Democratic House Hurts Space Corps, Nuke Modernization, & Pentagon Topline 民主党多数となった米下院で宇宙軍創設、核兵器近代化、ペンタゴン予算に暗雲
民主党が下院で多数議席を奪還したことで国防総省で大きな影響が三点生まれる。トランプ大統領が優先順位をつける新型核兵器開発、宇宙軍創設はともに見通しがつかなくなり、国防予算は減少に転じ、逆に監視監督機能はどんどん強化されるだろう。
悪影響と好影響
一番大きく痛手を受けそうなのが核兵器近代化で下院軍事委員会委員長就任が予想されるアダム・スミス議員はじめ民主党員は不要、過剰かつ不安定につながると批判している。
オバマ大統領が核兵器近代化を新START条約調印の見返りに支持したのは近代化で兵器数を減らせばそれだけ米国の安全保障につながるという理屈だった。つまりオバマ構想に盛り込まれなかった内容が脆弱で、特に低出力核兵器、長距離スタンドオフ巡航ミサイル(LRSO)がここにあてはまる。低出力兵器が危険と言われるのは通常戦から核戦争へのエスカレートが容易になるとするためだ。巡航ミサイルが無用と言うのは米爆撃機にはB61のように出力調整型爆弾がすでに搭載されているからで、推進派はB-52のような非ステルス機には長距離兵器が敵標的の撃破に不可欠と主張する。
ミニットマンICBMの後継となる地上配備戦略抑止力兵器も民主党の攻撃対象となりそうだ。だがこれもオバマ政権が承認していたのになぜこうなるのか。兵力管理専門家から地上配備ミサイルは攻撃第一波の前に脆弱であり、不安定化要素になるとの批判がある。というのは大統領に「今使わなければ負ける」と強迫観念にとらわれる可能性が生まれるからだ。コロンビア級弾道ミサイル潜水艦はそのまま残るだろう。核抑止力三本柱の中で潜水艦が残存性が一番高いと言われるからだ。B-21爆撃機も残りそうなのは通常兵器運用能力が高いからだが配備は遅れるかもしれない。
トランプ大統領がめざす宇宙軍構想も挫折しそうだ。賛成派、反対派で意見が分かれる中、戦略的な捉え方の前に大統領個人の構想という事実があり、大統領も共和党マイク・ロジャース下院議員の構想を借用したに過ぎない。ロジャース議員は戦略部隊小委員会で影響力を減少させる。民主党多数となった下院が目に見える形で政治的勝利をトランプに与えるとは考えにくい。
逆に追い風を受けるのは社会文化領域だ。トランスジェンダー隊員は支援を期待できる。また女性向け事業でも同様だ。性的嫌がらせへの保護が拡充されるだろうが、直近の国防予算認可法でもこの内容の一部が取り込まれている。
国防総省予算の時系列変化(実績=実線、予測=点線) Graphic by Mark Cancian, Center for Strategic & International Studies
国防予算が削減されるのはほぼ確実
前出のスミス議員は軍事委員会委員長就任を目され、国防予算が巨額すぎるとかねてから発言している。民主党議員で同様の発言をしている例は少ないが、国防は選挙の争点ではなく、あえて自ら物議を醸す発言に踏み切る候補は皆無であったことを考えると、各議員には意見を出す余地があるようだ。
ただし選挙公約から明らかに民主党は左寄りに変化しており、国内向け事業に巨額予算を投入するとある。上院は共和党が多数のため予算案がそのまま通過できないとしても民主党が国防関連を予算上の競合支出項目と見るのは確実だろう。
つまり、これまで五年間ほど民主党は国防支出への賛成の条件として国内向け支出増を求めてきている。
共和党指導部は国防予算増を求める国防タカ派に「平衡」原則で対応してきた。タカ派は依然として強力な存在であり政府機能の停止を回避し多数党としての面目を傷つけるのを防いできた。国防タカ派は平衡効果として海外緊急作戦(OCO)の予算項目を使ってきた。
目が話せないのが民主党内左派の動きだ。仮に国防予算にかこつけて妊娠中絶、海外派兵、移民対策など自らの主張を盛り込ませる動きにでればすべてが前に進めなくなる。だが可能性が高いのは平衡状態が続くことで、国防予算増額の条件で国内案件への予算手当を求めてくるだろう。共和党内の予算均衡強硬派が勢いを失い少数党内の少数派になったため、今後は予算赤字はだれも気にしなくなるのではないか。
ただしトランプ政権で予算を統括するティーパーティからOMB長官に転じたミック・マルヴェニーは別だ。トランプ大統領から総額300億ドルの減額を2020年予算案に求めた人物だ。これは当初想定の4パーセント削減に相当し、2019年の歳出案比で2.3パーセント減になる。その他エネルギー省の安全保障関連費目も加えれば330億ドルになる。つまり国防予算は今や左派右派双方からの攻撃を受けており、2019年度予算がピークになる。
アダム・スミス下院議員
監視の目が強まる
反対党が議会内の予算執行と政府活動の監視が手ぬるいと政権支持派を批判するのは常だ。公聴会で反対党に政権を公然と批判する仕組みが提供され、政権を揺さぶり、短期的には無理でも長い目で法案づくりの基礎にできる。下院を支配する民主党は疑義の提示だけでなく公聴会テーマも選択できるようになった。対立を招きそうな大きなテーマ2つがある。軍事力行使とサウジアラビア支援だ。
ブッシュ、オバマ、トランプと三政権が海外紛争介入を正当化してきたのは2001年以来毎年の軍事力行使認可法が根拠だ。批判派は現在の作戦多数は9/11直後の狂乱状態で法案で想定外の事態だとする。したがって今後の認可で公聴会や討議が必至だろう。民主党に軍事作戦を批判する舞台が生まれ、特にアフガニスタンでは20年にも渡り大きな成功がないだけに批判の的となりそうだ。
もうひとつの緊張要因がサウジアラビア支援で特に同国がイェメン介入していることが問題だ。カショギ記者殺害で関係が悪化している。そのため下院公聴会でサウジ向け武器販売が取り上げられれば武器販売全体に議論が拡大する可能性がある。
最後に専門家予想では下院内閣委員会はトランプ大統領のビジネス関係の調査に乗り出すという。国防関連の委員会も同じ動きをするか不明だが一部は加わるかもしれない。
つい9月まで国防関連は予算案が会計年度前に通過するなど順風満帆だったし、今後の予算見通しも適切と見られていた。今やすべて見えなくなっている。この状況で希望の光はあるのか。各シンクタンクが今後分析を出してくるはずだ。またお伝えしたい。■
コメント:下院で民主党が多数となったと反トランプの論調のメディアが大喜びしているようですが、議決で党による拘束がない米国では単純に与党野党と区別できないのです。当方は野党という言葉に疑義を感じるので反対党と訳出しました。この結果は今後10年の国防力後退を生み、米国人に深い傷を与えるでしょうし、なんと言っても安堵するのはロシア、中国、イランといった望ましくない勢力でしょう。中国が今回の選挙結果にどれだけの影響力を行使シたのかシなかったかの検証は別途でてくるはずですが、左派がいつまでも左派のままでは日米ともに「民主党」とは厄介な存在(すくなくとも安全保障上で)なようですね。
この記事の3つの国防予算についての予想、新型核兵器開発停止、宇宙軍創設停止、国防予算削減は、共和、民主両党の折り合いが付けるところで手打ちすると推測します。
返信削除使ってはならない兵器である核兵器の開発は、開発のポーズを取るだけで十分ですし、どのようにすべきか定まっていない宇宙軍は検討費用で十分かもしれない、結果としてこの分の国防予算は削減される。
日本にとって重要なのは米海空軍の増強であり、パンダハガーがごく少数になり、中国との対決姿勢を強める米議会でこの増強予算の削減は大きくないと考えます。