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回転起爆エンジン rotating detonation engineは出力、航続距離、燃料効率を大幅に向上させながら、従来型ジェットエンジンより軽量となる可能性を秘めている
国防高等研究計画局(DARPA)から、ギャンビットと呼ばれる新たな高速ミサイル計画が昨年ひっそり発表されていた。
同プログラムは、兵器開発のみならず、航空機や海軍艦艇の動力源まで広範囲に影響を及ぼす可能性のある、新しい推進方法の活用を意図している。
回転起爆エンジン(RDE)として知られる推進システムは、従来型ジェットエンジンより軽量でありながら、出力、航続距離、燃料効率を大幅に向上させる可能性を秘めている。
ギャンビットは、RDE技術に焦点を当てた数あるプログラムのひとつに過ぎない。ただし、Aviation Week & Space Technology誌の防衛担当編集者スティーブ・トリンブルは例外で、彼は最近の動向を詳しく取り上げている。トリンブルは、この技術がどれほど大きな意味を持つかをより深く理解するために、その仕事について私たちと話し合ってくれた。
極超音速の軍拡競争が進行し、アメリカが近接攻撃を抑止することに再び重点を置く中、この技術は、ヨーロッパや太平洋などの場所でアメリカの敵対国が提示する多くの戦術的・戦略的優位性を相殺するのに役立つ可能性がある。
新しい推進システム
回転起爆エンジンは、何十年もの間、理論や憶測の対象だったが、理論と実用化の間の壁を越えるには至っていない。
理論上は、回転起爆エンジンは従来型ジェットエンジンに比べはるかに効率的で、ミサイルの射程距離と速度を大幅に向上させる可能性がある。それはまた、現行型ミサイルと同じ速度と射程を達成できる小型兵器の実戦配備を意味する。
回転起爆エンジンを戦闘機に搭載すれば、航続距離と速度の点で同様の利点をもたらす可能性がある。特に戦闘機は、アフターバーナーに依存している。アフターバーナーは、エンジンの排気流に燃料を効率的に噴射して推力を増加させるが、燃料を急速に消費し、航続距離を低下させることは想像に難くない。だがRDEは、燃料消費を劇的に減らしながら、同様の推力アップを可能にする可能性がある。
しかし、この技術が最も役立つ可能性があるのは、海軍の将来の水上艦艇の動力源であり、出力、航続距離、速度を向上させるとともに、海軍の予算収支に大きな利益をもたらす。
起爆力の利用
回転起爆エンジンのコンセプトは1950年代にさかのぼる。米国では、ミシガン大学のアーサー・ニコルズ名誉教授(航空宇宙工学)が、実用的なRDE設計の開発を最初に試みた。ある意味では、回転起爆エンジンはパルスデトネーションエンジン(PDE)の延長線上にある。混乱するかもしれないが(実際そうかもしれない)、ここではそれを分解して説明しよう。
パルスジェットエンジンとは、燃焼室内で空気と燃料を混合し、混合気に点火してノズルから噴射するもので、他のジェットエンジンの一貫した燃焼ではなく、パルスで噴射する。パルスジェットエンジンでは、空気と燃料の混合気を点火して燃焼させることを「デフラグレーション」爆燃と呼び、基本的には亜音速で、物質が急速に燃え尽きるまで加熱することを意味する。
パルスデトネーションエンジンも似たような働きをするが、デフラグレーションの代わりにデトネーションを利用する。デトネーションは爆発と言い換えても良い。
デフラグレーションが空気と燃料の混合気の点火と亜音速の燃焼を意味するのに対し、デトネーションは超音速である。パルスデトネーションエンジンで空気と燃料が混合されると、他の燃焼エンジンと同じく点火され、デフラグレーションが行われる。しかし、長い排気管内では、強力な圧力波が点火前の未燃燃料を圧縮し、デフラグレーションからデトネーションへの遷移eflagration-to-detonation transition (DDT)として知られる点火温度以上に加熱する。言い換えれば、燃料を急速燃焼するのではなく爆発させ、同じ量の燃料からより大きな推力を生み出す。
ディー・ハワード寄附講座のクリス・コムズ博士(極超音速・航空宇宙工学)は、サンドボックス・ニュースに以下語っている。
パルスジェットのようにパルスで起爆することに変わりはないが、パルス起爆エンジンはマッハ5程度とされる高速まで推進することができる。デトネーションはデフラグレーションより多くのエネルギーを放出するため、デトネーション・エンジンは効率的である。
デトネーションの衝撃波(毎秒2000メートル)は現行のジェット機のデフラグレーション波(同上10メートル)より相当早く伝わるとトランブルは説明している。
2008年5月、空軍研究本部は、Long-EZと呼ばれるスケールド・コンポジット社の自社製作機を使い、世界初の乗員付きパルスデトネーション動力飛行機を製作し、歴史に名を刻んだ。テストパイロットのピート・シーボルドが操縦桿を握り、テスト飛行中に時速120マイル以上の速度を記録し、高度60フィートから100フィートに達した。
AFRL推進のフレッド・シャウアーは、Long-EZの動力源となったPDEについて、「燃料効率の点でゲームチェンジャーとなる可能性がある。比較のために、従来の燃焼でこの同じエンジンを操作していた場合、同じ燃料燃焼で3分の1以下の推力となっていたはずだ。従来型エンジンと比較すると、5~20パーセントの燃料節減が期待できる」。
空軍は当時、PDEエンジンの改良で、最終的には航空機をマッハ4を超える速度まで推進させることができ、スクラムジェットなど他の先進推進システムと組み合わせれば、それ以上の速度まで推進させることができると評価していた。回転起爆エンジンはさらに効果的だが、学術界や工学界では、そのようなエンジンが実際に製造できるかどうか疑問視する声も多かった。最近までは。
回転起爆エンジンの登場
回転起爆エンジンは、PDEコンセプトを次のレベルに引き上げる。デトネーション波が推進力として機体後方から移動するのではなく、エンジン内の円形チャネルを移動する。
燃料と酸化剤は小さな穴から流路に加えられ、急旋回するデトネーション波に衝突して点火される。その結果、デトネーション・エンジンの改善された効率のままに、パルスではなく連続的な推力を発生するエンジンとなる。多くの回転起爆エンジンは、複数の起爆波が同時にチャンバーを周回する。
トリンブルの説明によれば、従来型ジェットエンジンでは燃焼中に全圧力が失われるのに対し、RDEは起爆中に圧力が上昇する。その結果、RDEはより高い効率を実現する。実際、回転起爆エンジンは、毎回のパルスで燃焼室のパージと再充填が必要となるパルス起爆エンジンより効率がさらに高い。
「理論上は、RDEは1960年代のターボジェットからターボファンへの飛躍のようなものだが、超音速機用だ。比推力(別名、燃料効率)が大幅に向上し、重くなったり空気力学的に不利にならないパッケージングができれば、航続距離を伸ばすことができるはずだ」とトリンブルは説明する。
2020年、セントラルフロリダ大学は、空軍研究本部の回転起爆ロケットエンジン・プログラムと協力して、燃料が切れるまで噴出し続ける世界初の実用的なRDEの製造とテストに成功し、このコンセプトが可能であることを事実上証明した。このチームが開発した3インチの銅製試験装置は、実験室で200ポンドの推力を生み出すことに成功した。
それ以来、プラット・アンド・ホイットニー社を筆頭に、他のエンジン・メーカーもこれに続いた。
新世代の高速長距離兵器
2022年7月18日、DARPAはギャンビット・ミサイル・プログラムに関する特別通知を発表し、企業がこの取り組みとその目的についてより多くの情報を得るための「提案者の日」を告知した。DARPAは、プログラムの趣旨と目的、そして開始から飛行試験までの予想スケジュールを記載している。
「ギャンビット・プログラムの目的は、大量生産が可能で、低コスト、高音速、長距離の対地攻撃兵器を可能にする新しい回転起爆エンジン(RDE)推進システムの開発及び実証にある」。
このプログラムは、各18ヶ月の2段階に分けて実施される。第1段階は、競合他社が予備設計を完成させ、限定的なテストを行うもので、第2段階は、設計を確定し、RDEシステムの本格的な飛行テストを行う。
ガンビットの包括的な目標についての詳細はほとんど明らかにされていないが、発表文には、アメリカの国防機構が現在直面している具体的な課題を示唆する言葉もある。ギャンビットが「反アクセス/エリア拒否(A2AD)環境」で使用されるとの言及は、アメリカ軍が互角戦力を有する敵対勢力と対峙する場所に該当する可能性がある。対艦兵器システムが充実してきたおかげで、中国沿岸から広がる1,000マイル以上のエリア拒否バブルがある。
アメリカの空母艦載戦闘機F-35CとF/A-18スーパーホーネットの戦闘半径は650マイル未満であり、長距離弾薬なしで戦闘出撃するため空母を危険な場所に航行させなければならない。
しかし、トリンブルが指摘するように、スーパーホーネットに巨大なロケットを搭載するのは単純な話ではない。兵器の大きさは非常に重要であり、だからこそ、効率が改善され、質量が小さくなったRDEエンジンがゲームチェンジャーとなりうるのだ。
米海軍は、戦闘機に長距離高速(マッハ4~6)の巡航ミサイルを装備する方法を見つける必要がある。
空軍研究本部によれば、RDE技術は高速兵器を低価格にする可能性があり、これは、空軍用に開発中の極超音速(マッハ5以上)兵器が1発1億600万ドルもする可能性があるとの最近の国防総省の分析を考ええれば、重要な意味を持つ。
また、2022年の国防総省の高性能コンピューティング近代化プログラムのリストによると、空軍研究本部は少なくとも3種類のRDE兵器またはデモ機の開発に着手している。
1つは、第5世代戦闘機に搭載可能な空対地ミサイルの動力源となる液体燃料回転起爆スクラムジェットの実用化を目指すものだ。もうひとつは、空対空ミサイル用の固体燃料を活用するもので、3つ目は地上でのフリージェット試験用の車両の開発を目指している。
RDE技術は、最終的には現在のミサイルと同じ射程距離と速度を提供する小型兵器につながる可能性もあり、F-35の内部武器ベイにより多くの弾薬を搭載できるようにする。同様に、現在と同じ大きさのミサイルがより高速で飛べば、空対空作戦と空対地作戦の両方で広範囲に及ぶ利点が生まれる。
戦闘機や海軍の軍艦の動力源にもなる
空軍研究本部が開発をめざす兵器プログラムに戦闘機で航続距離と速度を大幅に向上させる可能性のあるRDE事業が別にある。
アフターバーナーは、ジェットエンジンの排気口に直接燃料を噴射することで、酸素をより多くの燃料と効果的に結合させる。言うまでもなく、推力を増加させるこの方法は、航空機の燃料残量を大きく低下させ、パイロットはスピードと航続距離、あるいは滞空時間のいずれを犠牲にせざるを得なくなる。
これに対し、回転爆発エンジンのアフターバーナーは、設計固有の効率を活用しながら推力を増加させることができ、より少ない燃料消費で同じ利益を得ることができる。
長期的には、空気呼吸式RDEが主要な推進手段として航空機に搭載される可能性がある。しかし、RDEの潜在的な用途が空だけにあるわけではない。最も有望なのは海上かもしれない。
海軍の航空母艦や潜水艦は原子力推進だが、それ以外の艦艇はいまだに昔ながらのF-76船舶用ディーゼル燃料で動いている。そのため、海軍がこのアプローチに大きな関心を寄せていることは驚くに当たらない。実際、海軍は「回転起爆エンジン」の特許を1982年に出願している。
2012年の海軍発表によると、回転起爆エンジンは軍艦の推力を10%増加させ、燃料消費を25%削減し、消費燃料からもっと多くの速度と航続距離が生まれるという。2012年当時、年間3億ドルから4億ドルの節約効果につながると予測され、現在のドルだと3億8700万ドルから5億1600万ドルに相当する。
回転起爆エンジンで、戦闘機がより遠くへ飛び、ミサイルがより速く飛び、艦船がより長く航行し、ロケット打ち上げさえも安くする期待がある。アメリカの防衛機構において、この先見性のある技術が役立たないところはあまりないだろう。
長年にわたり、RDEをめぐる疑問は「もし」だったが、今や「いつ」が重要になってきた。■
Meet Gambit: DARPA's New Missile That Could Make China Freak | The National Interest
December 1, 2023 Topic: military Region: Americas Blog Brand: The Buzz Tags: MissilesDARPAInnovationMilitary
日本もJAXAが2021年7月27日に回転デトネーションエンジンの世界初宇宙空間での燃焼試験をしています。
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