批評家はドナルド・トランプ大統領の外交政策に「孤立主義」のレッテルを貼り、グローバルな関与からの後退を危惧している。しかし、これは政権のアプローチを誤って表している。
現政権の戦略は、米国を孤立させるのではなく、国際関係のリアリズム学派に深く根ざした「自制」“restraint”の概念に近い。冷戦後の「ルールに基づく国際秩序」が衰退し、大国間競争が台頭する時代において、自制という大戦略は、アメリカの覇権主義という高価で持続不可能な重荷に代わる、現実的で持続可能な選択肢を提供する。
自制と孤立主義はちがう
孤立主義とは、同盟の解消、経済的交流の最小化、軍事的コミットメントの削減など、国際問題からの包括的な撤退を意味する。歴史的に見ると、アメリカは戦間期にこのような姿勢をとり、第二次世界大戦で介入が必要になるまでヨーロッパでの紛争を避けてきた。
対照的に、現政権の政策は孤立主義ではない。むしろ、中国のような台頭する大国とバランスを取り、ロシアやイランのような修正主義的な国家主体からの脅威を鈍らせることに重点を置き、米国のコミットメントを再調整する意図的な努力が見られる。自制はアメリカの力の限界を認め、核心的な国益に資する関与を重視する。
この戦略は、介入主義より軍事力に支えられた外交を好む。孤立主義は同盟国を見捨てることを示唆するかもしれないが、自制は同盟国が自国の防衛により大きな責任を負うことを奨励することであり、それによって米国の負担を軽減しつつ、必要不可欠な安全保障上のパートナーシップを維持するものである。
自制は、パワー・ダイナミクス、国益、国際システムの無政府性を優先する国際関係のリアリズムの伝統に深く組み込まれている。 現実主義者は、国家は自国の安全保障や経済的幸福に直接役立たない不必要な関わり合いを避けるべきだと主張する。
バランシング、抑止力、戦略的プラグマティズムといったリアリズムの基本概念は、現政権の外交政策アプローチと一致している。リアリズムの観点からすれば、世界秩序はアメリカの揺るぎない覇権主義から多極化へと移行しつつあり、台頭する大国と復活する大国が影響力を競い合う。
この変化により、米国の戦略は支配から戦略的競争へと移行し、自国の重要な利益につながらない紛争には関与せず、選択的なコミットメントを行うことが必要となる。世界の警察官として行動し続けるのではなく、自制することで、米国はもはや世界規範の揺るぎない執行者ではなく、ポスト・アメリカン・エンパイアの瞬間に適応しなければならないことを認識するのである。
自制戦略を説明すると
自制の戦略は、バランシングと鈍化という2つのメカニズムで機能する。バランシングとは、同盟国やパートナー国を自国の安全保障により大きな責任を負うよう促すことで、アメリカの負担を減らすことである。NATO同盟国が国防支出義務を果たすよう政権が主張しているのは、NATOを放棄するのではなく、欧州諸国が自国防衛に有意義に貢献するようにしむける努力である。
同様に、インド太平洋地域では、日本、インド、オーストラリアといった地域大国との結びつきを強化することで、米軍の直接的なプレゼンスだけに頼ることなく、中国の影響力拡大に対抗することができる。 一方、鈍化とは、アメリカのイメージ通りに国際システムを作り直そうとするのではなく、差し迫った脅威を無力化するためにアメリカの力を的を絞って行使することを指す。例えば、イランに対する政権のアプローチは、イラン核合意から離脱し、長期的な軍事介入を行うのではなく、最大限の経済的圧力をかけた。
同様に、北京を地政学上の主要な競争相手と認識した政権は、米国の経済的・軍事的な重点をそれに合わせてシフトさせる一方で、軍事的対立は避けている。
「ルールに基づく国際秩序」は米国の一極支配のもとで主に機能していたシステムであるが、これガ衰退しているというのは、戦略的帰結を顧みず自由主義規範の世界的執行者として振る舞う余裕が米国にもはやないことを意味する。軍事力による人道的介入と民主化推進の時代は、ほとんど成功を収めず、多くの犠牲を伴う失敗をもたらした。この新しい現実において、自制は後退ではなく、台頭しつつある多極化世界への適応となる。権力の中心が複数存在する世界では、アメリカの優位は持続可能でも望ましいものでもないという認識である。
終わりのない戦争やグローバルな警察活動で疲弊する代わりに、米国はより規律正しく、焦点を絞った外交政策を採用しなければならない。 自制の戦略の下、米国は敵対勢力を抑止し続けるべきだが、敵対勢力を変革させることは避けるべきだ。
これは、不必要な選択戦争を避けつつ、強力な防衛力と同盟関係を維持することを意味する。また、アメリカの安全保障上の利益は、行き過ぎた外交政策ではなく、持続可能で戦略的に焦点を絞った外交政策によって最も良くなることを認識することを意味する。
ドナルド・トランプは孤立主義者ではない
現政権に「孤立主義者」というレッテルを貼るのは、自制という現実主義の原則との整合性を見落とす誤った表現である。世界との関わりを断つのではなく、新たな脅威とのバランスを取り、差し迫った危険を鈍らせる一方で、不必要なコミットメントを減らすことを目指している。 大国間競争の時代において、自制はアメリカの安全保障を優先し、同盟関係をより効果的に活用し、過去数十年間の介入主義を特徴づけてきた戦略的疲弊を回避する道を提供する。
自制は、時代遅れの世界支配モデルにしがみつくのではなく、アメリカ帝国に世界を相手にした現実的かつ持続可能な大戦略を提供するものなのだ。■
Donald Trump Is No Isolationist
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About the Author: Dr. Andrew Latham
A 19FortyFive Contributing Editor, Andrew Latham is a professor of international relations at Macalester College in Saint Paul, Minn., a senior Washington fellow at the Institute for Peace and Diplomacy, and a non-resident fellow at Defense Priorities in Washington, D.C. He regularly teaches courses on international security, Chinese foreign policy, war and peace in the Middle East, Regional Security in the Indo-Pacific Region, and the World Wars. Professor Latham has been published in outlets such as The Hill, The Diplomat, Canadian Defence Quarterly, The Conversation, Wavell Room/British Military Thought, Defense One, and Responsible Statecraft.
https://www.19fortyfive.com/2025/01/donald-trump-is-no-isolationist/
米国の現実主義の安全保障戦略が、どのようなものか分かりませんが、記事の「自制」は抑止、「鈍化」は緩和(緊張を先鋭化させない)の方が意味が通り易いように思える。
返信削除また、トランプの政策がどのようなものか、まだ全体像は不明ですが、この記事の戦略に近いようだ。
トランプの新たな国際関係構築は、ブッシュの無意味に攻撃的な対テロ戦争敗北と、オバマ、バイデンのその後の無関心・無関与政策による危険な戦争・紛争頻発後の、米国帝国主義の新たな戦略となる、という意味で記事は書かれていると推測する。(考えすぎか⁈)
トランプの考え方は、日米首脳会談によく表れている。石破を失敗させないように(‼)歓待し、日米関係のトゲとなりそうなUSスティール問題を解消し、ともに東アジアの安全保障にあたる、という姿勢を明確に示した。これはトランプ政権である限り続くだろう。
トランプは、日本の政権担当者が、劣化したリベラル連中であろうとなかろうと、上記の対日政策は確固としたものとして見せかけ、共にCCP中国を抑止し、緊張を緩和することに尽力するだろう。
また、記事のタイトルのようなレッテル張りで批判する腐敗したオールドメディアや、劣化したリベラル、極左の識者など、メディアには反トランプのけち付けもので溢れているが、事実でないことの主張より、もっと前向きの意見を出してもらいたいものだ。