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北朝鮮の極超音速ミサイルの正体を推理する。

 A picture North Korean state media released of a weapon called the Hwasong-8, which it claimed carries a hypersonic boost-glide vehicle.

NORTH KOREAN STATE MEDIA

 

 

朝鮮が新型弾道ミサイルに「切り離し式極超音滑空体弾頭」をつけ発射に成功したと発表した。同国が公表した写真は一点のみで上に掲載した。火星-8と呼称し、分析が困難になっているが、今回の発射は南北朝鮮が新型ミサイルを相互に公開する中で新たな装備となった。

 

北朝鮮国営メディアは同ミサイルを「戦略兵器」と呼称しているが、通常は核兵器搭載装備のことを指し、北朝鮮のMupyong Ri から9月27日早朝に発射された。直後に北朝鮮国連大使Kim Songが年次総会で演説し、ミサイル発射は同国の「正当な権利」であると主張した。

 

南朝鮮の聯合通信は今回のミサイルは新型で、制御可能な再突入体を用いている可能性に触れている。「ソウル筋ではミサイルは200キロ以上飛翔し、高度は60㎞に達したとみており、これまで北朝鮮が発射してきたミサイルと異なる飛翔特徴を示したとしている」(聯合通信)

 

ミサイル発射時点で南朝鮮空軍のE-737ピースアイ空中早期警戒統制機が同国中部上空を飛行していたい。同機搭載の高性能アクティブ電子スキャンアレイレーダーがミサイルを追尾し、遠隔データを集めていたはずだ。

 

北朝鮮が火星-8の写真として唯一公表した写真では輪郭しか判明しないが、弾頭部分はかなり大きく、フィンがついていおり、なんらかの飛翔制御機能を示唆している。画像解析の専門家が弾頭部分の解明を目指したが結論は出ていない。もちろん、公表画像が編集されている可能性もある。

 

仮に写真が本物なら、形状から中国のDF-17極超音速滑空体に極めて類似している。あるいは大型制御可能再突入体MaRVかもしれない。

CHINA MILITARY

中国はDF-17モックアップを2019年の軍事パレードに動員した。

 

無動力でブースト後滑空する飛行体ではロケットブースターで適性高度速度を実現してから滑空体を切り離しマッハ5以上の極超音速で標的に向かう。高度の制御性を確立するため大気圏内での飛翔となる。

 

速度、制御性、飛翔特徴を実現し、極超音速兵器は防空側には追尾、迎撃が課題となる。さらに高性能MaRVが加わると通常の弾道ミサイル対応と全く異なる。まず、防空側の対応時間が問題となる。

GAO

通常の弾道ミサイルと極超音速ブースト滑空体の飛翔経路の違い。

 

MaRVも同じ機能があるが、一般に制御の自由度は低くなり、弾道軌道を中間段階でとることが多い。最終段階では「イルカ状」あるいは「スキップ=グライド」で急に上昇し、「ステップ」で下降軌道に変更する。これにより弾頭は不規則な飛翔経路をとりつつ、修正を加えながら飛翔距離を拡大し、迎撃を困難とする。

CHINESE INTERNET

中国の短距離対艦弾道ミサイルでのイルカに似た飛翔経路、スキップーグライドの飛翔パターン。

 

今回の火星-8が搭載した飛翔体がこの通りの機能を発揮したのかは不明だ。最も基本的な極超音速ブースト滑空体でも複雑なシステムとなり、北朝鮮では対応できないはずだ。

 

画像では火星-8の一段目ロケットモーターの構造がわかり、中央に大型ノズルがあり、周囲に小型ノズル多数がついている。火星シリーズのミサイルは液体燃料方式で共通している。北朝鮮国営通信では改良型「燃料カプセル」を採用し、飛翔が安定したと伝えており、燃焼時間が伸びているのかもしれない。液体ロケット燃料は不安定で腐食性が高いので取り扱いは危険で、燃焼時間も制約される。また発射前に燃料を注入するため、運用の柔軟度が低くなり、敵攻撃に対し脆弱となる。

 

今回の火星-8用ロケットモーターに似た構造が火星-12中距離弾道ミサイル(IRBM)、火星-14大陸間弾道ミサイル(ICBM)に見られる点が興味深い。ここから火星-8の第一段が各ミサイルと関係している可能性が浮上する。またMupyong Riは火星-14の試射(2017年)が行われた場所でもある。

 

 

火星-12あるいは-14はともに大型弾頭を打ち上げる性能がある。また北朝鮮は通常はペイロード重量のため射程距離を犠牲にしてきたことにも注意が必要だ。それは同国の主敵たる南朝鮮が近い距離にあるためで、言い換えれば中距離ミサイルは大型ペイロードへ換装できることになる。そのためミサイル各種でペイロードの大型化が注目される。

 

火星-8の正確な姿がどうであれ、また今回のテストが成功裏に終わったのかとは別に、北朝鮮が巡航ミサイルやその他新型ミサイルとともにミサイル技術を誇示したのは事実だ。ピョンヤンとしては各種装備を開発し南朝鮮及び米軍の防空ミサイル防衛網を突破するのを目標に今回は極超音速ブースト滑空体あるいは大型MaRVにより戦力拡充を狙っているのだろう。

 

火星-8の発射は南北朝鮮間の武器開発レースの最新の出来事となった。今回のテストと同日に南朝鮮報道機関から韓国防衛開発庁(ADD)が新型弾道ミサイルに6トンの弾頭でテストし、さらに7-8トン弾頭開発を目指していると報じた。ここ二週間で北朝鮮も新型地上発射型長距離巡航ミサイル、鉄道貨車発射式弾道ミサイルを試射している。南朝鮮からは高性能ミサイル開発として潜水艦発射式弾道ミサイル、地上発射式弾道ミサイル、超高速対艦巡航ミサイルが公開されている。

 

北朝鮮がこれまでと同様の動きを示せば、今回の新兵器について公式発表や画像が公表されるはずで、同装備品の性能を推測する材料が出てくることを期待したい。朝鮮半島をめぐる最近の情勢を考えれば、南からもミサイル関連情報の公表があるだろう。■

 

North Korea Claims To Have Tested A Hypersonic Missile

 

The only image supposedly from the launch shows what appears to be a big finned nose section on a large rocket booster.

BY JOSEPH TREVITHICK SEPTEMBER 28, 2021

 


コメント

  1. 写真のミサイルのまわりに不自然な「もや」のようなぼかしがある。加工の跡?

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