日本の報道ではトランプの不安定度を憂慮して自ら動いた将軍を賛辞しかねない空気がありましたが、さすがに文民統制の原則を堅固に守る価値観が前面に出ています。記事に踊らされることなく、本質を考える必要が感じられますね。
統合参謀本部議長マーク・A・ミリー大将 (DoD photo by Lisa Ferdinando)
ワシントンポストの暴露記事で統合参謀本部議長マーク・ミリー大将がわが国最大の敵対国である中国に接触し、米軍が中国に向け行動を起こす際は事前通知すると伝えていたことが明らかになった。記事内容を見るとミリーが宣誓内容に違反したとはいいがたいものの、大統領が本人を直ちに解任するのには十分なものだ。
ポスト記事はこれから発刊となる「Peril」(ボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ共著)の抜粋で、トランプ大統領の最終段階からバイデン政権誕生後の六カ月を記録したものだ。一番衝撃的なのはミリー大将が中国軍司令官にホワイトハウスを通さずに連絡したことだ。
ウッドワード=コスタによればミリーは中国がトランプが中国攻撃を命令する事態を恐れていた。大統領に懸念を伝えず中国の懸念を払しょくさせる提言をミリーがとり、自身で対処した。
本人は大統領や国務長官が知らないまま人民解放軍司令官へ電話した。ウッドワード=コストによればミリーは「李将軍、貴官とは5年間の知己であり、貴国攻撃の際はまっさきに貴官に伝える。奇襲攻撃はしない」と語ったとされる。
トランプに反感を持つ向きにはミリーが英雄に写り、米国を救ったと評価するかもしれない。ただし、これは近視眼的見方で、将官が権力行使する真の危険を無視している。まず、トランプが対中開戦を狙った証拠はない。ミリーが懸念していただけだ。そうなると統合参謀本部議長は実際にはなかった事態をめぐり主敵と話したことになる。
二番目に、将官あるいは政府高官が大統領への背信行為を行う前例ができてしまえば、あともどりできなくなる。台湾問題のシナリオを考え欲しい。
米軍や外交部門には強硬に統一を図る中国に関し二つの見方がある。一つはワシントンは台北に安全保障上の保証を与え、いかなる代償を伴っても台湾を中国の攻撃から守るべきとする。もう一つは台湾をめぐり中国と戦うこと自体が愚かで、中国本土近くで米軍に勝利の見込みはない、また最悪のシナリオでは核戦争に発展し米国人数百万人が死亡する事態になりかねないとする。中国が実際に攻撃してきた場合、バイデン政権は恐るべきジレンマに直面する。
台湾防衛の約束を守り、核戦争のリスクを冒すのか、それとも台湾を占拠する中国を放置し米国の弱体ぶりを示すのか。バイデンがどちらの選択に走っても、ペンタゴン内部に強い反対意見が生まれるのは避けられない。
ウッドワード=コスタはミリーが行動に走ったのは「善意に基づく事前警告」で「中国との偶発戦争を避け、核兵器の投入はない」と伝えるためだったとする。バイデンが対中戦を決意した場合、軍高官がミリー同様に強い信念から対中戦を予防しようと大統領決定をなし崩しにしていいのだろうか。恐ろしいのはもっと悪い事態が生まれることだ。
米国では一貫して軍事クーデターは起こらないとされ、真剣にその可能性を考えてきた向きは皆無に近い。だが今回のミリー大将の動きは今後のペンタゴン関係者に参考となりかねない危険一歩手前の行動だった。疑う余地なく国益に一番良いと考えての行動だったのだろうが、大統領を権力の座から追いだす結果になりかねないところだった。
米国では起こるはずがないと考えれば間違いだ。選挙で選ばれた最高指導者の命令へ軍トップが公然と従わない事態となれば、政府機能が危機時にマヒしたり、本当のクーデターに発展しかねない。この恐れがあるからこそ、今の段階でこの動きを封じるべきなのである。
ミリーを解任すべきである。即刻。■
General Mark Milley Must Be Relieved of Duty
Daniel L. Davis, now a 1945 Contributing Editor, is a Senior Fellow for Defense Priorities and a former Lt. Col. in the U.S. Army who deployed into combat zones four times. He is the author of “The Eleventh Hour in 2020 America.” Follow him @DanielLDavis1.
日本でも海保職員による尖閣ビデオ流出がありましたが、あくまで一般職員による国内での行為でした。
返信削除ミリーさんは比べ物にならないぐらい大物、というか「制服組そのもの」ですし、それが勝手に中国軍司令官に電話して開戦についてトークしたとなると、これはほんとに大事ですね。
人としての善悪の判定は立ち位置により変わるでしょうが、軍人、組織人としては終わりでしょう。