2020年5月3日日曜日

F-35ではドッグファイトに勝てないのか


ッグファイトはもう発生しないといわれていた。1967年5月20日、北ベトナム上空で米空軍F-4Cの8機編隊がMiG-17戦闘機15機編隊を見つけた。

霧とMiGの低空飛行のためF-4編隊は接近されるまで敵機を発見できなかった。▶F-4編隊は降下を開始しスパロー、サイドワインダーミサイル24発を発射したが、撃墜できたMiGは4機のみだった。北ベトナム空軍機は鋭い旋回の「ワゴンホィール」で各機が前を飛ぶ僚機を見張る体制に入った。▶F-4は敏捷なMiGに追随しようとしたが、北ベトナムのパイロットはF-4を機関砲で攻撃し、同機は炎上し乗員2名は射出脱出した。▶「MiG-17の旋回性能に驚いた」とF-4乗員が後日回想している。「この目で見るまでは信じられなかった」▶だが米空軍はこの問題を真剣にとらえず、当時最新鋭のF-4は接近距離でのドッグファイトはしないと見ていた。逆に遠距離で敵機をスパロー等空対空ミサイルで撃破する想定だった。▶米機が次々とベトナム上空で撃墜されはじめるとこの想定の欠陥と危険が表面に出た。

2015年1月、空軍はF-35Aと機齢25年のF-16Dで模擬空戦を行った。低速と鈍重なためF-35では旋回中のF-16を撃破するのが困難と公式テスト報告にある。▶だが空軍は心配に及ばないと述べた。「F-35の技術は敵機を長距離で撃破する狙いで開発されており、視野内の『ドッグファイト』は不要だ」

どこかで聞いた言い分だ。▶空軍が長距離航空戦を重視したことがベトナムでの大損害につながった。F-35が待ち構える敵の防空体制に突入すれば同じく大損害を被るのは容易に想像できる。

空中戦の最初の40年間では機関銃が攻撃手段だった。1946年に米海軍が熱追尾式ロケットの開発をはじめ、サイドワインダーとして初の空対空ミサイルが生まれた。▶その12年後に米国は初の実戦用サイドワインダーを台湾空軍のF-86に供与した。台湾海峡上空の空中戦でF-86が共産中国のMiG-17を撃墜し空中戦の様相は決定的な変化を遂げたように見えた。その後、各種新型ミサイルが研究開発され各地に姿を表した。▶空軍、海軍、海兵隊はミサイル時代の到来を信じ、新型機から機関銃を廃止した。F-4Cもそのひとつだ。

新型ミサイル技術に教導原理の変更が加わった。ペンタゴンは将来の戦闘ではジェット戦闘機は高高度、高速度でソ連の長距離爆撃機を標的とし、原爆投下前に敵を掃討するとしていた。▶当時の米戦闘機は強力な推力はあっても機敏な操縦性はなかった。「戦術戦闘機では核爆撃機侵入の阻止が大目的であり、操縦性能は二の次だ」と1968年にブルース・ホロウェイ大将は述べていた。▶だが米国の次の戦闘はソ連との最終対決ではなく、北ベトナム空軍と戦った。

米作戦立案部門は直線翼戦闘機の時代からハイテク戦を想定していた。だが実際に発生したのは低速、低高度でのドッグファイトだった。想定してきた技術、戦術では北ベトナムのMiGに対応できない事に空軍、海軍がともに気づいた。▶1965年から1968年にかけ、ベトナムで米戦闘機はレーダー誘導ミサイル合計321発を発射したが命中したのは8パーセント未満と2005年の空軍分析にある。▶海軍は命中率のあまりの低さに驚いた。「空中戦実績が東南アジアで想定を下回ったのは設計想定が高高度交戦で低操縦性の重爆撃機相手を想定したため」と結論づけた。▶MiG-17は警告装置が皆無に近いのにミサイルを回避し、操縦性の高さを生かして逆に米機の後方にまわった。▶ペンタゴンはスパロー、サイドワインダー両ミサイルの改良とともにF-4ではE型から機関銃を追加した。パイロットは旋回飛行訓練を受け、撃墜被撃墜比率で改善が見られた。だが本当に米国に必要なのは新型戦闘機で高高度、高速度、長距離戦でのみ優位性が発揮できる機体ではなかった。

つまりドッグファイトできる戦闘機が米国に必要だった。

「推力重量比を大きく向上させ、低主翼荷重により高速度と上昇率を向上させつつ加速性と旋回性能を各飛行速度域で発揮できること」をホロウェイは新型戦闘機で必要な性能として1968年に提起した。▶「高性能のエイビオニクスと武装で今後登場する敵機を打ち破る性能が必要だ。手段はミサイルと機関銃双方でよい」(ホロウェイ)

そこから生まれたのが双発のF-15で1972年に登場し、48年後の今も空軍で最多機数を誇る制空戦闘機だ。小型で単発のF-16が続いて登場した。これも高高度、低高度、高速で旋回性能にすぐれミサイル、機関銃ともに備える。▶F-15、F-16の設計では都合のよい空想のシナリオに対応させなかった。両機種は不確実な状況で敵側が優秀な性能を持つ想定、つまり現実の世界を意識して最適化を施した。▶この考え方はロシア戦闘機の進化とともに重要性をました。MiG-17のあとに高速のMiG-21が、さらに操縦性が高いMiG-29、Su-27が登場した。今日のSu-35は速力、旋回性でF-15を上回り兵装搭載量も大きい。

航空戦での米国の優位性は減る一方だ。ペンタゴンには空中戦で勝てる戦闘機が一層必要となってきた。

だが新型F-35はF-15との旋回戦でも「大幅に劣る」と2015年1月の模擬空戦のパイロットが評価している。空軍はF-35はステルスなので敵機が長距離で探知できなず問題ではないとの主張だ。言い換えれば、空軍はF-35の性能で優位に立てると考えている。

部分的には正しい。F-35のステルス性能が一定の効果を示すだろう。ミサイルは常に命中するだろう。ロシアがSu-35を各国に輸出しないかもしれない。F-35の長所を無効にするハイテク技術を有する国家との戦闘を米国は回避できるかもしれない。▶だが米政府の楽観的な想定が少しでも外れたらどうなるか。F-35がドッグファイトを回避できなくなったらどうなるか。さらに相手が高性能のスホイ、MiGあるいは中国機ならどうなるか。相手の旋回性能に追随できない機体を戦闘に送ればどうなるか。

接近戦が想定外の機体を接近戦に投入した実績が空軍にある。F-4乗員は政府の交戦想定の代償を払わされ自由を喪失し、あるいは生命を絶たれたのである。■

この記事は以下を再構成したものです。

Could it still win?
by David Axe 
April 24, 2020  Topic: Security  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: F-35Stealth FighterDefenseAmericaU.S. Air ForceMilitary

David Axe is defense editor of The National Interest. He is the author of the graphic novels War Fix, War Is Boring and Machete Squad.
Image: DoD.

民生需要後退で国防事業への依存度を高めるボーイング


シアトルで生産中のP-8 ポセイドン哨戒機。 Boeing photo.


ーイング経営陣は業績維持を防衛部門に期待せざるを得なくなっている。民生機事業はCOVID-19の打撃を受けたままだ。

民間航空輸送は前年比95%減となり、同社CEOデイヴ・キャルホーンは各アナリストとの電話会議で第1四半期業績を語っていた。エアライン業界は大幅な業務縮小で機材は地上待機のまま、新規機材発注は先送りされ、機材受領も延期され支払いが遅れたり止まっている。

世界的な経済減速によりボーイングの第1四半期売上は169億ドル、13.5億ドル赤字に転落。前年同期の売上は229億ドルで23.5億ドルの黒字。

「政府向け防衛宇宙事業が今後の業績安定に重要な要素になっています」「政府向け事業は2019年の収益で45パーセントを占めるまでになりました。今年以降の比重が増えるのは明らかです」(キャルホーン)

 以前から737 Max 旅客機の飛行再開が決まらずボーイングの財務環境は厳しく、 737 Max 生産は1月から停止したままだ。

2021会計年度は国防総省事業が同社の防衛部門を後押しし、防衛部門の売上が民生部門を上回る規模に拡大するとキャルホーンは見ている。

直近の業績に貢献が期待される事業に海軍向けMQ-25Aスティングレー無人艦載給油機、海軍向け超大型無人海中機(XLUUV)、空軍向けT-7レッドホーク練習機、同じく空軍向けMH-139グレイウルフヘリコプター(UH-1ヒューイの後継機)がある。

米海軍はMQ-25給油機4機の製造契約をボーイングに2018年に8億ドルで交付した。海軍は同型機を72機配備する。

同年に空軍はT-7レッドホーク練習機製造で92億ドル契約を交付し、グレイウルフヘリコプターでも24億ドルの契約を交付した。各事業でボーイングは他社より低金額を提示したのは、他事業でキャッシュフローを確保し交付前に開発構想を固めることができたためだ。この戦略を打ち立てたデニス・ミュイレンバーグは昨年12月にCEOの座を退いた。

2019年2月には海軍から43百万ドルでオーカXLUUV4隻建造の契約を交付されている。設計はエコーボイジャー無人ディーゼル電気推進潜水艇が原型で、エコーは全長51フィートで母艦から発進し6,500カイリを自律運行できる。

2年前は民生機事業が同社の主力だった。ジェット旅客機事業でキャッシュを確保し研究開発に投入することで他社に差を付けてきたが、国防総省契約がないと売上が安定しなくなるまでになった。

民生機部門の減速で同社の研究開発力にどんな影響が生まれるかは不明だ。ボーイングは16万名の従業員の10%を削減する。また配当支払いを中止するほか、不要不急の支出は見直す。

「研究開発や設備投資を削減、あるいは先送りする」のはコスト削減策の一環とキャルホーンは説明した。ただし、将来に大きな意味がある重要事項や技術には支出を続けるという。■

この記事は以下を再構成したものです。

In Role Reversal, Boeing's Defense Programs Prop Up Commercial Business



April 30, 2020 11:47 AM

2020年5月2日土曜日

米海軍にイラン小舟艇攻撃許可が下りた

US Navy photo

ランがペルシア湾で敵対行動、挑発行動をとった場合に米海軍は迎撃ミサイル、攻撃型無人機、艦上機関砲、電子戦兵器、さらにレーザーで撃破する。
イランの脅威に対し攻撃、あるいは防御する許可を米海軍に与えたとトランプ大統領はツイッターで明らかにしており、ペンタゴン上層部もこれを裏付けるコメントを出した。
ペルシア湾でのイランによる脅威をペンタゴンは真剣に受け止めている。小舟艇での襲撃や機雷が展開中の部隊や民間商船の通航で障害になっている。とくに狭いホルムズ海峡で問題で、原油タンカーほかグローバル通商活動の懸念となっている。
参謀副議長ジョン・ハイテン大将ならびに国防副長官デイビッド・ノーキストは大統領メッセージを支持して記者団と会見し、現地米軍指揮官に必要に応じイランの小舟艇や兵器の破壊を実行する「権限」を与えていると述べた。今回のメッセージの意図は部分的にせよ米国がCOVID 19で危機的状況にあるのを利用しないようイランへ警告を与えつつ、米軍は必要なら「いつでも開戦できる」状態だと伝えることにある。
だがこうした状況から次の疑問が出てくる。「米海軍はイラン部隊をどうやって迅速に撃破するのか」
「敵意があると判明すれば、こちらは相手を撃滅する手段もとる。湾内で発生すれば圧倒的兵力で対応し、防衛措置をとる。指揮官には敵対行動、敵意に対応する権限を与えたとハイテン大将は記者団に語った。
あくまでもイランが挑発してきた、あるいは脅威となった場合に限り米海軍艦艇は攻撃に移るということだ。
これを念頭にハイテン、ノーキスト両名は記者の質問に答え、トランプ大統領のメッセージに沿い、米海軍は必要な対応を取ると述べた。「現地展開中の部隊の指揮官には実施能力を与えている」(ハイテン)
巡洋艦、駆逐艦の5インチ砲が12キロメートル以内で威力を発揮する。さらに、揚陸艦、空母、沿海部戦闘艦に50口径機関銃から57ミリ「小舟艇撃破」兵器まで各種火砲や迎撃手段がある。
海軍艦艇には近接兵器システム(CIWS)、別名ファランクス機関銃があり、毎分4,500発を発射できる。もともと対航空機、ミサイル、ヘリコプター用に開発されたが近年の改修で「1B」仕様となり近接距離での水上艦艇撃破にも対応可能となった。CIWSはレーダー、火器管制・指揮命令系統と接続され、艦艇が攻撃を受ければ即座に対応できる。CIWSは海軍艦艇の防御の「最後の一線」とよく言われるが、その他にもローリングエアフレームミサイルやシーラムも使える。
ノーキスト副長官は「防御用」兵器の使用を海軍指揮官に認めているとコメントしている。「各艦には防御の権利があり、実際の稼働では細心の注意で防御することになる」
さらに高性能版シースパローミサイル・ブロック2を搭載する艦が多い。これはシーカー性能を引き上げ、海面すれすれを飛ぶ対艦巡航ミサイルへ対応可能としたものだ。また最新版の防御手段には電子戦(EW)や低価格精密レーザー光線があり、接近してくる攻撃手段に対抗する。レーザー、EWともに船舶で混み合う海域では有害な破片を多数発生させないので有効だ。
イランには大量の弾道ミサイルがあり、防御も多層構造で対応する。米海軍水上部隊にはイランからの攻撃の探知追尾が十分可能だろう。いうまでもなく、海軍艦船には各種攻撃手段も搭載され、迅速かつ精密な攻撃を展開できる。
最後に、攻撃、防御の海上戦はスタンドオフ距離での想定だ。標的をまず探知しないと撃破できない。このため、海軍や空軍の無人機が水平線の先で脅威の探知に動員されている。駆逐艦には海軍統合火器管制対空装備(NIFC-CA)が導入されており、ホークアイ早期警戒機やF-35のセンサー情報がネットワーク化された兵装に入り、水平線の先にある脅威にピンポイント対応できる。高性能レーダーや通信技術を利用し、脅威対象のデータが艦上の指揮官に送られると、SM-6迎撃ミサイルで安全なスタンドオフ距離で敵を撃破する。NIFC-CAを使えば、攻撃を受ける前にイラン小舟艇の大群を撃破できる。
こうした戦闘構想・戦術を支えるのが海軍の兵器開発部門で艦載指揮統制システムやISRネットワーキングシステムを迅速に実現してきた。ライブ映像などのセンサーデータの受信処理量を拡張し、無人機やその他ネットワーク装備のヘリコプター、哨戒機、水上艦艇、潜水艦に対応する。急進展するAIやコンピュータ処理の自動化により、こうした処理が更に高速化され、受信したセンサー情報の処理が数秒で完了する可能性が出てきた。■
この記事は以下を再構成したものです。
Kris Osborn


金正恩死亡で中国はどう動くのかを予測!



「金正恩が急死すれば、中国政府にも青天の霹靂であり、先の展望が見えにくくなる点で他国と変わりがない」
 編集部注:金正恩の死亡後の予想を模索したシンポジウムから以下をまとめた。
正恩が突然死亡すれば、中国政府にとっても晴天の霹靂であり、その後の予測に困難を感じる点で他国と変わらない。
中国は北朝鮮との関係が他国より緊密とはいえ、他国の観測に反し実は親密な関係ではない。実際に平壌と北京の関係は非連続ながら退潮の一途だった。▶毛沢東と金日成は親密な同志とはいえ、関係は良好とは言えなかった。毛や鄧小平以後の中国指導部が金正日に温かい態度を示したことはなく、金正日も中国が南朝鮮と1992年に国交樹立したのをうらんでいた。▶習近平はこの路線を踏襲して金正恩に接し、難しい局面が何度もあった。金一族三代目が叔父の張成沢を処刑し異父兄の金正男を中国の親密な関係を疑い暗殺した。これで中国は対北朝鮮に冷たくなり、北朝鮮内部の動向をつかめなくなった。▶さらに金正日の時代から核とミサイル開発を加速化させ国連決議に違反した北朝鮮に中国も外交圧力を強め、前例のない規模の経済制裁を課した
トランプ大統領の対北朝鮮外交を受け習が金正恩と接触を増やし、中朝両国の緊張は緩和しているが、金は対中関係を強化するよりも米中両国を対決させる意向を秘めているようだ。
中国はこのバランスの上に金との関係は「唇と歯のように密接」と繰り返し教条的説明をしているが、実は両国の不信は強い。▶金は単独で状況打破を狙い、中国と通じる疑いのある上層部の孤立化を狙っている。▶中国も北朝鮮内部の動向をつかみきれていないのだろう。金正恩が死亡しても状況は直ぐに改善されない。▶中国指導部はあらゆる手段をつかい状況把握に努め、北朝鮮国内の中国権益の保全に走るはずだ。▶中国は後継者選びに影響力を及ぼせないだろうし、後継者との良好な実務的関係樹立にやっきとなるはずだ。▶朝鮮労働党と軍部が指名する後継者候補に妹の金与日が浮上しているが、中国指導部は北朝鮮国内の混乱に神経をすり減らされないとは思わないはずで、権力継承が混乱なく進展するためなら手段を選ばないだろう。
金正恩の後継者との関係強化で中国は米国よりも緊密な関係をめざすのはまちがいないが、だからといって米国が不利な立場になるわけではない。▶中国指導部も北朝鮮の非核化という目標を共有しており、北朝鮮の経済改革も支持する点で変わりない。このため、中国は金正恩の継承者との関係ではこの双方での進展を模索するはずだ。■
この記事は以下を再構成しました。
May 1, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: Korea Watch  Tags: North KoreaKim Jong-unKim Jong-un DeadKim Yo-jong
Paul Heer is a Distinguished Fellow at the Center for the National Interest dealing with Chinese and East Asian issues. He served as National Intelligence Officer for East Asia from 2007 to 2015.  He has since served as Robert E. Wilhelm Research Fellow at the Massachusetts Institute of Technology’s Center for International Studies and as Adjunct Professor at George Washington University’s Elliott School of International Affairs.  He is the author of Mr. X and the Pacific:  George F. Kennan and American Policy in East Asia (Cornell University Press, 2018).

2020年4月30日木曜日

新型駆逐艦ズムワルトは正式引き渡しされたが戦力化は未整備、3号艦リンドン・ジョンソンも今年完成



海軍がUSSズムワルトDDG-1000を正式に受領した。3隻からなる大型ステルス駆逐艦の初号艦で単価は約70億ドル。

だが単純に喜べない事情がある。ズムワルトはあと数年の公試を完了しないと第一線に配備されない。

稼働まで長時間がかかるのは米海軍が新仕様の艦船開発に苦労しているためだ。同艦は30年ぶりの新型艦のためでもある。

ズムワルトは海上公試を経て戦闘装備が利用可能となりサンディエゴで引き渡された。「引き渡しは大きな一歩だが、DDG-1000の海上テストはさらに内容を高度化して続けていく」とDDG-1000事業を統括するケビン・スミス大佐が声明文を発表した。

ズムワルトがここまで来るのに時間がかかった。メイン州のバスアイアンワークス造船所を離れたのが2016年末だった。バスは残る2隻も建造しており、2020年末に就役する。

排水量16千トンのズムワルトは即作戦投入可能とならなかった。下に向け傾斜のつく同艦の特殊艦体の機能はすべて理解されず、さらに155ミリ高性能艦砲システム用の専用砲弾はなかった。ほぼ四年が経過し、艦体は問題ないと解明されたが、高経費を理由に主砲用の砲弾調達は中止された。同艦はもともと海兵隊の上陸作戦を火砲で支援する位置づけだったが対水上艦戦用に変わった。

 かわりに精密長射程誘導弾を対地攻撃に使うと2018年に決まり、対艦攻撃用にトマホークとSM-6ミサイルの搭載も決まった。ズムワルト級は対艦巡航ミサイルを各艦の発射セル80門に搭載する。

ただし各艦は実力を発揮できる状態ではない。艦隊に編入後もスミス大佐のいう「複雑かつ多様な任務の海上公試」を続けるからだ。

ズムワルトはまず試験部隊に編入され、有人・無人艦混合の戦術開発に従事する。初期作戦能力獲得は2021年後半の予定で、その後に任務投入される。

米海軍は一時はズムワルト級の32隻整備を想定したが、建造費と技術面で3隻に削減された。ズムワルト級のかわりにアーレイ・バーク級の建造再開が決まった。2号艦マイケル・マンソーは完成しており、最終艦リンドン・B・ジョンソンの建造はメイン州のバスアイアンワークスで進行中で2020年12月に引き渡し予定だ。


バーク級は10千トンとズムワルトより小さいが、単価は20億ドルと安い上、ミサイル発射セルは96でズムワルトより多い。一号艦バークは1991年に就役した。

ズムワルト級建造は終わったが、バーク級は改良を加え建造が続いている。ズムワルト級の公試が続く中、バーク級は世界各地で任務に投入されている。■

この記事は以下を再構成したものです。


US Navy adds stealth destroyer, new Arleigh Burke-class warship to the fleet



2020年4月29日水曜日

最長供用期間を更新するU-2の最新改修内容について

U-2スパイ機は現時点でも米史上最長の供用機材だが、追加改修で将来の戦場でも実力が発揮できるようになる。

ロッキード・マーティンU-2の初飛行は1955年で、冷戦時にドラゴンレイディのあだ名が付いた。搭載装備の更新で将来の戦闘場面でも十分に情報収集可能となる。

ロッキード・マーティン広報資料にはスカンクワークス事業部が米空軍向けに今回の改修を行うとある。改修で搭載電子装備を一新し、パイロットのディスプレイを換装し負担軽減と意思決定が楽になる。▶「エイビオニクス装備を一新し、搭載システムも近代化し新技術を導入する。ミッションコンピータも空軍のオープンミッションシステムズ(OMS)標準となるのでU-2は陸海空さらにサイバーの各分野で高度のセキュリテイで活動可能となり、コックピット改修でパイロット負担を減らしながら収集したデータの表示方法を改良し、これまでより迅速かつ良質な意思決定が可能となる」

オープンミッションシステムズ
OMS改修に最大の意義がある。OMSは情報の標準インターフェースであり、戦闘空間のデータ収集を各種機材に可能とする。OMSの狙いはデータ収集から送信までの時間を最適化し、戦闘空間内の各機にリアルタイムで情報の更新を可能にすることだ。

OMSさらに情報収集について「共通メッセージインターフェースでレーダー、通信装置等のサブシステムに応用し、さらに自動飛行経路決定や戦闘管理に応用する」と報告書にあり、戦闘空域に入る各機にOMS標準を応用するとある。「OMS標準のミッションシステムと機能が各機材で再利用できる。さらに機材への搭載時間を大幅に短縮でき、新機能が経済的に利用可能となる」▶オープンミッションシステムズはB-2ステルス爆撃機、グローバルホーク偵察無人機ですでにテストが始まっている。▶2021年中のテストを経て、ロッキード・マーティンはU-2改修を「2022年初頭」に実施したいとする。

重要性は変わらない

偵察衛星のカメラは高精度だが、地球周回軌道の制約を受ける。衛星の次回上空到達は予め計算でき対象を隠すことが可能だ。U-2ならこの問題はない。▶U-2が今後も機能を発揮していくのは、情報データ収集のスピードによるところが大きい。偵察対象を与えれば、U-2は上空まで到達できる。OMSの導入でドラゴンレイディはさらに長期間供用となるはずだ。■

この記事は以下を再構成したものです。

How long will the famous spy plane fly on?
April 21, 2020  Topic: Technology  Region: Americas  Blog Brand: The Buzz  Tags: U-2Spy PlaneAmericaU.S. Air ForceDragon Lady
Caleb Larson holds a Master of Public Policy degree from the Willy Brandt School of Public Policy. He lives in Berlin and writes on U.S. and Russian foreign and defense policy, German politics, and culture 

歴史に残らなかった機体15 メッサーシュミット110




1930年代中葉のナチドイツには問題がひとつあった。ハインケル111のような双発中距離爆撃機は1,500マイルの戦闘半径があったが、単発戦闘機メッサーシュミット Bf 109 はわずか400マイルだった。1939年当時の航空兵力信奉者は爆撃機が敵防空網を突破できると信じていたとはいえ、ドイツは目的地まで援護し帰還可能な長距離戦闘機の必要性を感じていた。

解決策がメッサーシュミット110双発戦闘機で、外観は小型爆撃機そのものだった。初期型のBf 110Cでも戦闘行動半径1,500マイルを実現し、単発機を上回る武装の機関砲4門、機関銃4本を前方に、さらに後部銃手が機関銃で後部に食いつく敵機を追い払うはずだった。最高速度350マイルは第二次大戦初期の戦闘機の多くを上回っていた。

戦闘機の設計では全てが思い通りに実現しない。燃料を大量搭載するため機体は大型化され重戦闘機となった。大型で重量がますため双発とし、重量が追加された。その結果、Bf 110 の機体重量は4トンと、Bf 109の2倍になった。

同機は駆逐戦闘機と呼ばれ、重戦闘機へのドイツの信頼の象徴となった。ドイツ空軍ではエリート部隊とされ、1939年の開戦時にはポーランドの複葉機や援護無しでドイツへ飛来した英爆撃機を駆逐した。

ところが英国の戦いが1940年夏に始まるとルフトバッフェはそれまでの地上部隊への航空支援と全く異なる状況に入った。フランスやノルウェイを離陸した攻撃部隊に対しBf 109は航続距離が圧倒的に足りず、ロンドン上空で10分しか余裕がない始末だったので爆撃機部隊は英空軍の迎撃を食らった。

長距離援護戦闘機の必要性を痛感したルフトバッフェはエリート部隊のBf 110の投入に踏み切った。低速のボーランド軍複葉機が相手と違い、RAFのハリケーン、スピットファイヤは高速で、Bf 110は単発戦闘機の前に操縦性、加速性がいずれも劣ることを思い知らされた。爆撃機の護衛を放棄し、Bf 110部隊は弧を描く飛行で各機を防護する必要に追い込まれ、RAF戦闘機を近づけさせないようにするのが精一杯だった。

英国の戦いでドイツ空軍はBf 110を237機投入し、223機を喪失した。犠牲者の一人が空軍司令ヘルマン・ゲーリングの甥ハンス-ヨアヒム・ゲーリングだった。

だがこれでBf 110の供用が終わったわけではない。北アフリカ戦線、ロシア戦線では有益な対地攻撃機の評価を得た。英国のブリストル・ボーファイターも同じ経緯をたどった。レーダーを搭載したBf 110は夜間戦闘機として新境地を開き、援護なしで飛ぶRAFランカスター爆撃機をドイツ上空で狩った。さらに機関砲を増設し、対空ロケット弾も搭載したBf 110が米軍のB-17、B-24が無援護で飛来してきたのでこれに大損害を与えた。だが制空戦闘機としてのBf 110は終焉した。

1944年に入ると米P-51マスタングが時速450マイル、戦闘半径1,600マイルで高い操縦性を発揮し、このことが痛感されたのである。ドイツ上空を飛び回るマスタング、サンダーボルトに対しBf 110は狩るどころか狩られる立場に転落した。

マスタング登場で第二次大戦時の重戦闘機構想は破綻した。P-51で高速、高操縦性と航続距離を兼ね備えた戦闘機が実現した。マスタングがBf 110を駆逐するのは大いにあり得たが、逆は不可能だった。

重戦闘機構想は今日も残るが、かなり抑えられた形だ。大型のF-15と軽量のF-16という組み合わせを語る際は高性能だが非常に高価な機体に対し安価だが性能が限定された軽戦闘機という文脈で語っている。

航空工学や搭載武装の技術が変化し、第二次大戦式の重戦闘機の必要は消えた。当時の戦闘機には機関砲、機関銃しか武装の選択がなかったので射程位置につくため高速度と操縦性が求められた。今日の最新鋭機F-35はスピード、操縦性を犠牲にする代わりにセンサー性能と空対空ミサイルで敵より先に攻撃を加える。大型機は大量の燃料搭載が必要だったが、今日では空中給油機の助けで戦闘機は長距離飛行が可能となっている。

Bf 110構想は優秀な技術解決策と目されたのに急速に陳腐化してしまう好例だ。1930年代末のRAFは複葉機も運用しており、Bf 110はあたかも今日のF-22や朝鮮戦争時のF-86のような最先端機に見えたはずだ。だがドイツは機体やエンジン技術の進展でBf 110と同程度の航続距離が実現することを予期しておくべきだったのだろう。

結局、「駆逐戦闘機」構想は挫折したのである。■

Nazi Germany's "Destroyer" Heavy Fighter Was Powerful, But Was Too Large For The Job

 

It could barely maneuver. 
April 27, 2020  Topic: History  Region: Europe  Blog Brand: The Buzz  Tags: HistoryDefenseTechnologyAir PowerWorld War II

Image: Wikimedia

2020年4月28日火曜日

ボーイング、エンブラエル提携解消でC-390の行方が不安となる



KC-390
ーイングエンブラエルの共同事業合意が破棄され、エンブラエルC-390ミレニアム軍用輸送機の海外販売が困難になりそうだ。▶共同事業案ではエンブラエルが51%、ボーイング49%の所有権を持つはずだったが、両社で最終合意できず不成立になったとボーイングは4月25日に発表。
共同事業案は欧州委員会の認可待ちだった。新会社発足の前に予備的措置の「マスター取引合意」で業務開始していた。▶ただしマスター合意事項では4月24日が合意形成の最終日だったが、形成できず両社は予備的合意を延長しないことで意見が一致したとボーイングは述べている。▶ボーイングは合意できなかった条件内容を明らかにせず、論評も避けている。エンブラエルも問合わせに対応していない。
C-390は双発軍用輸送機でブラジル空軍向けにエンブラエルが開発し、当初はKC-390として空中給油機兼輸送機としていた。▶両社は昨年11月のドバイ航空ショーでC-390ミレニアムに名称変更し、共同事業体名称をボーイング・エンブラエル-ディフェンスとすると発表し、各国の軍用市場参入を狙っていた。
今後のC-390の海外向け営業は困難の連続となる。各国とも輸送機を選択済みのためだ。さらに戦術輸送機の需要は比較的小さい。▶さらに市場は今後数年にわたり厳しい状況となる。Tealグループ予想では市場規模は2027年までに36.2億ドル規模と42%縮小する。生産規模も年間56機と24%減る。▶現在供用中の軍用輸送機は総数869機でロッキード・マーティンのC-130(L-100)が2割を占める。さらにC-130の大部分は米空軍が運用中だ。
ボーイングと共同事業体を立ち上げエンブラエルは米国内に生産拠点を置きC-390を米国向けに販売する予定だった。ボーイングを通じ米国に生産ラインがあれば米国の有償軍事援助制度でC-390の各国向け販売が楽になるはずだった。▶今やこうした目論見が消えた。
ボーイングはエンブラエルと2012年に調印の提携関係は残し、C-390の販売、サポートを共同実施するとしている。ただし、同社は共同事業体構想と販売合意の違いを説明していない。
2019年11月以降ではエンブラエルはKC-390をブラジル空軍に2機納入しており、あと25機を引き渡す。ポルトガル向けに5機の確定受注があり、アルゼンチン、チリ、コロンビア、チェコ共和国が計27機の購入意向を示している。■
この記事は以下を再構成したものです。
By Garrett Reim26 April 2020