将軍は前回の戦争の頭で戦うとよく言われる。ジェローム・パウエルが率いる連邦準備制度理事会(FRB)にも同じかもしれない。景気後退を招きかねない地方での銀行危機が勃発しているのに、FRBはインフレ目標に近づこうとしているのに、いまだにインフレと戦い続けている...National Interest記事のご紹介です。
2008年から2009年にかけての大不況の直後、タイタニック号の船長の逸話が広まった。沈没事故の調査において、なぜ氷山から船を遠ざけなかったのかと問われた船長は、「どの氷山だ?」と答えたという。
実際の船長は船とともに海へ沈んだが、この話は2008年の連邦準備制度理事会(FRB)の行動と類似している。サブプライムローンや住宅市場に深刻な問題が生じている兆候があったにもかかわらず、FRBはリーマンを引き起こした世界経済・金融市場の危機に足元をすくわれた。実際、その年の初め、当時のバーナンキFRB議長はサブプライム問題を深刻ではないと切り捨てた。一方、金融危機の前夜でもFRBは利上げの是非を議論していた。
2024年の米国経済の見通しを判断する上で重要なのは、2008年に起こったのと同じ事態が、再び起こる可能性があるかだ。商業用不動産市場や地方銀行で信用収縮につながりかねない深刻な問題が生じている一方で、FRBはインフレ抑制のため高金利を長期化するマントラを堅持したままだ。その一方で、FRBの政策声明やパウエル議長の記者会見は、景気回復に対する金融システムのリスクに一切触れていない。
シリコンバレー銀行とファースト・リパブリック銀行の破綻という地方銀行のトラブルが年明けに発生したことを考えれば、来年に大規模な金融危機が発生する可能性について沈黙が続いているのは、なおさら驚くべきことだ。2件の破綻は、米国の銀行破綻としては過去2番目と3番目の規模だった。COVID-19による仕事や買い物での習慣の変化、さらに過去40年間で最も積極的なFRBの利上げサイクルの結果として、商業用不動産セクターが深刻な状況に陥っていることを考えれば、これはさらに驚くべきことだ。
商業施設セクターの苦境を誇張するのは難しい。空室率はすでに記録的な水準にあり、賃貸契約が満了するにつれて増加するだろう。同時に、商業用不動産価格は2022年初頭から22%下落しており、モルガン・スタンレーはこのサイクルが終わる前に大きく下落すると予想している。
来年、商業施設のオーナーは約5000億ドルの満期ローンを当初契約よりはるかに高い金利でロールオーバーしなければならない。大幅な債務再編なしに、オーナーがローンをロールオーバーするのは難しい。不動産デフォルトの波が押し寄せそうな厄介な兆候は、ブルックフィールドやブラックストーンなど、この分野での重要なプレーヤーが抵当権から手を引き、貸し手に「鍵を返す」ことだ。
このような事態は、銀行部門全般、特に地方銀行に深刻な打撃を与える。融資ポートフォリオの18%が商業用不動産ローンである地方銀行にとって、不動産ローンの債務不履行が相次ぐのは耐え難い。特に、シリコンバレー銀行破綻の影響で預金残高が減少し、FRBによる長期金利上昇の結果、債券ポートフォリオの時価評価損が大幅に膨らんでいる現在ではなおさらである。全米経済研究局の調査によると、金利が現在の水準にとどまった場合、商業用不動産のトラブルで385行の地方銀行が破綻する可能性があるという。
将軍は前回の戦争のイメージで戦うとよく言われる。ジェローム・パウエルが率いる連邦準備制度理事会(FRB)にも同じようなことが言えるかもしれない。地方銀行の危機が勃発し、景気後退を招きかねないこの時期に、FRBはすでにインフレ目標に達しようとしているにもかかわらず、インフレとの戦いを続けている。FRBが2008年のサブプライムローン危機と同様、地方銀行危機の再来に足元をすくわれそうなのは、来年の経済見通しにとって良い兆候ではない。■
2024: The Year the U.S. Economy Could Enter a Recession | The National Interest
December 26, 2023 Topic: U.S. Economy Region: United States Tags: RecessionFederal ReserveInterest RatesProperty MarketJerome Powell
2024: The Year the U.S. Economy Could Enter a Recession
著者について
アメリカン・エンタープライズ研究所シニア・フェロー、デズモンド・ラクマンは、国際通貨基金(IMF)政策開発・審査部副部長、ソロモン・スミス・バーニーのチーフ・エマージング・マーケット経済ストラテジストを歴任。
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