失敗を回避すべく最大限の配慮で初のICBM発射に成功し、責任者は命を失うことはなかったようです。記事が指摘するように初の発射で即兵器運用にはならないとしても、まさしく時間の問題になったようです。北朝鮮は自滅へのスイッチを入れたことになるのか、まだわかりませんが、終わりの始まりであることは明らかです。日本としては中距離弾道ミサイル多数があることに引き続き注意していく必要があります。
(Photo: Rodong Sinmun)
North Korea Finally Tests an ICBM 北朝鮮がついにICBM実験に踏み切った
- 米国では独立記念日は壮大な花火ショーで祝うことが多いが、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射テストは想定外だ。だが金正恩がそれを実施し独立記念日祝いと言うが心配の種を増やしてくれた。北朝鮮中央通信が発射の映像を公開し、最大高度2,802キロまで達してから933キロ離れた海面に39分後に落下したとする。日米韓各国政府が発射の事実を認め、おおよその性能を確認した。事実なら米本土まで到達するミサイルになる。ここまで早く実現するとは予想していなかった。
- ただしこのミサイルが実際に米本土を正確かつ信頼性高く攻撃可能な兵器になるまでは一二年はかかりそうだ。とくに有事の際の発射の想定が必要だ。とりあえずは確実性に欠ける脅威対象だ。だが不確実でも米本土へ脅威が生まれ抑止力になるし、今回の脅威に対応した外交政治上の意味がすぐにでもあらわれるはずだ。
- 興味を惹かれるのはロシア国防省が最大高度はわずか510キロだったと発表したことだ。米太平洋軍の第一報では最大高度を2,500キロとしそこから射程距離を5,500キロと推定しICBMに分類した。初期報道で数字に不一致が見られるが、一番正確な数字がどれなのか判断できない。確かなことはいえないが、確実性が不足していることを考慮しても、高度2,500キロ超、飛翔時間37分超は正しいと言える。
- 最近の北朝鮮長距離ミサイルテスト同様に今回も「ロフテッド」軌道で近隣国を飛び越す飛翔を防ぎながら、高性能を試したとみられる。データが正しければ、ミサイルをもっと効率の良い軌道で発射すれば、6,700キロから8,000キロ先に到達するだろう。このうち6,700キロ推定を出したデイヴィッド・ライトは自身の推定には地球の自転効果を盛り込んでおらず、ミサイルを東方向に発射すればもっと高い性能の可能性があると述べている。もちろん米国は北朝鮮から東方向に位置する。北朝鮮から発射すれば米本土は無理としてもハワイ、アラスカは十分射程内に入る。
- 北朝鮮は火星-14ミサイルと称しているが、2015年末のパレードに現れた液体燃料方式のKN-14ミサイルと類似している。違う点はKN-14は第一段にエンジン複数を搭載しているが、今回のミサイルにはエンジンは一基のみで制御用にバーニヤ四枚がついていることだ。エンジン複数搭載モデルは初期のみで冷戦時のロシア製ハードウェアの数が限られているのだろう。新型の単独エンジンは先月テストされた火星-12(KN-17)のエンジンと酷似している。出現のタイミングを見ると火星-12を原型に火星-14技術を開発し政治的に失敗が許されない北朝鮮ICBMの初発射を確実に行うようにしたのだろう。
- もう一つ相違点がある。二段目と再突入部分形状に手が加えられている。KN-14原型の再突入部分を再設計したか空のペイロードフェアリング内に格納したのだろう。ペイロードフェアリングはミサイルの初期飛翔段階で空力性能の向上効果があり、性能を多少向上させる。ICBMのペイロードフェアリングは内部に複数弾頭あるいはデコイを搭載し、その他攻撃用装備も入れることがあるが、このミサイルは複数弾頭運用は不可能で、デコイも最小限しか搭載できない。
- また火星-14は平壌軍事パレードで見られたKN-14用運搬車両で移動されているようだが、発射は車両からではなく発射台からで、車両はミサイルを起立移動してから安全範囲に退避している。このため打ち上げに時間がかかるが、実験失敗の場合、高価かつ台数が限られる発射車両を喪失することがない。有事の際は車両から発射するだろう。同ミサイルが移動式であることにかわりなく、先制攻撃でも破壊は困難だ。
- 総合判断すると今回のミサイルは以前に存在が確認されたKN-14の派生型と見るのが妥当で完全新型ミサイルではない。KN-14、KN-17と共通のファミリーだろう。今回のテストは完全成功あるいは部分成功だったと見ている。だが北朝鮮が射程距離を延ばそうとしているのか不明だ。同国のプロパガンダが実際の攻撃計画を反映しても東海岸はもちろんサンディエゴ海軍基地含む地点にも到達不可能だ。
- 仮に部分成功だったとしても北朝鮮には課題が残る。ミサイルが予想通りに正確な角度を実現していない場合が想定される。ミサイルは軍港や市街地の攻撃でエンジンを正確に制御して停止させる必要があるので、これを試す必要があるのだ。ミサイルの燃料が想定より数秒早くなくなることはまれだがコースをはずれることはよくある。ICBM開発初期では再突入体の熱遮断性能が想定通りにいかないこともよくある。その場合はテストを繰り返し問題を修正する必要がある。北朝鮮はデコイや防御装備の搭載も想定するはずだが、テストも追加実施することになり、ミサイルの初期投入段階ではデコイ等は使えないかもしれない。
- テスト一回でミサイルの信頼性は判断できない。また実証が必要なのは信頼性だけではない。発射要員は短時間でミサイルを正確に発射する能力が必要で、有事の際には米韓のミサイルがくる前に発射する必要があるのだ。ミサイル運搬車両やその他支援装備でも事前に運用訓練をしておく必要があり、とくに危険な推進剤注入に十分慣熟しておく必要もある。ここで成功しても理想的な条件での成功であり、急に開戦したら実施できるとは限らない。
- だが北朝鮮がどの程度の信頼性を目指すのか不明だ。例として火星-14を今年末に戦闘投入するとしよう。テストで理想的な条件で作動しても実際にうまくいかないことがありうる。打ち上げに失敗すればミサイルは爆発するか、コースを外れ意味のない地点に命中する。だがそれでも都市破壊には十分であり、機動性があり発射前に排除するのは困難だろう。ただし北朝鮮がまず目指すのが抑止効果なら、これでも十分である。
- だが北朝鮮がこのミサイルを正確かつ高信頼度で運用する技術を習得し、必要な改修や性能向上を実現するには一年か二年しかかからないだろう。北朝鮮がICBM能力を獲得するのは2020年代はじめと予測していたが、同国は当方の想定とは別に動いているようだ。戦略、外交、政治の各面で深刻な意味がすぐにあらわれそうだ。例として今日からは米軍司令官は朝鮮半島の戦闘状況がハワイ、アラスカまで拡大することがないとは100%自信が持てなくなった。また米側の同盟国も新状況で域内の安定と防衛で米国が責任を果たさなくなるのではと危惧するはずだ。米国の政治指導層はどう対応すべきか考え出す必要がある。■
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