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ウクライナ戦の最新状況 ミサイル在庫を使い尽くしたロシア。3千発も打ち込んで成果は? 補充生産が追いつかない状況。

 

Tu-22M3M戦闘爆撃機 Image Credit: Creative Commons.

 

 

ロシアは高価なミサイルを大量にウクライナに発射した。だがミサイルを補充できなくなったらどうなるか? 

 

 

シアは半年前から、各種長距離ミサイルでウクライナ国内の目標を攻撃している。2月24日の侵攻以来、8月8日までウクライナに向け発射されたミサイルは3650発にのぼるというから、1日平均22発近くが発射されていることになる。

 しかし、8月に入っての攻撃回数の急減は、ロシアのミサイル作戦の底打ちを示唆している。ハイテク兵器は、補充が簡単にできない。

 戦争初期から、Tu-22MとTu-160爆撃機は、ウクライナの防空圏外から、新型Kh-101と旧型Kh-555巡航ミサイルを連日ぶち込んできた。さらに船舶や潜水艦から発射されるカリブル巡航ミサイルが補完した。ロシアはトラック発射式のイスカンダルM弾道ミサイル、イスカンダルK巡航ミサイル、さらにモスクワが退役させたと言う旧型トーチカ弾道ミサイルも保有していた。

 開戦初期には、これらの攻撃で燃料貯蔵所、兵器工場、機材格納庫、ウクライナ軍兵舎などを破壊し、軍事的に適切な結果をもたらすこともあった。

 しかし、攻撃はしばしば失敗し、あるいは意図的に民間人を標的にし、アパートやショッピングモール、公演会場、市民会館などを破壊し、民間人数百名が犠牲になった。

 モスクワが穀物を積んだウクライナ船舶を自由航行させる協定に合意した翌日の7月23日には、オデーサ港湾施設にミサイル2発が撃ち込まれた。そして7月30日から31日の夜、8発のカリブミサイルがウクライナの農産物輸出の大物オレクシー・ヴァダトゥルスキーOleksiy Vadaturskyのオデーサ自宅を直撃した。1発が寝室を直撃し、本人と妻のライサが死亡した。

 巡航ミサイルや弾道ミサイルは高価で、特にNATO戦に備え予備を確保する必要があることから、ロシアのミサイル作戦には最初から持続可能性への疑問がつきまとっていた。

 米情報当局も3月に、ロシアの空中発射巡航ミサイルの故障率が20%から60%の間で日々変化している状況を確認したと主張している。未検証のこの主張は、シリアにおけるロシアのミサイル攻撃で以前確認されていた深刻な精度問題と関連している可能性がある。

 

 ロシアは新型の対艦ミサイル「バスティオン」や旧ソ連時代の巡航ミサイル「Kh-22」、さらには防空ミサイル「S-300」など、陸上攻撃を主目的としない兵器も使用するようになった。このため、以前にも増して命中精度が落ち、巻き添え被害を防げない状況になっていた。

 8月に入り、猛威を振るったミサイル作戦は一段落し、ウクライナに向けて発射されるミサイルは散発的かつ数も少なくなっているようだ。ロシアはついに、備蓄以外のミサイルを使い果たしたのかもしれない。

 航空史家トム・クーパーTom Cooperは、「ロシアは弾道ミサイルと巡航ミサイルの在庫を『枯渇』させた」と書いている。在庫は(クレムリンが)主張していたよりもずっと少なく、ほとんどすべて使ってしまったのだ。

 また、ロシアは、Kh-47キンザルKinzhal弾道ミサイルを、8月7日にMiG-31戦闘機によって、3月の最初の攻撃に続いて、ビニツィアの工場に向け空爆し、2度目の攻撃を実施したと認めている。キンザルは迎撃が難しいが、本格生産前のため限定的にしか使用できない。

 一方、ウクライナの防空能力がミサイル迎撃に有効であるため、ロシアはより大量のミサイルの発射を余儀なくされている。クーパーは、ウクライナ防空部隊が8月8日にオデーサに発射されたカリブル4発をすべて迎撃成功し(うち1発は戦闘機が撃ち落とした)、また7月24日には4発中3発を破壊したと指摘している。

 

ミサイル補充生産が追いつかない

 

ロシアは、ミサイル増産に予算をかけて補充できないのだろうか?

 アナリストによれば、モスクワがそうしたくても、基本的にできないのだという。

 マキシム・スターチャックMaxim Starchakの6月の記事には、3交代で労働者を増やし、生産ペースを上げようとしているにもかかわらず、消耗分の巡航ミサイル・弾道ミサイルの補充がいかに遅いかが綴られている。熟練工不足、西側マイクロエレクトロニクスの購入が断たれており、国産部品の開発失敗などが原因とある。

 記事の数字に基づくと、毎月のミサイル生産量は次のようになる。

- ノバトール工場。海軍巡航ミサイル「カリブル」8〜10基/月*。

- ノバトール工場 イスカンダルK型巡航ミサイル 3~6基/月(「年間数十基」)/月

- ボトキンスク工場 イスカンダルM弾道ミサイル 5基/月(4基から増設)/月

[他の情報源から] 対艦ミサイル「オニキス」月2~4基(「年間数十基」)または月4.5基(年間55基)バスティオン沿岸防衛システムおよびロシア艦船に使用。

*カリブルには、高速で短距離の対艦ミサイルと、低速で長距離の陸上攻撃型がある。すべてが対地攻撃型になるとは限らない。

 スターチャックによると、熟練工不足のため、20%以上の増産は望めないという。また、カリブルやイスカンダルと同じ割合で製造されていると思われる空中発射巡航ミサイルメーカー、戦術ミサイル社では、6月になっても増産措置は実施されていない。

 さらに、ロシアは西側諸国製部品の代替品を調達するため奔走しており、変更はコストのかかるテストを必要とし、信頼性と精度を低下させる可能性が高い。一方、旧式のKh-555、Kh-22、トーチカミサイルの在庫は、陳腐化し生産が終了しているため、補充されないだろう。

 ロシアの生産能力はさらに制限されるとの見方もある。パベル・ルスヴィンPavel Luzvinによると、ミサイルに使用されるTRDD-50ターボジェットエンジン2種類の生産は、United Engine Corporationが行い、年間生産量は、イスカンダルKとKh-59巡航ミサイル45~50基、Kh-101とカリブ巡航ミサイル45~50基に留まると推定している。

 また、ロシアの陸上攻撃用巡航ミサイルと弾道ミサイルの生産は、年間225基、1ヶ月に約19基が上限であると、結論を出している。ただし、ルズビンの試算は、労働生産性の統計から推定したものであり、直接報告された生産率ではない。

 さらにこう結論付けている。「この状況では、ロシアは数ヶ月に一度程度、産業やインフラに対し数十発のミサイルを発射する一方、主に心理的効果を狙う単発ミサイル攻撃を定期的に行うにとどまるかもしれない 」。

 しかし、ウクライナの防空網の改善(ウクライナが西側のNASAMSやIRIS-T防空装備を配備するなど)のため、防空網を飽和にするため多数のミサイルが必要となり、その限定戦略でさえ効果を出せない可能性がある。

 これに対し、ウクライナは、前線のかなり後方にあるロシアの弾薬庫、司令部、橋、空軍基地、防空施設などを正確に攻撃し、軍事的な影響を生むミサイル作戦を実行できる能力を証明している。

 その結果、死傷者多数を出し、ロシアの砲撃数を激減させ、ロシアは補給拠点や戦闘機を前線からさらに遠ざけ、兵站効率を著しい低下を余儀なくされている。

 もちろん、ウクライナのスタンドオフ攻撃は、米国とそのNATO同盟国が提供したGPS誘導ロケット/ミサイルと標的捕捉の広範な情報支援で可能になったものだ。

 しかし、ロシアは高価な長距離ミサイルを3,000発以上も使い果たしながら、成果は比較的限られている。また、軍事標的とはいいがたい商業地や住宅地の一般市民に死と破壊を与えることが多く、それが精度が不正確なためか、衝撃と恐怖を与える意図的戦略なのかは別として、ウクライナ国民は怒りを抑えられなくなっている。■

 

 

Russia Has Run Out of Long-Range Missiles to Terrorize Ukraine - 19FortyFive

BySebastien RoblinPublished13 hours ago

 

 

Expert Biography: Sébastien Roblin writes on the technical, historical, and political aspects of international security and conflict for publications including The National Interest, NBC News, Forbes.com, War is Boring and 19FortyFive, where he is Defense-in-Depth editor.  He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China.  You can follow his articles on Twitter.

In this article:featured, Russia, Russian Military, Ukraine, War in Ukraine


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