スキップしてメイン コンテンツに移動

南西諸島にHIMARSミサイル、フィリピンに中距離ミサイル、トランプ新政権の発足(Warrior Maven) ―「一つの中国」という虚構が否定される日が早晩現実となりそうです。現在だけでなくこの先を見通した戦略が必要です。

 A HIMARS unit demonstrates its firepower, symbolizing the advanced missile systems the US is deploying to Japan and the Philippines for regional defense. Image Credit: Wikimedia Commons

A HIMARS unit demonstrates its firepower, symbolizing the advanced missile systems the US is deploying to Japan and the Philippines for regional defense. Image Credit: Wikimedia Commons


平洋地域における緊張が高まり続ける中、米国は日本の南西諸島とフィリピンに最新鋭のミサイル部隊を配備する準備を進めている。この戦略的イニシアティブは、両国の防衛能力を強化し、台湾を巻き込む危機が発生した場合の安定性を維持するのが目的だ。この地域にとってどんな意味を持ち、なぜ重要なのか、さらに掘り下げて考えみる。

配備計画:第一列島線確保

報道によると、米軍は鹿児島県と沖縄県から台湾に向かい伸びる日本の南西諸島列島に臨時基地を設置する計画である。この戦略的な配置により、台湾海峡での活動を監視し、地域に影響力を及ぼす最前列の席が確保される。東シナ海に近接しているこの地域は、北京とワシントン間のより広範な競争における火種となる。

この展開の鍵となるのは、高機動砲システム(HIMARS)を装備した米海兵隊沿岸旅団(MLR)だ。ウクライナ紛争で世界中の注目を集めたHIMARSは、戦場に比類ない機動性と精度をもたらす。 目標を正確に攻撃できるさまざまなミサイルを発射でき、台湾有事の際には重要な役割を果たす。

一方、フィリピンでは、米陸軍の多領域任務部隊(MDTF)が長距離砲兵部隊とともに駐留する。空、陸、海、宇宙、サイバー、情報領域の支配を目的に設計されたMDTFは、現代の脅威に対する包括的な対応を提供する。同装備の展開は、米国のインド太平洋戦略でフィリピンの役割が拡大していることを裏付けている。

戦略的影響:北京に対する緩衝地帯

このイニシアティブはミサイル配備だけが目的ではない。米国の「第一列島線」防衛戦略を強化するための緻密な動きだ。このアプローチは、同盟国の領土を活用して中国の軍事的拡大を封じ込め、重要な海上航路を確保することに重点を置いている。北京は長年にわたり、南シナ海と東シナ海の係争海域における優位性を主張し、海軍と空軍のプレゼンスを着実に拡大してきた。HIMARSとMDTF部隊の展開は、こうした動きに直接対抗するものである。

12月に最終決定される日米共同作戦計画は、中国の台湾侵攻の可能性を具体的に想定した初の共同戦略となる。この合意に基づき、日本軍は燃料、弾薬、その他の物資を米軍部隊に提供するという重要な後方支援の役割を担うことになる。このパートナーシップは、両国の同盟関係が深まっていることを示すものである。

フィリピンにおけるプレゼンスの拡大:米比防衛における新たな章

米国とフィリピンは米軍が使用できる基地の数を5か所から9か所に増やすことで今年初め合意した。ルソン島北部も含めた各基地は、台湾有事で多国籍軍部隊にとって最適な位置にある。

2024年4月、ルソン島で米陸軍の中距離ミサイルシステムが目撃され、最大射程1,000マイルのトマホークミサイルを発射できることが判明した。この射程は偶然ではない。中国南部および東部、台湾海峡、さらにその先の重要地域をカバーする。北京にとって、この能力の向上は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略上での大きな課題となる。

中国のエスカレーション:計画の背景にある要因

ただ、中国が傍観しているわけではない。

2024年10月、中国軍は、米海軍のサミュエル・パパロ提督が「台湾侵攻の最大の予行演習」と評した演習を実施した。

この「ジョイント・ソード2024B」演習には、戦闘パトロール、港湾封鎖、台湾周辺の海上および陸上目標への精密攻撃が含まれていた。また、中国初の運用可能な空母である「遼寧」も威容を誇示し、台湾に対する中国の主張は変わらないという決意を示した。

これらの行動は単なる威嚇ではなく、台湾の防衛力を試すとともに、米国の対応を測ることを目的としている。ミサイル部隊を日本やフィリピンに配備することで、ワシントンは明確なメッセージを送っている。すなわち、いかなる攻撃的行動にも対抗する用意がある、というメッセージだ。


外交上のバランス

こうした軍事的準備は決意の表れであり、同時に微妙な外交問題も引き起こしている。米国は、台湾紛争における自国の役割について、長年にわたり「戦略的あいまい性」政策を堅持してきた。このアプローチは、本格介入を避けつつ、中国による侵略の抑止を目的としている。

しかし、最近の米国指導者による声明は、より明確な内容に近づいている。ジョー・バイデン大統領は、米国が台湾を防衛する意思があることを繰り返しほのめかしており、この姿勢は「一つの中国政策」の違反であると中国が非難している。この地域が潜在的な紛争に備える中、これらの展開は、すでに緊張状態にある米中関係をさらに悪化させる可能性がある。

ドナルド・トランプがホワイトハウスに復帰する予定であることから、特に、同氏の政策がすでに緊張状態にある米中関係にどのような影響を与えるかについて、多くの議論が巻き起こっている。同氏の台湾に対するアプローチは、この地域に大きな影響を与える可能性が高く、トランプについてわかっていることが一つあるとすれば、それは同氏が必ずしも通常のルールに従うわけではないということだ。わかりやすく説明しよう。

トランプはビジネスの世界にどっぷり浸かっており、その外交政策にもそれが反映されている。彼は以前、米国の軍事支援に対し台湾の負担金を増やすべきだと発言しており、それは保険のようなものだと考えています。ドルとセントの観点から見れば理にかなっているように聞こえるかもしれないが、台湾を厳しい立場に追い込む可能性がある。台湾は防衛費を増やす必要があるでしょうが、それは北京にとって受け入れがたい。中国は米国の台湾支援を大きな挑発行為と捉えており、トランプのやり方はそれをさらに煽る可能性がある。

もしトランプが中国製品への高関税や台湾への強硬姿勢で反撃してきた場合、事態は急速に悪化する。一部アナリストは、米国の軍事的プレゼンスがこの地域でさらに高まり、台湾を巡る代理戦争が勃発する可能性さえあると見ている。このような動きは米中関係を危険な領域へと追いやり、両国が軍事戦略を強化する可能性がある。

タカ派的なトランプ政権は、台湾への武器売却を増加し、この地域での軍事演習を強化する可能性がある。台湾にとっては心強いかもしれないが、北京は警戒を強めることになるだろう。中国は自国の軍備増強でこれに応じる可能性があり、それは必ずしも平和的な近隣関係を築くことにはならない。アジア太平洋地域は、緊張状態の下での軍事的活動の温床となる可能性がある。

中国から見れば、トランプ復帰は米国が戦闘態勢を整えているように見えるかもしれない。北京は台湾周辺での軍備を強化し、あらゆる事態に備えることで対応する可能性がある。このような応酬戦略は、緊張を急速に高め、この地域の安定を維持することがさらに困難になる。

トランプが大統領職に戻れば、台湾と米中関係に関しては、何らかの混乱が予想される。トランザクション(取引)を重視する本人のスタイルや同盟国に負担を求める姿勢は、台湾や中国にとっては受け入れがたいものとなるかもしれない。結果として、抑止と全面的な衝突の狭間で各国が微妙なバランスを保ちながら、この地域ではより軍事化が進み、予測不可能な状況が生まれる可能性がある。

技術的優位性:戦力の増強

MDTFの展開は単なる軍事力の誇示にとどまらず、最先端の軍事イノベーションの展示にもなる。これらの部隊は、高度技術を活用して敵のA2/ADシステムを無力化し、紛争地域で活動できるように構築される。実績のあるHIMARSやルソン島に配備された中距離ミサイルは、米国のインド太平洋地域における兵器の大幅なアップグレードを意味する。

まとめ:地域安全保障の大きな変化

ミサイル部隊を日本とフィリピンに配備するという米国の決定は、東アジアの戦略的構図で重要な転換点となる。台湾をめぐる緊張が高まり続ける中、安定の維持と中国の侵略への対抗へのコミットメントを示すものとなる。高度な能力、強力な同盟関係、抑止力への重点を背景に、米国と同盟国は、台湾の運命で太平洋の勢力均衡が左右される未来に備えている。

これらの準備が平和を維持するのに十分であるかどうか、あるいは紛争という試練につながるかどうかは、時が経てば明らかになるだろう。■

US Deploys HIMARS Missiles to Japan & Philippines

By Guy McCardle,

https://warriormaven.com/china/us-deploys-himars-missiles-to-japan-philippines

.Guy D. McCardle is a sixteen-year veteran of the United States Army and most recently served as a Medical Operations Officer during OIF I and OIF II. He holds a degree in Biology from Washington & Jefferson College and is a graduate of the US Army Academy of Health Sciences. Guy has been a contributing writer to Apple News, Business Insider, International Business Times, and Medical Daily. He has over 8,000 answers and more than 30,000 followers on Quora, where he is a top writer on military topics. McCardle is the Managing Editor of the SOFREP News Team, a collective of military journalists.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...