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潜水艦活動で南シナ海北部が戦略的に大きな関心を集める地域になっている
中国の潜水艦と追跡する米軍との間で繰り広げられる、極秘の駆け引きが太平洋上で頻度を増している。顕著な例が、2021年1月5日に南シナ海で発生した未公表事件に関する新聞の報道であり、その詳細について太平洋の米軍最高司令部が異議を唱えている。
香港に本社を置くサウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は、事件に関し最初の記事を5月15日に掲載した。同紙は、人民解放軍(PLA)のメンバーを含むチームが書いた中国語研究論文で明らかになったこのエピソードの詳細について、「中国の潜水艦を狩る」ことに米国の「スパイ機」3機が関与していたと述べた。研究者は、うち1機が香港の150キロメートル(約93マイル)以内に入りPLAから大きな反発を招いたと報告した。
米インド太平洋軍(INDOPACOM)はThe War Zoneに対し、中国軍が2021年1月5日に南シナ海北端で米海軍のP-8Aポセイドン海上哨戒機を2回迎撃したことを認めた。しかし、司令部は同機が香港に異常接近して飛行したことを否定した。
SCMPの記事掲載後、The War ZoneはINDOPACOMと米海軍第7艦隊に連絡を取り、詳しい情報を求めていた。INDOPACOMは、インド太平洋地域の作戦を統括する米軍の主要司令部。第7艦隊は、日本に司令部を置き、南シナ海含む西太平洋での海軍の作戦行動を統括している。
「2021年1月5日に飛行した米国のP-8Aは、香港からおよそ500km[310マイル強]離れたウッディ島と海南島の間の国際空域で2回迎撃された」とINDOPACOMの広報担当官は声明でThe War Zoneに語った。「米国と同盟国の航空機は、状況認識を維持し、国際規範を強化するため、国際空域を日常的に飛行しています」。
海南島には、潜水艦用の地下洞窟含む広大な人民解放軍海軍(PLAN)基地や、その他の中国軍事施設がある。ウッディ島は、中国人民解放軍が過去10年ほどの間に劇的に拡張した、南シナ海にある数多くの島の前哨基地の1つだ。前哨基地のネットワークは、重要な対空・対艦防衛を特徴とする。PLAが中国本土からこの地域全体をカバーするために構築した、より大きな反接近/領域拒否の傘の一部だ。危機シナリオで、外国軍隊が地域で自由に動けないようにするのがねらいだ。
海南島とウッディ島の間は、中国の潜水艦がこの地域を出入りする重要なルートでもある。これにはPLANの094型弾道ミサイル潜水艦(SSBN)も含まれ、いずれも海南が拠点だ。米軍はこれまで、PLAN艦艇は本土に近い「砦」の安全な場所から運用できると評価してきたが、最近の分析では、長距離配備が増加していると指摘されている。このため、中国潜水艦がいつでもどこにいるのか、特に中国のSSBNに関して重要な情報を把握する、複雑な作業に新たな課題が生じている。
最も重要なことは、台湾とフィリピンの間にあるルソン海峡を頂点とするこの地理的領域は、海南島に拠点を置く中国の潜水艦、特にSSBNが第一列島線から大平洋に到達するための主要通路であることだ。そのため、対潜戦と海底監視の重要なチョークポイントであり、米国と同盟国同様、中国もこのことをよく認識している。
西に海南島、北に香港を含む、この物語に関連するさまざまな場所の一般的な感覚を示す地図。また、南にはパラセル諸島のウッディ島、東にはプラタス島が記されている。グーグルマップ
2021年1月5日にさかのぼり、南シナ海の北端の一部で、オンライン飛行追跡データを使い、米海軍P-8Aと思われる2機が目撃されている。2021年1月4日に投稿されたと表示されるツイートもある。しかし、タイムスタンプを見ると、国際日付変更線の西側に位置するこの地域では、翌日に公開されたことがわかる。
また、当時のオンライン飛行追跡データでは、米海軍のMQ-4C Tritonドローンがこの地域で活動しており、香港に近づいて飛行していたようだ。INDOPACOMの広報担当者もThe War Zoneに「21年1月5日にMQ-4が上空にいたが、我々の記録では香港の150km以内には来ていない」と語っている。
中国の研究論文は、「この地域で海軍演習を行っていたPLAは、対抗部隊を派遣し迅速対応したが、その規模や性質は依然として機密である」とSCMPは報じている。「両軍は非常に接近していたため、米軍は機密装置が中国の手に渡るのを防ぐため、浮遊ソナーを『自壊』させた 」という。
「[研究]チームは...米国の活動は中国の国家安全保障への挑戦であると述べた」。とSCMP記事は付け加えた。「報告書によると、米国のスパイ機は、台湾の支配下にある環礁と岩礁のグループである東沙諸島(別名プラタス諸島)近海にセンサーを配備した」。
この研究論文は、中国語の出版物「Shipboard Electronic Countermeasures」最新号に掲載されているとされるが、War Zoneは今のところ独自にそのコピーを見つけることができない。2007年の米中経済安全保障審査委員会への報告書によると、Shipboard Electronic Countermeasuresは 「中国造船工業公司(CSIC)、江蘇省揚州市の第723研究所が主催する隔月定期刊行物で」、「電子戦、レーダー、信号処理および関連技術に関する学術研究および技術報告 」を掲載している。
SCMPはまた、の論文の研究者は、人民解放軍(PLA)95510部隊所属のLiu Dongqingと報じた。95510部隊について、詳細は限られているが、同部隊の他のメンバーは、過去に電子戦に関連する研究を発表している。
また、War Zoneは、2021年1月5日事件に関するその他の報告された詳細について、独自に検証できなかった。中国軍の出現に対して「米軍は浮遊ソナーを『自己破壊』した」との主張は、ソノブイを指している可能性が非常に高いことを考えると疑問が残る。米海軍が使用しているものを含め、現代のソノブイは通常数時間しか作動せず、その後はデフォルトで自動的に沈む設計になっている。
SCMPによると、研究論文はまた、より一般的に、「米国のスパイ機は、『通常、60メートル(196フィート)の高度で飛行する』と述べ、これは、ほとんどの航空機よりも低い高度であり、地上レベルに比較的近いため安全リスクをもたらす可能性があると指摘した」という。「科学者たちは、低空飛行が、アメリカ海軍のP-8Aのような対潜哨戒機が、潜水艦を探知・追跡する能力を高めるために使う意図的な戦術であると述べています」。
P-8A含む対潜哨戒機が採用する低空飛行の戦術、技術、手順では水面近くを飛行することで、より正確にソノブイを設置でき、特定のセンサーを関心のあるターゲットに近づけることができる。センサーやソノブイ、対潜兵器によっては、より水面に近い場所で使用したり、放出しないと正常に機能しないものもある。
低高度飛行には課題があり、対潜機材の脆弱性が増す。もちろん、高高度で飛行すれば、より長距離のレーダーや地対空ミサイルシステムによる探知や照準など、他のリスクにもさらされる。米海軍は、ポセイドンの高高度対潜水艦戦能力を拡大する取り組みを進めている。
SCMPの最初の記事は、この事件を、米中関係が特に悪化し、米国の国内政治が大きく揺らぐ時期の文脈でとらえた。南シナ海での事件の翌日、2020年の大統領選挙結果をめぐる暴動が米国連邦議会議事堂を揺るがした。 その2日後、混乱の余波を受け、統合参謀本部議長マーク・ミリー米陸軍大将は、中国側と異例の2度の通話を行った。ミリーは各通話を公に認め、米情報機関が中国当局に紛争が迫っていることを懸念したために行ったと述べていた。
米中関係は、特に昨年、当時カリフォーニア州選出の民主党下院議長のナンシー・ペロシが台湾を訪問した際に緊張が再び高まったが、冷静に推移してきた。米軍は、台湾をめぐる中国との紛争が10年以内に発生する可能性があるとの懸念を公言している。
しかし、SCMPが取り上げた研究論文の他の部分は、PLAが2021年1月5日の事件やそれに類するものを、特定の時間的な背景と関係なく重要なものとして捉えている可能性を示唆している。また、特に高度な戦略地帯において、PLAが抱える対潜戦に関するより広範な懸念も指摘されている。
SCMPによると、Liu Dongqingのチームは、2年前の事件が示した米軍能力について、「戦時下において、これは重要な任務を遂行する我々の潜水艦に有害な脅威となり得る」と書いている。「目的は、我々を監視し、ブロックし、封じ込めることにある」。
中国政府は、南シナ海における米国の軍事活動、特に海南周辺と人工基地に長年敏感であった。米国政府は、南シナ海の大部分を自国領土とする中国の広範かつほとんど認識されていない主張に日常的に異議を唱えている。
南シナ海の南端に位置するスプラトリー諸島にある、中国や他の国に属する島の前哨基地を示す米国国防総省の地図。国防総省
2021年1月5日以前は、米軍機や軍艦への明白な嫌がらせもあった。最も有名な例は、2001年4月1日、米海軍のEP-3EアリエスII情報・監視・偵察機(ISR)が中国軍のJ-8戦闘機と空中衝突し、両機に大きな損傷を与えた事件である。J-8は墜落し、パイロットは死亡、EP-3Eの乗員は海南への不時着陸を余儀なくされた。EP-3E乗員は最終的に米国に送還されたが、尋問を受け、極めて機密性の高い機器や資料を詰め込んだ飛行機は解体され、徹底的に調べられた。
とはいえ、ここ数年、米海軍の航空機や艦船をめぐる事件が目立っており、米国の対潜戦能力に関するPLAの懸念を反映している。特に南シナ海での海軍のP-8Aやオーストラリア空軍のポセイドンに対する中国の迎撃は日常的だが、より主張が強くなり、時には攻撃的になっていることが明らかだ。
CNNとNBCの制作クルーは、今年初めに南シナ海で海軍のP-8Aに搭乗し、これを直接体験した。
昨年、オーストラリア国防総省は、南シナ海の国際空域で口論になった際、PLAのJ-16 Flanker戦闘機が不特定の対抗手段(おそらくデコイフレア)を前方に放ち、RAAFのP-8A機が損傷したと述べた。この事件は、2022年初頭、オーストラリアに近い場所でRAAFのポセイドンとPLA軍艦が関わった別の事件に続くものだった。中国当局は、この事件でP-8Aが自国の海軍機動部隊の周囲にソノブイを投下したと主張していた。
中国潜水艦の活動を監視している、あるいは少なくとも監視していたかもしれない米軍資産に対するPLAの嫌がらせは、航空機以外にも及んでいる。2009年、米国当局は、中国の民間機関の船舶と中国漁船多数が、海南付近の国際水域を航行中の海洋監視艦USNSインペッカブルの周囲で危険な操艦を行ったと非難した。同艦は、ビクトリアス級4隻として、米海軍が保有する中で、「潜水艦の長距離探知と戦術兵器プラットフォームやその他の関心のある船舶への合図」を目的とした強力な監視曳航センサーシステム(SURTASS)を使用できる唯一の艦艇だ。
2016年にPLAが米海軍のグライダー型無人水中機(UUV)を短期間押収したのも、この海底ドローンが中国潜水艦を偵察するため使われているという懸念と結びついているのかもしれない。
中国の航空機や軍艦は南シナ海や太平洋の他の場所で、対潜水艦戦とは関係がない米軍や他国の軍事資産に嫌がらせをしてきた。同時に、今回の研究論文のコメントは、これらの過去の事件と合わせて、PLAが潜水艦の自由な運用能力に顕著なまでの恐怖心を抱いていることを示唆している。
PLANは過去数十年間、潜水艦部隊を大幅に拡大するだけでなく、より高度なタイプの潜水艦を獲得しようと努力してきた。並行して、PLANは、増え続ける094型弾道ミサイル潜水艦の長距離配備を含め、本土から遠く離れた場所で潜水艦作戦を行うことを推進してきた。これはすべて、よりグローバルな軍事大国をめざす中国の広範な努力と一致する。
PLAが、太平洋における自らの潜水艦の活動を追跡・監視する米国やその他の国の能力を心配しており、この点で能力の規模と範囲を拡大するための措置を講じていることも、同様に明らかだ。
米海軍が特に中国を抑止する目的で、太平洋における潜水艦活動を積極的に発言する中で、こうしたことが明らかになった。
米太平洋艦隊潜水艦部隊(SUBPAC)司令官のジェフリー・ジャブロン海軍少将Rear Adm. Jeffrey Jablonは、今年初め、作家で防衛専門家のロビン・レアードにBreaking Defense記事の中で、「われわれはもはや沈黙の部隊とは言えない」と語っているのが特徴的だ。「抑止力が潜水艦部隊の主要任務です。自分の能力を伝えることなしに、信頼できる抑止力を持つことはできません。敵がその特定の抑止力について何も知らなければ、は抑止力とは言えません」。
2021年1月5日に南シナ海北部で一体何が起こったにせよ、PLAに連なる研究論文は、少なくともSCMPが報じたように、中国当局が注目していることを明らかにした。現在開示されている同事件は、この地域でのアメリカの潜水艦能力に対する中国の幅広い懸念と、両国間の海底競争の激化を物語るものだ。しかし、今回の事件は、もっと広い視野から見れば小さなスナップショットに過ぎず、同様の事件が報告されず定期的に起こっている可能性があるのだ。■
Submarine Hunt Incident A Peak Into Cat-And-Mouse Games In South China Sea
BYJOSEPH TREVITHICK|PUBLISHED MAY 19, 2023 6:59 PM EDT
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