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今再び注目されるベルグラード中国大使館爆撃事件(1999年)

 ベルグラード中国大使館が爆撃で全壊したことで反米デモが中国で広がった。ただ大使館を意図的に爆撃する論理的な理由がなく、反中感情が爆撃につながったとの説明も不可能だ。

 

NATOによるユーゴスラビア航空戦はセルビア、コソボ双方で数百地点を空爆したが、ある施設の破壊により反西側、反米の非難が世界半周離れた地点で発生した。標的はベルグラードの中国大使館だった。

 

NATO空爆作戦は1999年3月24日に始まった。コソボのアルバニア系住民の迫害を止める交渉が流れた後のことである。ユーゴスラビア陸軍全体がコソボ住民の虐待に関与していたといわれる。目標リストには首都ベルグラードにある政治軍事両面の施設があった。

 

合計28千発もの爆弾がユーゴスラビアに落とされた。同国はオハイオ州と同じくらいの面積だ。当時の国防長官ウィリアム・コーエンは連合軍を「史上最高の精度を行使する空軍力」と述べていた。空爆で一般市民500名が死亡しているが、これだけの量の空爆としては目立って少ない犠牲で、NATOは各標的を「慎重に選択し」たうえで「セルビア市民の被害を最小限に抑えるよう多大な努力を払った」と説明していた。

 

ところが5月7日に、ベルグラードの中国大使館に共用直接攻撃爆弾5発が衛星誘導で命中した。投下したのは米空軍B-2スピリット編隊だった。中国人3名が死亡した。新華社のShao Yunhuan、光明日報のXu Xinghu 夫妻、さらに中国人20名が負傷し、5名は重傷だった。

 

ビル・クリントン大統領が異例の陳謝として「深い哀悼の念」を被害を受けた中国人に示し、攻撃は誤爆だったと述べた。NATOは大使館がユーゴスラビア連邦補給調達局 (FDSP)の司令部として機能していたとの情報で動いたと主張。

 

トーマス・ピッカリング国務次官は中国側への詳細説明で米国は国家主導によるミサイル部品のリビア、イラク、ユーゴスラビア各国向け供給先だと認識していたと述べた。ピッカリングは「多重要素の過誤」が1997年から続き、誤爆の原因を三点あげた。FDSPが入る建物だと誤って認識したこと、米軍、米情報筋が中国大使館の所在地を誤認識していたこと、またFDSPを実際に知る筋から裏をとらなかったことである。ピッカリングの指摘の通り、米NATO外交筋は移転後の中国大使館を「非爆撃目標」データベース上で改訂していなかった。

 

攻撃は誤爆だったというものの、反米抗議の波は中国全土に広がり、北京の米大使館はじめ各地領事館に数万名のデモ隊が押し掛けた。一部で略奪行為が繰り広げられた。中国当局が立ち入り禁止にしなかったらそのまま大変な事態になるところだった。

 

中国ではベルグラード大使館が破壊されたのは事故ではないとの見方が大半だった。中国政府でさえ、地図が古くて大使館が爆撃されたと信じることはできなかった。攻撃が意図的だったのかは別として、中国国民には外国人への反感が深く、その背景は数百年前にさかのぼる。不平等条約、一方的な要求やその他植民地主義が中国を弱体化させたとみる向きは今回の攻撃を外国勢力による恥辱が再び発生したとみた。

 

ただし同時に中国共産党が反西側デモをあおっている証拠もあった。中国当局は共産党の大学組織を通じてデモ隊をあおっていた。ガラス瓶、石、レンガ、ペンキさらに火炎瓶が北京の米大使館に投げられた。成都では領事公邸が放火された。中国共産党は厳しい統制を全国に敷いていたので、これ以上の暴力沙汰が許容されたとは思えない。ただ強力な米軍と情報機関が大使館の緑の屋根を軍事補給拠点と間違えたと想像するのは困難だ。

 

中国が陰謀説に傾いたのは無理もない。中国大使館が爆撃を受ける理由がなく、そもそも、すべての情報を握り、強力な米軍が誤爆するだろうか。単純な誤りのはずがない、中国大使館を爆撃するとは中国人民を苦しめる帝国主義の動きなのではないか。

 

だがそもそもなんのためなのか。意図的に大使館に爆弾投下することで中国を挑発する理由は論理的に考えてられない。米国の反中感情に動かされたとも思えない。陰謀説に動機が見つからないのが欠陥だ。説明がつくような悪意は愚行が理由ではないとのハンロンの剃刀の警句が思い起こされるのである。■

 

この記事は以下を再構成したものです。

 

Oops: In 1999, a U.S. B-2 Bomber 'Attacked' ChinaAugust 19, 2020  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: B-2MilitaryTechnologyWorldWarChinaAir ForceStealth

by Kyle Mizokami

 

Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.


コメント

  1. >ガラス瓶、医師、レンガ、ペンキさらに火炎瓶が北京の米大使館に投げられた。
    「医師」を大使館に投げつけた?!
    ただの誤記なんですが、ちょっと面白かったので確認しました。
     原文は、
    『Bottles, stones, bricks, paint and even Molotov cocktails were thrown at the U.S. embassy
     in Beijing.』であり、
    『瓶、石、レンガ、ペンキ、さらに火炎瓶さえも北京の米国大使館に投げつけられた。』
    つまり、「stone」⇒「石」⇒「医師」ということなんですねえ。
    暴動と医師という組合せが妙にマッチ?していて、医師から石にパッと思い至りませんでした。

    返信削除
  2. 間もなく米国次期大統領選というタイミングで、興味深い記事をありがとうございます。

    クリントン政権の終盤で起きた中国大使館爆撃事件は、諸説色々でておりますが、誤爆ではなく意図的な爆撃であったことを背景から説明する情報が出ております。

    1.コソボにいるセルビア人の暗殺隊への指令中継所破壊
    「アーカン」と呼ばれる戦犯(起訴中の)がコソボにいるセルビア人の暗殺隊である仲間へ情報を送るため、中国大使館を中継所として利用していた。
    リンク: https://kamogawakosuke.info/2000/01/27/%E7%B1%B3%E5%9B%BD%E3%81%AE%E4%B8%AD%E5%9B%BD%E5%A4%A7%E4%BD%BF%E9%A4%A8%E3%81%B8%E3%81%AE%E7%A9%BA%E7%88%86%E3%81%AF%E6%84%8F%E5%9B%B3%E7%9A%84%E3%81%A0%E3%81%A3%E3%81%9F%EF%BC%9F/

    2.ユーゴ上空で撃墜されたF-117機体調査の警告・阻止
    ユーゴ上空で撃墜されたF-117の機体を中国大使館が入手し、陸軍武官執務室に機体が運び込まれ現地で活動していた中国やロシアの情報部員が調査している現場を攻撃して機体を破壊すると当時に見せしめとして爆撃が行われた。
    リンク: http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/blog-entry-2360.html?sp

    他にも根拠を裏付ける情報があるかもしれませんが、比較的親中であったクリントン政権が2つの状況で吹っ切れて作戦を承認したと見ると分かりやすいのかもしれません。

    トランプ政権もこのまま行くと年末で終わりですので、最後の最後で(レガシーを残すために)ポイントになる作戦の実行を承認する可能性があると見ております。

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