を今も生産中で、新型H-20ステルス爆撃機を2020年に公開すると見られる。
 背景には超大国間競合の再開がある。特に米中がアジア太平洋地区でしのぎを削っている。広大な同地区は戦術機では限界があり、戦略爆撃機に長距離ミッションを行わせるのが得策だ。さらに陸上配備ミサイルが前方基地、空母双方に脅威となっている。中国、ロシア、イランはそれぞれ大型巡航ミサイルや短距離弾道ミサイルの整備を進めている。有事には米軍航空基地や海上の艦艇に大量のミサイルが発射されよう。
弾道ミサイル攻撃で短距離戦術機が何機生き残れるか見えてこない。駐機中のステルス戦闘機の撃破は実に容易だ。
 そうなると、米本土やディェゴガルシア、グアム、ハワイの各地に配備する戦略爆撃機は比較的安全ながら世界各地を攻撃する能力を有する装備だ。中国、ロシアともに中距離、長距離弾道ミサイルで各地を攻撃できるが、ICBMは核弾頭しかないし、前者は数が少ない。
 核心は爆撃機の航続距離より搭載兵装にある。米、中、露各国はもともと爆弾投下用に開発された1950年代開発の機材をいまも運用するが、爆弾投下は今の情勢では自殺行為とされる。
 ただし、今は長距離巡航ミサイルを搭載し、数百マイル先からの発射が任務で、AGM-158 JASSMステルス巡航ミサイル(射程230から575マイル)、ロシアのKh-101(1,800から2,700マイル)、中国のCJ-20(推定900から1,200マイル)がある。それぞれ射程はS-400地対空ミサイルの有効射程240マイルを優に超えた地点で発射できる。
「ミサイルトラック」というと大量の燃料と兵装を搭載した大型機を思い浮かべるが、737旅客機を改装した機材で十分なのだ。実際に米海軍がP-8ポセイドン哨戒機に爆撃機並の兵装運用能力を実現しようとしている。
 スタンドオフ爆撃機でも、敵迎撃機が超長距離対空ミサイルを搭載すればやはり脆弱となる。ロシアのR-37や中国のPL-15がある。ただし、米空軍は自衛用レーザー砲の導入で長距離攻撃に対応するとしている。
 またスタンドオフ攻撃にも短所がある。長距離巡航ミサイルは非常に高価で、JASSMは一発百万ドルといわれ、有事になれば米軍は在庫を使い切ってしまう恐れがある。
 さらに巡航ミサイルが標的に到達するのに一時間ないし2時間かかり、防御側に準備の時間が生まれる。人員は退避壕に隠れ、防空体制は待機するだろう。
 そこで、奇襲攻撃で強力な火力を加えるには、これと別のはるかに高額な対応方法がある。長距離ステルス爆撃機だ。
 ステルス爆撃機なら警戒されずに敵の国家首脳部、指揮統制司令所、核や化学兵器施設、通信中継地点を攻撃できる。航空基地や海軍基地の機能を低下させ、弾薬庫や防空レーダー基地も排除できる。
 B-2スピリットは三十年にわたり世界唯一の実用長距離爆撃機であり続けている。2020年代中に米空軍は最低でも100機のB-21レイダーのテスト、調達を行う予定で、更に大型の機材を求める声もある。
 他方で中国はH-20ステルス爆撃機をまもなく公開すると見られる。同機はB-2に似た外見となるはずだ。
 米中両国がステルス爆撃機の調達を急ぐのは前線後方に機材を配備できるからで、太平洋の広大さを考えると防空体制をかいくぐり、経済性の高い短距離射程兵装を大量投下できる性能に魅力がある。
 ロシアにもPAK-DAステルス爆撃機開発構想があり、2020年代中に初飛行の予定だが、同機の実現に相当の予算を負担できるのかが今後試されよう。
 現実には第二次大戦終結後、戦略爆撃機が軍事大国相手の実戦に投入された事例は皆無だ。冷戦時に開発の米戦略爆撃機では一発も実戦投下していない機種が大半だ。ロシアのベア爆撃機は1956年に配備開始となり2016年まで実戦投入は一回もなかった。それでも大型機には視覚的な威圧効果がある。
 米国はB-52、B-2で朝鮮半島上空の飛行を行い、北朝鮮に圧力をかけている。ロシアはブラックジャック爆撃機をヴェネズエラに、ベアを英国やアラスカの沖合に飛ばしNATOを挑発している。中国はH-6を台湾周回飛行させている。
 米国も大型爆撃機を低じん度戦役のアフガニスタン、イラク、シリアに投入している。ISISの様な敵にには高高度対空ミサイル装備がないのでB-1、B-52は上空はるか上を飛行し、地上部隊が捕捉した標的に安価なJDAM誘導爆弾を投下した。燃料兵装を満載した爆撃機一機で戦闘機な数回ソーティ分をこなし、戦場上空を数時間滞空できる。
 こうした事情から中国、ロシア、米国が冷戦時の爆撃機を未だに温存している理由がわかるし、新型ステルス爆撃機開発に多大な予算を投入している理由も明白だ。超大国間の死闘に新型機材が投入される日が来ないことを祈るばかりだ。■

この記事は以下を参考にしました。

The Strategic Bomber is Making a Come Back

From America to Russia and China—the bomber is making a comeback. 
February 8, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Buzz  Tags: B-1BombersCold WarU.S. Air ForceH-6


コメント

  1. 高度な防空システムに守られた、対等以上の力を持つ国家の中枢にB-21が侵入し、
    大量の「通常兵器」をばらまく・・・なんか、想像つかないですね。
    「こっちはICBMも核も使ってないぜ!」とか言ったところで、相手方の指導者は
    メンツのためならあっさり核ICBMで反撃してきそうですけどね。
    結局は、対等以下の国家群相手に安価な通常兵器を好き放題行使する道具なんです
    かね。

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  2. >米国も大型爆撃機を低じん度戦役のアフガニスタン、イラク、シリアに投入している。

    これで酷使されたおかげでB-1Bはボロボロ、メンテナンス費用が上がりすぎて
    B-21開発の金を捻出するため、空軍は早期退役を計画し
    B-2Aですら一部の退役が目論まれてるとか

    返信削除
  3. ぼたんのちから2020年2月16日 23:40

    核大国、米中露の戦略核兵器の運搬手段の3本柱、ICBM、SLBM、そして戦略爆撃機のうち、戦略爆撃機は最も国家間に差がある。ロシアはTu-95やTu-160のように戦略爆撃機と言える機材を保有しているが、中国の爆撃機は米本土を攻撃できない。
    中国の周辺海域を飛ぶ爆撃機、H-6Kはハワイさえも攻撃できないかもしれない。H-6Kは設計、エンジンはロシア製である。中国製のエンジンを搭載した爆撃機は遠洋を飛ぶにはリスクが大きいのだろう。H-20がどのような機体になるか推測の域を出ないが、ロシア製エンジンを積まないと信頼性は期待できないだろう。超長距離ミサイルを積むことも考えられるが、この種のミサイルは大型で重く、少数の搭載となり、航続距離も短くなり、脅威としては限定的になると思われる。
    戦略爆撃機の観点から見れば、米国は防衛しやすい著しく恵まれた地政学的位置にある。北米は、太平洋、大西洋、北極海、カリブ海に囲まれ、カナダとメキシコを緩衝国と考えれば、米国本土への攻撃ルートは限られたものになる。
    反対に米国の戦略爆撃機戦力は充実しており、さらに世界各地の記事にあるような戦略基地と、同盟国の基地を使うことができる。有事の際、中露はあらゆる方面より米爆撃機の攻撃を受ける可能性がある。つまり、米戦略爆撃機の戦争抑止力は強力で、一方的とも言える。この状態は当分続くことになる。

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