スキップしてメイン コンテンツに移動

MALDデコイにより米空軍は敵防空網を突破し、強力な攻撃実施を目指す。米軍機電子声紋のみまらず、EW攻撃能力まで付与された最新型二注目

 

ADM-160 MALD(ミニチュア空中発射デコイ)は、その名の通り、巡航ミサイルのように航空機から発射される小型装備で、現役の米軍各機のレーダー特徴を模倣する。MALDは敵の地対空ミサイルを破壊できないが、高度な統合防空網を排除するため大きな役割を果たす。



全長9フィート、重量300ポンドのMALDはこの機能SAS音紋補強サブシステムを通じ発揮し、広範囲の周波数で発信するアクティブ・レーダー・エンハンサーを活用し、ミサイル型のMALDを、ステルスの元祖F-117ナイトホークからB-52など大型爆撃機に至るまで各種機種で、防御レーダー・システムを誤動作させる。


MALDの取り組みは1990年代に始まった。湾岸戦争でアメリカがADM-141戦術空中発射デコイ100機以上を連合軍航空機に先駆けイラクに展開し、イラク軍指揮官の目を欺き防空レーダーアレイを作動させることに成功した。敵レーダーが作動すると、連合軍航空機はAGM-88 HARMなど対レーダーミサイルで交戦し、その後の航空作戦のためイラク上空を安全にするのに極めて有効な手段となった。


ADM-141 TALDを発進させるF-14トムキャット (Wikimedia Commons)


しかし、1990年代後半にMALDの開発は減速し、システム・コストを低く抑える目標が遠のいた。2002年に空軍はMALDコンセプトを一新する準備をし、3万ドルのADM-160Aを廃棄し、レイセオンのADM-160Bという、大型で性能の高い、単価12万ドルの新型を採用した。


2016年には、ADM-160C MALD-Jが正式に就役し、他の航空機のレーダーリターンを模倣できるオリジナルのSignature Augmentation Subsystemだけでなく、CERBERUSという名称で開発されたモジュール式電子戦能力も組み込まれた。CERBERUSは単一ジャマーではなく、1分以内で交換できる各種電子戦(EW)ペイロードを提供し、戦場の状況に合わせてEW攻撃を行うことができるようになっている。


ADM-160 MALDの能力を示すイメージ図。


言い換えれば、小型で消耗品のMALD-Jは、F-16かB-52で戦場に運ばれ、あらゆる種類の航空機の到来と敵の防空体制に勘違いさせ、早期警戒と標的レーダーアレイを妨害し防衛軍の対応をさらに困難できる。


MALD-Jは、海軍のEA-18Gグラウラーのような電子戦専用機ほど広範な能力や威力はないものの、EWペイロードを交換して効果を発揮できるため、非常に有効なシステムだといえる。また、MALDは回収不能(消耗品)であるため、グラウラーより敵防衛システムに近い地点を飛行でき、発信範囲の減少を相殺できる。


米海軍のEA-18Gグラウラー電子攻撃機は、世界で最も高性能なEWプラットフォーム (U.S. Navy)


現在使用中のMALDは、500マイルをカバーし、1時間以上滞空でき、その間に周辺のレーダーオペレーターの作業を複雑化させる。最新型のMALD-Xは、暗号化データリンクと、高度なEW機能を備え、他の機体から情報を取得できる。


これまでのMALDは発進後、事前収集した情報に基づきプログラムされた飛行経路を飛行し、経路がどれだけ有効であったとしても、ミッションに参加できなかった。しかし、MALD-Xでは、戦闘中にコマンドを発行し、戦況の変化に応じ飛行経路を変更できるようになった。このような進化を遂げ、2018年に飛行試験実証が完了した。MALD-Xは最終的に、MALD-Nと呼ばれる海軍向けシステムになる予定だ。


ADM-160 MALDの想像図 (U.S. Air Force)


高度の防空能力を有する国との大規模紛争では、ADM-160C MALD-Jが敵領空を真っ先に通過する可能性が高い。この妨害デコイを巡航ミサイルや航空機と一緒に大量投入すれば、防空システムはスコープに映るレーダーが本物か架空か見分けなければならず、しかも妨害機能で送られてくる静電気を選別しなければならなくなる。


敵空域に殺到する現実のレーダーリターンや模擬レーダーリターンに迎撃ミサイルを発射すれば、これらのシステムはAGM-88やF-35が搭載する予定のAARGM-ERなどの対レーダーミサイルの攻撃の前に弱く、同時に地対空ミサイルの貯蔵量も枯渇させる。


MALDの使用イメージ


より限定的な戦闘では、例としてF-15Eストライクイーグルが目標に接近する様子をMALDの編隊が表現すれば、敵の注目を集め、より高い高度を飛ぶF-35が目標に弾薬を展開することも可能だろう。


このように戦闘戦術をミックスし、過去の実戦で活用された戦術をMALDで再現することで、高い有効性を維持することができる。レーダーに映る戦闘機や爆撃機の群れを無視するのは、たとえそれが囮(おとり)であると分かっていても、リスクが高すぎる。


さらに、JASSM(Joint Air-to-Surface Standoff Missile)のような長距離の低視認性巡航ミサイルを加えれば、A-10やB-52、さまざまな戦闘機、あるいはRapid Dragonプログラムにより貨物機までもが大規模戦闘に加わる。

MALDを広範な統合戦略の一部として使用することで、アメリカは第二次世界大戦中の空襲を彷彿とさせる航空戦へのアプローチに復帰できるだろう。ただし、現代の戦闘では、敵のレーダースクリーンに実際に表示される目標のほとんどは実在せず、ステルス機や巡航ミサイルの脅威は、照準スコープにまったく表示されないかもしれない。


どんな相手にとっても非常に難しい問題となる。■


ADM-160 MALD: America's secret weapon to engage air defenses isn't a weapon at all - Sandboxx

Alex Hollings | August 18, 2022



Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...