先週、偉大な知性が世界から消えました。現実政治をとことん追求したキッシンジャーには賛否両論あっても、以下のインタビューで中東の今後についても現実をしっかり把握した上で意見を述べているのは世界観、歴史観がぶれていない証拠でしょう。ガザ住民の悲惨な状況だけ切り抜き「人道が...」など適当なコメントを展開する「コメンテーター」とレベルが違いすぎます。知的体力の増強のため、このインタビューをPOLITICOからご紹介しましょう。
キッシンジャー元国務長官は、生前最後のインタビューで、ニ国家解決策は実行不可能、米国は中国と和解すべきと語っていた
ロルフ・ドベリは、POLITICOの親会社アクセル・シュプリンガーが一部を所有するWORLD.MINDSの創設者であり、世界的ベストセラー "The Art of Thinking Clearly "の著者でもある。
10月18日にヘンリー・キッシンジャーと話したが、まさか最後のインタビューになるとは思いもしなかった。WORLD.MINDSの一環で、Zoomでインタビューした。通話には、歴史家のナイアール・ファーガソンやスティーブン・コトキン、投資家のビル・アックマン、アーティストで建築家のネリ・オックスマン、イスラエルのエフード・オルメルト元首相など25人が参加した。参加者から以下に掲載する質問を投げかけた。インタビューはチャタムハウス・ルールで行ったため、質問者の名前は明かさないが、キッシンジャーはこの形での回答に同意した。
イスラエルとハマスの戦争の最新状況についても話し、キッシンジャーは2国間解決策は実行可能と考えておらず、代わりにヨルダン川西岸をヨルダンの支配下に置くべきだと語っていた。また、米国は中国との和解を模索すべきであり、世界はリーダーシップの危機に直面しているとも語った。
インタビューは長さと明瞭さのため編集されている。
イスラエルはハマスに全面反発している。もしキッシンジャー博士がネタニヤフ首相の立場だったら、違う反応を示したでしょうか?
私はネタニヤフではないので、彼に影響を与えるすべての力を判断することはできないが平和的な結果に賛成だ。だがハマスが紛争に関与している状態では、平和的な結果は望めない。アラブ世界とイスラエル間の交渉を支持する。特に今回の出来事の後では、イスラエルとパレスチナ人の直接交渉が実を結ぶとは思えない。
ニ国家解決策なしで、中東に永続的な平和が訪れるでしょうか?
形式的な和平は永続的な和平を保証しない。二国間解決の難しさは、ハマスとの経験が示している。イスラエルのシャロン前首相によってガザが準独立状態にされたのは、ニ国家解決の可能性を試すためだった。その結果、もっと複雑な状況に陥ってしまった。この2年間で、2005年よりもはるかに悪化している。だから、ニ国家解決策は、ここ数週間で見た事態が二度と起こらない保証にはならない。
あなたが国務長官になったとしよう。そして数カ月前に進む。うまくいけば、イスラエルはハマスのテロリストを排除している。ではどうするのか?ガザはどうなるのか?その世界でイスラエルはどう安心するのか?そのような結果をどう交渉するのか?
私は、2つの領土のどちらかがイスラエル転覆を決意するような2国家解決策を目指すのではなく、ヨルダン川西岸はヨルダンの支配下に置くべきだと考えている。エジプトがアラブ側に近づいたので、イスラエルは今後、非常に困難な時期を過ごすことになるだろう。ヨム・キプール戦争終結時に私が行ったような交渉が行われるよう願っている。当時、イスラエルは周囲の大国に比べ相対的に強かった。現在では、紛争を継続させないため、アメリカがもっと深く関与する必要がある。
アメリカはより強力な支援を示そうとするだろうか?
そうしなければならない。
ヒズボラがレバノンからイスラエルを攻撃したら、イランに対し軍事行動をとるとの明確なメッセージは、バイデン政権からイランに十分に送られていないように思える。その代わりに、イランがガザ攻撃に直接関与していないかのように装うことで、イランをなだめようとしている。
もしあなたが現在の国務長官なら、イランに別のメッセージを送るだろうか?
やろうと思えばできるだろう。ヒズボラはイスラエル北部国境にミサイルを何万発も持っている。危険な組み合わせだ。
ウクライナ問題から目をそらすためもあり、ロシアが中東により大きな関与を示す可能性はありますか?
ウクライナ戦争以前、ロシアはアラブとの対立において、おおむねイスラエルに好意的だった。今ロシアが介入するなら、アラブ側につくか、危機の調停役として現れるか、2つの選択肢がある。
現在の危機は、中国が台湾を攻撃するきっかけになるのだろうか?ここ数週間、台湾は非常に静かだ。
私の意見では、中国はそのような紛争を起こす準備ができていない。理論的にはチャンスだ。私の考えでは、中国は米国と関係を築く能力を持っている。しかし、私たちの側の態度がそれを不可能にしないかもしれないことに注意を払わなければならない。
では、米国の対中姿勢はどうあるべきか。
米国は中国と和解すべきだ。
ニクソン-キッシンジャー時代の大きな成果として、ソ連を中東から締め出したことがあった。あなたは、中東からソビエト連邦を追い出したことよりも、中国との和解の方が称賛されている。現在のロシアや中国を中東から締め出す必要があるでしょうか?それとも、現在の危機を含め、何らかの形で建設的な役割を果たすことができるのだろうか?
大国を中東から締め出すことができるか、あるいは積極的な役割を果たすよう促すことができるかは、基本的に中国とアメリカの関係に左右される。関係は改善されていない。現在、ロシアに関する最大の難点は、ロシアと対話がまったくないため、彼らの考えを聞くことができていないことである。
1990年から2020年まで地政学的に比較的穏やかだった。この時期を、なぜもっと平和な世界を作るために使わなかったのか?
誰が世界を平和にすべきなのか?中東だ:エジプト、サウジアラビア、その他のアラブ諸国が過激派に圧力をかけ、平和的な解決策を講じる気があれば、それが最善の結果だろう。しかしここ数週間の出来事により、各国が過激な姿勢に追い込まれ、米国が均衡を保たざるをえない状況になることを恐れている。
世界にリーダーシップの危機があり、米国にもイスラエルにもロシアにもリーダーシップの危機がある。未来のリーダーが持つべき資質にはどのようなものがあるでしょうか?
世界の指導者たちは失敗している。根本概念、基本的なこと、日々の戦術をマスターできていない。社会は対立を繰り返さずに、問題を解決する方法を見つけなければならない。それが課題だ。私たちは絶え間ない紛争の時代に直面しており、その結果、大きな戦争が起こり、これまで築き上げてきた文明の多くが破壊されている。
キッシンジャー博士、あなたは100歳でお元気です。なぜそんなにシャープでいられるのですか?秘訣は何ですか?
よい両親を選びました。その結果、良い遺伝子を受け継げました。
今後のご予定は?
重要なこと、自分が貢献できることに携わること以外に将来の計画はない。
Henry Kissinger’s (Maybe) Last Interview: Drop the Two-State Solution - POLITICO.
By ROLF DOBELLI
12/02/2023 07:00 AM EST
キッシンジャーの死は、恐らく一つの時代の終わりを象徴するものである。
返信削除それは、陰謀論的に言えば、トランプの言う「ディープステート」、より正確に言うと現行の「米国の支配構造」の終わりであり、新たな米国の世界覇権の再構築の始まりになる。
キッシンジャーは、深刻な対立であった米ソ冷戦下での核戦争による世界の破滅を回避するのに多大な貢献を行ったことは間違いない。その思考には徹底したリアリズムがあり、そこから見える世界の景色にリベラルや、まやかしの主義主張の色彩は一切無いように思える。
そして、CFRの巨大な組織を操り、米国社会のみならず、米国政権内に多数のメンバーを送り込み、その結果、米国の政治に大きな影響力を持ち続けている。これは米国の「僭主政治」とも言うべきものであるかもしれない。
現在の米国にキッシンジャーに比肩する知性は、未だ現れているようには見えず、その結果、米国政治の振れはより大きくなり、世界を混乱させることになるだろう。
この記事は、キッシンジャーの含蓄が多く、色々考えさせられる。
しかし、キッシンジャーの認識が常に正しいとは限らない。
中国の台湾侵攻について、「中国はそのような紛争を起こす準備ができていない。理論的にはチャンスだ」と述べているが、戦争が始まるのは、チャンスがあって、しかも自国が有利に展開すると考えれば、戦争準備は二の次になることの方が多い。そのように考えると、当分の間、危険な期間が続くと考えるべきである。