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主張 今こそ原子力潜水艦建造の増強に冷酷なまで集中すべき(USNI Proceedings)―修正しています

USS Greeneville

ロサンゼルス級高速攻撃原潜グリーンビル(SSN-772)は、30か月にわたるオーバーホールを終え、2024年に新たな母港海軍基地ポイント・ロマに到着した 米海軍


原子力潜水艦建造増強に冷酷なまでに集中するべし(USNI Proceedings)

2001年9月11日、筆者は約2万人と共に国防総省にいた。翌日、誰もやったことのない仕事を依頼された。海軍作戦部長付きの非公式な被害対策補佐官となったのだ。 

それから6週間、週7日、1日10~12時間勤務し、攻撃による海軍への被害からの復旧を指揮した。多数の機関と連携を取った。犯罪捜査を主導するFBI、オフィススペースの再配置と遺体回収活動を行った国防長官官房、死亡・負傷した海軍スタッフの補充を主導した海軍人事局などだ。また、国防総省の建物の再建を主導するペンタゴン・リノベーション(PenRen)のスタッフとも一緒に働いた。 

すぐに、PenRenのリーダーであるリー・イーヴィーが、国防総省は1年で再建されると発表した。建物の5分の1の改装だけでも何年もかかっていたため、誰もこの目標が達成可能と信じていなかったが、1年後には破壊された部分は確かに再建されていた。成し遂げるには、2つのことが必要だった。「全員参加」の超人的な努力と、邪魔な要素や妨げとなる要素を容赦なく排除することだ。真の解決策が必要とされ、つまり「良いアイデアの妖精」(上層部が良いアイディアと独断で導入したのに現場で失敗すること)は静かに死ぬ必要があった。 

米国の原子力潜水艦建造の問題をどのように解決するかという記事を目にすると、筆者はPenRenの取り組みを思い出す。記事の中には優れたものもあるが、ほとんどは的外れだ。原因の周辺を飛び回る提案もあれば、まったく的外れな問題を取り上げるものもある。また、実行不可能な解決策を提示するものや、問題を悪化させる提案もある。 

ほとんどの提案は、今日の潜水艦建造における不備の原因を特定することなく、いきなり解決策に飛びついている。原子力潜水艦の訓練を受けた士官として、筆者は問題を解決する前に、まず根本原因を分析しなければならないことを学んだ。現在の潜水艦戦力構造における問題の主な根本原因を特定するには、原子力エンジニアである必要はない。意図的であるにしろ、そうでないにしろ、国家安全保障よりも政治的利益を優先させるために利用された、誤った水晶玉である。

潜水艦戦力体制の問題がどのようにして生じたか

現在の衰退を世界的なテロとの戦いのせいとする意見も多いが、その原因は9.11以前に遡る。冷戦後の戦略的状況の展開を国家指導者が誤読した時期である。

実際には存在しなかった「平和の配当」への投資を検討した大統領は、海軍の原子力潜水艦を大幅に削減できると判断した。これにより、完璧に使えるアメリカ潜水艦(筆者のものも含む)多数が耐用年数半ばで退役させられ、また、意図的な原子力潜水艦建造産業の衰退が始まった。サプライヤー多数が姿を消し、有能な人材はより良い環境を求めて去り、業界は衰退した能力を再生する能力を失った。 

現在の危機の2つ目の根本原因は、海軍の指導者が労働力の再教育とサプライヤー基盤の再活性化に必要となる時間と訓練を過小評価したことだ。

海軍から民間企業に転職した際に学んだことだが、海軍の職員は造船監督官(SupShips)などの海軍の役割として民間企業の業務を監視・監督することはできても、実際に船舶を建造する責任や経験を持っているわけではない。造船所に常駐していることと、サプライチェーンの雇用、資格認定、スケジュール管理、設計、建造、資格認定に責任を持ち、業務遂行に必要な管理を行うことは同じではない。

海軍長官から次官、調達担当次官補、あるいは海軍海上システム司令部(NavSea)の上級司令官に至るまで、海軍の幹部には艦船建造の経験を有するものが皆無のため、潜水艦建造の問題を修正するために何が必要かを把握する能力は限られている。 

この体制がもたらす影響は、海軍を退官し民間企業で働いていた時に、海軍当局者から筆者のプログラムの問題に対処する方法として数え切れないほど出されてきた実行不可能な提言を退ける必要があった際に、はっきりと理解できた。提言のほとんどは実行不可能だった。中には笑ってしまうようなものもあり、当局者が監督すべき業界をどれほど理解していないかを明らかにしていた。

造船業を立て直したいのなら、海軍省や国防総省の上級職に実際に造船業に携わった経験のある人物を登用すべきだ。

このような前例は存在する。1920年代と30年代にフォードとジェネラルモーターズで製造のエキスパートとして大成功を収めたウィリアム・ナズダンは、GMの社長を務めた後、第二次世界大戦の国防生産を監督する陸軍中将に直接任命された。製造に関する専門知識と意志の力は、米国の民間製造能力を急速に転換し拡大させ、日本帝国とナチス・ドイツに勝利するために必要な「民主主義の武器庫」へ変貌させるのに役立った。

ディーゼル電気式は解決策ではない

問題の解決策は簡単には見つからない。しかし、一部論者は、海軍の潜水艦部隊の構造を改善するには、ディーゼル電気式潜水艦の建造に切り替えるのがよいと提案している。しかし、これは事態をさらに悪化させる。

まず、ディーゼル潜水艦は米海軍の任務上のギャップを埋めるものではない。海軍には広大な海洋を迅速に航行し、21世紀の情報収集任務を遂行できる潜水艦が必要である。ディーゼル潜水艦は機動性も任務遂行能力も欠いている。 

ディーゼル潜水艦は十分な時間があれば任務海域まで自ら移動できるが、いったんその海域に到着すると、バッテリーの寿命により機動性と耐久性が著しく制限される。近づいてくる船を威嚇できても、攻撃を行うために十分近づく前に船を追跡できるほど十分に速く、長時間移動することはできない。

第二次世界大戦中、米国の潜水艦は、エンジンを起動した状態で水面を高速で航行することでこの問題を回避したが、21世紀のセンサーの監視下で発見されないように行動する潜水艦には、その選択肢はない。そのため、現代の潜水艦乗組員にはディーゼル潜水艦のことを「スマート・マイン(スマート地雷)」と考える傾向がある。 

筆者は、潜水艦部隊司令として勤務していた際に、このことをはっきりと理解した。2004年の環太平洋合同演習(リム・オブ・ザ・パシフィック)の際、オーストラリアのディーゼル潜水艦HMAS Rankinが筆者の艦隊に配属された。実際には、同艦に割り当てができた任務は限られていた。 

しかし、もちろん、これは戦時中の任務についてのみであり、平時における潜水艦の日常的な任務は別だ。これらの任務は極秘扱いですが、通常は「米国の防衛に極めて重要」と表現されている。最近大統領部隊表彰を受けたUSSワシントン(SSN-787)がその好例だ。潜水艦は、機密性の高い海域で数週間から数ヶ月間、発見されることなく潜航することが求められるが、ディーゼル潜水艦にはそのような能力はない。これが、オーストラリアでさえ原子力潜水艦の必要性を認識するに至った理由であり、これがAUKUS三国安全保障パートナーシップの出発点だ。 

好意的に評価すれば、米艦隊にディーゼル電気潜水艦を導入することを提案する論評は、現代の米潜水艦が実際に何をしているのかを理解していないということになる。 

ディーゼル潜水艦の任務特性が適切であったとしても、そのような提言は、米国が求める最新型潜水艦の要件を満たせない潜水艦を配備するために新規インフラの構築を必要とする。米国は、過密状態にある原子力艦の造船所に対して、非核潜水艦の建造を同時に任せることはできない。したがって、新しいディーゼル潜水艦の設計に数十億ドルを費やし、何千もの新しいサプライヤーを認定した後、少なくとも一箇所の新しい造船所を建設して、必要のない潜水艦を建造することになる。環境への影響に関する報告書だけでも何年もかかるだろう。その間、才能、サプライヤー、資源、資金が、最も重要な任務である原子力潜水艦建造から離れていく。

今すぐ問題を解決するには

海軍は「目新しさにとらわれる症候群」に苦しんでいる。20年ほど先の些細な問題を解決するかもしれない技術に手を出す一方で、今日深刻な問題が放置されている。

海軍の根本的な問題の解決に協力できる中小企業多数は、海軍から無人水中船など「最新技術」を追及するよう求められている。こうした活動は、最重要任務であるはずの原子力潜水艦建造から技術や生産の努力をそらしている。それは、この最も深刻な問題の解決に必要な「総力戦」のアプローチに真っ向から逆らうものだ。

このすべてにおいて、業界には落ち度がないと主張する人は皆無だろう。ある。しかし、運用上の失敗が起こると、乗員が死ぬことになるため、問題の全責任は政府にある。艦が座礁すれば、それは常にチームの問題であるが、責任を取るのは艦長である。この場合の「船長」は政府である。 

潜水艦建造を軌道に戻すには、根本に立ち返ったアプローチが必要であり、危機的状況の解決に役立たない活動は容赦なく排除すべきだ。つまり、競合するプログラムは中止し、その他のプログラムは縮小することだ。有能なリーダーを見つけ、指導権限を与えることだ。前述のウィリアム・ナドソンやレスリー・グローブス、ウィリアム・ラボーン、イーロン・マスク、あるいはあえて言わせてもらえば、ハイマン・リッコバーのようなリーダーが必要だ。

ジェームズ・ストックデール提督は捕虜として7年間をどう生き延びたかについて、次のように述べている。「最後には勝利を収めるという信念を決して失ってはならない、それが何であれ、現実のもっとも残酷な事実と向き合うための規律と混同してはならない」。

これ以上のアドバイスはないだろう。われわれは実際にいくつかの残酷な事実と向き合っているからだ。 ■

A Ruthless Focus on Building More Nuclear Submarines

By Captain William Toti, U.S. Navy (Retired)

November 2024 Proceedings Vol. 150/11/1,461

https://www.usni.org/magazines/proceedings/2024/november/ruthless-focus-building-more-nuclear-submarines

 

William J. Toti

Captain William Toti, U.S. Navy (Retired), a career submariner, served more than 26 years in the Navy and more than 16 years in the defense industry, including as President of Maritime Systems at L3 Technologies and CEO of Sparton Corporation.


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