スキップしてメイン コンテンツに移動

ロシア=ウクライナ戦は消耗戦に移行したが、終結へのシナリオはどうなっているのか

 

 

戦争は、一方が他方を軍事的に打ち負かすことで終わるわけではない。

 

 

ーチン大統領は2022年2月に開始したロシアのウクライナ侵攻で当初は、すぐにゼレンスキー政権を降伏、あるいは崩壊させるのが可能と計算していたようである。しかし、ウクライナ側の激しい抵抗と、欧米(特に米国)の大規模な武器供与により、そうならなかった。 半年がたち、戦争は消耗戦と化している。ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領が認めたように、ロシア軍はウクライナの約20%の領土を占有している。しかし、欧米の支援を受けたウクライナ軍はロシア軍のさらなる進出を阻止できるかもしれないが、ロシア軍をロシアに押し戻すこともできそうもない。しかも、双方とも停戦の準備が整っていないため、戦争は数カ月、あるいは数年続くかもしれない。

 しかし、戦争には終わりがある。この戦争はどうか。ロシアが現在の困難な状況にもかかわらず、事態を好転させ、ゼレンスキー政権を降伏・崩壊させる当初の目的を達成する可能性は残っている。一方、欧米の支援を受けたウクライナ軍が、ロシア軍を以前獲得した領土のすべてとは言わないまでも、大半から追い出すこともあり得る。

 しかし、戦争は一方が他方を軍事的に打ち負かすことで終わるわけではない。例えば、第一次世界大戦末期のドイツのように、内部崩壊したり、1980-88年のイラン・イラク戦争のように、長年の戦闘の末に双方とも相手に勝てず、戦争継続のコストが受け入れ難いため停戦に応じたりすることもあり得る。実際、ロシアとウクライナのいずれもが軍事的に優位に立てないとすれば、どちらかが崩壊する、あるいは、それぞれが相手を倒すことをあきらめるまで、戦争は続くことになるであろう。

 では、数カ月から数年にわたるロシアとウクライナの消耗戦は、どう展開されるのだろうか。長期紛争において、勝者として勝利することはできなくても、敗者となることを回避する可能性を高めるそれぞれの側の強みと弱みは何だろうか。

 これまで見てきたように、ウクライナ人は祖国を守るために粘り強く戦うことを厭わず、国民をリードする大統領を擁している。ロシア軍ほど大規模でも強力でもないが、ウクライナ軍は欧米(特に米国)の大規模な軍事支援の恩恵を受けており、ロシア軍の動きを止め、進撃を妨害できた。しかし、欧米からの継続的な武器供与がなければ、たとえロシア軍に多くの死傷者が出たとしても(プーチンは甘受すると思われる)、ウクライナ軍がロシアのウクライナ全域への進攻を阻止できたかは疑問だ。

 ロシア軍はウクライナよりはるかに多くの人員と物資を喪失しているとはいえ、依然として大量の兵器を保有している。また、ウクライナの膠着状態が続いたからといって、プーチンが失脚するとも思えない。実際、ロシア国民の多くは、プーチンと対ウクライナ戦争を支持している。しかし、国民が戦争の行方をよく知っているウクライナと異なり、ロシア国民はロシア軍の不調や死傷者の多さについてほとんど知らされていない。実際、ロシアでは戦争を戦争と呼ぶことさえ犯罪行為とされている。しかし、戦争が長引けば長引くほど、ロシア国民は欧米の経済制裁だけでなく、ロシア中の家族が戦争で愛する人を失い、ネガティブな影響を受ける可能性が高くなるのではないか。プーチンは、国内の反発を招く危険を冒してまで戦時動員を本格化させるか、そうせずにプーチンが成功したと考えるような戦争終結に持ち込めないようにするか、難しい選択に迫られるかもしれない。

 消耗戦では、どちらがより長く持ちこたえられるかが重要となる。ウクライナにとって最大の問題は、欧米がいつまで支援を続けるかだ。欧米の制裁とロシアの欧州へのガス供給削減により、エネルギー価格は大幅に上昇し、欧州の国民に悪影響を及ぼしている。経済的な痛みが長く続けば、ロシアへの融和を主張する政党が出てくるかもしれない。もちろん、アメリカによるウクライナ支援は継続され得るが、ヨーロッパの協力がなければ、その提供はより困難となる。一方、アメリカのウクライナ支援が激減または終了した場合、ヨーロッパ諸国が単独でウクライナを対ロシアで維持できるかも疑問だ。  プーチンは、2024年までロシア軍がウクライナで持ちこたえれば、プーチンに同情的でゼレンスキーに敵対することで有名なドナルド・トランプがホワイトハウスに戻り、アメリカのウクライナ支援が減少または終了し、に勝利できると期待しているのだろう。

 もちろん、トランプが再選となり、プーチンの期待通りの行動をとるかは、決して確実ではない。しかし、プーチン側としては、それを見極めるまで長く持ちこたえられなくなるかもしれない。ウクライナでのロシア軍の損失が続き、ロシア人全般の経済的苦境が続くと、ロシア社会の中で、そしてプーチンにとってより不吉なことに、ロシア軍内部で反対勢力が拡大する可能性がある。そうなれば、プーチンは政権を維持するため、ウクライナからロシアに軍を再配備を迫られかねない。ただし、軍がプーチンに忠実であることが前提だ。また、プーチンが解任、無能力、死亡などの理由で政権から転落した場合、プーチンが選んだ後任者でも(ましてやそうでなくても)、ロシア経済の崩壊を防ぐためウクライナ戦争を中止する可能性もある。

つまり、ロシアとウクライナのどちらかが継戦できなくなるシナリオを想像することは可能だ。しかし、実際にどちらのシナリオが実現するのだろうか。いつ、どこで、どのような事態が発生するかは、まだ予測できない。しかし、アメリカのイギリスとフランスへの支援は、第一次世界大戦を終結させたドイツ崩壊に貢献し、ソ連、西欧、湾岸アラブのイラク支援は、イラン・イラク戦争でホメイニ師がサダム・フセイン打倒の試みを断念することに貢献したことに注目すべきだ。欧米、特にアメリカのウクライナに対する支援が継続されるか否かは、ロシア・ウクライナ戦争の結末と同様に重要な要素だ。■

 

The Russo-Ukrainian War of Attrition: How Will It End? | The National Interest

August 28, 2022  Topic: Russia-Ukraine War  Region: Europe  Tags: Russia-Ukraine WarRussiaVladimir PutinNATOWar

by Mark N. Katz

 

Mark N. Katz is a professor of government and politics at the George Mason University Schar School of Policy and Government, and a nonresident senior fellow at the Atlantic Council.

Image: Reuters.


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

日本の防衛産業が国際市場でプレイヤーになれるか試されている。防衛面の多国間協力を支える産業が真の国際化を迫られている。

  iStock illustration CHIBA, Japan —  インド太平洋地域での中国へのヘッジとして、日米含む多数国が新たな夜明けを迎えており、軍事面で緊密化をめざす防衛協力が進む 言うまでもなく日米両国は第二次世界大戦後、米国が日本に空軍、海軍、海兵隊の基地を設置して以後緊密な関係にある。 しかし、日本は昨年末、自国の防衛でより積極的になることを明記した新文書を発表し、自衛隊予算は今後10年間で10倍になる予想がある。 政府は、新しい軍事技術多数を開発する意向を示し、それを支援するために国内外の請負業者に助けを求める。 日米両国軍はこれまで同盟関係を享受してきたが、両国の防衛産業はそうではない。 在日米国大使館の政治・軍事担当参事官ザッカリー・ハーケンライダーZachary Harkenriderは、最近千葉で開催されたDSEIジャパン展示会で、「国際的防衛企業が日本でパートナーを探すのに適した時期」と述べた。 日本の防衛装備庁の三島茂徳副長官兼最高技術責任者は会議で、日本が米国ならびに「同じ志を持つ同盟国」で協力を模索している分野を挙げた。 防衛省の最優先課題のひとつに、侵略を抑止する防衛システムの開発があり、極超音速機やレイルガンに対抗する統合防空・ミサイル防衛技術があるという。 抑止力に失敗した場合を想定し、日本は攻撃システムのアップグレードを求めており、12式地対艦ミサイルのアップグレード、中距離地対空ミサイル、極超音速兵器、島嶼防衛用の対艦ミサイルなどがある。 また、高エナジーレーザーや高出力マイクロ波放射技術など、ドローン群に対抗する指向性エナジー兵器も求めている。無人システムでは、水中と地上無人装備用のコマンド&コントロール技術を求めている。 新戦略の発表以来、最も注目されている防衛協力プログラムは、第6世代ジェット戦闘機を開発するイギリス、イタリアとの共同作業「グローバル・コンバット・エアー・プログラム」だ。 ハーケンライダー参事官は、日本の新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛予算の増強は、「時代の課題に対応する歴史的な資源と政策の転換」につながると述べた。 しかし、数十年にわたる平和主義的な政策と、安全保障の傘を米国に依存してきた結果、日本の防衛産業はまだ足元を固めらていないと、会議の講演者は述べた。 三菱重工業 、 川崎

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM