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島しょ部での戦いに特化した水陸機動団は中国も警戒するはず。抑止効果がどこまで期待できるかがカギだろう。

 

 

 

 

75年前に日本軍上陸部隊300名がクイーンズランド海岸に上陸していればオーストラリアの安全保障上で一大危機になっていたはずだ。

 

だが第二次大戦後の世界は大きく変わり、日本の水陸機動団(ARB)は侵攻部隊ではなく、タリズマンセイバー演習に参加しオーストラリア海岸に展開したのだった。

 

第二次大戦の傷ましい経験から戦後日本は6,852もの島しょで構成した国家ながら専用揚陸部隊は2018年まで編成してこなかった。

 

1930年代の日本海軍は海軍陸戦隊を呉、舞鶴、佐世保、横須賀の各海軍基地での養成を開始した。1941年には16個大隊の陸戦隊が整備され、フィリピン、蘭領東インド諸島、米アリューシャン列島のアッツ、キスカ、ニューギニアの上陸戦の先鋒部隊となった。

 

陸戦隊には落下傘部隊や戦車部隊もあったが、基本的に軽歩兵部隊で、米海兵隊と異なり、揚陸用舟艇は機械化していなかった。陸戦隊には降伏した敵兵の虐殺や最後の一兵まで戦う評判があり、1943年のタラワ攻防戦は血なまぐさいものとなった。

 

戦後日本では揚陸部隊は侵攻部隊と位置づけられ、自衛隊と平和憲法の下で不適当な存在とされた。だが自衛隊は遠隔島しょ部での武力衝突を想定し、「海上作戦部隊輸送艦」で敵部隊より先に部隊を送る構想を立てた。

 

日中間の緊張が21世紀に入り顕著となり、尖閣諸島ふくむ島しょ部が日中衝突の舞台になると注目された。

 

実際に中国研究者には人口が多い南西琉球諸島ベルトも中国の領土と堂々と主張する動きがある。中国が遠隔島しょ部を占領する懸念から2018年に水陸機動団が2,100名規模で発足し、佐世保に配備された。

 

その佐世保に海軍陸戦隊が置かれた経緯があるが、今回の新規部隊は陸上自衛隊の西部方面普通科連隊をもとに編成したものだ。

 

ARDBには800名編成の水陸機動連隊が二個あり、三個目が編成中で、発足すれば三千名の規模になる。支援大隊部隊として120mm迫撃砲を備える砲兵部隊、工兵部隊、補給部隊がある。

 

だが支援機能の中心が戦闘揚陸大隊でAAV-P7A1 揚陸装甲車両58台を運用し、艦艇から海岸まで時速8マイルで海上を進む。32トンの同車両は「アムトラック」と呼ばれ、21名を運び.50口径機関銃、手りゅう弾投射機を備える。ただし、アムトラックの装甲は薄く、実際にイラクの米海兵隊では多くの犠牲が発生している。

 

日本はMV-22Bオスプレイ17機も調達し、遠隔地島しょ部へ空からの兵力投入をめざす。オスプレイは高額装備で事故率の高さから日本国内で一般住民の配備反対もある。だが、ヘリコプターの垂直離着陸機能と固定翼機の速度と航続距離を兼ね備えた同機への期待は高く、九州から発進し南西部の最遠島しょ部も活動範囲に入る。

 

海上自衛隊が重要な補給任務を担う。おおすみ級戦車揚陸艦があり、1998年から2003年にかけ建造された14,000トンの艦内に16式高機動戦闘車両などの装甲車両多数を収容できる。また「ウェルデッキ」でLCACエアクッション艇を展開し隊員を上陸させる。おおすみ級は改装を加え、AAV-P7およびMV-22の運用能力を付与する。

 

海上自衛隊には小型LCM十数隻さらに540トン型多用途揚陸舟艇2隻もある。陸上自衛隊も独自に戦車揚陸艦を調達する動きあり、各種LST形式を検討しているが予算が不足している。

 

新規編成の水陸機動団が存在感を示したのが海外演習だ。2018年10月にARDB隊員50名がアムトラック4両で対テロ作戦演習でフィリピンのルソン島に現れた。日本の装甲車両が海外の地に上陸下のは第二次大戦後初のこととなり、まさしくその場所で日本陸軍の戦車部隊が米比連合軍と戦闘を展開したのだった。

 

2019年にはARDBは500名をアイアンフィスト演習でカリフォーニアのキャンプペンドルトンに送り、その後オーストラリアでも上陸作戦を展開した。

 

ただし、ARDBの作戦構想とはどういうものなのか。

 

日本がオーストラリア、フィリピン、米国と懸念事項を共有し、中国が太平洋島しょ部を占拠し、海洋交通を脅かす事態を憂慮しているのは事実だ。だが、現行憲法で日本は同盟国救援で部隊派遣できないことになっている。

 

そのため、ARDBの存在意義は個別具体的だ。日本の南西島しょ部を中国軍が占拠した場合に迅速に奪回することだ。日本の島しょベルト地帯はPLA海軍の作戦に制約を課すことになり、米国、オーストラリアの利益にもかなう。

 

3千名規模の旅団一個ではいかに有能でも大規模交戦の均衡は崩せない。そのためThe Diplomatでミーナ・ポールマンは「島しょ部が中国の手に落ちた段階で日本は敗北したのと同じ」と評している。その意見では日本はむしろ海上兵力や航空戦力の整備に注力し中国の第一列島線到達を防止すべきとする。

 

ただしその意見では揚陸旅団が小規模「グレイゾーン」となる中国の準軍事組織水上民兵や沿岸警備隊への抑止になる点を無視している。迅速かつ確実に島しょ占領部隊に対応できる水陸機動団の能力はこうした事態でリスク計算を根底から変える効果を生む。

 

さらに同旅団の揚陸能力は自衛隊の災害救助活動を遠隔島しょ部まで拡げる効果を発揮するはずだ。

 

当然ながら中国は揚陸部隊を復活させた日本を侵攻の先駆けと捉えるはずだ。だが、現実を見れば、日本は脆弱な遠隔島しょ部への武力侵攻に備え控えめに対応能力を整備しているに過ぎない。■

 

In an Island Battle, Japan’s Marines Have Some Surprises for China

by Sebastien Roblin

August 30, 2021  Topic: Marines  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: JapanMarinesChinaMilitaryAmphibious Warfare

 

Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.

This article first appeared in July 2019.

Image: Reuters.



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