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各国でまだ現役のM60パットン戦車は近代化改修で親衛戦車に太刀打ちできるようになるのか

America's M60 Patton Tank: Can It Still Fight the World's Best (At Over 50 Years Old)? 50年前のM60パットン戦車で世界最高性能の戦車にまだ太刀打ちできるのか

Raytheon is offering an update to the Patton that makes it a killer (of tanks), but not a survivor. レイセオンがパットン改修で攻撃力を引き上げる構想を提示しているが残存性は期待できないようだ

1960年代製の戦車がどこまで性能向上できるのか。
M60パットンは1960年代1970年代の米陸軍戦車部隊の中心装備だった。その後M1エイブラムズに主役の座を譲り、いまも変わらない。ただし現在も合計5千両ものパットンが計19カ国の陸軍部隊で現役だ。今年初めにレイセオンがエンジン換装、火器管制装備、120ミリ主砲を中心とする供用期間延長パッケージ(SLEP)改修を提示した。
M60SLEPの競争相手がイスラエル軍事工業がすでに提供中のM60サブラ改修策だ。サブラはトルコでも供用中でM60Tの制式名称で、シリア北部で戦闘投入されている。一方で旧式パットンがイエメンで両陣営が使っている。
改修型パットンは速力や火力が向上するというが現在の戦場で十分な戦力を発揮できるのだろうか。
冷戦時の主力戦車vertisement
M60の出自を探るとM26パーシング重戦車にたどり着く。第二次大戦終了時にごく少数が実戦投入されたパーシングからパットンが生まれ、主砲90ミリでM46、M47、M48に発展した。M60は1960年に生まれた最終型だ。その狙いはソ連のT-54戦車への対抗で装甲の厚さと長射程M68主砲105ミリの採用だった。
自重50トンのM60は第三次世界大戦勃発に備え欧州に配備されたが、ヴィエトナム戦争には投入されなかった。ただし、橋梁設置の派生型が使われている。M48が北ヴィエトナムのPT-76やT-54を数少ない直接対決で葬っており、ドミニカではスウェーデン製戦車を相手にしている。
中東ではイスラエルがM60を第4次中東戦争で初投入し、ゴラン高原で敵に包囲された機甲旅団の救援に駆けつけた。シリアの3千両の装甲車両をなぶりものにした。一方で南部戦線ではりエジプトがスエズ運河に構築した橋頭堡攻撃に向かったM60がAT-3対戦車ミサイルによる被害をを受けた。パットンの全高が大きいことは標的にされやすく、前面に装備した油圧系統は装甲を破られると発火しやすかった。にもかかわらずイスラエル軍はパットンが気に入り2014年まで現役で使い、各種改装を行っている。
パットンは供用期間中に数々の改修を受けている。中でもM60A2「スターシップ」は155ミリ主砲でMGM-51シレイラ対戦車ミサイルも発射できたが、早々と退役したのは技術面の制約を解決できなかったためだ。最終型M60A3TTSは火器管制機能が改修され熱画像で夜間戦闘に効果を上げた。海兵隊のパットンでは爆発物反応型装甲も導入している。
ただし1980年代に入るとソ連がT-72戦車を大量輸出し、装甲や火力でパットンと互角あるいは上回る性能を示した。米国ではM1エイブラムズ戦車の導入が始まり、火力(120ミリ主砲)や複合材を多用した装甲で防御性能が飛躍的に伸びた。
米軍でM60を最後まで供用したのは海兵隊で1991年湾岸戦争ではクウェイトでおよそ100両のイラク戦車を撃破しながら、パットンの全損は1両のみだった。だがこれは敵側の訓練や戦術が劣っていたためで、まもなくしてパットンは米軍から姿を消した。
とはいえM60は今でも主力戦車の座についたままの国がある。エジプト(1,700両)、トルコ(932両)、台湾(450両)、サウジアラビア(450両)、モロッコ(427両)、タイ(178両)、バーレーン(180両)の各国である。
SLEP・サブレ両改修案の中身は
レイセオンのSLEP改修は火力と機動力の改良が主眼だ。
まず、旧式M68主砲は120mmのM256主砲に交換し、エイブラムスと同じ砲となる。これで1980年代製のT-72への対応に苦労したパットンが最新鋭戦車も撃破可能となる。さらに新型デジタル照準装備をM1A1Dから流用する。新型コンピュータにより砲手は走行中にも照準を当てることが可能となるのは大きな利点だ。そして砲塔の回転用の油圧系統は電気駆動式になり回転速度が上がりながら命中弾を受けての「炎上」の可能性が低くなった。
次にレイセオンはディーゼルエンジンを750馬力から950馬力に更新したので最高速度が40マイル時になり、新鋭戦車と肩を並べる。
レイセオンの試作戦車には結合型装甲もついておりロケット推進弾を跳ね返す効果があり、追加装甲板や補助出力で車体後部の冷却ファンを駆動する。ただし以上はSLEP改修の標準内容ではないようだ。
これに対してイスラエルのサブラII改修でも120ミリ主砲と新型照準コンピュータの組み合わせは同じでエンジンは1千馬力になり最高速度は時速34マイルになっている。SLEPと違うのはサブラも装甲をグレードアップしているが砲塔の形状を変えていることだ。また爆発物反応装甲を採用し、装甲板も追加搭載する。
仕様上良く似ているマガッチ7C戦車に装甲板を搭載し、ヒズボラのAT-3・サガー・ミサイルが18発命中しても残存できたとの報道があり、一発も貫通しなかったという。ただしサガーは1960年代製の装備であり新型ミサイルは爆発力貫通力も増強している。
改修はどこまで効果があるのか
エンジン強化でパットンはその他の装甲車両に遅れを取らずに前進できる。それでもM60の重量馬力比は見劣りがする。
120ミリ砲と新型火器管制装備でM60は今日稼働中の戦車なら大部分を中長距離から撃破できる。高性能のM829E3およびE4劣化ウラン弾があれば高性能反応型装甲にも対応できるのでが、この砲弾が利用できる運用国は少ない。そうなるとM60のSLEP改修はそこそこの戦車ハンターとなりそうだ。
ただし今日の戦車は敵戦車を相手にすることは少ない。相手は戦闘員集団が多く、長距離対戦車誘導ミサイルとしてコメットや短距離向けロケット推進手榴弾を装備している。こうした装備はM1はメルカバといった第一線戦車相手にも有効性を証明している。
パットンはM1あるいはメルカヴァより相当に脆弱である。さらに旧型T-72にも劣る。パットンの前面装甲は鋳鉄の旧式で圧延硬化装甲(RHA)では253ミリに相当する。新鋭戦車では複合材装甲を採用しており同じ重量で硬化は劇的に向上している。最新鋭M1A2の装甲は戦車砲弾には800ミリ相当とされる。
対照的に90年代製の120ミリ、サボー弾はRHA700ミリでも貫通するし、AT-17コメート対戦車ミサイルの貫通能力は1300ミリだ。
パットンは全高が大きく標的にされやすすく、主砲砲弾はまとめて配置されているため敵弾が貫通すると爆発しやすい。エイブラムズでは砲弾は離して配置している。
M60SLEPは装甲には手を付けない。サブラでは装甲も改修しており、トルコの実戦事例で改良型パットンが対戦車ミサイルにも耐えると判明している。
今年4月21日にトルコのM60Tがイラク・バシクエでISISのコメート対戦車ミサイルの攻撃を受け、損傷は受けたものの乗員は無事だった。とはいえ車両は作戦実行に耐えられなくなった。
8月にはこれと別にトルコのM60A3とM60Tがユーフラテス・シールド作戦でISISを戦闘せずにヤラブルス市街地から放逐してからクルド人部隊と戦闘に入った。クルド側はM60数両を長距離ミサイルで破壊し、トルコ陸軍に初めて死傷者が発生した。
トルコのM60Tサブラ戦車隊はISIS占拠の市街地に火砲を集中したためコメートミサイルの標的になった。乗員で助かったのは1名だけだった。さらにシリアでは少なくとも11両のパットンを喪失した。
だがもっと悪い結果がイエメンで発生し、フーシ反乱勢力とサウジアラビア陸軍の双方がパットンを投入し、合計22両以上が破壊されている。
性能改修したサブラでさえ損失を出しているのであり、SLEP改修では砲塔の油圧機構の除去以外に残存性で改良がない。また装甲の強度もサボ貫通弾に対しては不十分であり車両の防御が困難だ。
レイセオンは改修でパットンを戦車キラーにするが、残存性は追求してない。だが近代戦では兵員の生存が一層強く求められており、ロシアのT-14戦車が砲塔を無人化したほか高性能の防御機能を備えたのはこの傾向に従ったものだ。
パットンは火力により信頼を勝ち取ってきたが、死傷者は最小限にしつつ相手方にプロパガンダ勝利を収めさせないことが重要となっている今日では、装甲防御の古さが足を引っ張りかねない。■
Sébastien Roblin holds a Master’s Degree in Conflict Resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.

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