スキップしてメイン コンテンツに移動

イージス・アショアに代わる大型イージス・システム艦2隻の建造契約が9月に交付されていた(Naval News)―目となるレーダーがSPY7になるのか、SPY6かで水面下の駆け引きが始まっている

 Japan MoD signs contracts to build two ASEVs with MHI and JMU

Drawing of ASEV (Japanese MoD image)



日本の防衛省は2024年9月18日、海上自衛隊のイージスシステム搭載艦(ASEV)2隻の建造契約を三菱重工業とジャパンマリンユナイテッドと個別に締結したと発表した。 


 三菱重工業は8月23日、約1397億円(9億8000万ドル)で1隻目の建造を契約し、JMUは9月18日、約1324億円(9億3000万ドル)で2隻目の建造を契約したと、同省の防衛装備庁(ATLA)の関係者が19日、本誌に語った。「契約金額の違いは、購入部品の違いによるもので、艦の仕様や性能に違いはありません。それぞれ2027年度と2028年度に就役する予定です」。 

 ASEVの建造が本格化するなか、ロッキード・マーチンは9月10日、Naval Newsの2人を含む日本人記者4人を、米ニュージャージー州ムーアズタウンにあるロータリー・アンド・ミッション・システムズ(RMS)事業部に招いた。 

 RMS事業部は、シコースキー社のヘリコプターの製造や、海上・陸上ミサイル防衛システムなどの設計・製造・サポートを行っている。 

 日本との関係では、この施設は「30年以上にわたり日本のすべてのイージス艦プログラムの開発、統合、製造、テストをサポートしてきた実績がある」と同社は述べている。 

 今回、ロッキード・マーチンが日本人ジャーナリストを招聘した狙いは何だったのだろうか? 目的は主に3つあったようだ: 

  • SPY-7レーダーを搭載したASEV計画の順調な進捗ぶりをアピールする

  • 退役迫るこんごう級イージス艦の後継艦へのSPY-7レーダーの採用を促進する

  •  新型VLS Mk.70 PDS(ペイロード・デリバリー・システム)や陸上配備型迎撃ミサイルPAC-3MSEのイージス艦への統合といった新装備をアピールすること、だ。

 1点目については、日本がASEV計画に至るまでにどのような紆余曲折を経てきたかを理解する必要がある。 

 2020年12月、日本政府は陸上型弾道ミサイル防衛システム「イージス・アショア」の代替案として、2隻のASEVを導入することを閣議決定した。 

 そして、イージスシステムの "目"となるのは、ロッキード・マーチンが 「世界最先端の多機能レーダー」と呼ぶSPY-7だ。 


MK 70ペイロード・デリバリー・システム(ロッキード・マーチン) 


 同社はSPY-7の生産が2027年と2028年に就役するASEVのスケジュールに沿って順調に進んでいることを強調した。ロッキード・マーチンがSPY-7レーダーの高性能と拡張性を熱心にアピールしたのには、前述した2つ目の大きなポイントがある。 日本では、退役が近い「こんごう」級イージス艦の後継艦が、RTX(旧レイセオン・テクノロジーズ)のSPY-6レーダーを採用するか、ロッキード・マーチンのSPY-7レーダーを採用するかが注目されており、今後1、2年が販売活動のピークだ。 

 現在、海上自衛隊は「こんごう級」4隻、「あたご級」2隻、「まや級」2隻の計8隻のイージス艦を保有している。このうち、こんごう級の1番艦「こんごう」は2024年3月現在で31歳、2番艦「きりしま」は29歳、3番艦「みょうこう」は28歳、4番艦「ちょうかい」は26歳である。 

 海上自衛隊の駆逐艦では、旧ヘリコプター駆逐艦「ひえい」が36年4ヶ月と最長だった。 

 2022年12月に閣議決定された防衛力整備計画では、現在の8隻より2隻多い10隻のイージス艦を取得することになっている。防衛省は2025年度予算の概算要求に、老朽化したこんごう級イージス艦の後継艦を検討するための技術研究費として33億円を盛り込んだ。 

 DDG(X)と呼ばれる後継艦は、SPY-6になるのかSPY-7になるのか。  米海軍は2033年までにSPY-6を7種類65隻(DDGフライトIII、DDGフライトIIA、CVN-74、CVN-79、LHA-8、LPD-29、FFG-62)に搭載する予定である。 

 今後の米海軍との相互運用性を考えると、イージスシステム搭載艦に SPY-7 が採用されても、SPY-6 の方が良いという意見が強い。 これに対しロッキード・マーチンは、「SPY-7レーダーは他のSPYレーダー・システムと完全な相互運用性があり、IAMD(統合防空ミサイル)能力を提供する」と主張している。 

 「こんごう」級後継艦のレーダー選定は、日本企業にも大きな影響を与えそうだ。 三菱電機は2024年7月、SPY-6の主力製品である電源装置の納入契約をRTXと結んだと発表した。 海上自衛隊がSPY-6を採用すれば、その受注が増えることが予想される。 

 一方、ロッキード・マーチン社は「将来の艦船に搭載するSPY-7レーダーの維持・製造について、日本の産業界と積極的に協議している」としている。 

 このことは、三菱重工業などにライセンス生産を認めるなど、同社が競争に勝つ機会を見出す可能性があることを示唆している。 

 3つ目のポイントは、コンテナ型のMk.70 PDS VLSなどの新防衛装備の推進だ。 同社は5月、ニューメキシコ州にある米陸軍のホワイトサンズ・ミサイル発射場で、Mk.70コンテナ発射プラットフォームからPAC-3 MSEミサイルを発射し、飛行中の巡航ミサイルの迎撃に成功したと発表した。 

 このテストは、仮想化されたイージス兵器システムを使ってPAC-3 MSEを発射し、実際の標的を迎撃した初めての例である。 

 一方、日本は従来のPAC3を改良し、防護範囲を2倍以上に拡大したPAC-3 MSEを配備している。 

 同社によると、垂直発射システムPAC-3 MSEのキャニスターにはミサイルが1発収納でき、既存のすべてのMk.41システムに取り付けることができる。 ロッキード・マーチンは「PAC-3 MSEをイージス兵器システムに統合することで強化されたIAMD能力を提供する」と述べている。 このことは、同社が現在、海上自衛隊のイージス艦への販売を検討していることを示唆している。■


Japan MoD signs contracts to build two ASEVs with MHI and JMU

On September 18, 2024, the Japanese Ministry of Defense announced that it has signed contracts to build two Aegis System Equipped Vessels (ASEV) for the Japan Maritime Self-Defense Force with Mitsubishi Heavy Industries and Japan Marine United, separately.

Kosuke Takahashi  02 Oct 2024


https://www.navalnews.com/naval-news/2024/10/japan-mod-signs-contracts-to-build-two-asevs-with-mhi-and-jmu/


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...