スキップしてメイン コンテンツに移動

民主党が過半数となった米下院は国防政策にどんな影響を与えるのか


Democratic House Hurts Space Corps, Nuke Modernization, & Pentagon Topline 民主党多数となった米下院で宇宙軍創設、核兵器近代化、ペンタゴン予算に暗雲

By MARK CANCIANon November 09, 2018

NASA photo
主党が下院で多数議席を奪還したことで国防総省で大きな影響が三点生まれる。トランプ大統領が優先順位をつける新型核兵器開発、宇宙軍創設はともに見通しがつかなくなり、国防予算は減少に転じ、逆に監視監督機能はどんどん強化されるだろう。
悪影響と好影響
一番大きく痛手を受けそうなのが核兵器近代化で下院軍事委員会委員長就任が予想されるアダム・スミス議員はじめ民主党員は不要、過剰かつ不安定につながると批判している。
オバマ大統領が核兵器近代化を新START条約調印の見返りに支持したのは近代化で兵器数を減らせばそれだけ米国の安全保障につながるという理屈だった。つまりオバマ構想に盛り込まれなかった内容が脆弱で、特に低出力核兵器、長距離スタンドオフ巡航ミサイル(LRSO)がここにあてはまる。低出力兵器が危険と言われるのは通常戦から核戦争へのエスカレートが容易になるとするためだ。巡航ミサイルが無用と言うのは米爆撃機にはB61のように出力調整型爆弾がすでに搭載されているからで、推進派はB-52のような非ステルス機には長距離兵器が敵標的の撃破に不可欠と主張する。
ミニットマンICBMの後継となる地上配備戦略抑止力兵器も民主党の攻撃対象となりそうだ。だがこれもオバマ政権が承認していたのになぜこうなるのか。兵力管理専門家から地上配備ミサイルは攻撃第一波の前に脆弱であり、不安定化要素になるとの批判がある。というのは大統領に「今使わなければ負ける」と強迫観念にとらわれる可能性が生まれるからだ。コロンビア級弾道ミサイル潜水艦はそのまま残るだろう。核抑止力三本柱の中で潜水艦が残存性が一番高いと言われるからだ。B-21爆撃機も残りそうなのは通常兵器運用能力が高いからだが配備は遅れるかもしれない。
トランプ大統領がめざす宇宙軍構想も挫折しそうだ。賛成派、反対派で意見が分かれる中、戦略的な捉え方の前に大統領個人の構想という事実があり、大統領も共和党マイク・ロジャース下院議員の構想を借用したに過ぎない。ロジャース議員は戦略部隊小委員会で影響力を減少させる。民主党多数となった下院が目に見える形で政治的勝利をトランプに与えるとは考えにくい。
逆に追い風を受けるのは社会文化領域だ。トランスジェンダー隊員は支援を期待できる。また女性向け事業でも同様だ。性的嫌がらせへの保護が拡充されるだろうが、直近の国防予算認可法でもこの内容の一部が取り込まれている
Cancian/CSIS graphic
国防総省予算の時系列変化(実績=実線、予測=点線) Graphic by Mark Cancian, Center for Strategic & International Studies
国防予算が削減されるのはほぼ確実
前出のスミス議員は軍事委員会委員長就任を目され、国防予算が巨額すぎるとかねてから発言している。民主党議員で同様の発言をしている例は少ないが、国防は選挙の争点ではなく、あえて自ら物議を醸す発言に踏み切る候補は皆無であったことを考えると、各議員には意見を出す余地があるようだ。
ただし選挙公約から明らかに民主党は左寄りに変化しており、国内向け事業に巨額予算を投入するとある。上院は共和党が多数のため予算案がそのまま通過できないとしても民主党が国防関連を予算上の競合支出項目と見るのは確実だろう。
つまり、これまで五年間ほど民主党は国防支出への賛成の条件として国内向け支出増を求めてきている。
共和党指導部は国防予算増を求める国防タカ派に「平衡」原則で対応してきた。タカ派は依然として強力な存在であり政府機能の停止を回避し多数党としての面目を傷つけるのを防いできた。国防タカ派は平衡効果として海外緊急作戦(OCO)の予算項目を使ってきた。
目が話せないのが民主党内左派の動きだ。仮に国防予算にかこつけて妊娠中絶、海外派兵、移民対策など自らの主張を盛り込ませる動きにでればすべてが前に進めなくなる。だが可能性が高いのは平衡状態が続くことで、国防予算増額の条件で国内案件への予算手当を求めてくるだろう。共和党内の予算均衡強硬派が勢いを失い少数党内の少数派になったため、今後は予算赤字はだれも気にしなくなるのではないか。
ただしトランプ政権で予算を統括するティーパーティからOMB長官に転じたミック・マルヴェニーは別だ。トランプ大統領から総額300億ドルの減額を2020年予算案に求めた人物だ。これは当初想定の4パーセント削減に相当し、2019年の歳出案比で2.3パーセント減になる。その他エネルギー省の安全保障関連費目も加えれば330億ドルになる。つまり国防予算は今や左派右派双方からの攻撃を受けており、2019年度予算がピークになる。
Courtesy of the Office of Rep. Smith
アダム・スミス下院議員

監視の目が強まる
反対党が議会内の予算執行と政府活動の監視が手ぬるいと政権支持派を批判するのは常だ。公聴会で反対党に政権を公然と批判する仕組みが提供され、政権を揺さぶり、短期的には無理でも長い目で法案づくりの基礎にできる。下院を支配する民主党は疑義の提示だけでなく公聴会テーマも選択できるようになった。対立を招きそうな大きなテーマ2つがある。軍事力行使とサウジアラビア支援だ。
ブッシュ、オバマ、トランプと三政権が海外紛争介入を正当化してきたのは2001年以来毎年の軍事力行使認可法が根拠だ。批判派は現在の作戦多数は9/11直後の狂乱状態で法案で想定外の事態だとする。したがって今後の認可で公聴会や討議が必至だろう。民主党に軍事作戦を批判する舞台が生まれ、特にアフガニスタンでは20年にも渡り大きな成功がないだけに批判の的となりそうだ。
もうひとつの緊張要因がサウジアラビア支援で特に同国がイェメン介入していることが問題だ。カショギ記者殺害で関係が悪化している。そのため下院公聴会でサウジ向け武器販売が取り上げられれば武器販売全体に議論が拡大する可能性がある。
最後に専門家予想では下院内閣委員会はトランプ大統領のビジネス関係の調査に乗り出すという。国防関連の委員会も同じ動きをするか不明だが一部は加わるかもしれない。
つい9月まで国防関連は予算案が会計年度前に通過するなど順風満帆だったし、今後の予算見通しも適切と見られていた。今やすべて見えなくなっている。この状況で希望の光はあるのか。各シンクタンクが今後分析を出してくるはずだ。またお伝えしたい。■

コメント:下院で民主党が多数となったと反トランプの論調のメディアが大喜びしているようですが、議決で党による拘束がない米国では単純に与党野党と区別できないのです。当方は野党という言葉に疑義を感じるので反対党と訳出しました。この結果は今後10年の国防力後退を生み、米国人に深い傷を与えるでしょうし、なんと言っても安堵するのはロシア、中国、イランといった望ましくない勢力でしょう。中国が今回の選挙結果にどれだけの影響力を行使シたのかシなかったかの検証は別途でてくるはずですが、左派がいつまでも左派のままでは日米ともに「民主党」とは厄介な存在(すくなくとも安全保障上で)なようですね。

コメント

  1. ぼたんのちから2018年11月13日 14:43

    この記事の3つの国防予算についての予想、新型核兵器開発停止、宇宙軍創設停止、国防予算削減は、共和、民主両党の折り合いが付けるところで手打ちすると推測します。
    使ってはならない兵器である核兵器の開発は、開発のポーズを取るだけで十分ですし、どのようにすべきか定まっていない宇宙軍は検討費用で十分かもしれない、結果としてこの分の国防予算は削減される。
    日本にとって重要なのは米海空軍の増強であり、パンダハガーがごく少数になり、中国との対決姿勢を強める米議会でこの増強予算の削減は大きくないと考えます。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

日本の防衛産業が国際市場でプレイヤーになれるか試されている。防衛面の多国間協力を支える産業が真の国際化を迫られている。

  iStock illustration CHIBA, Japan —  インド太平洋地域での中国へのヘッジとして、日米含む多数国が新たな夜明けを迎えており、軍事面で緊密化をめざす防衛協力が進む 言うまでもなく日米両国は第二次世界大戦後、米国が日本に空軍、海軍、海兵隊の基地を設置して以後緊密な関係にある。 しかし、日本は昨年末、自国の防衛でより積極的になることを明記した新文書を発表し、自衛隊予算は今後10年間で10倍になる予想がある。 政府は、新しい軍事技術多数を開発する意向を示し、それを支援するために国内外の請負業者に助けを求める。 日米両国軍はこれまで同盟関係を享受してきたが、両国の防衛産業はそうではない。 在日米国大使館の政治・軍事担当参事官ザッカリー・ハーケンライダーZachary Harkenriderは、最近千葉で開催されたDSEIジャパン展示会で、「国際的防衛企業が日本でパートナーを探すのに適した時期」と述べた。 日本の防衛装備庁の三島茂徳副長官兼最高技術責任者は会議で、日本が米国ならびに「同じ志を持つ同盟国」で協力を模索している分野を挙げた。 防衛省の最優先課題のひとつに、侵略を抑止する防衛システムの開発があり、極超音速機やレイルガンに対抗する統合防空・ミサイル防衛技術があるという。 抑止力に失敗した場合を想定し、日本は攻撃システムのアップグレードを求めており、12式地対艦ミサイルのアップグレード、中距離地対空ミサイル、極超音速兵器、島嶼防衛用の対艦ミサイルなどがある。 また、高エナジーレーザーや高出力マイクロ波放射技術など、ドローン群に対抗する指向性エナジー兵器も求めている。無人システムでは、水中と地上無人装備用のコマンド&コントロール技術を求めている。 新戦略の発表以来、最も注目されている防衛協力プログラムは、第6世代ジェット戦闘機を開発するイギリス、イタリアとの共同作業「グローバル・コンバット・エアー・プログラム」だ。 ハーケンライダー参事官は、日本の新しい国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛予算の増強は、「時代の課題に対応する歴史的な資源と政策の転換」につながると述べた。 しかし、数十年にわたる平和主義的な政策と、安全保障の傘を米国に依存してきた結果、日本の防衛産業はまだ足元を固めらていないと、会議の講演者は述べた。 三菱重工業 、 川崎

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM