アサド崩壊を見て他国が汲み取るべき教訓(19fortyfive) ―不条理な同族支配や独裁体制がいつまでも続く保障はなく、シリアのアサド政権の崩壊は周辺国にとって心の休まる事件ではないはずです。北朝鮮も例外ではないでしょう
ロシア軍がシリアで使用しているSu-25。 画像出典:クリエイティブ・コモンズ
アサド一族による53年間のシリア支配が13年以上にわたる内戦の後、10日足らずで終わった
バッシャール・アル・アサドの支配の終焉を嘆く者はほとんどいないだろう。上院議員から国務長官に転身したジョン・ケリーや、ナンシー・ペロシ前下院議長、あるいは故アーレン・スペクター上院議員のような欧米政治家は、パパ・ドク・デュバリエによるハイチでの殺人支配や、ヘイスティングス・バンダによるマラウイでの30年にわたる独裁政権を経験して、欧米で教育を受けた医師が欧米のリベラルな価値観を共有しているわけではないことを学ぶべきだったのかもしれない。
アサドは去り、教訓を得た
後知恵は後知恵であり、歴史家は過去を予測することで報酬を得ている。しかし、アサド政権の崩壊の早さが教訓となる。イスラエルがヒズボラを壊滅させ、ロシアがウクライナで気をそらしたこと以上のことが起こっている。むしろ、アサドが直面した問題は、彼の軍の性質そのものだった。
シリア軍は徴兵制の軍隊だ。10年以上前、クルド人の事実上の自治区を視察するために初めてシリア北東部を訪れた筆者は、その前にパリで米外交官と会い、アメリカの政策上の懸念に最もよく対処するためにどのような質問をすべきかを尋ねた。当時、国務省が懸念していたことのひとつに、クルド人が支配下にあった最大の町カミスリで、なぜシリア政権軍を鎮圧しなかったのかということがあった。カミスリでは、町の中心部にある「治安広場」と呼ばれる3平方ブロックの無名の区域と、国営のパン屋や地元の空港を含む近隣区域をシリア軍が支配していた。 クルド人指導者の答えは?シリア軍兵士のほとんどは徴兵兵だった。 クルド人が攻撃してきた場合、兵士は戦うか降伏するかの2択に迫られる。もし戦えば、クルド人は彼らを殺すだろうが、アサド政権を打倒した連合軍を率いるヘイ・アット・タハリール・アル・シャームの前身であるヌスラ戦線を支配するアルカイダ組織との戦いから、より重要な資源を流用することになる。あるいは、徴兵された兵士が降伏することも考えられるが、その場合、政権がアレッポやダマスカスなど、当時政権の支配下にあった場所で徴兵した父親や息子、兄弟に対して報復する可能性が高いとクルド人は指摘した。
シリア人にとって兵役は必要悪であったが、内戦が始まるまでは比較的リスクのないものであった。ゴラン高原でのイスラエルとシリアの戦線は長らく静かだった。エジプト軍同様にシリア軍でのキャリアも軍需産業として有利に働く可能性があった。しかし、アサド家の出身宗派であるアラウィ派の縁故主義と差別は、ほとんどのシリア・スンニ派にガラスの天井を作り出した。
内戦が勃発すると、シリア経済は崩壊し、シリア人が慣れ親しんできた生活水準も崩壊した。シリアはアラブで最も豊かな国ではなく、石油資源はごくわずかだが、農業は石油よりも労働集約的であるため、より多くのシリア人が農民や商人として職を得ていた。しかし、内戦による人口流出がこの状況を悪化させた。シリアでは常に問題となっていた汚職が急増した。
そして2016年に米国をはじめとする西側諸国が傍観する中、シリア軍はアレッポを奪還した。反対派が支配するシリア北西部やイドリブ周辺の小領域、クルド人が自治を維持していたとしても、アサドは内戦に勝利したように見えた。アサドの領土が拡大すれば、より多くの兵士を集め、徴兵することができるはずだった。
しかし、経済が壊滅状態に陥ったことで、シリアの通貨はほとんど価値がなくなり、徴兵された兵士が家族を養うことは難しくなった。そのため、シリア軍兵士は家族を養うために盗んだり、家族の稼ぎ手としての地位を取り戻すために休暇を取らずに休んだりするようになり、汚職が悪化した。少なくとも、大金持ちでありながら基本的な生活も満たせない独裁者のために命を懸ける動機のあるシリア軍兵士はほとんどいなかった。
崩壊の可能性がある国は他にあるのか?
問題は、アサド政権が崩壊に至ったのと同じような力学が働く可能性のある国が他にあるのかということだ。
イラン・イスラム共和国がそのひとつだ。イランは2つの軍隊を保持している。多くのイラン人が憤慨し、避けようとする徴兵制の軍隊がある。イランの農家では、息子の出生届を遅らせて数年間労働力として確保するのが一般的だ。イランでは抗議や反乱が頻発している。例えば、イランのアラブ人が蜂起した場合、一般の新兵が同胞と戦うことに抵抗するかもしれないだけでなく、この地域を中心とするイランの石油貿易に影響が及ぶと、イランのよりエリートである志願兵であるイスラム革命防衛隊が、忠誠心を高めるための余分な現金を得られなくなる可能性がある。『最大限の圧力』をミックスして投入すれば、ドナルド・トランプ次期大統領がイスラム共和国の崩壊を目撃するアメリカ大統領になるかもしれない。
エジプトもそうだ。エジプト軍の徴兵者のモラールは、国そのものと同じくらい低い。エジプト国民の間では、エジプト軍は戦闘力よりビジネスとして知られている。これは諸刃の剣であり、軍による経済の独占と歪曲は生活水準を悪化させ、恨みを生む。ムスリム同胞団が急速に政権から転落したのは、自らの傲慢さと非民主的な性向のせいだが、アブデル・ファタハ・アル=シシ大統領が、エジプト国民の自分への支持が、自分が2つの悪のうちでより小さい方だという計算ではなく、本物だと考えているなら、現実を見誤っている。エジプト野党が改革を進め、エジプト軍が腐敗を続ければ、エジプトは再び不安定化の波に直面するだろう。
クウェートも危機に瀕している。アメリカ主導の連合軍がクウェートをイラクの占領から解放してから30年以上が経つ。近年、石油資源に恵まれたこの首長国は、サウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦といった同国と比べ、経済強化の面で遅れをとっている。その一方で、クウェートでは宗派主義が台頭し、政治的空間が縮小している。クウェート人は今のところ徴兵で忠誠心を維持できるだろうが、経済運営を誤りながら過激主義を容認し続ければ、それが当然だと考えるべきではない。
アゼルバイジャンもシリアのような崩壊に脆弱かもしれない。シリアのように、アゼルバイジャンは数十年にわたって親子二代の独裁者に直面してきた。また、アゼルバイジャンはカスピ海ガスのおかげで書類上は素晴らしく裕福だが、世界銀行や国際通貨基金の統計によれば、平均的なアゼルバイジャン人の生活水準は隣国のアルメニアやジョージアより低い。イリハム・アリエフ大統領は軍事的冒険主義に走りがちで、イラクのサダム・フセイン大統領の軌跡をますますたどるようになっている。政治的空間が極小化し、生活水準が低下している今、アゼルバイジャン軍が単にもう十分だと言ってアリエフ一族に銃を向けるのに、内戦は不要かもしれない。
アサド政権が崩壊すれば、理由は異なるにせよ、ヨルダンはますます危険にさらされることになるかもしれない。結局のところ、ヨルダンには徴兵制の軍隊がなく、特殊部隊は精鋭で、部族的な理由から国王により忠実である。アブドラ2世はソ連最後の首相ミハイル・ゴルバチョフに似ている。ヨルダン国民は、国王夫妻の無駄遣いに不満を抱いている。ロシアがシリアを支援したように、湾岸諸国はヨルダンを支援している。問題は、湾岸諸国がヨルダンを支援できなくなったとき、あるいは支援しないことを選択したときのシナリオがあるかどうかだ。イスラム過激派を支援することでアブドラ2世を積極的に弱体化させようとしているイラン、ヨルダンのムスリム同胞団を積極的に支援するトルコ、そして現在ヨルダンの国境にいるシリアのイスラム主義者たちが加わり、ハシェミット家の未来は厳しいものになりそうだ。イスラエルは以前にもハシェミット王政を救ったが、今回もそうなるだろう。いずれにせよ、アブドラ2世は現在、自らの基盤よりも外部のセーフティネットで生き延びている。
反対派を白眼視するのは不当だが、アサドにとっては厄介払いだ。 それでも、シリアで起きたことはシリアでも続くかもしれない。アラブの春はチュニジアで始まったが、エジプト、リビア、イエメンでも犠牲者が出た。アサドの失脚と、いくつかの地域諸国における同様の動きは、やがて他の長期独裁者の頭皮を剥ぐことになるかもしれない。■
著者について マイケル・ルービン博士
アメリカン・エンタープライズ研究所シニアフェロー、中東フォーラム政策分析ディレクター。 元国防総省高官で、革命後のイラン、イエメン、戦前・戦後のイラクに滞在。また、9.11以前にタリバンと過ごしたこともある。 10年以上にわたり、アフリカの角や中東の紛争、文化、テロリズムについて、米海軍や海兵隊の派遣部隊を対象に海上で授業を行った。外交、イラン史、アラブ文化、クルド研究、シーア派政治に関する著書、共著、共同編集者。この記事での筆者の見解は彼自身のものである。
The Lesson from Bashar al-Assad’s Collapse
By
https://www.19fortyfive.com/2024/12/the-lesson-from-bashar-al-assads-collapse/
アサド政権崩壊後、シリアを安定させことは、難しいことだが、既に答えの一部は表に出ている。それは、トルコを軸に周辺国、特にサウジとイスラエル、及び欧米の支援を得ることだろう。
返信削除イラン、IRGCやヒズボラ、それにロシア等のアサド政権を支えていた外部勢力は、排除しなければならない。シリア新政権が、これらの外部勢力と妥協すれば、再度の内戦の原因を作ることになる。
そして将来も続く問題は、クルドの扱いである。最も妥当な案は、自治領とすることであるが、クルドはその範囲を拡大しようとするだろう。この動きをトルコと米国が抑制することになる。
トルコは、イランイスラムカルト教団がペルシャの再興幻想を持つように、そしてキ印プーチンがロシア帝国の復活を幻視するように、大トルコ帝国の復活を夢見る可能性がある。これは危険な思想であり、兆しがあれば即座に非難すべきである。
最後に、記事は、エジプトやヨルダンなどを不安視しているが、シリアが安定すれば、これらの国も安定する。今すぐの、取り上げるべき問題ではない。