FRBはデータに依存した後ろ向き政策に固執しており、政策方針を変える気配はない。このためFRBはインフレ抑制でより厳しい経済的ハードランディングに我々を追い込む危険を冒している
ジョン・メイナード・ケインズは「事実が変われば、私なら考えを変える。あなたはどうしますか?」と尋ねていた。
経済が急速に悪い方向へ変化している今、連邦準備制度理事会(FRB)はケインズの見解を参考にしてよい。そうすれば、インフレを抑えるため金利を高く維持する必要がある、という現在のマントラから素早く手を引くだろう。こうした新事実にもかかわらず、FRBがタカ派的な金融政策スタンスに固執すれば、経済のハードランディングを覚悟する必要がある。
さらに気がかりな新事実は、米国債長期債に対する投資家の意欲が国内外で急速に失われていることだ。投資家は、完全雇用に近い時期に財政赤字がGDP比8%に向かっていることに懸念を強めている。
また、ワシントンの政治的機能不全を考えると、財政赤字がすぐに削減される見込みはほとんどないと懸念される。
投資家の疑問は、政府の長期借入ニーズに誰が、いくらで資金を提供するのか、ということだ。この疑問は、FRBが満期を迎える国債や住宅ローン担保証券を繰り越さないことで、毎月950億ドルずつ残高を減らし続けている現在、より切実なものとなっている。
また、中国と日本がともに米国債保有残高を減らしていることも、切実な問題である。
このような投資家心理の変化がもたらした正味の結果は、2ヶ月という短期間に、国内外の多くの金利の指標となる重要な国債利回りが、4%未満から4.75%前後、つまり過去16年間で最も高い利回りに急騰していることだ。この急騰により、30年物の住宅ローン金利はすでに8%近くまで跳ね上がり、アメリカの一般家庭にとって住宅はますます手の届かなくなっている。米国の住宅市場と自動車市場がこのような高金利に耐えられるかどうかは不明だ。
FRBが留意すべきもうひとつの大きな変化は、銀行システムに亀裂が生じつつあることだ。年明け早々、シリコンバレー銀行とファースト・リパブリック銀行が破綻し、米国史上2番目と3番目に大きな銀行破綻が発生した。この2行が破綻した主原因は、金利上昇が長期債とクレジットのポートフォリオに与えたダメージだった。長期金利がさらに上昇している現在、銀行システムは債券価格の下落でバランスシートに再び大きな打撃を受けるに違いない。
また、商業用不動産ローンの破綻が来年に相次ぐであろうことも、もはや明らかだ。不動産開発業者は、コロナ後の世界で異常に高い空室率に苦しんでいるまさにその時に、5,000億ドルのローンを著しく高い金利でロールオーバーしなければならなくなる。これは、商業用不動産融資へのエクスポージャーが20%近い地方銀行にとっては大きな打撃となる可能性がある。
元FRB議長アラン・グリーンスパンは、高度に統合された今日の世界経済では、どの国も自分たちだけの島ではないと述べている。だからこそFRBは、世界経済の見通しが急速に悪化していることに注意を払うべきなのだ。世界第2位の経済大国の中国は、巨大な住宅バブルと信用市場バブルの崩壊を受け、ここ数十年で経済成長がもっとも鈍化している。
一方、ドイツはロシアが引き起こしたエネルギー・ショックと中国経済減速の複合的な影響に苦しんでおり、すでに3四半期連続でマイナス成長を経験している。欧州中央銀行(ECB)が景気低迷時に金利を引き上げたため、欧州経済が景気後退に陥るのは時間の問題だ。
こうしたことから、FRBの金利政策決定では、将来を見据え、米国経済が取り組まなければならないであろう国内外の主要なネガティブショックを考慮すべきであることがわかる。しかし残念なことに、FRBはデータに依存した後ろ向き政策に固執しており、すぐに政策方針を変更する気配はない。そうすることで、FRBはインフレ抑制で必要となるより厳しい経済的ハードランディングに我々を追い込む危険を冒している。■
The U.S. Economy Is Headed for a "Hard Landing" | The National Interest
October 6, 2023 Topic: U.S. Economy Tags: FedFederal ReserveU.S. EconomyEconomy
American Enterprise Institute senior fellow Desmond Lachman was a deputy director in the International Monetary Fund’s Policy Development and Review Department and the chief emerging-market economic strategist at Salomon Smith Barney.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。