米軍部隊を麻薬カルテルへの攻撃に投入した前例がないが、トランプ政権に選択肢はすでに存在している
メキシコの麻薬カルテルに米国の軍事力を行使する可能性をたびたび示唆してきたドナルド・トランプ大統領はその選択肢を有している。しかし、麻薬カルテルを外国テロ組織(FTO)に指定する大統領令に署名したトランプ大統領も、国境を越えた行動範囲を拡大する前に、法的および政策上のハードル、さらには地政学的な考慮事項に直面することになるだろうと本誌が話を聞いた軍、情報機関、政府の元高官らは述べている。このような動きは前例がない。米軍はこれまでメキシコの麻薬カルテルを直接攻撃したことはない、と元高官数名が本誌に語った。
トランプ政権の意図を示す最も最近の兆候は、先週、ヘグゼス国防長官がカルテル対策に軍事力を使うかどうか問われた際に示された。
「もし、国境でアメリカ人を標的にしている外国テロ組織と指定されているものに対処する場合、あらゆる選択肢がテーブルの上に置かれるだろう」と、長官はFoxニュースに語り、この問題についてトランプに先んじることを望まなかったため、具体的な内容は明らかにしなかった。大統領は、自身の計画をまだ明らかにしていない。
しかし、1994年の映画『今そこにある危機』で描かれたような場面、すなわち米海軍のF/A-18ホーネットがコロンビアの麻薬カルテルのリーダーにミサイル攻撃を行う場面を目の当たりにする前に、いくつかの行動が起こされる必要がある。
「大統領、特に現大統領は、米国憲法第2条に基づき、議会承認なしに、一定のレベルまでは一方的に武力を行使できる非常に広範な権限を主張しています」と、コロンビア大学のマシュー・C・ワックスマン法学部教授は語った。「一般的に主張されているのは、大統領は最高司令官および最高行政官として、米国を守るため軍事力を行使する権限を持っているというものです。」
国境の北側でカルテルが直接攻撃を仕掛けてきた場合、トランプ大統領はメキシコ国内で軍事力を行使する余地が最も広がることになる、と月曜日に語ったのは、トランプ政権の第一期に国家安全保障会議(NSC)のテロ対策部門で働いていたジャベド・アリだ。すでにそのことについて、カルテルが米税関・国境警備局(CPB)や国境沿いの法執行官に対して兵器化された無人機を使用することを検討しているとの噂が流れている。
アリは、このような攻撃があれば、トランプ大統領が憲法第2条を発動するきっかけとなるだけでなく、国連憲章第51条の自衛権条項に基づく対応が可能になると指摘した。アリは現在、ミシガン大学ジェラルド・R・フォード公共政策大学院の准教授として、テロ対策、国内テロ、サイバーセキュリティ、国家安全保障法および政策に関する講座を担当している。また、トランプは戦争権限法を適用することも可能であり、その場合、議会承認を求める前に60日間の軍事行動を行うことができるとアリ准教授は説明した。
一方、まだ発効されていないカルテルに関する新たな大統領令は、メキシコにおける米国の軍事行動に大きな変化をもたらすものではないとワックスマン教授は述べた。この大統領令は、麻薬、無秩序な移民、人身売買の問題に対処するためトランプ大統領が署名したうちの1件である。
「麻薬カルテルをFTOに指定すれば法的効果と政治的効果をもたらします」と、ジョージ・W・ブッシュ政権下で国務省、国防総省、国家安全保障会議で要職を務めたワックスマンは述べた。国家安全保障会議の補佐官として、同氏は2001年9月11日の同時多発テロ事件に対するホワイトハウスの対応に関与した。「法的には、この大統領令は、犯罪取締当局や移民当局、金融対策など、さまざまな当局に、テロリストを締め付け、彼らへの支援を断つためにそれらを利用することを促すものです。政治的には、テロリストを他の深刻な国家安全保障上の脅威と同様に扱うことで、その脅威をさらに高め、将来的な行動の基盤を築くのに役立つ可能性があります。しかし、FTO指定は、軍事力行使に直接つながるものではありません」。
例えば、FTO指定により、2011年5月1日にパキスタンでオサマ・ビン・ラディンを殺害した米海軍特殊部隊ネイビーシールズチーム6の「ネプチューン・スピア作戦」のような、麻薬カルテルに対する特殊部隊の急襲作戦をトランプ大統領が実行する権限が自動的に与えられるわけではない。しかし、麻薬カルテルに対するそのような行動を可能にする現行法は存在する。バラク・オバマ大統領は、外国で秘密作戦を遂行することを大統領に許可する米国法タイトル50を適用し、その作戦を正当化した。
「歴代大統領には、外国にある米国の優先的標的に対して軍事作戦を承認し実施できる強力な手段が、その標的のある外国政府との協議や調整なしに、タイトル50で与えられています」とアリは説明した。
「大統領がカルテルに対する秘密工作計画を承認し、議会情報委員会に通知することはあり得ます」とワックスマンは指摘する。「トランプ大統領や過去のどの大統領がそうしたのか、また、そのような秘密工作計画の条件がどのようなものなのかは私にはわかりません。情報監視法では、大統領に秘密工作計画を実行する広範な権限を認めており、特定の特別な手続きと報告要件に従うことを条件としています」。
外国の地でテログループに対武力を行使した前例は他にもある。2019年にISIS指導者アブ・バクル・アル=バグダーディを殺害した米国の急襲作戦、2020年にイラン革命防衛隊の指導者カッシム・スレイマーニーを殺害した無人機攻撃、そして先週ソマリアでISIS指導者に実施された空爆は、いずれもテログループに対して行われたものである。
しかし、これらの行動は、2001年のアルカイダによるニューヨークとワシントンD.C.への攻撃を受けて制定された、イスラム系テロ組織に対する「軍事力の行使に関する承認(AUMF)」で正当化されている。 2001年のAUMFは、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領が、テロ作戦の立案者や彼らを支援し匿った人物を追及することを可能にするために制定された。2002年には、ブッシュ大統領にイラク侵攻の権限を与えるために、別のAUMFが承認された。そして、その後の政権は、世界中のイスラム過激派に対する行動を正当化するために、AUMFを利用してきた。
現在、カルテルは、イスラム過激派と直接のつながりがあるとは考えられていない。トランプ大統領がメキシコの麻薬カルテルに対する空爆、特殊部隊の急襲、あるいはより広範な軍事戦略を望む場合、それらの組織を対象とした新たなAUMFが必要になる可能性が高いとアリは主張した。しかし、ワックスマンは異なる見解を示し、トランプ大統領は麻薬カルテルを追及するため新たなAUMFを必要としないが、「自身の法的論拠をより強固なものにする」ために必要になる可能性はあると述べた。
いずれにしても、カルテルを対象とするAUMFは以前にも検討されたことがある。ワックスマンは、Lawfare誌に共同執筆した記事の中で、2023年に共和党下院議員の一部がフェンタニル密売カルテルを対象とするAUMFを提出したことを指摘している。現職のマイク・ウォルツ米国家安全保障問題担当大統領補佐官は、当時下院議員として共同提案者の1人であった。この法案は可決されなかった。
西海岸を拠点とする海軍特殊部隊(NSW)の隊員が、アーウィン基地で夜間直接行動突入訓練を行いながら、建物の侵入に備える。(国防総省)二等兵曹チャールズ・プロパート
メキシコにおけるタイトル50作戦にAUMFは不要だが、そのような任務は単発的なものになるだろうとアリは示唆した。
「2011年の(ビンラディン)急襲作戦を例にとると、その種の作戦の国境を越えた危険な性質を考慮すれば、米国は恐らく、アフガニスタンのアルカイダやタリバンに対する作戦や、2010年代半ばのイラクやシリアにおけるISISに対する作戦のような、長期にわたる軍事作戦を承認する議会での新たなAUMF(戦争権限法)ではなく、タイトル50に基づく作戦を1度だけ行うでしょう」とアリは述べた。
トランプ大統領には別の選択肢もある。 CIAの特殊作戦部隊(SOG)チームが麻薬カルテルの関係者を標的にすることも考えられる。
「これには大統領令が必要であり、秘密工作監督法に従う必要がある。暗殺は大統領令で禁じられているため、CIAはこれを政治的な殺人ではなく、別のものだと主張する必要がある」とワックスマンは説明した。
メキシコ、フアレス - 11月10日:フアレスの国境付近に設けられた臨時の検問所で、連邦警察(Federalis)が車を捜索している。麻薬密売人を捕まえるために、軍や警察がこのような措置を頻繁に取っている。国境の町フアレス(人口150万人)は麻薬王が支配する殺戮の場であり、今年に入ってからの死者は1,300人に上っている。(写真:Shaul Schwarz/Edit by Getty Images) Shaul Schwarz
必要な承認を得ているかに関わらず、トランプ大統領の最初の選択肢は、いくつかの理由から、おそらく空爆となるだろう。無人機や遠隔操作兵器が最も可能性の高い選択肢だ。
以前にもお伝えしたように、メキシコの武装麻薬カルテルは深刻な脅威となっている。カルテルの一部部隊は、非常に高度な装備を備え、最新の戦闘技術を採用しています。例えば、敵を攻撃するため無人機を何年も前から使用している。
また、こうした組織は、ますます強固な防御力を備えた「麻薬タンク」と呼ばれる車両で移動することも多い。
カルテルは、多くの支援を背景に、事実上、広大な地域を支配することも可能である。麻薬王と側近は、こうした地域で最も厳重に守られ、要塞化された拠点におり、攻撃目標としては非常に困難な存在である。しかし、中東でテロリストを排除するために使用されてきた「発見して排除する」戦術、特に無人機の支援による戦術は、この問題の解決に役立つ可能性がある。メキシコがに同意しない限り、許容できる空域で運用されることはないだろう。メキシコの防空能力はきわめて初歩的なものとはいえ、それでも問題となり得る。
メキシコの事前承認なく地上攻撃を行うことは、米軍がうっかり取り残されたり、あるいは捕虜になったりした場合に、法的保護を受けられなくなる懸念を生じさせる。だからこそ、米軍の展開は、軍人や民間契約者が不公平な刑事・民事司法制度の対象とならないよう保護する地位協定(SOFA)に基づいて行われることが多いのだ。
「これは、米軍兵士の権利を保護し、米軍制服組に対する懲戒管轄権を行使する米国の利益を擁護するだけでなく、米軍の海外派兵に対する米国の意欲、そしてそうした派兵に対する国民の支持が、米軍兵士が本質的に不公平な制度、あるいは少なくとも米国の基本的な手続き上の公正さの概念から根本的に逸脱した制度で裁かれるリスクにさらされると、重大な後退を被る可能性があるため、重要である」と米国務省は述べている。「基本的な手続き上の公正さという米国の概念から根本的に逸脱している場合が懸念される」と米国国務省は述べている。
米軍にとってのリスクははるかに少ないが、空爆力だけに頼るデメリットは、アフガニスタンやイラクでのように、米軍が現地で迅速に活用できる貴重な情報を失うことである。
MQ-9リーパーは、グローバルなテロとの戦いにおいて悪の組織を見つけ出し標的を定めるためのアメリカの武器として選ばれた。カルテルとの戦いにも、同じ教訓の多くが適用できるが、そのような計画にはハードルもある。(USAF)
いずれにしても、空爆であれ、急襲作戦であれ、麻薬カルテルの牙城を直接攻撃することは、米国にとって大きなエスカレーションであり、特にメキシコ国境沿いで敵対行為が広範囲にわたり持続的に激化する可能性がある。米国国内で麻薬カルテルによる報復行動も起こり得る。
軍事行動の直接的な行使以外に、FTOをテロ組織として指定しても、情報収集能力が高まるわけではないと、米国の元情報当局高官は本誌に語っている。
「彼らが米国籍を持たない限り、収集したい情報はすべて収集できる」と、匿名を条件に元当局高官は語った。「麻薬密売業者は間違いなくそのカテゴリーに該当するだろう」。
すでに進行中のその一例として、月曜日に米空軍のRC-135V/Wリベットジョイント偵察機が、オンラインのフライト追跡サイトによって、カリフォーニア湾の狭い海域で前例のない一連の任務を遂行しているのが目撃された。同地は悪名高い麻薬カルテルの活動地域と隣接している。麻薬対策としての米軍偵察機の使用は目新しいことではないが、米国で最も高性能な戦略的空中情報収集プラットフォームをメキシコの麻薬カルテルの裏庭に配置することは、今までにない動きだ。
トランプ大統領がどのような決定を下そうとも、米軍がメキシコ国内で麻薬カルテルと戦う努力、あるいは戦う努力そのものについては、ホスト国の承認が得られれば非常に有益となるだろう。しかし、現時点ではメキシコ政府にそのような動きは見られない。これは、たとえ単発の作戦であっても、攻撃を複雑化させる要因となる。事態が深刻な方向に進めば、メキシコ軍と米軍兵士が対峙する事態にもなりかねない。
メキシコ大統領クラウディア・シェインバウムClaudia Sheinbaumはトランプ大統領の行政命令は両国政府間の緊密な連携が前提だ、と述べたとAP通信が報じた。同大統領は月曜日、米国との連携を模索しながらも、メキシコは自国の主権と独立を守る、と述べた。
シェインバウム大統領は記者会見で、「麻薬カルテルと戦いたいのは皆同じだ。米国は『彼らの領域で、我々は我々の領域で』」と述べた。
2020年1月12日、メキシコ、ソノラ州バビスペの州兵のメンバー(写真:Alfredo ESTRELLA / AFP) (写真:ALFREDO ESTRELLA/AFP via Getty Images) ALFREDO ESTRELLA
本誌が話を聞いた特殊部隊の退役将校は、過去に米国が国の指導者によって追い出されたことがあったと指摘した。ボリビアが一例だという。
「ホスト国の支援がなければ、状況は悪化するでしょう」と彼は言う。「私たちはボリビアの(当時の)エボ・モラレス大統領と問題を抱えていました。彼は動揺し、DEAに退去を求めました。私たちは1986年以来、特殊部隊をそこに派遣していました。彼らとは良好な関係を築いていました」。
さまざまな憶測が飛び交っているが、米国軍はメキシコやその他のラテンアメリカ諸国における麻薬カルテル対策に長い歴史を持っている。これらは、グリーンベレーとして知られている米陸軍特殊部隊が、ホスト国を支援するために行う助言および支援任務である。外国内部防衛(FID)任務として、グリーンベレーは直接行動を起こさず、ホスト国が麻薬カルテルと戦うのを支援している。
これらの任務は、伝統的に第7特殊部隊グループが担当していると、本誌が話を聞いた専門家は説明した。フロリダにあるエグリン空軍基地に本部を置く同グループは、ラテンアメリカを担当すし、多くの隊員がスペイン語に堪能で、その地域や習慣に精通している。
「彼らは適任でしょう」と、米国主導の「コロンビア計画」に12年間従事した退役特殊作戦部隊(SOF)将校は語った。これは、コロンビアおよびラテンアメリカ全域で治安と法の支配を脅かしていた麻薬取引に深く関与していたゲリラ集団、コロンビア革命軍(FARC)に対する対反乱作戦/対麻薬作戦であった。
「私が1999年から2011年まで参加した『プラン・コロンビア』期間中、第7特殊部隊は、3,500人のコロンビア軍麻薬取締旅団、600人のフングラス(警察空挺麻薬取締部隊)、コロンビア軍特殊部隊であるランセロ大隊とコマンド大隊を訓練しました」と同専門家は語る。「彼らは、警察機動カラビネロ中隊(農村地域で活動する120人編成の警察部隊)の教官を組織し、80人編成の国家部隊であるAFEUを訓練しました」。
専門家は、カルテルとの戦いで主導的な役割を果たしているメキシコの特殊部隊や法執行機関による同様の取り組みを予測している。また、これらの取り組みは法執行任務であり、重武装したカルテルに対抗する上で決定的な優位性を得るため、より強力な武力、高度な軍事技術、特殊装備が必要な場合に特殊部隊が投入されると指摘している。
同上専門家は、実施中の段階を説明してくれた。
「米軍の特殊部隊(陸軍、海軍、海兵隊)は、作戦計画および実行について、メキシコの特殊軍事および警察部隊を訓練ができます」と彼は述べた。 SOF連絡将校(LNOS)は「大使館作業グループに配属されており、メキシコの特殊部隊と会合し、計画を支援し、米国大使館に状況認識を提供しています。
「これらの任務(国境およびメキシコ)はすべて過去に米軍によって実施されてきました」と彼は説明した。「迅速に実施でき、国内外で論争を引き起こすこともありません」と説明した。
メキシコ海兵隊が麻薬カルテル「セタス」のメンバーとされる5人の容疑者連行する前にRPG-7ロケットランチャー、手榴弾、銃器、コカインなど麻薬カルテル「セタス」からの押収品が並ぶ。(写真のクレジットはYURI CORTEZ/AFP via Getty Images)
メキシコの麻薬カルテルに対する一方的な行動をトランプ大統領が命じる可能性は、昨日時点でやや減少したかもしれない。大統領は、麻薬や人の国境越えを阻止する意思がメキシコ政府にないとの認識から、同国からの輸入品に25%の関税を課すことを延期することでメキシコと合意した。一方、シェインバウム大統領も一連の措置を発表した。
「私たちは、両国の関係と主権を尊重し、トランプ大統領と建設的な会話をしました」と、彼女はXで述べた。「メキシコは、メキシコから米国への麻薬密売、特にフェンタニルの流入を防ぐため、すぐに1万人の州兵を北部国境に配備してうます。一方、米国はメキシコへの強力な武器の密売を防ぐ取り組みに尽力しています」。
両国は「本日より、安全保障と貿易という2つの分野で取り組みを開始する」と彼女は付け加えた。
この緊張緩和は心強く思えるかもしれないし、その成果が国境を越えた麻薬や人身売買の流れを減速させる可能性もあるが、カルテルは依然として残ったままだ。カルテルの資金源を断つことは、カルテル同士の縄張り争いを引き起こすことも多いが、カルテルとの戦いにおいて重要な要素であることは間違いない。しかし、もしトランプ大統領が麻薬カルテルに直接立ち向かうつもりならば、それ以上のことが必要となるでだろう。それがどのような形になるかはわからないが、大統領に選択肢があるのは確かだ。■
How Trump Could Use Military Force Against Cartels In Mexico
While using the U.S. military to directly attack the cartels would be unprecedented, there are potential options for doing so.
Howard Altman
https://www.twz.com/news-features/how-trump-could-use-military-force-against-cartels-in-mexico
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