スキップしてメイン コンテンツに移動

ホームズ教授の視点:シーパワーは海軍だけではない(The National Interest)―米国に真の海洋戦略を統合調整する機能が必要で、デル・トロ前海軍長官の構想を維持発展させるべきだ

 




ワイトハウスは、海洋戦略に関する米国政府全体の取り組みを管理する権限を持つ上級監督官を国家安全保障会議(NSC)内に任命すべきだ。

 「私は前任者と違う」と主張するのは政策ではない。 いずれにせよ、あまり良い方針ではない。しかし、ワシントンDCの新任者は、自分自身をそのように表現する傾向がある。特に1月20日に政党間で政権が交代した場合はそうだ。

 ジョー・バイデン前大統領の海軍長官であったカルロス・デル・トロは、共和党が敵対する民主党から政権を引き継ぎ、バイデン政権の政策との差別化を図るとしても、本人の遺産を歴史のごみ箱に押し込めるべきではない政治任用者である。

 海軍大学校を卒業し、米海軍駆逐艦艦長であったデル・トロ長官は、海軍の技術面で注目すべき発展に大きく貢献した。 代表的な業績としては、「TRAM」と呼ばれる、兵站艦が駆逐艦のミサイル発射サイロに洋上で再装填できるシステムがある。 以前は、駆逐艦は戦闘地域から撤退し、再装填のために港に戻らなければならなかった。これでは、かなりの時間、戦闘から離脱することになる。 再装填で、艦は戦闘地域と戦闘に参加し続け、艦隊の戦闘力を必要な場所で必要な時に強化することができる。

 結局のところ、戦闘時の現場でより強くなることがすべてなのだ。 TRAMは、戦略的にはともかく、作戦的に重要な技術革新だ。しかし、デル・トロはもっと大きなことにも関心を寄せていた。"新国家海洋国家戦略 "と名づけた構想を打ち出した。 2023年末のハーバード大学での講演を皮切りに、デル・トロはこの構想を提唱し、残りの在任期間を通じてそれを支持した。本人による定義はこうだ: 「広義の海洋国家戦略とは、海軍外交だけでなく、米国と同盟国の総合的な海洋パワー(商業と海軍の両方)を構築するための国家的、政府全体の努力を包含するものである」。

 筆者は「海洋国家戦略」という言葉がこれまで好きになれなかった。 学術的で難解で、大衆の心に響かない。信じられない? 行きつけのパブに行ってビールを注文し、隣人に定義を尋ねてみてほしい。 彼はできないかもしれない。 われわれのような代議制の共和制国家では、頭でっかちでは政治的な熱狂も長続きもしないだろう。

 それは問題だ。

 しかし、用語が圧倒的であったとしても、デル・トロが考えていたことは圧倒的に重要であり、トランプ大統領の時代、そしてそれ以降も継続すべきものだ。 デル・トロ長官は、国家文化を本来あるべき海運業に戻そうとしたのだ。かつて海水はアメリカの血管を貫いていた。 米国が中華人民共和国のような強大な敵対国に打ち勝つためには、再びそうする必要がある。

 基本的なポイントはこうだ。 海洋戦略とは、国家目的を達成するために海の力を利用する技術と科学である。それは目的と力、目的と手段に関するものである。 海洋国家戦略とは、海に対して戦略的に考え、行動する習慣のことである。それは包括的である。海事用語で考え、米国民を含む官民の多数の国内利害関係者を共通の大義の下に結集させ、その大義に貢献する同盟国、パートナー、友好国を説得する官憲の習慣を指す。要するに、政府、社会、軍隊は、政府、学界、シンクタンクのホールを支配していたオピニオンメーカーたちが、海軍の脅威は永遠に打ち破られ、晴れやかな高地が待っていると自分たちに言い聞かせていた冷戦後に忘れてしまったものを再発見しなければならない。 歴史は終わった。 経済のグローバル化が未来だったのだ。

 米国が中国、ロシア、そしてユーラシア大陸周辺にいる、そのような屁理屈をこねる輩と対決するためには、そのような誤った意識を払拭することが何よりも重要なのだ。

 しかし、意識を正すことがすべてではない。 海洋国家運営の成功は、当然の結論とは言い難い。アメリカは海洋国家だが、真の海洋戦略がない。 率直に言って、分権化された連邦制度のもとで、海事事業全体を担当する者はいない。連邦政府内でも責任と権限は分断されている。 国防総省の2つの異なる部門である米海軍と海兵隊は、数十年にわたって海洋戦略と称する文書を発表してきた。現在は国土安全保障省の一部となっている沿岸警備隊も最近加わり、三部構成の "海軍サービス "という概念が生まれた。

 そしてそれは、やるだけの価値があった。 アメリカは "ナショナル・フリート"を配備していると自負している。戦術的、作戦的、戦略的に最大限の利益を得るために、海上サービスは一体となって行動すべきである。しかし、過去の文書はせいぜい部分的な海洋戦略だった。それらは、武装した米国の海兵隊が大海原でどのようにビジネスを行うつもりなのかを説明するものだった。 海軍力を行使するためのものだった。

 しかし、デル・トロがハーバード大学で述べたように、戦争に集中すると、多くが見えなくなってしまう。 実際、海戦ではなく商業こそが、海事の監督者や実務者にとっての王道であり、またそうあるべきなのだ。 その社会の貿易に対する文化的傾向こそが、大洋に乗り出す適性を決定する最大の要因であるとした。富の追求は "国民性"の一部なのだ。  マハンは、「交易の傾向は、必然的に交易のため何かを生産することを伴うものであり、海洋力の発展にとって最も重要な国民的特性である」と書いていた。 海洋社会にならんとする国もまた、海洋事業に長けていなければならなかった。"シーパワーが本当に平和的で広範な通商に基づくものであるならば、商業的な追求に対する適性は、一度や二度は海の上で大国となった国々の際立った特徴に違いない。"

 言い換えれば、シーパワーには海軍(あるいは海兵隊や沿岸警備隊)以上のものがあるということだ。 手段は必要だ。 国内産業は、外国の顧客のニーズとウォンツを満たすため、外国の顧客に販売する商品を製造する必要がある。 造船業は、これらの商品を輸送する商船隊を建造する必要がある。 シーパワーとは、商品を製造し、輸送し、海外の買い手に届け、貿易から収益を得て、それによって商船隊を守る海軍の資金を得るサプライチェーンだと考えればよい。 シーパワーは、商業、外交、海軍の好循環を生み出す。

 要するに、海軍は海洋戦略を遂行するために必要ではあるが、十分とは言い難い手段なのである。 問題は、米国の海洋事業、特にその商業・産業機能の大部分が、国防総省や国土安全保障省の管轄外の部門にあることだ。一部は運輸省やその他省庁にある。 エレクトリック・ボート、バース鉄工所、その他の造船所など、多くは民間の手にある。アメリカには、繁栄、安全保障、武力というマハン的な目的のためこれらすべてを調整する包括的な海洋戦略が欠如している。

 また、開発する見込みもない。

 それでも、ワシントンの政治的リーダーシップは、高海域での追求に協調的なアプローチを近似させることができる。 それこそがデル・トロの海洋国家戦略が求めるものであり、トランプ政権がそれを受け入れるべき理由である。 ホワイトハウスは、国家安全保障会議(NSC)内に設置される上級監督官を任命し、その人物または人々に、海底に関連する米国政府の取り組みを管理する権限を与える。そのような監督官は、シーパワーの素地となる民間企業と提携を結ぶことができる。 また、米国で枯渇した海洋インフラを補うため外国企業に手を差し伸べることもできる。

 海洋戦略の実行者は、道具の使い手であると同時に、同盟の構築者でなければならない。このすばらしい新世界でカルロス・デル・トロの遺産は、守り、発展させる価値がある。■


Seapower Is More Than Just The Navy

February 2, 2025

By: James HolmesBlog Brand: The Buzz

Region: Americas

Tags: Alfred Thayer Mahan, Maritime Strategy, Seapower, Secretary Of The Navy, and U.S. Navy

https://nationalinterest.org/blog/buzz/seapower-is-more-than-just-the-navy


James Holmes is J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and a Faculty Fellow at the University of Georgia School of Public and International Affairs. The views voiced here are his alone



コメント

  1. ぼたんのちから2025年2月27日 21:53

    デル・トロの「新国家海洋国家戦略」は、海洋覇権のみならず、それに裏打ちされたグローバルな経済戦略までも含む、まさに海洋国家戦略であるのであろう。
    しかし、この戦略が出された老いぼれバイデン政権の時期は、グローバリズムは色あせ、CCP中国のような国家がグローバリズムのルールを悪用し、「世界の工場」=「他国の産業を駆逐」する戦略のもくろみが暴露され、特に武漢肺炎流行以後の対立が厳しくなる時代であったから、デル・トロの高尚な意見は、世間に黙殺されたのかもしれない。
    しかも、考えてみれば海洋覇権を握る国家戦略の変化は緩く、海洋の安全保障下で恩恵を受ける経済、特に貿易絡みは変化が激しいから、関連性が明確でない両者を結びつけることは、必ずしも適切ではないだろう。
    そうは言っても、ホームズ先生が主張するように海洋戦略とその支配海域を使用する貿易の戦略との間の調整が必要となる場合があるのかもしれない。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...