オーストラリアを英米の協力のもとで原子力推進攻撃型潜水艦(SSNs) 取得に走らせたのはアタック級次期潜水艦建造が難航し、通常型潜水艦(SSK)ではSEA1000事業で目指す目標達成が困難と判断したためと解説する専門家がいる。
アタック級は12隻建造し現行コリンズ級と置き換える予定だったが、遅延と費用増加が発生し、事業規模が900億オーストラリアドル(約7兆円)に膨れ上がる試算が出ていた。
2016年にオーストアリア国防省はショートフィン・バラクーダ1Aをフランスのナバルグループから調達すると選定した。同艦はフランス海軍が供用中のスフラン級原子力潜水艦を原型としながら高いリスクをかかえていた。SSKへの転用となると既存設計が使えないためだ。
アタック級は「革命的というより進化形」でコリンズ級と同等の性能の想定と解説するのがオーストラリア戦略政策研究所のマーカス・ヘリヤーだ。
それによるとアタック級は「既存枠組み」を踏襲しており、大気非依存型推進、リチウムイオン電池、垂直発射管、大直径発射管(水中無人機の運用)のいずれも想定していなかった。
SEA1000構想は当初から問題を発生していた。戦略パートナーシップ(SPA)合意で各機関を対象期間中は連携させる目論見が2017年10月時点にあり、合意は2019年2月に成立した。
2018年9月に海軍建艦諮問委員会からSEA1000の代替策を検討すべしとの提言が出た。同委員会はコリンズ級の供用期間延長で時間を稼ぎ、「将来型潜水艦の取得戦略を必要に応じ模索する」べきとしていた。
コリンズ級SSKでは供用期間延長はその後承認され、オーストラリア海軍は2038年まで現有艦を運用する。
SPAは成立したが、2020年初頭にオーストラリア国家監査局(ANAO)が「将来型潜水艦の設計変更」と題したレポートを公開し、SEA 1000構想で「4億オーストラリアドル近くを支出しても目指す大きな目標二点を満足させる設計が実現できない」と指摘していた。
構想検討審査(CSR)の完了が9カ月遅れ、システムズ要求性能審査(SRR)も遅れた。ANAOではナバルグループと国防省で民生技術含む作業への取り組みが食い違うと指摘している。国防省とナバルグループの関係が悪化した。
これだけなら事業の進展そのものを止めることはなかったはずだ。報告書では進捗が3年遅れ潜水艦戦力が不足する事態になりかねないとの指摘がある。国防省は昨年このリスクに気づき、2050年代以降の海軍で必要とする性能が実現しないことも明らかになった。
ヘリヤーはアタック級は通常型潜水艦としては高性能と述べつつ、SSK技術は成長の限界点に達しつつあるとし、大型化(コリンズ級は3,400トンなのに対しアタック級は4,500トン)で燃料やバッテリーの搭載量を増やし、高速速力と長期待機能力の実現に向かうとみていた。
実は国防省はコリンズ級でも同様の状況を20年前に経験し、当時はスウェーデン海軍のゴットラント級設計をコクムス造船所の知見で建造し、SSKの航続力を伸ばしていた。
ヘリヤーからは国防省が時間と予算をたくさん使った挙句「漸進的改良」に終わり、「根本的な変化を潜水艦性能で実現するには原子力推進を採用するしかない」との結論に至ったとコメントしている。■
French Attack Boat Design, Costs Opened Door to Nuclear Australian Sub Says Expert - USNI News
By: Tim Fish
September 16, 2021 6:55 PM
12隻取得の事業が7兆円では、一隻3000億円のバージニア級も視野に入るわけですかね。しかし、知財関連の扱いはどうなるのでしょう。
返信削除「バージニア改」みたいなものを国内で建造するとなれば(できるならば)、金銭的にはそれほど好転しない気もしますけど。