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今回の事件は、無人装備の利用が急速に拡大する中で、盗難リスクという未解決問題を浮き彫りにした
イランのイスラム革命防衛隊海軍(IRGCN)は昨日、アラビア湾で米海軍第5艦隊の無人水上艇セイルドローンを拿捕しようとした。イラン側はその後、無人艇を解放した。今回の試みは、無人装備が拿捕の脅威に直面しているとの懸念を浮き彫りにした。
米海軍の公式発表によれば、事件は現地時間8月29日午後11時頃、第5艦隊が公海を通過中、IRGCN支援艦Shahid Baziarを確認した際に発生した。同艦が米国の無人探査機「セイルドローンエクスプローラー」(USV)を曳航しており、IRGCNが同艦を捕獲しようとしたと海軍は主張。
イラン・イスラム革命防衛隊海軍の支援艦Shahid Baziar(左)が、Saildrone Explorer無人探査機を不法に牽引している映像のスクリーンショット。. Credit: U.S. Navy
これを受けて、警備艦USSサンダーボルト(PC-12)が付近での作戦から方向転換し、ヘリコプタ海上戦闘飛行隊26がMH-60Sシーホークを非公開場所から発進させ、事態対応を支援した。第5艦隊と第26ヘリコプタ海上戦闘飛行隊はともにバーレーンに司令部を置き、アラビア湾を拠点に活動している。海軍の報告によれば、4時間後に、IRGCNはUSVの曳航線を外し、それ以上の混乱はなく、海域を離れたとされる。
米海軍中央司令部および第5艦隊(NAVCENT/5th Fleet )司令官のブラッド・クーパー中将Vice Adm. Brad Cooper,は、「IRGCN の行為は非道、不当で、プロの海上部隊の行動と矛盾している」と述べた。「米海軍は警戒を怠らず、国際法が許す限り飛行、航行、作戦を継続し、地域全体でルールに基づく国際秩序を推進する」。
「USSサンダーボルトの乗組員のプロ意識と能力により、イランの違法行動を阻止した。米中央軍(CENTCOM)司令官マイケル・クリラ大将Gen. Michael Kurillaも別の声明で「今回の事件は、イランが中東で不安定化、違法、非専門的な活動を続けていることを改めて示した」と付け加えた。
2014年の編隊訓練で、他のPCと並走する沿岸警備船USSサンダーボルト(PC12)。Credit: Mass Communication Specialist 2nd Class Taylor M. Smith/U.S. Navy
太陽電池で動くUSV「Saildrone Explorer」は、海軍第5艦隊が運用する無人システムの一つで、2021年に紅海北端のアカバ湾で最初のミッションに投入された。デジタルホライズンと名付けられた実証実験の一環として、同ミッションは、第5艦隊の任務部隊の1つタスクフォース59が監督した。同部隊は、センサーと無人技術を組み合わせ、より強固な情報収集能力を確立し、海上における領域認識の向上を支援する無人システム運用に重点を置いている。
Saildroneの状況把握の役割を知っていれば、海軍が胴装備の異常な動きを察知し、第5艦隊の対応を促したと考えるのが妥当だろう。しかし、海軍の声明には詳細が記載されておらず、それが事実かどうかは不明だ。また、何らかの理由で使用不能になった可能性もある。The War Zoneはこの件に関して、NAVCENT/第5艦隊に問い合わせたが、返事はまだ来ていない。
国際海上演習/Cutlass Express 2022でアカバ湾を航行するSaildrone Explorer無人水上艦。 Credit: Mass Communication Specialist 2nd Class Dawson Roth/U.S. Navy
また、海軍は発表で、セイルドローンはセンサー、レーダー、カメラなどを備えた米国政府所有物であるが、航行とデータ収集を市販技術で構成していることを指摘したことも重要な点だ。このため、セイルドローンは幸いにも、盗難未遂の時点で機密性の高い情報やシステムを保存していなかった。
イラン軍が他国の海洋装備を押収するのは、以前からある。最近では、IRGCNがホルムズ海峡で、7,200トンの「石油系化学物質」を積んだ韓国籍タンカーを押収した。IRGCN はその後、沿岸部のホルモズガン州検察庁が環境プロトコル違反で出した令状に基づき、同国の港湾・海事機関から押収の要請があったため、押収したと主張している。今週の事件後、IRGCNがSaildroneが国際協定に違反と主張するかどうかが興味深いところだ。
しかし、無人船に人間が乗っていないことは、IRGCNが今週行ったような敵対的行為へる障壁を著しく低くする。乗員がなければ、死亡事故や捕虜の奪取など、より不安定な国際紛争を引き起こす可能性のある行為も起こらない。
2021年1月4日、韓国籍のタンカー「Hankuk Chemi」に群がるIRGCのボート。 Credit: Tasnim News Agency
2019年にイランが海軍のグローバルホークを撃墜し、米国が人的被害や捕虜の獲得がなかった航空機への攻撃に対し適切な反応を決定するのに苦労した事例があったが、対応側にも同様の複雑さがある。この状況は、米国政府の資産が破壊されたことを考慮すると、セイルドローン事件と大きく異なるが、それでも対応を決定する上で同様の問題が浮き彫りになった。米国は懲罰的攻撃を検討したが、最終的に断念した。
この問題は、海軍が多層的な無人艦艇部隊を拡大するにつれて、複雑になっていくだろう。今年のリムパック中の(PHOTOEX)では、海軍の無人試験艦が各国の海軍と一緒に航行し、その姿を垣間見ることができた。
環太平洋戦略的経済連携協定(リムパック)2022で航行する艦船。USS Michael Monsoorを先頭に、左端に無人艦の列が見える。Credit: Mass Communication Specialist 3rd Class Dylan Lavin/U.S. Navy
USVDIV-1と呼称された同部隊は、Sea Hunter、Seahawk、NomadとRangerの名称のGhost Fleet Overlordオフショア支援船2隻で構成された。USVDIV-1は、ズムウォルト級駆逐艦3隻と無人水上艦が所属する実験部隊「Surface Development Squadron One(SURFDEVRON)」に所属している。SURFDEVRONは、2045年までに150隻の無人艦を開発する海軍の目標達成に向け、ハイエンド無人水上装備運用と技術の進化に磨きをかけるため、国防総省が今年初めに終了させたGhost Fleet Overlordを引き継ぐ。
人命を守ることが、無人システム普及を支持する顕著な論拠の1つであることは間違いない。また、無人システム、特に艦船には他にも多くの利点がある。しかし、船舶から生身の船乗りを排除することは、IRGCNのような違法行動が拡散する機会を招き、特定の状況下では、国防総省が対処をせまられそうだ。また、将来の無人水上艦は、より繊細な装備や武器を搭載するだろう。
今回の事件はほぼ問題なく解決したように見えるが、このような行為の将来はより不確実である。■
Iran's Attempted Theft Of U.S. Navy Drone Boat Is Likely A Sign Of What's To Come
BYEMMA HELFRICHAUG 30, 2022 8:38 PM
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