M109A7 Paladin
Army photo
大型野砲は戦場の王者と呼ばれ、名将たちは大量の大砲を武器に戦場を制圧してきた
しかし、飛行機が発明された。1945年以降、特にアメリカやNATO諸国、イスラエルなど欧米先進国の軍隊では、大砲に代わって「空飛ぶ大砲」が火砲として好んで使われるようになった。機動性があり、長距離で華やかな航空機は、ベトナム、シナイ半島、砂漠の嵐などの紛争で、精密攻撃を行うためのハイテクかつ低人力の道具とみなされた。
しかし、ウクライナ戦争は違う。航空兵器の役割は比較的限定的で、野砲が支配的な武器として台頭している。
榴弾砲や多連装ロケット砲をどう使うか、どう破壊するかが両陣営に重要な課題だ。
ウクライナは、砲兵部隊の未来を垣間見せているのかもしれない。この紛争は歩兵の悪夢であると同時に砲兵の実験場となった。牽引式榴弾砲、トラック搭載砲、自走式装甲砲、ロケットランチャーなど、各国が製造した近代砲の数々がウクライナに投入されている。
英国王立軍統合研究所の陸戦アナリスト、ニック・レイノルズNick Reynoldsは「ウクライナは砲の将来を評価する上で非常に良い研究材料だ」と言う。
ウクライナで航空兵力が大きな役割を果たせなかったのは、ウクライナの航空機の数が少ないことや、ロシア空軍が臆病であることなどのためだ。当初は成功したが、攻撃用ドローンですら効果が薄くなってきた。
しかし、高性能な防空システムの時代に、東欧や台湾のような争いでは航空兵力の活動自由度は低くなるかもしれない。同時に、高価な航空機や限られた備蓄しかないスマート弾は、近接航空支援ではなく、側面からの遠方攻撃に割り当てられるかもしれない。
航空機に比べれば柔軟性に欠けるが、砲兵は天候に左右されず、砲撃に弱い空軍基地に頼らず火力を24時間365日提供できる。
また、露・ウクライナ戦争は射程距離の重要性を浮き彫りにしている。ソ連時代の大砲がロシアの反砲台攻撃を受けるや、ウクライナは長射程の西側の大砲やロケット弾を求めてきた。米国とNATOの155mmと105mm榴弾砲、特にGPS誘導弾を50マイルまで発射できるM142高機動砲ロケットシステム(HIMARS)により、ウクライナはロシアの弾薬庫、指揮所、重要な橋へ破壊的な攻撃を行い、反撃で大きな損害を受けることなく攻撃を行えるようになった。
レイノルズは、「射程距離は、敵を深く攻撃する能力と同様に、兵力保護の要因として非常に重要であることが証明された」と述べている。
特に、20年近く対戦闘員戦に専念してきたため、砲兵が萎縮していた米陸軍に興味深いことだろう。
ロシアのBM-30スメルチ多連装ロケットランチャー(射程距離約45マイル)に比べ、米国のM109A7パラディン155mm自走榴弾砲は通常弾で約15マイル、ロケット弾で20マイルしか射程がない。陸軍は遅ればせながら、パラディンにオートローダーを搭載し、さらにXM1210のようなロケット弾を搭載した「エクステンデッド・レンジ・キャノン砲」Extended Range Cannon Artillery, ERCAで追いつこうとしている。
ウクライナ戦争で浮き上がった別の課題は、機動性だ。歴史的に見れば、砲兵は歩兵や騎兵、戦車と戦場で歩調を合わせることが課題だった。しかし、ウクライナで機動力は生き残ることの同義語になった。ドローンと対砲台レーダーは、砲兵が発射すると瞬時に位置を特定できるため、射撃撤収戦術が必須となった。
米国の105mm榴弾砲M777を受領したウクライナは、自走式ではなく牽引式の兵器で、発射後の移動に3分以上かかる現実のため喜びが抑えられた。ウクライナでは、この脆弱性はある程度緩和されている。なぜならロシアのキルチェーン対応は遅いため、「ハイエンド戦では対砲撃に脆弱との仮説があるが、牽引砲の威力は強力で実行可能なままだ」とレイノルズは指摘する。
しかし、キルチェーンは、米軍のJADC2(Joint All-Domain Command and Control)コンセプトのように、より緊密な指揮システムを各国が開発するにつれて、急成長していくだろうとレイノルズは述べている。
元米陸軍砲兵将校で、ランドコーポレーションの主任研究員デビッド・ジョンソンDavid Johnsonは、将来の砲装備が自走式になる理由は機動性にあると考える。牽引砲は、パラディン含む戦車のような兵器よりシンプルであるのが利点だ。パラディンは、大砲を撃つだけでなく、重装甲車同様の重メンテナンスを乗員に要求する。
牽引式野砲は「訓練がずっと簡単だ」とジョンソンは言う。「特に長距離の移動で、トラックに曳航される榴弾砲はメンテナンスの必要性が少ない」。
牽引砲は、武装や訓練が不十分な相手なら問題ない、とジョンソンは言う。しかし、高度な技術と武器を持つ敵は別問題だ。
「牽引式だと移動に時間がかかる。大砲の撃ち方を熟知している有能な敵と戦う場合、撃ってから移動することになる。素早く動かないと、反撃に遭うからです」。
ジョンソンは、トラック搭載兵器、特にフランスのシーザー(155mm榴弾砲を6輪トラックに搭載)に興味を示す。
中国も新型155mm砲PCL-181をはじめ、車輪付き砲を使用している。車載砲は、装甲自走榴弾砲の火力と機動性を持ちながら、重量やメンテナンスの問題がない。
「ある意味、両方の長所を兼ね備えている」とジョンソンは言う。「唯一の課題は、車輪付きの車両はオフロードで機動性があまりないことです」。
それでも、ジョンソンは装甲自走榴弾砲を好む。不整地や泥濘地での機動力は、装甲保護と同様に有用だ。
「ヨーロッパでの激戦地では、パラディンやドイツのPzH2000のような装甲装備が望ましいでしょう」と言い、「無能な敵との戦闘を常に想定できない」。 Extended Range Cannon Artilleryがパラディンを強化したものであるということは、陸軍が今後も重装甲榴弾砲に依存し続けることを示すものだ。
また、ウクライナ戦争では、大砲が単なる大きな銃ではなく、兵器、センサー、ネットワークなどエコシステム全体であることを示しています。例えば、ウクライナとロシア両国は、互いの大砲の位置を特定するため無人偵察機を使用している。この技術は、「レーダーや音響探知機など、他のターゲット機能よりも圧倒的に優れていると証明済みだ」とレイノルズは言います。しかし、「電子探知機と対砲台レーダーが一般的な方向探知能力を提供しなければ、(無人航空機に)敵の砲兵隊を狩るように指示できません」。
実際、無人機は、砲兵の指示能力が限られる場合は、重要な実現手段になるかもしれない。ウクライナでは、「より能力の高いNATO軍と比べ、双方が前方監視員を十分に活用していないようだ。おそらく、通信システムの不備とスキルの限界のためだろう」とレイノルズは指摘する。また、砲弾やロケット弾にも注意が必要だと考えている。
「機械化部隊の普及、防衛陣地の掘り下げ、大規模弾薬庫などの目標を破壊する必要性から、弾薬の致死性と破壊力も非常に重要だ」と述べた。
また、「弾薬在庫の量、弾薬製造能力、砲身など交換部品の製造能力では専門的なエンジニアリングが必要で、容易に確立できない」と大砲を支える産業インフラの重要性を指摘する。
ウクライナ戦争では、榴弾砲とロケットランチャーの収束が進んでいると思われる進展にも指摘している。カチューシャのような第二次世界大戦型のMLRSは無誘導ロケット弾を大量発射し、不正確なことで有名だが、高火力の威力で目標に壊滅的な打撃を与えることができるHIMARSのようなロケットランチャーは、橋のようなピンポイント目標の破壊に十分な精度の誘導ロケット弾を、榴弾砲に近い精度で数発だけ発射する。逆に、ERCAのような新型榴弾砲は、ロケットと従来の砲弾を掛け合わせた長距離弾を発射する設計だ。
ジョンソンは、完璧な野砲とは、高い発射速度、高い機動性、ある程度の装甲保護、照準データの迅速な処理能力を備えたものであるべきと見ている。そこには、戦車や艦艇の設計者にはおなじみの、火力、防御力、機動力のバランスをどうとるかという古典的なジレンマがある。ロボット工学、電動車両、より長距離の砲弾やロケットなど新技術によって、この変数は多少調整されるかもしれまない。しかし、ジレンマは残る。
これらのことから、将来の砲装備には、装甲砲や車輪付き砲のほか、厳しい環境やよりシンプルな武器を必要とする部隊で牽引される砲が含まれそうだ。
ジョンソンは、「各種砲装備が混在することになる」と語っている。「本当に重要なのは、各砲をどう使用するかです」。■
ANALYSIS: Ukraine War Proves Big Guns Are Back
9/16/2022
By Michael Peck
Michael Peck is a freelance journalist.
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。