スキップしてメイン コンテンツに移動

金正恩の除去という可能性について


 

元記事の執筆時期が今年春なのでまだ中国に対する期待にナイーブなところもありますが、ここにきて言葉の応酬がエスカレートしているのは新たな制裁措置特に原油供給のカットが相当北朝鮮に利いているせいと筆者はみています。軍事行動は双方とも制御できなくなる事態が一番怖く、それでも平壌が本当に水爆を太平洋上空で爆発させれば(民間航空は途絶しますね)もう後戻りできなくなります。年末までに何らかの動きが出るかもしれません。

Kim Jong Un: What If America Just Assassinated North Korea's Dangerous Dictator?

金正恩を米国が暗殺したらどうなるか

September 21, 2017

  1. サリンガスの画像がホワイトハウスのシチュエーションルームに現れるやトランプ大統領は国家安全保障会議に翌日までに具体的選択肢の提示を求めた。ジェイムズ・マティス国防長官、安全保障担当補佐官H・R・マクマスターならびに参謀本部議長ジョセフ・ダンフォード大将はその通りに行動した。主要スタッフと数回の会議を経てトランプ大統領は米海軍に59発の巡航ミサイルをアサド政権の空軍基地に発射する命令を出した。そこがガス攻撃の出発地だった。
  2. 同時にNSCは北朝鮮政策で最終修正中だった。作業は数か月にわたり進行していた。シリアの化学兵器攻撃への対応と異なり、トランプ大統領は安全保障関連スタッフにはるかに長い時間を与え、同時に柔軟対応の余地を認めた。政策検討が始まる前にウォールストリートジャーナルは3月に国家安全保障担当副補佐官K・T・マクファーランドが「主流からはずれる発想数案」も含めるよう指示したと伝えている。
  3. 今は通常とは違うその中身は皆が知っている。核兵器の韓国再持ち込みから金正恩および最高位司令官陣の暗殺までだ。「20年間の外交と制裁を行って結局北朝鮮の事業を止められなかった」と検討に加わった情報機関高官がNBCニュースに語っている。構想から見えるトランプ政権のメッセージはこうだ。北朝鮮はあまりにも長く問題でありすぎた。今こそエスタブリッシュメント層をゆすって新代替策を出させる時だ。
  4. 海外指導者の暗殺がアメリカの国家安全保障の政策手段であった時期が存在する。冷戦時代に米国への支持が不足する指導者あるいはソ連と仲の良い指導者は除去対象だった。キューバのフィデル・カストロ、コンゴのパトリス・ルムンバ、ドミニカ共和国のラファエル・トルヒーヨ、グアテマラのジャコボ・アルベンスはみなCIAの殺害リストに載っており、リビアのムアマル・アル-カダフィも国際テロ活動を支援したため頻繁に標的になった。1986年にロナルド・レーガン大統領はカダフィの居住区の空爆許可を与え、本人が住宅内にいることが期待された。だが三か月に及ぶ国家安全保障関連の官僚制への取材でニューヨークタイムズマガジンは「リビア空爆の第一の目標はカダフィ暗殺であった」と結論付けた。
  5. ただし冷戦は終わって25年だ。海外政治指導者の殺害はかつてはテーブル上に選択肢としてあったが、今や人気のない軽蔑対象の手段になり下がった。ジェラルド・フォード大統領時代から米国政策は暗殺の陰謀には加担しない姿勢を維持している。フォード大統領の大統領令が明白にこれを語っている。「米国政府に働くものは何人も政治的暗殺に加担、加担を共謀してならない」 レーガン大統領もその精神を守りさらに拡大したという人もあるが大統領令12333では「米政府に仕える何者も暗殺に加担、加担の共謀をしてはならない」と制限している。
  6. 金正恩並びに北朝鮮指導部の排除につながる政策を模索すると41年間の米政策から大きく離脱することになる。もちろん政策とは変更されてしかるべきであり大統領令や行政令も修正改正は可能だ。さらに米大統領に海外指導者の殺害命令を禁じる法的根拠もない。米国憲法第18条第1116節で米国市民が海外指導者の殺害を企てると訴追対象になるがこれは犯罪が米国内で実行された際あるいは指導者が「我が国以外の国で」標的となった場合の想定だ。もしトランプ大統領に現行の大統領令を改正するつもりがあるのなら、政権が金正恩を堂々と標的にしても刑法の適用は受けないだろう。
  7. だが金本人や北朝鮮の核ミサイル計画を統括する将軍数名を暗殺することが本当に良い政策なのか疑問がある。トップを除去して悪い人物を排除すれば残る悪者全員が震え上がり、行動を変えて突然政府が人権の守護者となり民主政権に変貌すると考えがちだ。以前に経験がある。イラクでの軍事作戦開始の数日前にワシントンが巡航ミサイル数発をサダム・フセインに打ち込むとイラク政治指導層はこれで本格戦は回避できたと信じ込んでいた。その仮定がうまく作用したのかは誰にもわからない。サダムが攻撃を生き延びたからだ。バース党幹部が翌日に連合軍に降伏したのはよかったが、戦争はまだ続いてもおかしくなかった。
  8. 北朝鮮は2003年のイラクと全く状況が異なる。金正恩の権力基盤は強固で自らの地位に危険と感じれば叔父、異母兄弟でも躊躇せず排除してきた。イラク軍の士気は低下し第一湾岸戦争とその後の制裁措置で質的にも低下したが、北朝鮮は核保有国で弾道ミサイルを整備しその水準は韓国に並び今や域内米軍基地も標的に入れている。金正恩を殺害し政権が急変すると考えるのは未実証の発想であり失敗したときの代償は高い。人的情報取集活動でも北朝鮮はブラックホールであり、米情報機関も金正恩の後を引き継ぐ男女(金正恩の妹がいる)がどんな人物なのか予測に困っているほどだ。国家主席を暗殺すれば戦争行為となり、平壌で冷静な考えの人物が報復を叫ぶ一派を抑えておけるのか誰にもわからない。
  9. 金正恩を地下6フィートに追いやる(死んでもらう)ことは国家安全保障会議の作成した選択肢の一つでトランプ大統領に検討のため提出されるはずだ。トランプの国家安全保障関連補佐官の主流の考えから相当外れており大統領には真剣に検討しないよう求めるかもしれない。北京の反応は素早く頑固だろう。日本、韓国とともに北朝鮮には何とか予測可能な形で行動してもらいたいと考えるはずだ。だがソウル、東京はそれぞれトップ数名を暗殺して目的が達成できたと見るのだろうか。
  10. ひとつの期待は政治の力で中国をどこまで米国寄りの協力国にできるかだが高望みは禁物だろう。
Daniel DePetris is a fellow at Defense Priorities.
This first appeared in April.

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...