スキップしてメイン コンテンツに移動

B-1Bを南米違法漁業取締に投入と聞いて、ムダな運用と思う向きは対中戦略の大きな構図を理解していないことになる

 

テキサス州ダイエス空軍基地の第7爆撃隊所属のB-1Bランサー機が、フロリダ州マクディル空軍基地の第927空中給油隊所属のKC-135ストラトタンカー機から、カリブ海上で空中給油を受けた(2022年9月7日撮影)。第12空軍と航空機動司令部による航空作戦は、パナマとエクアドルとのパートナー相互運用性訓練の一環で行われ、能力向上、違法漁業行為への対応強化、地域の安全保障における共通利益の維持のために行われた。このような多国間協力により、資源効率を最大限に高め、米南方軍、構成司令部、パートナー国間で一貫した訓練を行える (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Joshua Hastings).

 

B-1Bの投入は、爆撃機の海上での役割増大を意味する一方、違法漁業は国家安全保障上の懸念事項だ

 

 

キサス州ダイエス空軍基地から飛来した米空軍B-1B爆撃機編隊は、エクアドル沖の太平洋東端とガラパゴス諸島周辺を飛行し違法漁業の兆候を監視した。長距離攻撃機B-1Bで、この任務は珍しく聞こえるかもしれないが、国際法執行活動の支援は、実際の環境でスキルを磨く方法として、以前から行われている。

 また、今回のB-1B投入は、特に太平洋地域における将来のハイエンド紛争時の対艦ミッションも視野に入れた、B-1Bの海上での役割拡大への空軍の関心度も浮き彫りにしている。さらに米軍は、インド太平洋地域含む地域でも、違法漁業など、中国の悪質な活動への対抗方法の支援に、興味をいっそう示している。

 

テキサス州のダイエス空軍基地から、違法漁業対策に出撃する米空軍のB-1B爆撃機。 USAF / Senior Airman Mercedes Porter

 

9月7日のミッションには、ダイエス基地の第7爆撃航空団から2機のB-1Bが参加した。空軍は、エクアドルおよびパナマ政府と協力して実施の米国本土(CONUS)爆撃機部隊(BTF)の広範な作戦として、「違法、無報告、無規制(IUU)漁業」に対処したと説明している。フロリダ州マクディル空軍基地のKC-135空中給油タンカーがB-1Bを支援した。爆撃機乗員から提供された情報から、違法漁船の疑いに関して何らかの行動が取られたかどうかは不明。

 米南部司令部の声明によると、「このような地域的な軍事的関与は、エクアドル・パナマ両国とのパートナーシップを強化し、相互運用性を高め、災害救援から人道支援、安全保障活動まで、将来起こりうる各種活動に備えた準備を向上させる」ものだという。「部隊が互いに訓練することで、危機場面での協力能力を向上させることができる」。

 第7爆撃航空団第7作戦群長のジョン・マクラング空軍大佐Col. John McClungも東太平洋への展開について、「空軍グローバルストライク司令部の飛行士にしかできないことの一つだ」と述べている。「この部屋にいる飛行士は、この任務を遂行し、数時間で反復できる。簡単に見えるが、実は大変な仕事だ」。

 B-1Bは、爆弾倉に最大75,000ポンドの各種弾薬を搭載し、何千マイル先の目標に向かう長距離攻撃機の機能が主任務だイラク、シリア、アフガニスタンでの戦闘作戦を支援しながら、近接航空支援プラットフォームとしての価値も証明してきた。2036年までに完全退役の計画が進んでいるが、新兵器搭載や外部パイロンへの武器搭載機能の復活など、現在も現役爆撃機として能力向上に取り組んでいる。

 しかし、AN/AAQ-33スナイパー高性能照準ポッド(ATP)で、B-1Bが即席の長距離監視プラットフォームとして機能するのを示したのは今回が初めてではない。

 

B-1Bランサーの機体右下に搭載されているスナイパーポッドにより、攻撃後の標的を確実に識別し、戦闘ダメージを迅速に評価できる。 (U.S. Air Force photo/Jet Fabara)

 

この役割は、非伝統的な情報・監視・偵察NTISRと呼ばれる。スナイパーセンサーは、電気光学赤外線双方のフルモーションビデオカメラとデータリンク機能があり、下方の対象物の特定、移動目標の追跡、地表の特定地点のGPS座標生成など、NTISRミッションに適した機能を備える。

 B-1BやB-52は、これまでもNTISRミッションで飛行しており、カリブ海上空では、麻薬対策のために密輸船を探ったことがある。

 NTISR支援に加え、麻薬対策や違法漁業対策のためB-1Bの飛行は、予測不可能なターゲットの特定や追跡含む様々な機能を実践する貴重な機会だ。こうした出撃で得られた経験は、将来の戦闘出撃、特に海洋環境での出撃に応用できる。

 空軍は近年、B-1Bの海上作戦能力を拡大中で、特に中国やロシアのような互角戦力を有する敵との将来のハイエンド紛争を視野に入れている。また米軍は、米国本土への脅威の増大、特に大規模紛争時に太平洋や大西洋沿岸の船舶や潜水艦から巡航ミサイル攻撃を受ける可能性が高まっていると警鐘を鳴らしている。

 第7爆撃航空団の司令官ジョセフ・クレイマー空軍大佐Col. Joseph Kramer,は、今回の東太平洋出撃についての声明で、「西半球で競合に直面している」と述べた。「爆撃機の任務は、今日の複雑ダイナミックかつ不安定な世界的安全保障環境において、いつでもどこでも脅威に対応できる能力を示している」。

 同時に、違法漁業は特に太平洋地域において、ますます深刻な国際安全保障問題となっている。中国漁船団は、定期的に違法漁業活動をしていると非難されている。問題の一部が、南シナ海を含む広範な領有権主張を固め、さまざまな国に政治的・経済的圧力をかける北京の姿勢と密接に絡み合っているのは間違いない。

 ガラパゴス諸島は、今回のB-1Bの出撃の焦点の一つで、問題の発火点だ。ガラパゴス諸島はユネスコ世界遺産と生物圏保存地域に指定され、エクアドル政府は周囲に2万7000平方マイルの海洋保護区を宣言し、グレートバリアリーフに次ぐ規模の保護海域となっている。

 しかし、海洋保護団体オセアナによる2020年報告書によると、2019年7月から2020年8月にガラパゴス付近で観測された密漁のほぼすべてが中国漁船団によるもので、わずか1カ月で合計7万3000時間の漁を行ったという。その後も周辺で同様の活動が観測されている。

 6月、ジョー・バイデン米大統領は、違法漁業に特化した初の国家安全保障メモに署名し、国防総省やその他連邦政府機関に対し、こうした活動の対策強化に向けた協力連携の強化を指示した。また、同月には、米国、オーストラリア、インド、日本の4極安全保障対話で宇宙からの監視を利用した違法漁業監視の計画を発表していた。

 つまり、違法漁業への対策は、米軍や米国政府の他の部門と同様に、中国へ対抗する大戦略の一環として、直接的間接的に実施されそうだ。2020年発表の米海軍、海兵隊、沿岸警備隊の合同海軍戦略では、中国やロシアからの日常的な海上での挑戦に対応するため、非戦闘の悪質行為への監視を強化を強調している。

 「国際ならびに、政府全体の努力とともに、海軍は、国際法に違反し、資源を盗み、他国の主権を侵害するライバル国の行為を検知し、記録する」と戦略に関する公式の白書では、「悪質活動の証拠を米国や国際機関に提供し、こうした行為を暴露し、侵略者の風評被害を拡大する」と説明している。「前方展開中の海軍部隊は、法執行当局と軍事能力を補完的に活用し、攻撃的な作戦を通じ悪質な活動を阻止する態勢を整える。我々の拡大努力は、ライバル国の誤ったシナリオを否定し、ルールに基づく秩序を堅持する米国の姿勢を示すものだ」。

 同文書では、中国政府を特に「自国の排他的経済水域を守れない国から重要資源を奪う、国家補助による遠洋漁業船団」などと批判している。

 

 B-1B が違法漁業対策を定期的に支援するかはまだ不明だが、同爆撃機の運用コストと、より伝統的な軍事任務の支援への要求を考えると、可能性が低いように思われる。空軍はまた、イラク、シリア、アフガニスタンで長年にわたり酷使された後、作戦テンポを縮小することで、B-1B部隊の全体的な即応性を向上させようと努力している。

 

2022年9月7日、テキサス州ダイエス空軍基地で離陸に備える米空軍の航空機乗員。同機は米国南方軍の爆撃機タスクフォース任務を支援するため離陸した。このような地域的な軍事的関与は、同盟国エクアドルやパナマとの米国のパートナーシップを強化し、将来起こりうる各種作戦への集団的な準備態勢を向上させている。 (U.S. Air Force photo by Senior Airman Mercedes Porter)

 

 米軍資産では、海軍のP-8Aポセイドン海上哨戒機がこの任務にはるかに適している。海軍のMQ-4CトライトンやMQ-9リーパーシリーズのような、情報・監視・偵察(ISR)を長時間行う無人航空機も選択肢の1つだろう。持続的な海上監視は、Airbus Zephyr Sのような非常に高い耐久性を持つ将来の超高空飛行ドローンで想定するミッションの1つだ。

 小型の商用機材、特に情報・監視・偵察(ISR)ミッション用に転用できるビジネスジェット機やターボプロップ機は、はるかに経済的なプラットフォームとなる。これは、The War Zoneで過去に対麻薬作戦支援のNTISRで爆撃機を使用する是非を議論した際に指摘していた。米軍は麻薬対策任務に請負業者が運用するISR航空機を採用している。

 B-1Bは、将来の海上戦闘、特に太平洋地域での戦闘に役立つ技術を磨く手段として、散発的に違法漁業監視を行う可能性があり、同盟国やパートナーに現実的に役立つ支援を提供する可能性もある。■

 

B-1B Bombers Are Hunting Illegal Fishing Boats Off South America

BYJOSEPH TREVITHICKSEP 9, 2022 4:26 PM

THE WAR ZONE

 


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...