スキップしてメイン コンテンツに移動

北朝鮮が発射テストに成功した巡航ミサイルで判明している事項をまとめた。核兵器を搭載できるかが今後のカギになりそう。探知困難な巡航ミサイルの登場で日本の防衛体制に新たな課題が追加された。

 


 

上発射の巡航ミサイルを北朝鮮国営通信KCNAは「大きな意味のある戦略兵器」と表現し、テストは成功裏に終わったと報じた。新型巡航ミサイルは北朝鮮が開発してきた各種ミサイルの系譜にあらたな追加となり、低空を飛翔するスタンドオフ兵器として同国に新たな攻撃力を提供する存在になる。南朝鮮各地のみならず日本まで射程に収めそうだ。「戦略級」とは核兵器を指す用語だ。

 

KCNA報道では土曜日から日曜日にかけ型式不詳の巡航ミサイル数種類を試したとあり、北朝鮮のミサイル開発では去る3月に短距離弾道ミサイルのテスト以来となった。

 

 

 

北朝鮮国営通信の説明では今回の巡航ミサイルは930マイルを飛翔してから北朝鮮領海内に落下したとあり、飛翔時間は126分におよび、「楕円、八の字状の飛翔経路」を飛んだとある。新型兵器開発の所要期間は2年間以上と伝えられる。

 

KCNA配信記事では週末のテストで「わが国の安全を高い信頼度で保証する抑止手段がさらに追加されたことは戦略的に意義があり、敵対勢力の軍事活動を強く封じ込める」機能が実証されたとある。

 

北朝鮮労働党の公式労働新聞に掲載された写真二枚ではトラックに搭載した移動起立発射機(TEL)からミサイルを発射した場面と、巡航飛翔するミサイルの姿が見える。見たところロシアのKh-55系の巡航ミサイルにとくに尾部が酷似しているし、全体としては米トマホークに似ている。

 

これに対し米インド太平洋軍(UNINDOPACOM)は簡潔な声明文を発表した。

 

「DPRK(北朝鮮)が巡航ミサイルを発射したことは承知している。状況を注視しつつ、同盟国協力国と密接に協議していく。今回はDPRKが軍事力開発を進めている現況を改めて示した。また同国の動きは周辺国や国際社会へ脅威となっている。米国は大韓民国並びに日本の防衛への責任を今後も堅持する」

 

日本では加藤勝信官房長官が政府は今回報道された事態を「憂慮している」とし、米国、南朝鮮と密接に対応し状況の把握に努めると述べた。南朝鮮も米国と協力して状況を解析すると述べた。

 

これまで出ている報道内容と写真から今回の巡航ミサイルは戦略任務用で核弾頭搭載可能と思われる。そのため北朝鮮が初めて開発に取り組む装備品となり、今回公表されたのだろう。

 

ただし、北朝鮮が核兵器の小型化にどこまで成功しているのか不明だ。これまで核弾頭の小型化に取り組むとの報道がたびたび出ているが、巡航ミサイルの弾頭部分は相当小さくここまでの小型化となるのと容易ではない。昨年10月の軍事パレードでは中距離対地攻撃型巡航ミサイルの姿が見られ、1月にも再度姿を目撃されて、トレーラーでけん引されていた。ただし、今回の発射に関連して同時発表の写真では改良型TEL車両が見えるが、以前目撃されていた大口径誘導ミサイル用の車両と関連があるようだ。発射管やアクスルに違いがあり、発射管は以前は4本だったが今回は5本になっている。

 

金正恩は今年一月に「中距離巡航ミサイル」を開発したと労働党大会で発表していた。

 

今回の巡航ミサイルテストの発表のタイミングは米国、南朝鮮、日本の代表が北朝鮮の核開発阻止の行き詰まりを東京で協議しようとする前という巧妙な計算の上に実行された。核兵器開発中止の代償として制裁措置を解除する期待での米朝会談は2019年からとん挫したままだ。

 

週末のミサイルテストが米韓軍事演習への対抗として実施された可能性もある。労働党中央委員会副部長の金与日は米韓演習を「危険な戦争に向けた演習」であり、「状況をさらに不安定にする」と非難していた。

 

1月にも北朝鮮は巡航ミサイル試射を行っており、ジョー・バイデンの大統領就任直後だった。ただしこの時のミサイルに核兵器運用能力がないのはあきらかで、ロシアのKh-35対艦ミサイルが原型といわれる。

 

北朝鮮の通常弾頭巡航ミサイル開発には制約はない。これは国連安全保障理事会決議(UNSCR)でも明らかだ。核弾頭を搭載した巡航ミサイルはUNSCR決議違反になるのかで議論の余地がある。ただし、UNSCR決議はそもそも核兵器運搬手段をすべて禁止しているという解釈が一般的だ。

 

核交渉がとん挫し、北朝鮮は核兵器開発を全面的に進めており、新型大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射式弾道ミサイル(SLBM)が相次いで登場した。さらに国際原子力エナジー機関(IAEA)から北朝鮮が原子炉運転を再開したとの発表が先月出ている。同原子炉は核兵器用のプルトニウム生産が目的といわれる。

 

北朝鮮が本当に核搭載対地攻撃用巡航ミサイルを開発しているのなら、弾道ミサイルと並び重要な攻撃能力が新たに生まれることになる。巡航ミサイルの飛翔速度は弾道ミサイルより低いが、移動し隠すことは簡単で、かつ発射の探知は困難だ。また、誘導装置に左右されるが、巡航ミサイルは敵防空網を突破する可能性が高い。この種の兵器には防空指令所や通信施設、ダム、橋梁など重要標的の攻撃を想定することが多い。さらに大型艦船を狙うこともあり、米国や同盟国にとって防衛が頭痛の種だ。

 

武力衝突シナリオでは巡航ミサイルで敵防衛体制を飽和させる想定があり、突如として多方向からミサイルを大量に撃ち込む。しかも巡航ミサイルが通常弾頭なのか核弾頭付きなのか不明のため、混乱が拡大する。高機動性の北朝鮮巡航ミサイルが多数あれば、本来なら北朝鮮を無力化する南朝鮮空軍部隊の相当の部分を釘付けにできる。

 

核弾頭付きの巡航ミサイルを発射すれば北朝鮮に新たな優位性が生まれる。ただし、北朝鮮が弾道ミサイル攻撃の最終段階で核装置を起爆できるのか不明だ。超高速度のまま複雑な手順をぬかりなく進める必要があるからだが、巡航ミサイルではこの複雑さは不要となる。

 

さらに実用に耐える対地攻撃巡航ミサイルなら他の用途も可能となる。なかでも海軍用あるいは空中発射式への転用が考えられる。海軍では水上艦や潜水艦からの発射が想定される。

 

一方で南朝鮮で北を攻撃可能な兵器の開発が続いている。先週も南朝鮮がSLBMの水中発射実験に初めて成功したとの発表があったばかりだ。

 

南朝鮮軍に核装備はないが、北との開戦シナリオでは弾道ミサイル、巡航ミサイル、空中発射式ミサイルを運用するとある。南朝鮮の玄武-3巡航ミサイルは地上基地あるいは海上から発射が可能となっている。長射程型の玄武-3Cは930マイル有効といわれ、今回北朝鮮が発表したミサイルに匹敵する。

 

そうなると朝鮮半島では南北が巡航ミサイルを装備しての均衡が生まれ、核兵器を搭載すれば新展開となるが、相当の影響を生みそうだ。まず、行き詰まっている北との核協議への影響が注目されるし、米国が北朝鮮の戦略級兵力の整備にどう対応するかも今後の関心事だ。■

 

Everything We Know About North Korea's New “Strategic” Cruise Missile Test

A nuclear-armed cruise missile could significantly enhance the credibility of North Korea’s nuclear deterrent.

BY THOMAS NEWDICK SEPTEMBER 13, 2021

 

Contact the author: thomas@thedrive.com


コメント

  1. 陰謀論的読み物として読んでいただければ。
    この巡航ミサイルの誘導方式として、日本国内に居る工作員や協力者によるセミアクティブレーザー誘導や、映画「ブラックホーク・ダウン」で使われた赤外線フラッシュを使って重要施設のさらに急所をピンポイントで狙うシナリオがあり得るのではないでしょうか。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ