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イスラエルの多層防空体制は世界の最先端を誇る。進化し続けるのは周辺国の脅威に対抗するため。

 

スラエルはハヌカ祝日を前に海軍部隊を出動させ前例のない防空演習を実施した。高性能標的装備を巡航ミサイル、無人機、弾道ミサイルに見立てイスラエルが整備してきた多層防空システムの機能を試した。

 

イスラエルミサイル防空機関(IMDO)が米ミサイル防衛庁と共同発表し「デイビッズスリング兵装システムが巡航ミサイル弾道ミサイルの実弾迎撃テストに成功した」と発表した。演習ではアイアンドーム、アローの各システムも含めた多層防空システム同士の連携も実証した。イスラエル国防省は「有事には各種装備で脅威に同時対応可能と実証できた」と発表した。

 

今回のテストはイスラエルが1990年代以来進めてきたミサイル等の脅威に対応する各種システムの集大成といえる。米国はイスラエルと共同でアロー、デイヴィッズスリング両装備の開発を進めてきた。さらにアイアンドームは稼働以来10年が経過し、ガザでのロケット砲撃に効果を発揮するなど、今やイスラエルで最も頼りになる装備になっている。米陸軍もアイアンドームを採用し、短距離射程でロケット弾、ミサイル迫撃砲、無人機に効果を発揮する。イスラエル国防企業ラファエル高性能防衛システムズはテストで「アイアンドームによるUAV、巡航ミサイル含む各種脅威への対応性能を実証した」と発表。

 

巡航ミサイルや無人機を強調するのはイランがこうした装備でサウジアラビアのアブカイブ石油施設を2019年9月襲撃したためだ。「テストでは積極防空装備のアイアンドームおよびデイヴィッズスリングも使用し巡航ミサイルや攻撃型無人機といった新規脅威への対応力を試している」(ミサイル防空分野の専門家タル・インバー)

 

「イエメンのフーシ勢力がサウジアラビアの石油ガスインフラを攻撃した事例でもイラン装備品が使われ、同様の攻撃がイスラエルに発生してもおかしくない」とインバーは述べた。「イスラエルの多層アクティブミサイル防衛体制は脅威の変化に呼応し常に改善している」

 

 

 

襲撃事件では無人機多数、巡航ミサイルが遠距離から発進された。イランはシリアにも無人機、ミサイルを搬入しイスラエルの脅威になっている。ただしイスラエルは先を見ており、多層防空体制で各種脅威に対応する必要があるとする。その理由としてレバノンのヒズボラがイランの支援を受けミサイル15万発を備蓄しており、精密誘導弾も開発中であり、イスラエルに膨大な規模の脅威となっていることがある。アイアンドームは供用10年で効果を実証しているが、デイヴィッズスリング、アローともに運用実績はここ三年間しかない。

 

イスラエルは複数年計画モメンタムで国防軍の威力、精度を引き上げる。F-35や多層防空体制以外に特殊部隊の投入や情報活動の強化も含む。近隣遠方の敵をイスラエルが精密攻撃するためにも防空体制で国民を守りつつ陸軍、空軍が決定的な打撃を与える。モメンタム計画では特殊コマンド司令部も創設しイランに「第三包囲網」を形成する。2018年、2019年と続けて発表された報告でイランが弾道ミサイルをイラクに搬入しているとあった。12月にイスラエルが統合防空体制を演習したのは実際の効果を誇示する意図があったのだろう。

 

問題になるのは1月に米国に新政権が誕生し、イランが新たな脅威をイスラエルに準備中の可能性があることだ。イランはトップ核科学者の暗殺で、ヒズボラは重要人物殺害でそれぞれイスラエルを非難している。

 

最新テストを海上で実施したのは安全上の理由のためだ。イスラエル海軍は防空装備C−ドームを艦艇に搭載しており、デイヴィッズスリングも同様だ。米ペイトリオットに近いデイヴィッズスリングは中距離で脅威に対応する迎撃体を運用する。アローは長距離弾道ミサイル対応専用だ。

 

イスラエルは「デイヴィッズスリングの新型高性能版の効果を試し、将来脅威への対応を実証した」と発表。テストにはイスラエルの主要防衛産業各社が参画しており、「ラファエルがデイヴィッズスリングの主契約企業となり、米レイセオンが協力した。IAIエルタ事業部がMMRレーダーを、エルビットがゴールデンアーモンド戦闘管理センターをそれぞれ開発した」とイスラエルは発表。

 

ベニー・ガンツ国防相はテスト成功を褒め称えた。「世界最先端の防空装備であり、我が国を近隣遠隔からの脅威から防衛する」とし、米側の協力にも感謝した。

 

テストでは各種システムを同時運用し複数手段を同一脅威に対抗させた。これには近年の脅威数が増えていることがある。イスラエルは海上でも同様の脅威に直面し、最新のサアル6型海防艦に最新装備を搭載した。

 

世界では最新技術をセンサー、シーカー双方に投入しており、常に一歩先を目指す動きが顕著だ。巡航ミサイルや無人機の阻止が困難なのは低空飛行と低速のためだ。レーダーや迎撃機で捕捉が困難なのだ。シリア、リビア、アゼルバイジャンでの紛争では防空体制と武装無人機の競合が表舞台に出ている。

 

高性能防空体制でも無人機や滞空弾と呼ぶカミカゼ攻撃無人機の阻止ができない。イスラエルもこの種の装備品を製造しており、優れた電子光学監視機能を有する無人機を長時間監視偵察に投入し、人工知能で脅威を特定している。

 

イスラエルは今回の延長で最先端多層防空システムを実用化しそうだ。イスラエルが直面する脅威が多種多様で周辺国がイスラエルに投入する意思を有しているためこの実現は必要だ。イスラエルのシステム整備が域内のみならず世界的なレベルで防空体制へ影響を与えそうだ。■

 

この記事は以下を再構成したものです。周囲を敵意にみちた勢力に包囲された状態が70年つづき、しかも敵対勢力の装備が進歩している中で、イスラエルがこうした体制を真剣に整備するのは十分理解できるところです。日本にも参考となるところですが、イスラエルの真剣さ現実感が希薄なのはイージス・アショアが地元反対で頓挫すると、艦艇しかも2隻で代替すれば解決という姿勢にもあらわれていますね。

 


Does Israel Now Have the Best Air Defense Systems in the World?

https://nationalinterest.org/blog/buzz/does-israel-now-have-best-air-defense-systems-world-174783

December 19, 2020  Topic: Security  Region: Middle East  Blog Brand: The Buzz  Tags: IsraelMilitaryWeaponsWarMissiles

by Seth J. Frantzman


Seth J. Frantzman is a Jerusalem-based journalist who holds a Ph.D. from the Hebrew University of Jerusalem. He is the executive director of the Middle East Center for Reporting and Analysis and a writing fellow at Middle East Forum. He is the author of After ISIS: America, Iran and the Struggle for the Middle East (forthcoming Gefen Publishing). Follow him on Twitter at @sfrantzman.

Image: Reuters


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