2016年10月4日火曜日

トランプ、クリントンの国防観、安全保障政策はここまで異なる



米報道機関はなんとかクリントンを当選させたく必死になっているようですが、状況は極めて流動的です。ここで米国内でテロ事件でも発生すればあるいは海外で危機状況が発生すれば一気に情勢が変わりかねません。軍関係者としては不毛の選択を迫られそうですが、トランプの方がまだマシということになるのではないですかね。クリントンがタカ派と言うのは日本では信じる人は少数派でしょうね。


From troops to nukes: This is how Trump and Clinton would manage the military


米軍は来年1月に新しい最高司令官を迎える。好き嫌いに関係なく当選に最も可能性の高い二人の選択で今後四年間にわたり軍の姿は大きく変わるが変容ぶりは選択次第で全く異なるだろう。
  1. ドナルド・トランプ大統領の下で軍は人員、装備面で劇的にまで拡大するが、任務はひろがらないはずだ。同候補は世界各地の問題地点への米介入に疑問を隠すことなく述べており、米軍が多国籍軍に参加することにも懐疑的だ。米軍の海外拠点も減る方向に向かう。
  2. 対象的にヒラリー・クリントンが11月に勝利を収めれば、かねてから外交といわゆるソフトパワーを多用すると発言しており、世界各地で発生する小規模な介入でもこの姿勢を貫くはずだ。また同性愛者,性統一障害者に門戸を開いた軍の方針を歓迎しており、女性にも職種を開放したことを評価している。
  3. 軍各部隊の隊員には両候補者に不快感を示すものが多く、明確に一方の支援に傾くことはないようだ。9月中に行われたMilitary Timesとシラキューズ大共同の現役隊員向け調査では85パーセントがクリントン候補に不快感を示す一方で、66パーセントがトランプ候補にも快く思っていないことが判明した。
  1. 確かに両候補ともにそれぞれの所属政党の安全保障に関する基本線を混乱させており、両党主流派と対立する立場を示している。
  2. トランプは米軍が一層主導的な役割をはたすべきとの共和党流の主張に馴れきっている同盟各国に懸念を生じさせている。「同候補は非介入主義だ」とダグ・マクレガー退役米陸軍大佐は述べている。「広義では同候補は過去からの決別を公約しており、単に任期で最長となる8年間にとどまらず25年にも及ぶ影響が生じるでしょう。外交政策、国防政策の両面で。これまで世界各地に関わるべくあらゆる理由をつけてきましたが、その結果どうでしょう。この国は破産に向かっており、ちっともいいことがないではないですか」
  3. クリントンのほうが現状維持に近く、軍は規模縮小してもハイテクかつ強力な威力を実現するとしている。民主党には軍事力行使を快く思わない傾向が強い。「クリントン候補の方が強力な国際主義の信奉者です」と語るのはマイケル・ヌーナン(シンクタンク外交政策研究所で国防専門家)だ。「トランプよりタカ派でしょう。国防政策、外交政策を論じる際にはリベラルだ保守だと言っても意味がありません」
  1. その他にも相違点はある。トランプはロシアと仲良くなりたいという立場で、実現すれば米外交政策へ大きな影響が生まれ、米軍のヨーロッパ内での役割にも変化が生まれる。クリントンは総額1兆ドルを投じての米核兵力近代化事業に懐疑的で、厳しい選択は必然だ。米軍がテロリスト対策で国際法を遵守すべきかとの点で両候補の意見が異なる。両候補ともに議会に国防支出の上限設定をやめさせると公約している。
  2. 首都ワシントンの常識では次期最高司令官は軍の再構築に大きな指導力は発揮できないはずとする。国防予算は議会が依然として管理しており、軍の拡充あるいは削減の最終意見を述べる立場にある。だが上下両院ともに11月に改選を控えており、各軍の隊員は選挙で軍の行方に自ら影響を与えられる機会ととらえている。どちらの候補を選ぶにせよ、ペンタゴンのトップも交替となるはずで、国防上の優先事項や新しい状況が上層部交替で生まれるはずだ。
軍の規模と国防支出はどうなるか
  1. 大統領選で評論家はトランプを意図的に曖昧な発言に終始しかつ具体論はほとんど明かさない傾向がクリントンより目立つと批判している。だが軍の規模に関しては両名の立場は逆転する。トランプは人員規模と装備整備の目標を公言しているが、クリントンは一般論で「最良の装備と世界最強の軍」を維持するとしか発言していない。
  2. トランプは9月に陸軍の正規軍規模を54万名とし、現在より5万名増し海兵隊は1万名増やし、現行の23大隊を36大隊体制にすると述べている。ともにバラク・オバマ大統領がイラク、アフガニスタン後の軍の体制として削減を続けてきた政策を逆転させる。
  3. トランプはさらに「水上艦潜水艦合計350隻」と「最低1,200機の作戦用機材の空軍兵力」を公約としている。海軍にとっては27%の増加となる。空軍は2千機の作戦機材があると公言しているが、そのうちすぐに任務投入可能なのは1,100機程度しかないので、トランプ構想は空軍にも装備増となる。
  4. 「ロシアの装備は当方より近代化が進んでいる」とトランプは第一回目の大統領候補討論会で9月26日に述べている。「こちらは新装備の拡充が遅れている。ある日目をやるとB-52が飛んでいた。視聴者の皆さんの父親より古い機材で祖父が飛ばしていた機材だ。他国に対抗できていない」
Cover Mil 3B-2爆撃機をホワイトマン空軍基地(ミズーリ州)で整備する。ドナルド・トランプは大統領当選後の機材、人材目標として空軍機材の拡充にも触れている。対抗する民主党候補ヒラリー・クリントンは一般論に留まっている。Photo Credit: Mary-Dale Amison/Air Force
  1. トランプの選挙運動から見えてくるメッセージは明らかだ。大統領当選の暁には軍事力拡充を進める。その財源はまた別の問題だ。
  2. 「軍に必要な装備は調達し、価格が本来の水準より高くなるのは仕方がない」と討論会で発言している。それでも全国納税者連盟は陸海空軍と海兵隊を増員すると750億ドルが最初の5年間で必要になると試算しており、毎年3%の上昇要因となるとする。無駄な支出を削減したり、非制服組職員を削減しても追いつかないという。
  3. つまりトランプの国防予算はこれから五年間に軍事支出の上限を突破するのは必至で長期にわたる議会との予算折衝が必要となる。オバマ政権はこのやりとりから逃げていた。
  4. クリントンの国防案は軍事力増強を公約していないので予算支出上限に抵触しないはずだ。
  5. 退役軍人会の年次総会の席上でクリントンはアメリカは「軍事優位性を一歩でも失うことは許されない。またペンタゴンには賢い支出をしてもらい予算手当も安定的かつ予測が付く形で認める」と述べていた。だが人員増、装備拡充の代わりにクリントンは「納税者のお金を賢く使う国防予算を編成する」とし、「技術革新や新性能で21世紀の脅威に対抗できるように予算を投入する」と発言。
  6. この言い振りはオバマのめざした筋肉質で技術に重きをおいた軍の姿と共通するものがあり、小規模な特殊作戦や無人機依存に焦点をおいていた。クリントンもトランプと同様に無駄と不正を減らし国防支出を節約すると公約している。
  7. クリントンは「外交と最前線の活動で国内に脅威になる前に問題を解決する」と強調している。つまり、国務省にもっと予算を計上して軍事支出より優先させるということか。
軍をどのように投入するのか
  1. 米軍の基本任務と世界における役割で両候補の描く姿は大きく異なる。
  2. クリントンはアメリカの権益と国際法の遵守の前進に軍の積極的な役割を想定して、海外同盟国に展開する部隊には「世界のいかなる場所でも即応できる」体制を期待している。
  3. ここにクリントンのタカ派としての見識が反映されており、軍事介入や現在進行中の作戦拡大をやむなしと見ていることが伺える。クリントンは2003年のイラク侵攻に賛成票を投じておいr、2009年のアフガニスタン増派を支持し、2011年にはリビア介入を主張した。クリントンはアメリカ例外論の信奉者であり、レーガン時代の共和党員と通じるものがあり、ブッシュ時代のネオコンからも一定の支持を得ている。
  4. 6月の外交政策演説でクリントンはイランに対する行動を警告した。「世界は理解してくれる。米国が必要に応じ決定的な行動を取ることを。軍事行動も含まれ、イランが核兵器を取得するのを阻止する」
  5. 反対にトランプは我々の記憶に残るいかなる共和党員とも異なる。軍事介入そのものに懐疑的なことでは民主党の基本的姿勢に通じるものがある。軍の現状におおっぴらに批判を加え、指導層には「破滅的」との評を下し、オバマ政権下で将軍職は「ガラクタにまで成り下がった」としている。トランプは財政上の安定度を優先する考えを公約しており、米国人の一般家庭の価値観も重視する一方で世界各地で指導的な立場につくのは回避する。
  6. そのためトランプは海外での米軍事力の行使に慎重な姿勢を示している。トランプによればイスラム国戦ではロシアに主導的立場を取らせれば良いとし、サウジアラビアや韓国に独自に核兵器を整備させ敵勢力を封じ込めば良いと主張する。
  7. トランプはクリントンの経歴を繰り返し批判し、海外軍事活動への支援姿勢もそこに含めている。「ヒラリー・クリントンが侵攻、介入、転覆を考えたことのない国は中東にはひとつもない。引き金を引きたくて仕方がない一方で戦闘になれば不安定さを示す人物」と述べている。
  8. 「ISISは打倒する」とトランプは言うが、軍事力行使は本当に必要な場合に限るとする。米国の中東政策には批判的で納税者のお金は国内で効果的に使うべきだと主張する。「中東には6兆ドルを投入した」とトランプは討論会で発言。「それだけの資金があればこの国を2回再建できた。本当に恥ずかしい。クリントン長官のような政治屋がこの問題を生んだのだ」
  9. 両候補の立場は対ロシア関係で一番明確な違いを示す。クリントンはヨーロッパに軍を増派しロシアの野望に対抗すべきとする。「クリントン大統領はロシアには対して心配はしないと思いますね」とマイケル・ルービン(アメリカンエンタープライズインスティテュートの国防問題研究員)は見ている。
  10. だがトランプはNATO同盟関係の費用ならびに価値そのものに懐疑的だ。トランプがロシア大統領ウラジミール・プーチンに親しみを表明したことから米ロ関係が再構築に向かうのではないかとオマー・ラムラ二(ストラトフォー地政学情報提供企業の軍事専門家)は見ている。「トランプ政権が発足すればロシアとの関係が好転する兆しが出てくるはず」という。
社会政策、環境政策はどうなるか
  1. オバマ政権は軍の人事政策で歴史的な改革を実施し、「聞くな、話すな」方針は撤回され、同性愛者にも門戸が開かれた。さらにすべての戦闘任務が女性に開放されペンタゴンは今年夏に性不一致障害者の採用を解禁した。
  2. クリントンは性不一致障害者に関する決定を賞賛し、女性には軍務登録に応じるよう求めている。これは必要になった場合に徴兵となる制度だ。また同性愛を理由に軍務を離れざるを得なかった在郷軍人の軍務記録を更新すると約束している。
Women Rangers左からクリステン・グリースト大尉、リサ・ジャスター少佐、シェイ・ヘイバー中尉は陸軍生え抜きのレインジャー学校を初めて卒業した女性将校。ヒラリー・クリントンは軍の人事政策がオバマ政権により変更されたことを評価。一方、ドナルド・トランプは軍は社会実験の場所ではないと述べた。(Photo by Paul Abell/AP Images for U.S. Army Reserve)
  1. クリントンは性的マイノリティー向けに「完全平等」を選挙戦の前面に掲げており、オバマ政権が残した変革をさらに拡大するとしている。公約では同性愛者の隊員や軍属の悩みや課題をタウンミーティングで傾聴するとしている。
  2. トランプはこの問題を重視する姿勢を示していないが、昨年中は連邦政府の政策や事業に見られる「政治的中立性」をひっくりかえすと約束していた。同性結婚には反対姿勢を示し、州法により性不一致者が公衆トイレに入ることを禁じているのを支持。副大統領候補マイク・ペンスは「聞くな、話すな」規則へのあからさまな支持で知られている。
  3. 共和党綱領が今年夏に採択され、(トランプ陣営が作成に関与している)、「軍を社会実験の場に使うこと」に反対する文言が入っている。軍は任務実施の準備を整えるべきで高水準の人材を確保し、軍務に関する人事決定を正しく行うべきであり、「社会的あるいは政治的課題」の解決を目指すべき場ではないとする。
  4. オバマ政権の実績をもとに戻すことが狙いなのかは不明だ。議会内にも現政権による変革を快く思わない向きがあるが施策を元に戻すことはほぼ不可能と認めている。職務変更や解雇が発生するからだ。だが変革の実施方法での決断では考慮の余地があり、変革方向をさらに希求するためには新施策が必要なのかで議論の余地がある。
  5. 気候変動でも軍への影響があり、議論が必要だ。憂慮する科学者連盟による最新報告では海面水位上昇で2100年までに軍事基地合計128箇所が水没の危機にあるという。オバマ政権は気候変動は国家安全保障問題と位置づけ、議会と軍における再生可能燃料の導入でやり合いがあり、天然資源の獲得をめぐり社会不安が生まれ、テロ集団が増える可能性があると警告していた。
  6. クリントンも気候変動が安全保障問題だと認識しており、第一回討論会ではトランプが問題の背景にある科学的事実を無視していると非難している。「一部国が21世紀のクリーンエネルギー大国になろうとしている」と述べ、「ドナルドは気候変動は中国人のほら話だと思っているようだが現実問題です」と発言。
  7. これに対しトランプは反論し、環境問題は大事だが、クリントンが言うほどの深刻さはないと述べた。またオバマ、クリントン両人がエネルギー政策として太陽光エネルギーへの公的資金投入を提唱していることを非難し、「大量の失業が発生する」ため政策は撤回されるべきと述べている。

新兵器開発、核兵器改修はどうなるか
  1. 国防支出では両候補ともこれまでの共和党、民主党の基本姿勢と同じに見える。トランプはペンタゴン予算を増額するとしながら、規模と手当の方法も不明だ。クリントンはオバマ政権の基本路線を踏襲するとしながら軍事即応体制への懸念はほとんど口にしていない。
  2. それでも軍事専門家の多くが次期最高司令官にはペンタゴン予算すべてを統制することは不可能と指摘する。次期大統領がホワイトハウス入りする時点で強制予算削減は実施中で2021年まで措置を続けるはずだからだ。軍事支出増の法案は成立の可能性が薄い。
  3. 「予算環境は2017年1月になって急変換しないし、大統領当選者次第で変わることもない」と話すのはクリストファー・プレブル(CATO研究所の国防専門家)である。それによるとティーパーティー派の共和党員は政府支出の殆どに反対の立場でペンタゴン予算増額に必要な議会内意見取りまとめを阻止してくると見る。「2011年から続いている閉塞状況が急に変わることはない」
  4. クリントンは予算強制削減策に反対でオバマ政権が残した国防支出路線の支持を公言している。徐々に現状の支出上限を上回る規模とし、上限枠が今後引き上げられるのを待つ策である。一方、軍の「再建」を誓うトランプにとってワシントンの手詰まり状態が立ちふさがるだろう。
  5. ペンタゴン上層部からはここまで国防予算が厳しいと全体の即応体制に悪影響が生まれ、装備近代化事業にも波及するとの警句が出ており、F-35共用打撃戦闘機、B-21長距離打撃爆撃機や海軍の長期建艦計画を例に上げる。次期大統領は各事業の評価を正しく行い、構想段階から国防総省の正式予算手続きに移行させるべきだが、両候補の立場が完全に明白になっていない。
  6. クリントンは新型核兵器開発案には反対する意向を表明している。ペンタゴンの目標は1兆ドルで米核兵器の近代化を図ることで、新型爆撃機、新型地上配備大陸間弾道ミサイルや新型弾道ミサイル潜水艦を整備したいとする。「理解できない」とクリントンは1月に発言している。合わせて核兵器軍縮への支持を表明している。
submarine Rhode Islandオハイオ級弾道ミサイル潜水艦ロードアイランド、キングスペイ(ジョージア州)にて。海軍はオハイオ級後継艦の建造計画を推進したいとする。 (Mass Communication Specialist 1st Class James Kimber/Released)
  1. トランプからは核兵器の投入を示唆する発言が出ている。「ISISが米国を攻撃してきたら核で反撃していけない理由があるだろうか」と3月にMSNBCで発言している。また核兵器について大統領が「予測不可能」であることが必要だとくりかえし発言している。
  2. 具体的な発言がないことが関係者を苛立たせている。「政府機関で最大規模で最大額の予算執行をする省庁でこの国の安全を司る機関の話ですよ」とマンディー・スミスバーガー(非営利団体政府監視団の軍事専門家)は語る。「両候補とも将来の姿について意味のある討論はほとんどなかった」
  3. 大統領選挙戦が終盤に入り一つ確実なことがある。軍事専門家は両候補の選択に不安を感じている。「多数意見は『投票所に行って鼻をつまむ準備ができているか』」だと最近退役した海軍提督が話している。軍内部でこの話題が広まっているという。トランプの感情起伏を心配しながらクリントンの国務長官時代の電子メール取扱のまずさは言語道断で弁解の余地が無いという。毎日極秘情報を取り扱うだけにこう見るわけだ。「両候補もテストに合格できる人物でなない」と先の提督は述べた。■

Leo Shane III covers Congress, Veterans Affairs and the White House for Military Times. He can be reached at lshane@militarytimes.com.
Andrew Tilghman covers the Pentagon for Military Times. He can be reached at atilghman@militarytimes.com.


2016年10月3日月曜日

第二次朝鮮戦争に備える---核兵器の使用可能性は?


北朝鮮が核運用能力を整備する前に片を付ける先制攻撃論がどうも強まってきたようです。その場合に核兵器使用の選択肢も検討には入っているものの、現状では使えない兵器のままなのか、それとも誰も経験したことのない新型核兵器の開発が促進するのかもしれません。文中で言う「核環境でも作戦行動可能な部隊」ですが、機能する保証もなく、絵空事に終わるのでしょうか。おそらく北朝鮮へ侵攻し、政府機能を喪失させる部隊のことでしょうね。

Preparing for The Next War in Korea

By BOB BUTTERWORTHon September 26, 2016 at 4:01 AM
  1. 戦闘準備で実際の戦争を回避することがある。また準備してあれば実際に開戦となっても有益だ。北朝鮮に対して開戦となればどうなるかを示すとともに同盟国韓国には米国がともにいることを真剣に見せるべき時が来た。
  2. 米韓通常兵力による軍事演習が一番良い選択肢で核攻撃の際の作戦能力を見せつけることが可能だ。
  3. 第二次朝鮮戦争の想定では米核攻撃で北を破壊するシナリオが多いが、今年になり米軍は2回も韓国へ爆撃機を派遣し、金正恩に対して核攻撃能力がこちらにあることを刷り込んでいる。だが米軍が核兵器を北に投下する実現性は低い。金が原子爆弾を使い開戦しても同じだ。
  4. その理由としてよく言われるタブーやエスカレーションの危険はあたらない。投入がふさわしい兵器がないのだ。これまで低威力で最小限の放射能しか出さない一方で電子電磁効果を上げる兵器を求める声があり、戦術レベルの精密攻撃にふさわしい手段が必要とされてきた。これに一番近いのは低威力のB61-12爆弾で爆撃機から投下できるが、放射線レベルは遥かに高い。もし北朝鮮にロシア製高度防空体制が導入されていれば、爆撃機の生還は望み薄だ。
  5. もちろん要求条件に適合した核兵器を個別に開発することは可能だし、これまでも米ロの軍事作戦立案で検討されてきた。だが国内政治上、米国がこのような特殊兵器を選択することは考えにくい。これまで政府が守ってきた政策を逆転させるからだ。
  6. さらに軍事作戦上で今より広範な用途に核兵器を開発することへの反対意見は多い。実現すれば実戦投入の可能性が高くなるためだ。どちらにせよ核爆発は選択肢に入らない。使用後の事態の複雑さとともにエスカレーションを抑制できるのか危惧され、戦争終結のゆくえや戦後復興でも問題が複雑化するだけだ。
  7. だが米国は小出力核兵器による軍事解決方法が必要なのであり、本格的な核兵器は使うべきではない。仮に敵が投入しても変わらない。この点は長年に渡り共有された認識だ。1993年末に当時の国防長官レス・アスピンは「核兵器はこちらより強力な敵地上兵力に対抗できるが、米国通常兵力は圧倒的な強さを保持しており、敵に回るはずの勢力が逆に核兵器を入手しようとしている。最終的には米国が対抗兵器を確保して事態を収めることになるだろう」と発言していた。
  8. 当時のクリントン大統領指令PDD-18に先立ち、国防総省は核拡散が発生した場合のアクションの選択肢も準備していた。「拡散対抗策」の名称で核攻撃下でも行動可能な普通科部隊の創設もそのひとつだった。さらに広範な緊急事態への対応として特任部隊は同盟国側が懸念する域内抑止力の実効性も担保するはずだった。(韓国は2010年の天安撃沈、ヨンビョン島砲撃を受け米抑止力効果に懐疑的になっていた。)
  9. もしそのまま進めていれば、普通科地上部隊が装備訓練をともに受けて核攻撃下でも軍事作戦が可能となり、戦略上も敵の挑発に即応できていたはずだ。ただし挑発効果も米側の軍事対応に時間がかかれば薄まる。そのような外交軍事上の調整は熟考と手間をかけるべきであり、非核軍事力を重視するとともに選択肢となれば抑止力体制の長期間維持で生まれる不確実性が着実に減っていただろう。
  10. 「拡散対抗」政策は1993年に想定されていたが本格的な実施に移らなかった。新構想の想定する任務、予算規模で既存の政策との整合性をだうやってはかるかですぐに疑問視された。こうした疑問は今も残るが、アスピン長官が考えた軍事力はいまでも実現していない。
  11. 国防科学委員会が2005年に「核爆発が発生すると既存の装備、指揮統制能力(C2)、情報収集監視偵察(ISR)、その他支援システムが使用可能のままでいられるか保証がないことが結論」と報告している。同委員会はその五年後に「ほぼ20年に渡り、核攻撃での残存性を装備の強靭化あるいは迅速作戦により『継戦』を続けられるとしてきたが答えは不明のままだ。もし(汎用普通科部隊が)核攻撃にさらされれば任務遂行は運任せになるか故障装備の復旧にかかってくるだろう」と報告している。
  12. こうした弱点が補正されないと米軍はジレンマに陥り、大統領に低出力核兵器の投入あるいは作戦実施が失敗する可能性の高い通常兵力の投入の選択肢を提示できなくなる。■

イラン国内に不時着したRQ-170の謎とリバースエンジニアリングで生まれたイラン製「雷電」UAV


技術を一気に進める安価な方法はその技術を盗むことで、古今東西同じです。盗む側にとって棚からぼたもち状態なのは欲しい機体がこちらにやってくることで、今回のRQ-170の他にもサイドワインダーミサイルやB-29の例がありますね。今回の事例では機体そのものより内部の情報や情報収集手段が手に入った価値のほうが高いのではないでしょうか。

Iran unveils new UCAV modeled on captured U.S. RQ-170 stealth drone

Oct 02 2016

  1. 10月1日イランのイスラム革命防衛隊(IRGC) が新型戦闘無人航空機(UAV)セエケエSaeqeh(雷電)を公表した。
  2. 新型無人機は長距離型で精密誘導爆弾四個を搭載し、原型は米RQ-170センティネル(2011年にイランが捕獲)だ。
  3. IRGC航空宇宙部門長アミラリ・ハジザデ准将はイランは米国を上回る性能の航空装備を有するにいたり、UAV部門の工業力はミサイル部門同様に発展するだろうと述べている。
  1. イランはRQ-170をコピーしただけでなく、新たな性能を実現したようだ。「カンダハールの野獣」がイラン国内に不時着した背景は現在も謎のままだ。イラン機はセンティネルより微妙に主翼が小さいがRQ-170にある機体前面の空気取り入れ口がない。
  2. また同機に着陸装置がついているのかも不明だ。
new-iranian-drone-copy-rq-170-2
  1. 本誌が2011年以来報道しているように謎の解明には多数の説がある。
  2. イラン側は同機をハッキングしたと主張しているが、ステルス無人機はレーダーでは探知できないはずで、イラン東部で故障のため不時着したのだろう。(また米軍は同機の捕獲防止のため派遣された特殊部隊は同機破壊ができなかった)
The Iranians say the RQ-170 was hijacked using Jamming and GPS spoofing attack tailored on known vulnerabilities of the UAV highlighted in Air Force official documents.
  1. イランはRQ-170の制御乗っ取りにジャミングとGPS探知攻撃を使ったと主張し、米空軍も認めるUAVの弱点に言及している。
  2. だが筆者は一番可能性が高い説は同機はレーダー探知されず、イランの無人砂漠地帯に何らかの故障のため不時着したと信じる。
  3. 米側は当初はこの事件を公表しないつもりだった。なぜなら無人機が不時着した地帯で同機の発見は不可能、あるいは機体が相当の損傷を受けていればイランが捕獲したとしても技術の獲得は困難と見ていたためだ。また公表吸えばイラン上空でのスパイ活動を認めることになり、イラン核開発を阻止しようとするイスラエル秘密作戦に与していることが暴露されてしまう。
  4. だが羊飼いがほぼ無傷の同機を発見すると一気にニュースがあふれ、米側も同機喪失を認めざるを得なくなった。イランには思わぬ好機となり、世界向けに宣伝戦を展開し、同国の電子サイバー戦能力の成果だと喧伝した。
  5. いうまでもなく、以上は同機が学校体育館の中にある写真が公表されてからの推測の一つにすぎない。このシナリオではジャミングやGPS探知、衛星リンクの暗号解読や制御リンク乗っ取りは全く関係ない。イランは確かにこの分野での技術を示しているため、一部説ではUAVをジャミングして乗っ取ったとしているが、米無人機に技術上の弱点があるのは事実だが現実とあまりにもかけ離れた解説と言わざるをえない。
  6. イランはさらに別のUAV二機種を入手している。RQ-11が二機と少なくとも一機のスキャンイーグルがペルシア湾からイラン国内に侵入した後に捕獲されている。
  7. いずれにせよ2013年2月にその二年前に捕獲したRQ-170内部のデータの暗号解除に成功していなくてもデータの一部にアクセスできた映像を公開している。
  8. センティネルが撮影した画像では機体下部のカメラがカンダハール飛行場に着陸する様子、C-130が一機、リーバーが少なくとも一機カンダハール基地のシェルターに入っているのが見える。
  9. そうなると内蔵メモリーは有益な情報を含んだままで、機体制御が失われた際に完全に自動消去されていなかったことになる。搭載するFLIRタレットが撮影した画像含めデータが入手された可能性がある。
  10. 2014年5月11日にイランはセンティネルをコピーしたUAVを明らかにリバースエンジニアリングの成果として公表した。イラン版のUAVは捕獲したセンティネルの隣に展示されていた。
  11. 2014年11月10日にIRGC航空宇宙軍司令官アミル・アリ・ハジザデ准将から同機の初飛行に成功したと発表があった。センティネルのコピー機が飛行する様子のビデオが公開されている。
  12. 2016年10月1日に公開された写真でイランがRQ-170のコピー機を多数整備しているのがわかる。次に来るのは何か要注意だ。
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Image credit: Sepahnews, @Azematt

2016年9月30日金曜日

★★退役して8年たつF-117はネヴァダ上空を飛行して何をしているのか




Watch two F-117 stealth jets fly over Nevada together….8 years after “retirement”

Sep 23 2016 - 1 Comment



F-117数機が飛行可能状態でトノパ射爆場(ネヴァダ州)で残っていることは秘密でもなんでもないが、二機のブラックジェットが引退後8年経っても編隊飛行しているのはやはり奇異だが興味深い。写真を御覧いただきたい。

ここ数年に渡りF-117ナイトホークがトノパ射爆場(TTR)から東のネヴァダ上空を飛行しているのが報告されている。

今回はAviationistへ寄稿している「Sammamishman」氏が2016年7月末に撮影した写真、ビデオをご覧いただく。

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2014年に映像や写真がオンラインで出るや米空軍はブラックジェットが「タイプ1000」保存機としてTTRにあることを認めた。この符号は機体が戦闘に必要になるまで状態を維持することを示す。


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ネヴァダの砂漠地帯は機体保存に最適で乾燥性気候は機体腐食を進行させない。
機体は四年単位で保存状態におかれ、保存状態によるが必要なら30日から120日で現役復帰できるよう整備されている。すごい。

ということは米国はF-117が将来の戦争シナリオで活用できると見て、保存機材を時折飛行させ、パイロットに習熟させているのだ。では何に備えているのか。

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1970年代に企画された亜音速でC、X、Kuの各帯域での探知から逃れることに特化したもののF-22やF-35よりステルス性に欠けるF-117は「おそらく」一部の低中程度の脅威環境なら投入できるのだろう。だが今後の敵の進歩に追随できない。

空軍が一部現役機材かつ交替が難しい機種(A-10サンダーボルトなど)を退役させようとしているのは最新防空装備に対抗できないためで浮いた費用で高性能機種(F-35など)を調達しようとしている。
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そうなるとなぜ空軍は象徴的だが古典とも言えるこの機材を飛行可能状態に維持しているのか。

すでにお伝えしているよに同機がまだ別の用途に使えると見ている人物がいるのだろう。おそらく新技術のテスト用ではないか。レーダーとか赤外線探知追尾装置とか、SAM地対空ミサイルの支援か、第六世代戦闘機、あるいは次世代AEW空中早期警戒機材としてかUAV無人機関連だろう。

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また同機を無人機に転用して戦闘用の高速ステルスUCAVにする構想を発表したこともあった。

写真撮影した「Sammamishman」氏は以下伝えてきた。

「お送りした写真を見ているうちに気づいたことがあります。F-117が二機滑走路に並んでいますが、一機の上部に通信アンテナに見える物体がついています。もう一機には付いていません」

f117-9

「TTR基地を観察していると日の出直後に今回撮影した二機のF-117の格納庫周りに車両が集結しているのがわかりました。二機はその後離陸準備をし写真の様に離陸しています。二機は低空で数回にわたり射爆場上空を通過してから基地に戻っています。(ビデオ映像を参照されたい) 滞空時間は45分から1時間ほどでした。二機の飛行を見ると退役後の通常飛行には見えません。格納庫に集まった車両は午前早い時間に帰っていき、翌日には隣の格納庫で支援に集まっていました。機種は確認できませんでしたが、別のF-117と思われます。ナイトホークの写真を見ると一機が改修を受けているようですがよくわかりません」と「Sammamishman」氏はメールで伝えてきた。

たしかに二機のF-117のうち一機はわずかに外観が違うようだが100パーセント断言できないのは撮影が遠距離からで高温と距離のため画像に歪みがでているためだ。

読者の判断に委ねる。なおビデオは下を参照してください。





2016年9月28日水曜日

B-1Bにちょっかいを出すと痛い目にあうぞ 北朝鮮を睨むランサーの韓国臨時派遣飛行


なるほどB-1Bでも中国、ロシアへの侵攻は不可能になっているわけですか。でも北朝鮮なら可能なのですね。そうなれば北朝鮮もグアムを狙ってくるはずで、グアムのミサイル防衛はどうなっていましたかね。
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韓国オサン基地上空を飛行する B-1B ランサー。Sept. 21, 2016. U.S. Air Force photo

It’s Still a Bad Idea to Mess With the B-1B Bomber

The Lancer shows off near North Korea

by DAVE MAJUMDAR
ロックウェル・インターナショナルB-1Bランサー戦略爆撃機一機がオサン空軍基地(韓国)に着陸した。ペンタゴンは同機の臨時派遣は韓国防衛の意思を核をちらつかせる北朝鮮に示すものだ。
  1. 「米韓のつながりは鉄並に堅く、北朝鮮の強硬な態度が出てもコミットメントが揺らぐことはありません」とトーマス・バーゲソン中将(第7空軍司令官)は語る。
  2. B-1Bはグアムのアンダーセン基地から9月21日、北朝鮮が新型潜水艦発射ミサイルのテストに成功したあと韓国に飛来した。
  3. B-1B一機が9月13日に韓国上空を飛行したが着陸はしていない。
  4. 韓国空軍作戦司令官リー・ワン・クエン中将は「韓半島は深刻な安全保障上の危機状態にあり、その原因は北朝鮮が五回目の核実験、SLBM発射、弾道ミサイル発射で、国際社会の懸念を招いている」との声明を発表している。「韓米空軍部隊は状況の変化を意識し密接に情報交換し運用能力を高めている。敵が再度挑発してくれば合同空軍部隊は迅速に対応し、敵の戦闘意欲と能力を排除する」
北朝鮮との国境線付近を韓国空軍F-15Kスラムイーグル二機編隊と飛行するB-1B Sept. 21, 2016. South Korean air force photo
  1. B-1Aは1970年代に高高度をマッハ2で飛行する戦略核爆撃機として構想された。しかし当時のジミー・カーター大統領が1977年に一旦開発を取り消し、空中発射巡航ミサイル(B-52搭載)やICBMを重視した他、その後B-2スピリットとなったステルス爆撃機構想を進めた。
  2. カーター政権はこの理由としてソ連領空に高高度から非ステルス機が侵入すれば自殺行為に等しいとしていた。
  3. ロナルド・レーガン大統領はランサーを1981年に復活させたが、新型B-1Bは低空侵入に特化した機材となった。さらに空軍は同機の空気取り入れ口やその他を改良しレーダー断面積を減らした。
  4. その結果B-1Bはマッハ2の速度は失い、マッハ1.2が限度となったが、残存性は大幅に高まった。
  5. 冷戦後に空軍はB-1Bから核運用能力を除去し、通常兵器運用機材に変換した。イラク、アフガニスタンでは大きな活躍を示している。
  6. その後空軍は精密誘導兵器、データリンク、各種センサーを取り込み、今後の供用に備えさせている。また機内エイビオニクスも更新中でノースロップ・グラマンのAESAレーダー他が搭載される。
  7. ただし性能向上してもB-1Bは敵の強力な防空体制で残存は期待できない。中程度の脅威空域での運用が精一杯だ。
  8. 20機あるB-2ステルス爆撃機隊のみがA2AD体制の防空網を突破できる戦略爆撃機となっている。中国、ロシアがS-300V4,S-400あるいはHQ-9で防空を固めている。
  9. 開発中のB-21レイダーによりあらゆる防空網を突破できる能力の実現に期待する米空軍だ。
  10. だがレイダーの実用化は2030年以降となる。空軍はレイダーを100機調達する予定だが、希望として200機を想定している。■

2016年9月27日火曜日

歴史に残らなかった機体(1)F-103は設計に終わったラムジェット・マッハ3迎撃戦闘機



The National Interest

The F-103 Could Have Been America's Mach 3 Ramjet Fighter

The XF-103 was an amazing design best left on the drawing board.
XF-103 Fighter. Wikimedia Commons/U.S. Air Force

September 22, 2016

  1. ICBMが登場する前の1950年代はワシントン、モスクワ双方が高高度飛行爆撃機で核攻撃する想定だった。
  2. 当時の主力戦闘機F-86セイバーでは迎撃できないと考えられ、米空軍は1949年に高高度超音速迎撃戦闘機をもとめソ連爆撃機が爆弾投下する前に撃墜をめざした。
  3. 構想は1954年型迎撃機事業と命名され、その年に供用開始を見込んだ空軍に提案9件が寄せられた。そのうち三案が初期開発に進んだ。コンベアはその後F-102デルタダガーとなる案、ロッキードはF-104スターファイター、リパブリックエアクラフトはAP-57を提案しXF-103と命名された。
  4. 三案でXF-103がずばぬけて先端的で、リパブリックは時速2600マイル(音速の三倍)で高度80千フィートを飛行するとした。1950年代初頭ではF-86とMiG-15が朝鮮半島で数百マイルの速度でドッグファイトをしていた中でXF-103は航空機と言うよりロケットのようなだった。
  5. 図面から起こした想像図は巡航ミサイルのように見える。高速度を得るためリパブリック(のちにF-105サンダーチーフを製造)は複合推進方式を想定した。ライトXJ-57ターボジェット一基で離陸と通常飛行し、ソ連のバジャー、ベア、バイソン各爆撃機にダッシュが必要となればラムジェットを始動する。ラムジェットは前方から空気を吸い込み、燃料と混合させ、後方に排出する比較的単純な構造だが前提は機体なりロケットがすでにマッハ1以上の速度で飛行している必要がある。ラムジェット効果を得るための空気圧縮度のためだ。そこでXF-103はまずターボジェットで速度を稼いでからラムジェットを始動する。
  6. 装備には長距離レーダー、GAR-3ファルコンレーダー誘導対空ミサイル6発、非誘導指揮マイティマウス2.75インチ対空ロケット弾36発を搭載する構想だった。マイティマウスは良い考えだっただろう。なぜならファルコンは空軍の第一世代でヴィエトナム戦で欠陥を露呈し54発発射して命中はわずか5回だった。XF-103は機関砲を搭載しなかったが、この発想がやはりヴィエトナムで障害となった。マッハ3飛行中に機関砲を発射する管制レーダーを1950年代に実現するのは難しかったからだ。
  7. 独特の射出脱出装置を搭載する予定だった。コックピットの与圧が失われれば、座席下の隔壁が上昇し、パイロットを包む与圧ポッドを形成する。パイロットは機体を基本操縦だけで帰還させ、視界は潜望鏡で行う。あるいは射出脱出が必要となれば、ポッドがレールで降下し機体底部から機外に放出する構想だった。
  8. だがXF-103は地上モックアップから先に進まなかった。競合するコンベアーのF-102が現実的な選択肢となり採用されると空軍はXF-103への関心を失った。遅延とコスト超過のため試作機一機制作まで規模が縮小される。ライトXJ67エンジンは結局完成しなかった。空軍は1957年8月にXF-103事業を断念した。
  9. F-103として米空軍に配備されていたら、無駄な投資になっていただろう。ソ連が大量の長距離爆撃機でアメリカを攻撃する恐れは根拠がないと後にわかる。1960年代初頭にソ連はICBMに軸足を移していた。迎撃対象の爆撃機はわずかで、F-103はヴィエトナム上空の低速ドッグファイトには全く不向きであったはずだ。
  10. 結局XF-103の驚異的な設計は図面台に留まった。
Image: XF-103 Fighter. Wikimedia Commons/U.S. Air Force

2016年9月25日日曜日

日曜特集 B-21名称募集にこんな応募が....米空軍隊員の考えは多様です



アメリカ文化の広がり多様性を物語るようなエピソードであり、空軍という軍組織でも隊員はいろいろな価値観を持っていることを伺わせます。かつて航空自衛隊でも機体愛称をつけておりF-104が栄光だったりした時代があったのですが定着せず中止になりました。今回、F-35一号機に航空自衛隊内部に限り愛称を公募したらどんな結果になるでしょう。その応募こ組織文化を反映するものになるはずです。一部よくわからない名称もあり、ご存じの方は教えて下さい。

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Here Are the Names the Air Force Didn’t Pick For the B-21 Raider

Bomber McBombface didn’t make it

by JOSEPH TREVITHICK
9月19日のこと、101歳の退役中佐リチャード・E・コールは有名なドーリットル日本爆撃隊(レイダーズ)の生き残りの一人でジミー・ドーリットルの副操縦士を務めた人物でB-21を「レイダー」と命名した。
高齢の元中佐が数千におよぶ名称提案すべてに目を通すなくてよかった。
四ヶ月前に空軍は異例な決断で空軍隊員に爆撃機名称をインターネットで広く集めることとした。レイダーは4,600件を超える応募で重複を除くと2,100件の名称から選ばれたものだ。
その後空軍は名称候補を15件に絞ったとしていた。コールが発表したのは空軍協会主催の年次大会の席上だった。
本誌は情報公開法でその他の候補内容の開示を求めていたが9月21日に空軍から完全な一覧表が示された。
多くの提案が真面目な内容で空軍の伝統や歴史にふさわしいものだったが、ふざけたものや侮蔑的な名称もあった。空軍広報部門のアン・ステファネックは上位15件の名称を教えてくれた。
アルファベット順にならべると、ブーメラン、ゴースト、ホライゾン、ルメイ、リベレーターII、ミッチェルII、ナイトフューリー、フェニックス、レイダー、シャドウ・フォートレス、スティングレイ、ヴァルキリー、ヴィクトリー、レイス(幽霊)、ゼウスIIであった。
中にはなるほどと思える候補もある。カーティス・ルメイ大将の名前は物議を醸し出しそうだが、その名前はステルス爆撃機としての血統を思わせる。同将軍が核爆撃機の基礎を1940年代50年代に作った。リベレーターとミッチェルの各初代は第2次大戦に米空軍力の象徴として北アフリカ、欧州、太平洋の各戦線で活躍した。
A B-25 Mitchell flown by the Doolittle Raiders takes off from the USS ‘Hornet’ to attack Tokyo in 1942. ‘Mitchell II’ and ‘Raider’ were both on the list of B-21 names. U.S. Air Force photo
空軍は明らかに過去の時代を想起させる名称を模索したようだ。ノースロップ・グラマンがB-21レイダーを製造するが、競争相手のボーイングにはB-17空飛ぶ要塞からB-52ストラトフォートレスまで米爆撃機として鮮やかな記憶が残っている。
ゴースト、ホライゾン、フェニックス、ヴァルキリーという名前ははるか遠くまで飛ぶステルス爆撃機にふさわしいものがある。B-21の想像図はB-2と同様にブーメランに見える。
最終候補には採用済み名称もある。米海軍はスティングレイを開発中の偵察空中給油無人機につけており、レイスはRQ-170偵察無人機の非公式名称である。
選外となった名称も同様の分類が可能で、自由に関連した名称がある一方、空軍の過去の機材名称からドーントレスII、ドラゴンII、ハヴォックII、フライイングフォートレスIIやファントムIIIの応募があった。空軍隊員はダーク、グローバル、シャドウ、ピース、サイレント、スィフトの付いた名前を多数応募している。
一方で冗談としか思えない候補も挙げられており、Badasswhoopass, Zoomfist, Bomber McBombface, Plane McPlaneface, Stealthy McStealthfaceが見られる。
A B-2 stealth bomber. Air Force photo
アクション俳優のチャック・ノリスは空軍憲兵隊勤務の経験があり、今回の名称リストに含まれる。同様にパット・ティルマン(フットボール選手)やクリス・カイル(海軍シールズの名狙撃者)の名前もある。またユリシーズ・グラントやセオドア・ローズヴェルトの元大統領の名前を提案したものもある。
その他有名人の名前ではレスリング界のスーパースター、ジョン・セナやシンガーソングライターのケニー・ロギンス(「Danger Zone])があり、実在しない人物としてキャプテン・アメリカ、C-3PO、ダースヴェイダーなどがあった。
スターウォーズ映画からはデススター、ミレニアム・ファルコンなどがあり、バード・オブ・プレイを推薦したのはクリンゴン宇宙船(スタートレック)で姿を隠す装置がついていたことからの連想だろう。
商標名もあり、ドリトス、チートスの他ベイコネーター(ダブルチーズバーガー)と言うのはウェンディファストフードチェーンからだろう。確かにB-21初めて極秘ステルスジェット機は三角形のドリトスチップと形状が似ている。
だが何よりもポップカルチャーの流れを組む名前には独創性がない。また、独創的と思える名称には空軍に受け入れがたいものもあった。
優雅さでは劣るA-10ウォートホグの名称での応募も二人からあった。空軍は直線翼で丸鼻の同機を何度となく退役させようとしており、うわべ上はF-35やB-21用の予算を確保するためと説明している。
その他「F-35で金をドブに投じたね、ハハハ」とか「予算を飲み込む空に開いた穴」とか「この機体に使える予算があるのかな」という表現も名称として応募されており空軍の選択への疑問が表現されている。その他「国家債務」とか「この機体がどれだけ税収を食いつぶすかわからないだろう」という案も提案されていた。
その他に「無人機の方がマシだが無駄遣いは好き」というのもあり、空軍が無人機で長い間複雑な関係を作ってきたことを思い起こさせる。グローバルストライク軍団司令官のロビン・ランド大将はB-21を無人機にする案はないと公言している。
「国立保険研究所に予算を回せ」とか「この機のせいでデイドにろくな装備がそろわない」というものもあった。「デイド」とはアル・ウデイド空軍基地(カタール)のアメリカ式ニックネームだ。
2月から空軍は同基地の劣悪な居住環境でたたかれている。この二年間でアル・ウデイド基地から9千名を超える隊員がメディアを通じ、あるいは自らソーシャルメディアで水源の汚染、電気系統の危険などを訴えている。
異色をはなつのは陰謀説に関連した9/11やリベラル派慈善事業家ジョージ・ソロスに関する激烈な内容だ。応募には隊員の氏名をつけて空軍所属であることを示す必要があるのだが、こういった応募をした隊員は氏名を明らかにしていない。■