USAF/Michigan ANG
米国はウォートホッグをウクライナにまだ寄贈していないが、その日にそなえ自主的に先制措置をとる動きがあらわれた
タイム誌特集記事によると、起業家のウクライナ人歩兵将校が、A-10ウォートホッグのシミュレーション訓練センターを秘密裏に開設するべくクラウドファンディングを成功させたとある。同攻撃機は、ロシアとの紛争が始まって以来、ウクライナ軍がずっと求めている機体で、西側機材の受領へのウクライナ側の熱意が新施設で証明されている。
記事は、46歳の「ハイレベルなコネクションを持つウクライナ軍下級歩兵将校」で、草の根A-10トレーニングセンタープロジェクトの立案者アレキサンダー・ゴルガン Alexander Gorganに話を聞いた。ゴーガンは、ロシア軍の執拗な砲撃を強調し、適切な航空支援さえあれば、効果的に対抗できると説明した。ゴーガンは、ウォートホッグが最適な機体と確信しており、米国がウクライナに提供の可能性を示唆していたものの、ウクライナ一部から反発を受けているため、自ら問題を解決しようとしたのだという。
キーウの塹壕に閉じ込められ、ロシア砲弾の嵐にさらされたとき、彼が考えたのは、首都で地下に閉じ込められている自分を攻撃してくる存在を制圧するためA-10が向かっているとわかればどんなに安心だろうかと思ったと回想している。ゴーガンは、ウクライナ人やアメリカのA-10パイロットと協力して、A-10提供を米国に働きかけ、ウクライナ軍パイロットにA-10操縦に必要な訓練設備の整備に専念することにしたのだという。
同施設での訓練は5月初旬に始まっており、ウクライナ軍パイロットが利用している。行き帰りの移動中の目隠しに同意した後、Time記者はA-10シミュレーション・センターへアクセスを許可され、「米軍トレーナーが活躍するオープンソースのYouTubeビデオを使い、既製部品と退役米軍関係者の指導で作られた、洗練された」フライトシミュレーターがあると指摘した。施設は、ウクライナの技術革新と資金調達の成果を示す例として機能している。
2020年11月25日、アイダホ上空で空中給油後に、離れる第514飛行試験飛行隊のA-10ウォートホッグ。Credit: Senior Airman Danielle Charmichael/U.S. Air Force
「各ステーションには、リアルなスロットル、フライトスティック、テクニカラーの輝きを放つコンピュータータワーにリンクした(バーチャルリアリティの)ゴーグルがあった」とTime記事にある。「どの機材も機密扱いではなく、コンポーネントのほとんどは、趣味でフライトシミュレーターを作るゲームコミュニティから手に入れた」。
ゴーガンは、施設のビデオゲーム的な性質は、アリゾナ州デイビスモンタン空軍基地の第355訓練飛行隊のA-10パイロットが、公開されているコンピューターゲーム「デジタル・コンバット・シミュレーター・ワールド(DCS)」を使い仮想現実で訓練しているのに直接影響を受けたと指摘。2021年、The War Zoneは、第355飛行隊が、A-10パイロット向けの既存かつ高価なシミュレーション訓練の補完として、低コストで利用しやすいDCSや市販のバーチャルリアリティヘッドセットやその他のゲーム機器を組み合わせて使用していると報じていた。
A-10パイロットはDCSと市販のPCやVRギアで訓練する。(USAF photo)
バーチャルリアリティ訓練システムは、軍や民間のパイロットが実際の飛行への準備用に広く採用されるまでには至っていないものの、低コストのメリットはウクライナ軍には見逃せない。パイロット訓練は、費用と時間がかかるプロセスだ。市販のVRシステムとソフトウェアでは、高度で高価なシミュレーターを補えないが、少額で大量の価値を提供できる。コックピットインターフェイスの操作手順から、基本操縦方法の正しい視覚的な合図に至るまで、あらゆることがVR空間で可能になる。
これまでの軍事交流プログラムで、ウクライナ軍パイロットがA-10訓練を受けたという報告もあるが、ゴーガンは、戦闘作戦に必要なスキルを持ったウクライナ人パイロットが足りないと考えている。
戦闘による損失と資源へのアクセスの双方が原因で、その結果、ロシアからウクライナを守るパイロットは国民の人気者になっているとゴーガンは説明する。ゴーガンの私設A-10訓練施設では、パイロットの秘密主義が貫かれている。
「パイロットは将軍より価値がある」とゴーガンは言う。ロシアの侵攻以前から、ウクライナでは戦闘機パイロットの身元は極秘にされており、全員が暗殺の危険と隣り合わせに生きていたと、記事は指摘している。
紛争が始まって以来、ウクライナ軍パイロットは、性能の劣るSu-25フロッグフットに搭乗している。非常に大雑把だがソ連版A-10だ。アメリカ製のウォートホッグは高い生存能力を持つ設計で相当の戦闘ダメージに耐え、必要であれば迅速な修理だけで、厳しいスケジュールで飛行復帰する。搭載武装も多彩で、AGM-65マーベリックミサイル、AIM-9サイドワインダーミサイル、各種ロケット弾や爆弾以外に伝説の30mmGAU-8Aアヴェンジャー機関砲がある。
ウラジオストクに着陸するロシア空軍のスホイSu-25。 Credit: Fedor Leukhin/Wikimedia Commons
ウクライナにA-10を供与する利点がもう一つある。米国がA-10を退役させる動きを見せていることだ。2023年度の予算要求最新版では、空軍はウォートホッグ21機を退役させ、残る機体も5年で用途廃止する目標としている。空軍は以前から、将来の大規模戦闘における同機の能力に疑問を呈してきたが、一方で、同機が依然として重要な役割を担っているとして退役を否定する意見もある。
7月にフランク・ケンドール空軍長官が記者会見で、ウクライナにA-10が配備される可能性を示唆し、同国の将来の空戦ニーズを満たすため「米国の旧型システム」を検討中であることを明らかにした。
アフガニスタン南部上空で空中給油されるA-10サンダーボルトII。最も顕著な特徴は、30ミリ GAU-8/Aアベンジャー・ガトリング機関砲だ。Credit: Master Sgt. Jeffrey Allen/U.S. Air Force
しかし、ウクライナへA-10を派遣することに反対の向きもある。ウクライナ国防相の顧問ユーリ・サックYuriy Sakは、7月の『エアフォース・マガジン』インタビューで、A-10は有能な航空支援機だが、今のウクライナに必要ではないと説明していた。代わりに、米国が「高速で多用途」のシステムを送ることをサクは提案したF-16など多機能戦闘機を指しているのだろう。アメリカ空軍がここ数カ月オープンにしているアイデアでもあるが、いずれの提案も具体的な内容が出ていない。
国防総省での本日の記者会見で、ウクライナへの新たな米軍支援策の詳細について説明した米国防高官がこのテーマについて最新のコメントを発表した。
「ウクライナ軍について、現在と将来のすべての領域で必要性を検討している。現在は、ウクライナ東部と南部で進行中の戦闘で使用できる能力の迅速提供に重点を置いている。航空分野では、ウクライナの既存機材をいかに強化できるかに重点を置いている。HARMミサイルが威力を発揮し、ウクライナに優位性をもたらす。また、ミグ戦闘機のスペアパーツを世界中から1000点以上調達した。ウクライナ軍に提供できそうな他の能力についても検討中で、ウクライナ軍の将来像に現在取り組んでいる。あらゆる可能性を検討中です」。
全体として、ウクライナへ戦闘機(A-10を含むかもしれないし、含まないかもしれない)を送る案への反対を和らげつつある兆候がアメリカに見え続けている。
いずれにせよ、ウクライナ軍パイロットが訓練している比較的地味なシミュレーターは、西側の戦闘機で使われている基本的なインターフェースや制御コンセプトについて貴重な体験を提供するはずだ。
The War Zoneと定期的に連絡を取っているコールサイン 「Juice」ウクライナ軍パイロットは、市販シミュレーション・ソフトウェアとハードウェアを使い、レーダー機能やコックピットのレイアウトなど、西側航空機の仮想訓練を行えば、機材受領後の訓練を短縮できると指摘している。
ウォートホッグや第4世代マルチロール戦闘機がウクライナの手に渡る時点で、パイロットは、操作に慣れることができそうだ。
この戦争では、どんな些細なことも重要だ。■
Ukrainian Fighter Pilots Are Training On DIY A-10 Warthog Simulators
BYEMMA HELFRICHAUG 19, 2022 8:19 PM
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