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ウクライナ戦の最新状況 HARMミサイルが米国から供与され、実践に投入されている模様


クライナ報道では、ロシアの防空システムの破壊の急増を報じ、対レーダー・ハンティング・ミサイルをアメリカがウクライナに送ったことを公式に確認した。アメリカの声明は兵器を特定していないが、ウクライナ国内のロシア軍がアップロードした破片の画像は、AGM-88 HARMミサイルであると示唆している。

(Twitter)

 キーウポスト新聞によると、ウクライナ陸軍参謀本部(AGS)は、ロシア軍が金曜日から月曜日にかけウクライナ全域で防空システム少なくとも 17 基を喪失したと推定している。各システムがどのように破壊されたかは明示していない。また、ウクライナ南方統合防衛司令部は、日曜日にS-300システムを4基、月曜日にPantsyr-S1システムを破壊したと主張しているが、HARMミサイルが関与しているかは明らかにしていない。

 ウクライナが供用するソ連時代の戦術機には、NATOの兵器システムを活用できず、HARMのような対レーダーミサイルがウクライナに提供されているという事実は、(筆者を含む)多くの人にとって驚きであった。しかし、The WarzoneのTyler Rogowayが指摘していたように、AGM-88HARMミサイルは様々な方法で活用できる。現在、ウクライナのMiG-29の一部は、西側兵器を発射するため改造されている可能性があるようだ。


HARMミサイルとは

AARGM | NAVAIR

AGM-88 HARMミサイルを発射する米海軍F/A-18. (U.S. Navy photo)


対レーダーミサイルとは、簡単に言うとレーダーが発信する電磁波を検知し攻撃するもので、「レーダーハンティング」とも呼ばれる。特にAGM-88は、レーダーシステムをある程度自律的に狩ることができ、時には米軍機よりも先に敵地空域に発射されることもある。防空システムが起動すると、発射ずみのミサイルはシステムのレーダー波を検知し、進路を変え交戦する。システム電源が落ちても、AGM-88は目標の最終地点に接近することができる。

 逆に、防空システム運用者にHARMミサイルやそれを搭載した航空機の存在がわかっている場合、電源を落としたまま、航空機が自由に行動できるようにすることもある。このため、これらの兵器を使った作戦は、敵防空網の制圧(SEAD)、敵防空網の破壊(DEAD)と呼ばれる。



AGM-88 HARM missile (U.S. Air Force photo)


AGM-88 HARMミサイルは、超音速空対地対レーダーミサイルで、1985年に運用が開始され、その後、更新が行われている。同ミサイルは、あらかじめ設定された座標を使用してレーダーアレイの一般的な方向に飛行してから、内部シーカーを活用しシステムの位置を特定し、接近するなど、各種方法で使用できる。その他ミサイルは発射機との接続を必要とするが、AGM-88は航空機やパイロットの入力がほとんどなくても機能するため、若干の改造でウクライナ機から発射が可能だ。

(Twitter)


全長13フィート8インチの同ミサイルは、143.5ポンドの高爆発弾頭を含め、約800ポンドの重さだ。AGM-88 HARMミサイルの射程は、米空軍が30マイルと報告しており、AGM-88E AARGMは60マイルの距離で交戦できると考えられている。さらに射程が長く、F-35へ搭載が予定されているAGM-88G AARGM-ERは、先月3回目の発射実験に成功したばかりだ。

 AGM-88自体はかなり古いものなので、ロシア軍がこれらの兵器の部品を回収してもリスクはほとんどない。ロシア軍はKh-31対レーダーミサイルを自ら運用してきた。


HARMミサイルでロシア侵攻にどんな影響が出るのか

HARMミサイルは、敵の防空システムを制圧・破壊するためのアメリカのアプローチに欠かせない。ステルスが普及する前の時代、地対空ミサイルで航空機を撃墜されないようにするには、HARMミサイルを使って敵防空システムを攻撃・破壊することが事実上唯一の方法だった。そのため、アメリカの航空戦の戦略には、戦闘機を哨戒に送り出し、地対空ミサイルの探知と交戦を行う「ワイルド・ウィーゼル」任務も含まれてきた。防空システムを排除した後は、地上部隊を支援するため、あるいは他の目標を攻撃するため、さらに航空機を送り込むことができる。

 しかし、ウクライナには上空制圧用の機体や防空システムがない。だからといって、レーダー探知機付きミサイルが、周辺空域を支配しようとするロシア軍の努力に大きな影響を与えないとは限らない。

 防空ミサイルと交戦可能なこれらのシステムと、すでに大きな効果を上げているHIMARSシステムの影で、ロシア軍は、以前とまったく異なる脅威を広範囲から受けているのだ。


AGM-88 HARM on F-4G.jpg

AGM-88 HARM missile (WikiMedia Commons)


ロシアの軍事ドクトリンは、戦域全体での制空権の確立を求めていない。代わりに、友軍と戦闘目標のすぐそばの空域を支配することに資源を集中させる。しかし、HARMミサイルの導入で、制空権の確保がより困難になる。ロシアはウクライナ上空の全域を支配しているわけではないので、ウクライナ航空機が防空システムに向けてミサイルを発射し、他の目標がドローンなどの攻撃を受ける間に破壊または制圧をほとんど防ぐことができない。

 さらに、HARMミサイルは、向かってくる砲撃の発生源を探知するために設計されたロシアの対砲撃レーダー部隊を標的に使用すできる。ウクライナ砲兵隊は、HARMミサイルを搭載した航空機と連携し、ロシア軍標的に一斉射撃できる。対砲兵陣地がオンラインになると、HARMミサイルで破壊され、連携のとれた報復を恐れずに砲撃を続けることができる。


ロシアはウクライナで死傷8万人を出している(米軍)

ロシアの優れた兵力と技術によって、小規模で装備の劣るウクライナ軍を迅速に制圧できると広く信じられていたが、戦闘は6カ月近く続いている。最近の米国防総省の評価では、ロシア軍はこれまでに8万人もの死傷者を出し、戦闘の終結は見えない。ウクライナによると、少なくとも4万2000人のロシア戦死者が発生しており1日あたり250人強の兵士が死亡していることになる。

 ウクライナの数字が本当なら、ロシアは10日ごとにアメリカのアフガニスタンでの20年間の総損失に匹敵する損害を被っていることになる。■


US confirms sending HARM missiles as Ukraine wreaks havoc on Russian air defense systems - Sandboxx

Alex Hollings | August 9, 2022

 

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


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