スキップしてメイン コンテンツに移動

ウクライナ独立記念日に米国が発表した30億ドル新支援策で注目のNASAMS、Vampire両システムは、ロシア対抗が今後も続くことを前提としている

 



AIM-120 Advanced Medium Range Air-to-Air Missile (AMRAAM)を発射するNASAMS (National Advanced Surface to Air Missile System)ランチャー。オランダ陸軍

「ヴァンパイア」対無人機システムも含めた新しい援助パッケージはこれまで最大のものとなる

 

国防総省は、ウクライナがロシアの全面侵攻から半年を迎える中、ソビエト連邦からの独立31周年を迎えるにあたり、これまでで最大規模となる約30億ドルの軍事支援策を発表した。米国の新たな支援には、NASAMS(National Advanced Surface to Air Missile Systems)6基とVampireと対ドローンシステム多数、さらに砲弾、レーダー、その他が含まれる。供与は数年かけ、進行中の紛争と別に、ウクライナ軍の能力を長期的に強化することに焦点が当てられていると明確に示している。

米国政府は、ウクライナ安全保障支援構想(USAI)を通じて、総額約29億8000万ドル相当の新たな支援を提供する。これはウクライナに特化した米国の軍事支援であり、ジョー・バイデン大統領がいわゆる「ドローダウン権限」で認可した武器その他物資の提供とは別物である。ドローダウンは米軍在庫から品目を移動させるが、USAIはウクライナ向けに新しい武器やその他装備、訓練、メンテナンス、サポートサービスの購入資金を提供する。

「アメリカ国民全員を代表し、ウクライナの独立記念日に祝意を表します。この6ヶ月間、ウクライナ国民は、並外れた勇気と自由への献身で世界を感動させてきました」と、バイデン大統領は声明で述べており、今回の新しい軍事援助にも触れた。「ロシアによるウクライナ全面侵攻に直面しながらも、断固として強く立ち向かいました。そして今日は、過去を祝うだけでなく、ウクライナが誇りを持って主権と独立の国家であり続けることを明確に確認する意義があります。米国は、主権を守る戦いを続けるウクライナ国民の支援を約束いたします」。

国防総省報道発表によれば新支援策(約30億ドル)は以下を含む。

  • NASAMS6基と「追加弾薬」(数量不明)

  • VAMPIRE対無人航空機システム

  • レーザー誘導ロケットシステム

  • 155mm砲弾最大245,000発

  • 120mm迫撃砲弾薬最大65,000発

  • 対砲兵レーダー最大24

  • RQ-20プーマ無人機・スキャンイーグル無人機の譲渡の「支援装置」の追加

  • 訓練、メンテナンス、維持の資金

 

ノルウェー王立空軍 (RNoAF)の NASAMS 2 の典型的構成を示した図 Royal Norwegian Air Force

 

M142 HIMARS搭載車両が AIM-120 AMRAAMミサイルを発射している. Public Domain

特に、NASAMSが6基追加され、さらに弾薬が増えることに大きな意味がある。米政府はこれまで、NASAMS2基をウクライナに移送すると発表していた。

NASAMSの構成はまだ不明である。NASAMSは発射機、レーダーなどセンサー、コマンド&コントロール・ノードの組み合わせで、各種バージョンが存在する。例えば、ハンビーなど軽車両にミサイルランチャーを搭載するタイプもある。また、ウクライナが少なくとも16台受領しているM142高機動砲ロケットシステム(HIMARS)車両を、NASAMSで利用可能なAIM-120高性能中距離空対空ミサイル(AMRAAM)の発射台として試験することも行われている。

同じ疑問は、米国がこれらのシステムと一緒に送るとする「軍需品」にも当てはまる。NASAMSは、地上発射に最適化された射程延長型AMRAAMや、AIM-9Xサイドワインダーなどレーダー誘導ミサイルも発射できる。

そうなるとNASAMSは構成次第で様々な短・中距離防空能力の提供につながる。ウクライナ軍のNASAMSは、少なくとも当初はAIM-120を発射する可能性が高いようだ。同ミサイルのサプライチェーンがしっかりしていることと、ウクライナはエリア防空能力の強化を最も必要としているためだ。

合計8種のシステムで、ウクライナ軍は航空機、巡航ミサイル、ドローンなど各種脅威に対して、都市や特定の高価値施設など、各所で即時防御が可能となる。米国の防衛関連企業レイセオンとノルウェーのコングスベルグが共同開発したNASAMSは、ウクライナの既存のソ連時代の短・中距離地対空ミサイルシステムを上回る最新かつ高性能の装備となる。

問題は、米国政府がこれらのシステムの納入をどれだけ迅速に行えるかだ。国防総省高官は先週、ウクライナはまずシステム2基を引き渡される見込みと述べた。これがレイセオンやコングスベルグの生産能力にある程度の余裕があることを反映しているかどうかは不明である。レイセオンやコングスベルグにある在庫を購入したり、他の顧客向けに生産中システムの転用やサードパーティーから直接入手することも選択肢となる。米軍には今回活用できる完成品NASAMSの取得手段を持っていない。

すでに述べたように、ウクライナ向けのNASAMSも米軍在庫から調達したものではない。米軍が現在保有するNASAMSは小規模で、ワシントンD.C.の防空に特化していることを考えれば、これは理にかなっている。

ウクライナへの主要兵器システム、特にミサイルや誘導弾の納入を維持する産業基盤の能力への懸念がすでに表面化している。ウクライナ軍事支援では、肩撃ち対戦車ミサイル「ジャベリン」や肩撃ち地対空ミサイル「スティンガー」(後者はマンパットとも呼ばれる)の増産や供給拠点拡大がすでに始まっている。現在、ウクライナが保有するM142高機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)とM270多連装ロケットシステム(MLRS)に使用するGMLRSロケット弾でも同様の議論が行われている。

また、これまでの米軍援助に含まれていなかった「Vampire」が入ったことも興味深い。このシステムの実態は当初明確ではなく、一部の初期報道では、無人機であると誤って伝えらていた。どうやら、英国海軍のプロジェクト「ヴァンパイア」という艦船打ち上げ型ドローン開発計画と混同したようだ。

L3Harrisはその後、問題のシステムが同社の新しいVehicle-Agnostic Modular Palletized ISR Rocket Equipmentシステム、またはVAMPIREだとBreaking Defenseに確認した。少なくともこれまで公開されているVAMPIREは、Advanced Precision Kill Weapon System II (APKWS II)などの70mmレーザー誘導ロケット用の4連ランチャーと、電気光学および赤外線カメラ、集中制御システム、専用電源を備えたセンサータレットで構成されている。

L3Harrisは、VAMPIREが対無人航空システム(C-UAS)能力を持つと言及してこなかったようだが、「顧客の固有要件に合わせ構成が可能」と述べている。このシステムのプロモーションビデオでは、赤外線カメラのMQ-9リーパー映像を見せながら、「L3Harrisの高性能画像追跡機能で移動目標へのロックを維持できる」と説明しており、「地対地、地対空の精密打撃能力」が実現するとも述べている。

同システムをドローンに使うとすれば、比較的動きの遅いタイプのドローンへの交戦に関しては、必ずしも無理な話ではない。米空軍は、亜音速巡航ミサイルの代用として、空中発射式APKWS IIロケットの使用を実証しており、The War Zoneはこの能力は無人航空機にも使用できると指摘してきた。

また、VAMPIREはその名の通り、自己完結型のパレット型システムであり、各種車両に容易に装着できる。L3Harris社、ピックアップトラックに搭載したバージョンを公開しています。ウクライナ軍はすでに、各種ミサイルやロケットランチャーなどを搭載したピックアップトラックを運用している。

また、米軍が初めてウクライナにAPKWS IIロケット弾を供与する計画を5月に公式発表したが、その際、何を発射するのか、どう使用するのか、といった詳細は一切明らかにされなかったことも記憶に新しい。さらに最近、ドイツ政府はピックアップトラックに70mmロケットランチャーとレーザー誘導ロケット弾を搭載する計画を明らかにした。こうした発表が直接関係しているかどうかはわからないが、米国の新支援策にVAMPIREが含まれたことを考えると、今までの発表に興味深いものを感じる。

米政府は、大砲や迫撃砲向け弾薬を増やし、敵の野砲部隊の位置を特定する対砲台レーダーを送る計画を立てている。このことは、紛争の両側でロケット砲や榴弾砲などの間接発射兵器が引き続き重要であることを強調している。追加されるRQ-20プーマは、敵の砲台を発見するなどの任務に就く可能性もある。ウクライナ軍とロシア軍はすでに、砲の探知に無人航空機を多用している。

ウクライナに対する新しい大規模なUSAI支援パッケージは、内容以上に、現在の紛争がいつ、どのように、あるいは解決されたとしても、ウクライナに今後必要となる積極支援策について、米国当局がウクライナと協力してきた背景を浮き彫りにしている。

バイデン大統領は声明で、「ウクライナは、長期にわたり自国を防衛できるよう、防空システム、大砲システム、弾薬、対無人航空機システム、レーダーを獲得する」と述べている。

「ウクライナ独立記念日に発表されたUSAIパッケージは、米国が長期にわたりウクライナを支援することを明確にし、ロシア侵略に直面し主権を守り続けるウクライナ軍の持続的な戦力を構築するべく複数年に及ぶ投資を意味する」と、国防総省報道発表は述べている。「今回の発表は、ウクライナが独立主権国家として自らを守り続けられるように、中長期的にウクライナに能力を優先的に追加提供する契約プロセスの始まりを意味する」。

長期的な焦点があてられていることが重要だ。The War Zoneはじめ、多くが、明日にでもロシアとウクライナの間に和平が成立したとしても、その後も紛争リスクはほぼ間違いなく高いままであると強調している。その意味で、ウクライナ軍は、紛争後の環境、あるいは2月のロシアによる全面侵攻以前のように紛争がほぼ凍結された状況で、どのように自らを再建し戦力を近代化し、将来の侵攻に対する抑止力と防衛力を強化するか、今から計画しておかなければならない。

「数千名が死傷し、数百万人が住居を追われ、その他にも多くの国民がロシアによる残虐行為や攻撃の犠牲になっているため、今年の独立記念日が多くのウクライナ国民にとってほろ苦いものであることは承知している。しかし、6カ月にわたる執拗な攻撃は、ウクライナ国民の自分自身、自国、そして31年にわたる独立への誇りを強めるだけだった」とバイデンは本日の声明で述べている。「今日も毎日、我々はウクライナ国民とともに立ち上がり、独裁政治を動かす闇は、世界中の自由な人々の魂を照らす自由の炎にかなわないと宣言する。米国は、誇り高きウクライナ系米国人を含め、ウクライナを民主的で独立した主権国家、繁栄する国家として、今後何十年も祝福し続けることを期待している」。

米国政府は、本日の新たな大型軍事支援パッケージ発表により、コミットメントを確実に表明したといえる。■

 

NASAMS Air Defenses, 310k Artillery Rounds In Huge $3B Ukraine Aid Package

BYJOSEPH TREVITHICKAUG 24, 2022 5:31 PM

THE WAR ZONE


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...

F-15ジャパン・スーパーインターセプター(JSI)プログラムの支援契約をボーイングが獲得(The Aviationist)―68機が米国で改修され、大幅な性能向上が実現する見込み。

AIM-120AMRAAM8機とAGM-158JASSM1機を搭載したF-15ジャパン・スーパーインターセプター。 (画像出典:ボーイング) 総 額4億5,100万ドルの契約は、ジャパン・スーパー・インターセプター・プログラムの一環として、航空自衛隊F-15J68機の改修を支援するもので、現在、米空軍のF-15EXイーグルIIで実戦配備されている機能の一部を導入する。  米国防総省(DoD)は2024年12月10日、空軍ライフサイクル・マネジメント・センターが ボーイング に対し、F-15ジャパン・スーパー・インターセプター・プログラムを支援するため、2024年11月22日の同様の契約(1億2920万ドル)に続き、4億5050万ドル相当の契約を発注したと発表した。この契約にはFMS(対外軍事販売)も含まれ、スーパーインターセプターに装備される新型レーダー、自己防御システム、ミッションコンピューターユニットの取得が含まれる。 F-15ジャパン・スーパーインターセプター計画 アップグレード ジャパン・スーパー・インターセプター(JSI)プログラムは、ボーイングが日本の老朽化した単座F-15J戦闘機68機を近代化するものである。 World Air Forces 2024によると、航空自衛隊は現在、155機の単座F-15Jと44機の複座F-15DJを保有しており、その一部はJ-MSIP(Japan-Multi-Stage Improvement Program)によって改修された。  JSIプログラムは、ボーイングのセントルイス工場(ミズーリ州)とエグリン空軍基地(フロリダ州)で取り組み、2030年2月までに完了する予定である。航空自衛隊のために163機のF-15Jと36機の2人乗りF-15DJをライセンス生産した日本の 三菱重工業 (MHI)は、アップグレードパッケージが終了した後、アップグレード作業を現地で実施する。 2024年5月15日、那覇基地でのサザンビーチ演習で離陸準備をする航空自衛隊第304飛行隊所属のF-15Jイーグル。 (イメージクレジット:USAF/Melany Bermudez) F-15ジャパン・スーパーインターセプター計画 日本の老朽化したF-15イーグル迎撃戦闘機の近代化プログラムでは、既存のF-15J/DJ戦闘機のうち68機がアドバンスド・イ...