今年は大統領選挙の年です。Defense Oneが伝える米国の軍事力の現況をシリーズでお伝えしてまいりましょう。第一回目は総論です。連載が不定期になるかもしれません。予めご了承ください。宇宙軍が加わり、以後、陸軍・海軍・空軍・海兵隊が続きます。
弾劾裁判、イランと開戦一歩前の状況がともに落ち着いた今、就任四年目のドナルド・トランプ大統領が国防総省の大幅変革を迫ってくるのは確実で、中国、ロシアとの戦闘を睨んだ準備へ焦点が移る。
その結果はいずれわかるが、ひとつ確実なのはトランプが大統領でいる限り確実なものはないということだ。
海外への軍事介入に辟易した有権者の票もあり当選したトランプ大統領は米軍を「帰郷させる」方策の実現の大部分で失敗している。ペンタゴン関係者は米軍はシリア撤退は「ISISの敗北が継続する」状況が明らかになってからと言っており、大統領が撤兵ずみと公言しているのは誤りである。だが多方面の対テロ作戦で米軍は世界各地で活動している。トランプ政権が大国間競合に中心を移す中で、対テロミッションは2020年に縮小となるのか。その場合ペンタゴンにどんな影響が出るのか。.
1月現在ではトランプはアフガニスタン撤退を再度実施したいようだ。ペンタゴン関係者は3千ないし4千名の撤退計画を繰り返している。2月半ばに米国とタリバンで合意形成したとのマーク・エスパー国防長官発表があり、タリバンが7日間停戦を守れば、条件付きで米軍の規模縮小につながり、タリバンとアフガニスタン政府の和平交渉が実現するとある。そのとおりならトランプにアフガン戦争終結に貢献したとの功績が生まれ、アフガニスタンからの完全撤退も実現する。逆に失敗すれば、米軍は同地に残るが、すくなくとも試行しようとしたとの実績は残る。
イランと米国は2019年に対決一歩手前まで進んだが、2020年も年初数週間は同じ状況だった。トランプの「最大限の圧力」構想を押しのけ、イランは米無人機を撃墜し、サウジの石油施設を攻撃し、英船籍タンカーを捕獲したのが昨年夏のことだ。トランプは一度イランへの空爆・サイバー攻撃を命じたが取り消している。だがその後、イランの治安責任者トップ、カセム・ソレイマニ将軍殺害を命じた。イランは弾道ミサイル発射で報復し、米軍兵士100名以上が脳障害を訴えている。緊張は低下しているようだが、イランは相変わらず核兵器開発を抑制する姿勢を示しておらず、2015年核合意を履行していない。トランプ政権が制裁重視を堅持する中、緊張緩和は続くだろうか。
11月の大統領選挙でトランプは民主党候補と直接対決する。国家安全保障が論点となり、世界での米国の指導力のあるべき姿もその一つだ。民主党はまだひとつにまとまっていない。ジョー・バイデン前副大統領は外交問題で実績を誇り、中道の立場だ。バーニー・サンダース上院議員(ヴァーモント)は海外介入に反対し、米国は国内問題に専念すべきとの主張だ。遅れて出馬したマイケル・ブルームバーグは元ニューヨーク市長で富豪メディア王であらゆる予測を覆しかねない。予備選挙で有力となる候補者の視点が11月の本選挙で重要となる。銃規制、気候変動、同盟関係など争点は幅広く、国防予算をどこまで認めるのか、非軍事分野の国務省やUSAID予算を対テロ目的にどう関連付けて米国の影響力を構築するかも論点だ。
一点議論となるのが新設の宇宙軍だ。現時点で組織人員はジェイ・レイモンド大将一名のみである。宇宙軍の存在自体が認知されていない。名称、制服、スター・トレックを思わせる部隊章も同様だ。宇宙軍は本当に必要なのか。議会は認知しており、司令官、予算、ミッションが定まった。今年末までに空軍から6千名が転籍する。ただし、民主党候補者の中に宇宙軍創設に反対していたものがあり、組織廃止を訴えるだろうか。現時点で宇宙軍は失笑の対象でしかない。
空軍に大変化がやってくる年になる。最高位の三名が任期を終える。デイヴィッド・ゴールドフェイン参謀長はすべてをネットワーク化する事業を一貫して進めてきた。今は中国との戦闘が優先事項となっている。次の空軍指導部もコンピュータを優先する空軍力整備に向かうのだろうか。これは賭けで、空軍は今年も旧型機用途廃止の長いリスト(A-10含む)を提示し、節約できる予算をゴールドフェインの提唱するネットワークに活用するとしている。予算さえあればロボット装備の時代になる。この点は別途マーカス・ウェイスガーバーが解説する。
陸軍にとって大規模戦役に備えることは迅速対応を旨とする治安部隊支援連隊SFABsの即応体制の整備につながる。だが現実は異なる。また予想以上の規模とスピードで部隊が展開している。情報戦の時代にひとつ課題となるのは携帯電話やラップトップコンピュータを持参できないことだ。ベン・ワトソンが陸軍の課題について解説する。
「温故知新」をモットーに海軍観測筋は艦艇の隻数に注目している。多ければ良い、というわけにいかないようだ。海軍上層部から文民上司に艦艇数が不足しているとの訴えが絶えない。355隻整備が目標であることに変わりないが、それだけの予算がないのでペンタゴンは打開策として無人艦艇も含めて良いとしている。2020年の課題として政治の世界で隻数の勘定はやめて他国海軍部隊を上回る規模の整備に注目させることがある。大国間競合が戦闘に即つながるわけではないが、海上交通路や領海など守るべき対象はある。海兵隊は規模に固執していないものの新任の総監は予算確保のため部隊規模縮小を提案しており、大国間競合の時代にそれでいいのか。だが関心を呼ぶのは中央統制から小規模部隊への権限移譲であり、規模の変更であり、組織再編と装備更新で海兵隊を大国間競合の時代にまっさきに現場に駆けつける即応力ある組織に変えようとしていることだ。
各軍での変化への挑戦はすべて大胆なものだ。すべては大国間の競合が近未来、中間、さらに遠い未来のパラダイムとなるとの予測がもとになっている。ただし、全てを実現する前提がひとつある。トランプの11月再選だ。■
この記事は以下から再構成しています。
State of Defense
Introduction by Kevin Baron and Katie Bo Williams
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